さて、どこから説明したものか。
俺の出生、ここがどこか。
うーん。
まあそうだなとりあえず、なんであの大剣ゴスロリ女に追いかけ回されてたのかを説明しよう。
と言ってもそんな大したことじゃない。
バイトの終わりにいつも通る路地裏(ここを通ると家に早く着くんだ)を通って帰ろうとすると、
「ふん!」
肉が断ち切れる音と共に血がコンクリの壁に飛び散るのを見た。
面白いことに、人間は慣れるもので俺はそんな普通の人なら腰抜かしかねない場面に何度も遭遇してきたもんだから咄嗟に身を翻し逃げ出した。
斬られたものがなんなのか、彼女が何をやっていたのかも確認せずに。
逃走を図る俺を視界に捉えた彼女は何を勘違いしたのか、
「っ!待ちなさい!!!」
と追跡を開始。
なんで追いかけてるのか、なんで追いかけられてるのかきっと互いによく分かってないまま始まったのがさっきの追いかけっこである。
以上、前回の説明終わり。
アレが何なのかは知らないし知る気もない。
知ってしまえばきっとズルズルと俺はあっちの世界に引っ張られ、世界の為に戦うだのと命を呈して動かなきゃ行けなくなるだろうから。
…そのまま殺されることもあるだろうが。
どちらであっても、そんなことは御免こうむる。
俺は普通に生きたい。
誰かの為に動きたくないし、自分の為に生きていたい。
転生したいとか、2次元の世界に行きたいとか、実際そうなりそうってなった時には躊躇うのが人間ってやつだ。
それは俺自身にも言えることで、アニメとか見てりゃアニメのキャラかっけぇなって思うことはあっても、そうなりたいとは思わない。
アニメだからいいのであって現実で起きてちゃ世界が幾つあっても足りないだろう。
「ただいま…あーつっかれた」
アパートの階段を登り、自分の部屋へと帰る。
ああ、愛しき我が家よ。俺は帰ってきたぞ。
先程の追いかけっこに疲れた俺は靴下をポイポイ脱ぎ捨てて、そのままベッドに倒れ込む。
あ、汗が冷たくて気持ちわりぃ。
「着替えるかぁ…」
重い体をやっとの思いで動かして服を洗濯カゴに放り込む。
あー体いてぇ。そりゃ坂転がってりゃどっかしら傷つくのも無理もないか。
鏡で自分の体を見ればあちこちにアザができている。
あーあーボロボロじゃねぇかったく。
ま、大人しくしてりゃ勝手に治んだろ。
酷使した体を労わりながら着替えていると、ふとスマホが振動する。
なんだと思えば電話。
「めんどくさ…」
画面を見ると無視出来ない名前が表示されている。
こちとら疲れてるってのに…
「よ!元気にしてたか相棒?」
「誰が相棒だ。その小っ恥ずかしい呼び名を辞めろ」
「なんでだよ〜俺と相棒の仲じゃねぇか〜」
「うるせぇ切るぞ」
「あーすまんすまん!待ってくれ。ちゃんと用があって電話したんだよ!」
思わず額に手を当てる。
こいつは
昔、こいつがなんかやべー組織から逃げてる時に俺が巻き込まれて、一緒になって逃げたことがある。
流石にロケラン構えられた時はヒヤッとしたがなんやかんやで逃げられたのだから良しとしよう。
巻き込んだこいつは許さないが。
それ以来亮介は、俺を巻き込んだことを申し訳なく思ったのか、俺の巻き込まれ体質の話を聞いて、色々取り計らってくれている。
そういう意味ではなんだかんだ助けて貰っている。
事前にいつどこで何が起こりそうなのかを教えてくれるのだ。
多分今回もその類だろう。
「で、なんだ用って」
「ああ、俺のじょ…じゃなくて、俺の知り合いから聞いた話なんだが」
こいつ嘘下手くそすぎるだろ。
「なんでも最近妙なヤツらがこの街に出没してるらしい」
「自己紹介か?」
「ちっがうわい!いやまぁお前ら一般人から見りゃ確かに俺らも妙なヤツらなんだろうけど…!」
そらそうよ。第一印象がなんか組織に追われてる奴なんだからお前。
そして妙なヤツらと聞けばチラつくのは先程会ったあのゴスロリ女。
多分亮介の言ってるのはあれも含めるんじゃなかろうか。
「お前の事だからまた何かしらに巻き込まれると思うが、まあそんときはそんときだ!頑張れ!」
「うわー無責任」
「つーわけだ!じゃあな〜」
ぶつっ、と通話が切れる。
アイツ言いたいことだけ言って切りやがった。
まあいいけど。
「はぁ…先が思いやられる」
果たして今回も俺は生き残れるのだろうか。
いや、生き残る。
この体質に屈してなるものか。
とりあえず今は、
「風呂入って寝よ」
そうしよう。