皇国の守護銃~零~   作:キノコ飼育委員

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トゴレス要塞撤退戦:壱

 トゴレス要塞司令室。

 そこは今、『朱雀』の強襲により完全に浮き足立っていた。

 

「くっ!朱雀どもめ、嫌な時に!」

 

 『トゴレス要塞』に駐屯していた部隊、その大半は既に出立し後方へ下がっていた。

 そこを狙って『朱雀』が進軍、防衛線を瞬く間に突破し強襲をかけてきているのだ。

 

「撤収中の部隊を呼び戻しましょう!」

 

 士官のひとりが進言するが、この場の最高指揮官であるスレイマン少将はそれを切って捨てる。

 

「駄目だ、到底間に合わん!残存部隊のみで対応する!時間を稼ぎ、一兵でも多くの兵を逃がすのだ!」

 

 威勢よく声を張り上げた少将だったが、内心ではこうも呟いていた。

 

(―――それに、救援に来てくれるとは思えんしな)

 

 彼自身、おかしいとは思っていたのだ。

 僻地に飛ばされてもおかしくなかった『自分達』を、(結果的にそうならなかったとはいえ)容易な勝ち戦の前線(つまりは手柄が立てやすい)に配備するだろうかと。

 

 それはつまり、こういう状況での捨て石にする気だったのだろう。

 もしくは前線での『名誉の戦死』を狙ったか。

 

 どちらにせよ『自分達』にあらゆる意味で後はない。

 その終わりが前から撃たれて死ぬか後ろから撃たれて死ぬかの違いだというのなら。

 

「いいか!『朱雀』どもに、そしてなにより同胞たちに!我ら『帝室親衛隊』の誇りを示すのだ!!」

 

 せめて、かつての誇りとともに――――――

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 当然の話だが、四大国それぞれに得意とする戦法がある。

 例えば攻撃であれば、圧倒的な個の力に頼ったゲリラ戦を行う『朱雀』に対し、皇国は莫大な兵力に物を言わせた飽和攻撃を得意とする。

 そして防御であればその違いはなおのこと顕著に露れた。

 『朱雀』は攻め寄せる敵を『エナジーウォール』で閉め出し、魔力が尽きるまで戦う。

 更には『召喚獣』でもって一気に薙ぎ払う。

 

 

 対する『皇国』は―――

 

 

 皇国軍トゴレス地方第3防衛線。

 

 戦力を喪失し後退していく第4防衛線の部隊を見送り、防衛部隊の彼らは緊張した面持ちで銃を握り締める。

 

 『ニムロッド』二台に無反動砲装備のロケット砲兵、バリケードによる簡易砲兵陣地を小高い丘上に展開し、丘下に巧妙に隠した蛸壺壕(個人用の塹壕)に兵を配置。

 一つの丘を使った簡易野戦陣地だ。

 

 丘上の陣地、そこから双眼鏡で忙しなく索敵を行っていた隊長が、びくりと腕に力を込めた。

 

 遠く彼方、土煙を上げ平原を疾走してくるのは、馬ほどの大きさもある陸鳥。

 手綱と鞍をつけ、その背には赤いフードに槍を携えた朱雀兵を乗せている。

 『朱雀』の騎馬隊……ならぬ騎鳥部隊だ。

 

 隊長はすぐさま通信機を起動、司令部に連絡を入れる。

 

『司令部、司令部、こちらE58拠点、応答願う。こちらE58拠点』

 

「E58、こちら司令部」

 

『ポイントE58に青色の候補生三人と中隊規模の騎鳥部隊を捕捉せり。増援を要請する』

 

「了解。すぐに増援を送る」

 

『了解』

 

 通信が切れると、彼は部下たちに檄を飛ばした。

 

『いいか!すぐに援軍が来る!それまで朱雀を押し留めるのだ!撃ち方用ォー意!!』

 

 隊長の号令がかかると、兵士たちは手に持つ15ミリ自動小銃、その側面についた摘まみをカキリと回し、安全装置を解除した。

 

 既に彼らの場所からも忌々しい赤のローブが、彼らの手にしている槍の刃が光を反射し、キラキラと輝いているのが見えることだろう。

 

 そして彼我の距離が200を切った瞬間、ついにその号令が飛ぶ。

 

『撃てェエエエエ!!』

 

 無数の銃口が一斉に火を吹いた。

 丘上から一個中隊による全力射撃が開始され、朱雀の突撃騎鳥部隊を押し留める。

 

 無論のこと朱雀も棒立ちで撃たれるわけではない。

 『プロテス』系統の魔法を掛けたのか、銃弾が放たれる寸前、彼らの姿が騎鳥ごと銀色の膜に覆われた。

 

『突撃ぃいいい!!』

 

 銃列を前にして槍を構えての騎乗突撃など、皇国兵からすれば狂気の沙汰。

 たちまち撃ち抜かれ鳥ごと地に伏すことになるだろう。

 しかしその予想は、弾丸が銀色の膜に命中したと同時に砕け散った。

 殺到した弾丸は『プロテス』によって弾かれ効果を成さない。

 

 だがいかに『プロテス』が優秀な防御魔法と言えど無敵の防御というわけではない。

 距離を詰めるにつれ上がった命中率と集弾率が効果を上げ、『プロテス』を削り貫通せしめた。

 さらにそこへロケット弾の直撃などが加われば効果は覿面、一撃で朱雀兵を死に至らしめる。

 

 だが彼我の距離が50を切った瞬間、ついに朱雀側から反撃が飛ぶ。

 

 様々な現象が色とりどりのエネルギー弾となって皇国軍野戦陣地に投射され、着弾と同時に解放されていく。

 燃え盛る火炎、(はし)る雷撃、貫く氷撃が皇国兵を一撃で骸に変えていく。

 

 反撃の鉛と炸薬の雨が朱雀兵の護りを貫通し、チョコボごと黒焦げズタズタの血袋へ加工する。

 

 あっという間に命が使い捨てられ、失われていく中、朱雀兵の部隊から三つの影が飛び出していく。

 

 彼ら―――青いマントを身に纏った候補生たちは、即座に集中した射線を物ともせず、チョコボから降り魔力で強化された脚力で一気に距離を0にし――――――

 

『はぁッ!』

 

 手にしたハルバードを叩きつけた。

 地響きとともに地面が捲れ、個人塹壕ごと数人の皇国兵を飲み込む。

 

『ば、化け物がァ!!』

 

『これでも喰らえ!』

 

 至近距離から浴びせられる銃撃はしかし、出現した光の障壁に阻まれ、魔法によって蹂躙されていく。

 

『そらそらそらァ!』

 

 湾曲した小型ナイフを握る候補生が腕を振るう度に、魔力で構成された刃が発射され、敵を斬り刻んでいく。

 

 

『どけ一般兵ェ!』

 

 その横ッ腹目掛けて一台の鋼機が突撃を敢行する。

 

 箱長な胴体に鳥のような逆関節の足を付け、正面にクローを取りつけた姿をしており、不整地走破性能に長け、小型高機動ゆえに歩兵部隊に随伴した運動戦を得意とする鋼機。

 その名を『ウォーリア』という鋼機は、(かぎ)状の嘴を大きく開き、大地を蹴り付け体当たりを行った。

 

『死ねぇ!!』

 

『やらせない!』

 

 候補生が纏う防御魔法ごと押し潰さんとした質量の暴力はしかし、間に割り込んだ別の候補生に受け止められてしまった。

 

 その候補生が全身で支えるように構えるは、防御魔法をしこたま刻み込んだ重厚なタワーシールド。

それが重量500キロを軽く超える鉄塊の突撃をピタリと押し止めたのだ。

 

『ぐぅ!舐めるなよぉおおおお!!』

 

 だが『ウォーリア』のパイロットは、『止められたならば食い破ればいい』とばかりにさらなる前進を選択、嘴をギチギチと開閉しながら力を加えていく。

 

『ぅぅうううう!!』

 

 対し候補生も盾に魔力を流し込み、防御を高めていく。

 本当なら止められた相手が下がろうとした瞬間に、『シールドバッシュ』を叩き込んで吹っ飛ばすつもりだったのだろうが、それはもはや叶わないだろう。

 

 そしてお互い目の前の相手にかかりきり、だが引いた方が負ける。

 こうなれば勝負は『どちらの味方が先に援護に来るか』だろう。

 お互いが無防備な背中を曝しているのだから。

 

 

 そして援護は――――――

 

『敵の前衛が乱れた!一気に押し込めェ!!』

 

『『『『うぉおおおおおおおお!!』』』』

 

 ―――朱雀側が一歩早かった。

 

 朱雀騎鳥部隊の突撃が最後の距離を詰め切り、戦闘が白兵戦に切り替わる。

 

「ポイントE58に敵影多数。中隊規模と推定、砲兵の支援を要請する」

 

 蛸壺壕内に魔法が飛び込み、炸裂したエネルギーが皇国兵ごと噴水のように弾ける。

 這い出ようとした兵士はチョコボで踏み潰し、槍で騎乗から突き殺す。

 いくら迅速な装填が可能であろうとこの距離では無反動砲も使えない。

 

 走り回る騎鳥の一羽が、未だ押し合う候補生と鋼機に走った。

 軍用チョコボの強烈な蹴りが『ウォーリア』の真横にブチ込まれ、追撃の雷撃魔法が機械の胴体を蹂躙した。

 

『ぐぁあああああ!!』

 

 操縦者である皇国兵が断末魔の悲鳴を上げた。

 その瞬間、候補生は盾で『ウォーリア』を殴り付けた。魔力によって発生した強力な衝撃波が、『ウォーリア』の機体を弾き飛ばす。

 限界が来ていた『ウォーリア』は、そのまま爆散。

 

 その間も騎鳥部隊は止まることなく丘を駆け回りながら詠唱し、未だ抵抗を続ける丘上の野戦陣地にROK系魔法を投射。

 

 高威力の魔法が十数撃ち込まれ、ついに野戦陣地は沈黙した。

 

 後は残敵を掃討し、次のポイントに――――――空気を切り裂く擦過音。

 

『ッ!?『ウォール』!!』

 

 候補生らは咄嗟に障壁を張り、空から飛来した榴弾を受け止めた。

 爆炎が迸り障壁に大きく罅が走る。それが攻撃の威力を物語っていた。

 

「命中を確認、修正の必要は認められず。効力射を開始されたし」

 

『了解!規定通り、これより二分間の支援砲撃を開始する!巻き込まれぬよう注意されたし!!』

 

「味方部隊は撤収済みだ(・・・・・)、遠慮なく頼む」

 

 彼らの周囲に攻撃してきた相手の姿はない。

 だが、あの独特の音を聞けば何が起きたのかはすぐにわかることだろう。

 

『砲撃?!奴ら味方ごとやる気か!?』

 

 そう叫べばその通りだと返すがごとく、彼らに砲撃の雨が幾度も幾度も降り注ぐ。

 皇国の技術力と生産力にモノを言わせた、物量投射攻撃である。

 

 近づかれれば弱く、近づかれないようにしても強引に突破される。

 ならば、もっと遠くからもっと高火力でもっと容赦なく一方的に蹂躙すればいい!

 

 そう、皇国式防御とは!

 分厚い人海で敵を遮り、高威力の兵器で焼き払う、ハマれば強いけどぶっちゃけジリ貧感のあるゴリ押し戦術なのだ!

 だからこそ、朱雀の後方浸透を多用するゲリラ戦法とは相性が悪かったりする。

 ていうか守ったら負けなのだ。攻めて攻めて攻め続けなければ個の力で劣るウチはやられてしまう。

 

 たった今、俺の目の前で蹂躙された連中のようにな。

 

『くっそ!どんだけ遠くからぶっぱなしてや』

 

 候補生のひとり、短剣を手にしていた青年の頭を消し飛ばす。

 もう用はないんでな。全体のバランスを取るために消えてもらおう。

 

『……え?』

 

 はいはい戦場で呆けない。盾持ちを殺す。

 防御特化っぽいからな。下手すりゃ砲撃に耐えかねない。チート過ぎワロス。

 

『『ウォール』!なんだよふざけんなよチク』

 

 俺からすりゃその壁の方が『ふざけんな』だよっと。後ろからぶち抜く。

 

 おっし、候補生の排除完了。

 あとは砲撃に任せる。

 

 えーっと、片づける部隊はあと幾つだったかな?

 

「……ねぇ」

 

 およ?

 

「どしたー?」

 

 隣から聞こえた可愛ゆい声に、努めて明るい調子で返す。

 

「いいの?助けなくて」

 

「あーいいのいいの。彼らの無念は俺らが引き受ける系のアレだから。それにもう助かんねーし」

 

 つーか『守れ』って言われてあんなクソみたいな野戦陣地作る奴らなんていらねーっつの。

 まぁ『守れ』なんて命令自体がクソだけどな。なんだよ『守れ』って。

 そう考えたら頭使った方か。

 旧式の『ニムロッド』に旧式の銃。おまけに命令はクソ、上官は無能。

 俺なら逃げてるね。

 

 ま、援軍を信じて戦ってたのかね?ご愁傷様、どこにも届いてねーよ。

 

「そう。じゃあ別にいい」

 

「クールだねぇ……」

 

「人間なんてどうでもいいし……あっ」

 

 隣で独特な発射音。電気がバチンと弾けてジュンと流れるような……駄目な表現だ、精進しよう。

 

「何を撃った?」

 

「人間」

 

 知ってる。

 

「んじゃ誰を助けた?」

 

「……んなー」

 

 うほ!♪いい声だぁ…耳元の通信機からの声で脳がとろけそうだぜ。

 で、誰のことだ?

 

「……誰さんて?」

 

「……こっちの言葉なら、”まだらの”って意味かな」

 

「あぁお前のファミリー?」

 

「うん」

 

 まだらの毛並ってことか。今んとこ五匹は区別つくんだが……っと?

 

「ん、ん、んー?」

 

 カリカリカリ、キチキチキチ、――――見ィつけた。

 

「ポイントC91に優先ターゲット、ロックオン」

 

「……ロックオン」

 

「まだ撃つなよ…タイミングはまだだ」

 

「……あなたが撃ったら、私も合わせる」

 

 …………来た。

 

「――――――」

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ちなみに、支援要請の様子はこのようになっている。

 

『ポイントE58に敵影多数。中隊規模と推定、砲兵の支援を要請する』

 

「要請を受諾!E58に支援準備!」

 

 砲兵小隊長は机の上に広げた手元の地図―――透明なプラスチックの板を被せられた―――を見て、自分の小隊とE58地点を結ぶ線を新たに追加した。

 さらに現在の射線との角度を分度器で図ると、それを通信機で小隊砲兵各員へ伝達。

 

「05砲兵隊、回頭ォー!!プラス32度!プラス32度!」

 

 砲兵陣地には『ニムロッド』――――――の頭を取っ払い、代わりに長大かつ大口径の火砲を取り付け支援砲撃に特化させた『砲型ニムロッド』の部隊が幾つも展開していた。

 

 一個砲兵小隊に6台の『砲型』、輸送用の大型トラック二台、そして指揮管制を担当する通信兵一人となる。

 なお、指揮管制担当の通信兵は、砲兵の傍ではなく専用の指揮所から支持を飛ばしている。

 さらに一個砲兵中隊に30台、一個砲兵大隊には90台、そしてここには計二個大隊が展開され、30キロ向こうの朱雀軍目掛けて榴弾の雨を降らせていた。

 

 

 通信機を背負った小隊長の号令に合わせ、5台の『砲型ニムロッド』が動き始める。

 

 地面に打ち込んでいた前足のアンカーを引き抜き、後ろ足である支脚を中心に少しずつ回転していく。

 やがて方角を合わせたのか、前足のアンカーが地面へ打ち込まれた。

 

「『仰角62度、仰角62度!合わせェー!!』」

 

 大口径砲がゆっくりと上下し、角度を合わせる。

 

 それを見届けた小隊長は通信機へ怒鳴り付けた。

 

「『()ェエエエエ!!』」

 

 砲撃の五重奏が奏でられ、砲声の大合唱に加わった。

 発射の振動で砂埃が舞い上がる。

 

 やがて、着弾。

 

 そして通信機から喜色の滲んだ声が飛び出した。

 

『命中を確認、修正の必要は認められず。効力射を開始されたし』

 

「『了解!規定通り、これより二分間の効力射を開始する!巻き込まれぬよう注意されたし!!』」

 

『味方部隊は撤収済みだ(・・・・・)、遠慮なく頼む』

 

  通信が切れると、小隊長は部下たちに再び号令を送る。

 

「『効力射を開始!繰り返す、効力射を開始!!』」

 

 こうして砲兵の真価、超遠距離からの一方的な火力の投射が開始されたのだった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 皇国の野戦陣地を襲撃し、しかし皇国の味方諸共の砲撃で壊滅的被害を受けた朱雀騎鳥部隊。

 全員で一か所に固まり、『ウォール』を何重にも(そして叩き割られる度に交代で何度も)張ることでギリギリ耐えきったのだ。

 それでも生き残ったのは僅か。

 ゆえに彼らは、本隊である第3大隊指揮所に撤退の許可を求めた。

 

 しかし――――

 

「なんだとっ!?どういうことだ!」

 

『繰り返す、撤退は許可できない。そのまま作戦を続行せよ』

 

 返答は信じがたいもの。

 正確に報告した被害状況は、どう考えても部隊としての継戦能力喪失を表していた。

 それがわからない大隊本部ではないはずだ。

 ゆえに思わずCOMへと怒鳴りつけたが

 

「何故だ?!」 

 

『これは司令部の決定だ……すまない』

 

 返ってきた沈痛な声で全てを察した。察せざるを得なかった。

 

「……了解した」

 

 『命令』。軍人としてこれに背くことは絶対にできない。

 絶対にだ。

 

『僅かだが他の部隊から応援を回す。このポイントで合流してくれ』

 

「了解、作戦を続行する」

 

 そうして送られてきたポイントに、彼は舌打ちしたくなった。

 それはここからさらに奥、トゴレス要塞の近くであり、ようするに皇国の勢力下であったのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 一方その頃、朱雀第3大隊作戦指揮所。

 

 森の中に仮説テントを張り、そこで魔導通信による指揮を行っている。

 司令部からの作戦命令を、現場レベルで仲介し、各部隊に適切な指示を与える重要な部分であり、人体で言うなら『肩』にあたる。

 

 そんな彼らは現在、危機に追い込まれていた。

 

 指揮を執っていた大隊長の頭が、潰れた果実のように弾け飛んだのだ。

 

「ッ?!狙撃だ!『ウォール』!」

 

「『ウォール』!敵襲ゥー!!防御陣形ェー!!」

 

「直掩隊は何をしていた!」

 

 彼らの四方を囲むように光の壁が形成され、ちょうど飛来した次弾を弾く。

 

「どこだ……どこから撃たれた…!」

 

 見えるだろうか……いや、周囲は森の木々で遮られており見つからない。

 銃声は……遠くからいくらでも聞こえてくる。これでは音で探ることもできない。

 

 しかしだ、皇国兵の銃撃の精度は良くてせいぜい50メートル。

 狙撃の訓練を受けた者でも200メートルが限界距離だ。

 もちろん銃自体の射程はもっと長いが、当てられる距離と言えばこの程度。

 

 それに所詮『狙撃』。

 雨あられとしこたま弾丸を受けたならばともかく、単発では『防御魔法』を突破することはまず不可能。

 

 不意を打たれたがこうして立て直すことができた。

 あとはどこから撃たれたか探りつつ、周辺を固めている直掩部隊を呼び寄せ、狙撃手を始末するのだ。

 

「よし、ひとまず凌いだ。後は周囲を索敵し」

 

 トゴレスの方を向いていた『ウォール』と、COMを繋ごうとした朱雀士官が同時に弾け飛んだ。

 

「……え?」

 

 人間の上半身が血煙となって消え、一拍遅れて下半身が倒れる。

 そんな荒唐無稽な光景に、一瞬の意識の空白ができた。

 

 その瞬間を、狙撃手は見逃さなかった。

 

 再び弾丸が飛来し、またひとりの命が奪われる。

 すぐさま『ウォール』を張ろうとした士官が、それを予測されていたかのように真後ろから(・・・・・)撃ち抜かれた。

 

「馬鹿な!?」

 

 それを見た兵士が、木の影に転がり込みながら自身に『プロテス』をかけた。

 

(狙撃手が後方にまで浸透しているのか!?)

 

 だがそれでは理屈に合わない。

 何故なら、自分達は『四方全て』を『ウォール』で囲んだのだ。

 そして前面の一枚は(信じ難いが)一撃で割られ、しかし残りは健在だったはず。

 

(では何故真後ろから弾が飛んでくる?!)

 

 真後ろだけではない。

 『真上から』飛来した小さな光の軌跡が弧を描き、またひとり仲間を撃ち抜いたのを彼は見た。

 

 すぐさま上を確認するが、当然木の上に敵の姿はない。

 というか人の乗れそうな太い枝自体がない。

 

(どういうことだ!?クソ!誰かに、誰かにこのことを伝えなければ……!)

 

 またひとり、仲間の上半身が血煙と化した。

 

 前線指揮所のひとつが壊滅したのだ。

 言わば軍隊の頭がもぎ取られたも同然、ひとつのエリアに烏合の衆を放り込んだようなものだ。

 これでは指揮下の部隊に前進や後退の指示、救援すらも送れない!

 

(とにかく本部へ連絡を……)

 

 震える手でCOMを起動、緊急回線を繋ぐ。

 

 逸る気持ちで気が狂いそうだが、何故か回線が中々つながらない。

 

(早くしろ……早く出ろ!出ろよ!クソッ!直掩隊は何をやってるんだ!襲撃されてるんだぞ!どうして誰も来ない!?)

 

 周囲には痛いほどの静寂のみがあり、聞こえるのは自分の心臓の鼓動だけだ。

 

(クソッ!クソッ!ちくしょうめ!アイツは今どこにいるんだ!早く助けに……あれ?)

 

 忌々しげに直掩隊所属の同期の顔を思い出そうとし―――――そこでハタと気づく。

 

(『アイツ』って、誰だ(・・)?)

 

―――頭の中から、記憶がごっそりと消えていることに。

 

『こち……令本部……ら指令本部。緊急通信を受信した、応答せよ。繰り返す応答せよ、何があった』

 

 ようやく回線がつながり、ノイズ混じりだが通信が可能になると、彼は声を潜めながら怒鳴るという離れ業を行う。

 

「ッ!?こ、こちら第3大隊作戦指揮所、敵の攻撃を受け壊滅!繰り返す、敵の攻撃を受け壊滅した!」

 

『何ッ!?浸透されたのか!敵の規模は?!』

 

「わからない、敵の姿が見えないんだ!だが恐ろしく強力な銃を使っている。『ウォール』が一撃で抜かれた!」

 

『わかった、情報に感謝する。安心してくたばれ』

 

 次の瞬間、身を潜めていた木と纏っていた『プロテス』がもろとも撃ち抜かれ、彼は血煙となって消えた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 『トゴレス要塞』の最上階、その屋上に彼らは居た。

 屋上に腹ばいになり、奇妙な形状の、恐らくは構えから銃と思われる物を真っ直ぐに朱雀軍の方へ向けている。

 

 構えているソレは、全体的に角ばっており、長方形を組み合わせたかのような代物だった。

 

 特にその銃身は『長方形を横に割った』かのような形状をしており、断面には溝が掘られている。

 

「ふんふーん♪」

 

 そんな銃と思わしき物体を構える二人の狙撃手、その内の男の方が機嫌良さそうに鼻唄を始める。

 彼の傍らには何らかの機材があり、そこから伸びたコードがヘルメットに伸びている。

 

「ふんふーん♪ふふんふふーんふーん♪……なぁマズル、お前『魔弾の射手』っつーオペラ見たことあるか?」

 

 スコープを覗いたまま、狙撃手の男、『ノア15』サプレッサー大尉が言う。

 対し、声をかけられた狙撃手の女、『ノア14』マズル中尉は短く答えた。

 

「……ない」

 

 その答えにサプレッサーは機嫌良く、そして何故か得意気にオペラの粗筋を話し始める。

 

「百発百中のスーパースナイパー、カスパール!見えぬ距離から獲物を捉え、撃てば必ず命中する!」

 

 朗々と歌い上げるように話しながらも、スコープから目だけは離さない。

 

「しかしその腕はイカサマだった。朱雀の血を引いていた彼は、忘却されし英霊を魔力で使役し、無理矢理弾丸の軌道をねじ曲げさせていたのだ!」

 

「……そして最後には、魂を弄んだ罪を死の神に裁かれ、雪崩の中にその身を投げ込まれる……でしょ」

 

「ンだよ見てんじゃねえか。いつ見たんだ?」

 

「見てない。でも筋は知ってる。お前がこれ話すの、4度目」

 

「……なーっはっはっは!そうだっけか!なーっはっはっは!あ、でも見てはいないんだよな?」

 

「ない」

 

「ッし!そんじゃあ今度見に行こうぜ!デート代は全部奢ってやる」

 

 

 スコープから目を離さぬまま会話する二人の横、マズルの観測手を務めていた軍人山猫(クァール)と、護衛の軍人山猫が頭を上げ、グルグルと唸り始めた。

 

『……おい、コイツから発情した雄の臭いがするぞ』

 

『コイツ喰っていい?』

 

 目に剣呑な光を宿し始めた二匹を、マズルは山猫の言葉で宥めた。

 

『彼が発情してるのはいつものこと。所詮は人間だもの。あと、食べちゃダメ』

 

 端から見ればにゃごにゃごと大変可愛らしい光景なのだが、内容は酷いものだった。

 しかしもう一度言うが何も知らずに見れば可愛らしい光景であり、スコープから目を離せなくともにゃあにゃあ言うマズルの声自体が可愛いかったため、サプレッサーは盛大に相好を崩した。

 

「なんだなんだ?いきなり何を騒いでんだコイツら」

 

「……お腹空いたってさ」

 

「おーおー、俺もだよ。さっさと終わらせて帰りたい……が」

 

 マズルの言葉に肩を竦めて笑うサプレッサーだったが、

 

「まぁそううまくもいかねェみたいだ。お客さんだぜ、マズル」

 

 ガラリと声が変わる。陽気なお調子者から冷徹な狙撃手へと。

 いつもこうなら、とマズルは思いつつ、その意識を彼方へ、敵集団の命へ向ける。

 

 サプレッサーの瞳、その眼前、距離にして3200メートル先に新たな朱雀の一団が映る。

 

「さぁ、次の獲物だ。現代版『魔弾の射手』をご覧あれ、ってな……」

「にゃあ……」

 

 狙撃手たちの引き金が引かれ、二筋の閃光が(はし)った。




次の更新は……フィニスを乗り越えてからでいいかな?
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