その娘は、最初ふざけているかのような素振りでこちらを茶化して来た。
入寮腕試しでまさかきゅうりと味噌だけなどと、やる気があるのかと、年甲斐も無くつい怒鳴ってしまった。
そして今日で五度目。
どうせまたふざけた料理とも言えない何かを出すのだろうとたかを括っていたが…。
「すみません。肝心の材料がまだ完成していなかったもので…」
苦笑しつつそういうなり、彼女はいつもとはまるで異なる雰囲気を醸し出していた。
そして、初日に預かってくれと、渡されていたタッパーを冷蔵庫から取り出す。
「絶対に中身を見ないでください」と念を押されていたためか、何かしら調理に必要なものだろうことは分かっていた。
長年の寮母生活で秘密主義の生徒も少なからずいたこの寮で、そう言われるのは別に珍しくもない。
むしろ今の今までそんなのも預かったなぁ程度の認識でしかなかった。
キッチンに立つなり、ゴムベラを借りてもいいか聞かれたので、それに了承し、タッパーから取り出されたものを傷つけないようにゆっ…くりと掘り出す。
「それは?」
つい気になって問いを投げかける。
「サワラの切り身です」
そう返すなり、切り身の表面についた味噌をゴムベラでゆっくりと元の味噌床に落とす。
「そうかい。今までふざけたモンばっかり出してたのは…」
「ええ。半端な品で満足されては困りますから」
彼女は作業を続けつつ、そう薄く笑う。
思えば侮っていたのかもしれない。
確かに、漬け込みと言うのはどうしても時間がかかる。
こちらをからかっているかに思えたあの行動も、彼女が先ほど言っていた理由ならばまぁ頷ける。
やがて味噌を落とし終えた切り身を火にかけ、粛々と焼きに入る。
「この香り…そうかい。作ってるのは…サワラの西京焼きだね?」
「ええ。よくご存知で…というのは失礼でしたか…ともかく、説明する手間が省けました」
西京焼き…というより、味噌というのは、焦げやすいものだ。
そのため、いい焼き色のところにアルミホイルをつけることもあるのだが、彼女はそれをしない。
腕に覚えがあるのか、それともド素人なのか…。
やがて出来上がった品を丁寧に盛り付け、浅漬けを添えて提供される。
和を思わせる角皿に盛られるそれは、見た目だけなら旅館で提供されるものと言われても信じてしまいそうになる。
「どうぞ。サワラの西京焼きです」
「ふん。まぁ見た目はモノになってるがね…」
ともかく、肝心なのは味だ。
そうで無くてはかつてこの寮に住んでいた卒業生達にも申し訳が立たない。
箸を手にひと口、食べると…。
気がつけば、部屋の鍵を渡していた。
齟齬があったら申し訳ないです〜。