アルナイルはこの日を待ち望んでいた。
ベナトとまた一緒に暮らしたいと思ったのはかなり早い段階だった。
だが仕事も王都での生活にも慣れておらず、自分がまだ子供だという自覚もあり、その気持ちは押しとどめていた。
だが身内を亡くし一人になった自分に寄り添ってくれたベナトの事を、アルナイルは家族だと思っていた。
だから決めた。
(十五歳になって成人して自分で家を借りれるようになったら、ベナトばあちゃんを呼ぼう)
そうして15歳になるまでの数年間、コツコツお金を貯め空いてる借家を探した。
仕事も頑張った。職場の人達もベナトの紹介という贔屓目や、まだ子供の自分に対しての甘え等なく厳しく仕事を教えてくれた。
そして十五歳になり家の準備も終わり、ベナトに自分の考えを伝えた。
正直不安だった。断られたらどうしようとも考えた。
だがベナトは二つ返事で了承してくれた。とても嬉しかった。
こうして王都での二人の生活が始まった。
帰りを待ってくれる人が居るだけで、心が穏やかになる事をアルナイルは知った。
一度は奪われ失ったこの気持ちを、アルナイルは再び深く感じていた。
この生活が2年と過ぎた頃、アルナイルは密かに胸に秘めていた思いをベナトに伝えた。
「魔法を教えてほしい?」
「はい。ベナトばあちゃんが魔法を使える事は知っています。私は身の周りの人達を護れる力が欲しいんです」
アルナイルは力が欲しかった。自分と自分の大切な人を護れる力が。
初めは止められた。だが粘った。自分は今まで護られてばかりなのでそれを返したかった。
最終的にベナトが折れた。
「はぁ、しょうがない子だねアルは。分かったよ、教えてあげようかねぇ」
「ありがとうございます、ベナトばあちゃん」
「但し、アルはいま十七歳だろ?魔法を覚えるには少しばかり遅いよ、人より多くの労力が必要になる。仕事もあるし両立させるのは大変だよ」
「安心してください、しっかりやりますから」
こうしてアルナイルの魔法の修業が始まった。
そして自身の魔法の才を知った。
この世界には多くの魔法が存在するが、基本的に五属性の魔法からなる。
火・水・木・土・金の五つだ。
ベナトはアルナイルの適正を視る為にアルナイルの胸に手をかざした。
それぞれ人には適正があり1つか、多くても三つが普通だ。だがアルナイルは違った。すべての魔法に適正が見られた。
「ベナトばあちゃん、これって凄い事なんですか?」
「まぁそうだねぇ、私が知る限りじゃ王族や過去の偉大な魔法使いの血統なんかには何人かいるねぇ。あんたみたいに普通の平民の身ではここ百年は記録に無いんじゃないかねぇ」
「王族や偉大な魔法使いの血統も初めの人は普通の人ですよ」
「あっはは、なかなか言うじゃないかい。そうだねぇ、あんたも将来は化けるかもしれないねぇ」
ベナトにそう言われアルナイルは喜んだ。
「この事はあんまり言いふらすんじゃないよ。面倒なことになるかもしれないからね」
「例えば?」
「さっき言った王族や魔法使いなんかに目を付けられたらどうなると思う?」
「その力を我が一族に、と言い寄られるとかですか?」
「平民のあんたを正式に王族なんかの血統に加えられると思うかい?何かと理由を付けられて無理矢理に連れ去られるのが落ちさね」
過去の歴史に似たような人物が居たとベナトは語った。
「それは嫌ですね」
「そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。ま、用心するに越した事は無いさ」