目の前には、改造されたマグナムセイバーとバンガードソニックがある。
それぞれモーター・ギア・ターミナル等の心臓部。シャフト・軸受け、ホイールやタイヤ等の足回り。そしてバンパーやローラー等のコーナリング機構。ブレーキだって付いてる、ドノーマルと比べたらとても実戦的にチューンナップされたマシンがそこにはあった。
「これが、ターボのマグナム……」
「見様見真似だったけど、それなりにはなるんだねぇ」
前者は感動に打ち震え、後者は初めてのことに対する達成感と共に、自分達のマシンを眺めていた。
とはいえ、どちらのマシンも最低限の装備を付けただけであり、漸くレースシーンにおけるスタートラインについたばかりのひよっこミニ四駆である。
しかしだ。たとえそうだとしても手伝ってもらったとはいえ、初めてのミニ四駆、初めての改造だ。それぞれ思う事はあっても、嬉しいに決まっていた。
「これで貴女達ウマ娘で言えばトレセン学園に入学できた、といったところですね。これからどんな夢を持つ、どんな活躍をするかは貴女達次第です」
白い帽子の少年が言う。このマシン達はここからなのだと。
「うん! ありがとうな! こんなに手伝ってくれて、ターボ嬉しい!!」
「ネイチャさんもお礼を言っておかないとね。他の皆もありがとうね」
少年他一同、いやいやそんな、これくらいどうってことないですよ的な雰囲気をもって、その感謝に返答した。
「それじゃ早速走らせてみましょう。さっきからウズウズしてますもんね?」
「おー!」
ターボとネイチャは初心者コースのスタートラインの両サイドにそれぞれしゃがみ、マシンを構える。
三レーンコースなので勝負は三周。リタイヤせずに戻ってきた方が勝利の単純なルール。
「ネイチャ、負けても知らないからね」
「ターボこそ、あとで泣いても知らないよ」
ミニ四駆に対して最初から興味があろうがなかろうが、そこはウマ娘。勝負事、それにレースとなれば二人共ボルテージが上がる事は必然である。
それに合わせていつの間にか、店内にいたミニ四レーサー達もこれから始まる二人のレースの観客となって、コースの外で集まっていた。
「それじゃ行きますよ」
スタート係の白い帽子の少年が声をかける。
「レディ……」
スタート態勢に入った瞬間、それまで軽口を言い合っていたウマ娘達の雰囲気が一変した。
眼光は鋭くなり、少年の合図のタイミングを窺うその姿は、流石のトゥインクルシリーズを現役で走るウマ娘のそれだ。
少年を初め、その場にいた人達はまるで自分が出走直前の競バ場にいると錯覚する程だった。
「ゴー!」
合図に遅れて、コンマ数秒でマシンが弾けるようにスタートした。
タイミングはほぼ互角、しかし車重が若干軽いマグナムの方が先に飛び出した。
初心者コースとはいえその全長は市販で売られているオーバルサーキットに比べて長い。最初に若干のストレートの後にすぐカーブが左に90°右に180°と続き、若干の猶予の後に右の90°ロングカーブ、スピードが乗ったところでレーンチェンジ、更にそこから膨らむように左90°カーブ、間にストレートを一枚ずつ挟み右90°カーブが二回、そして連続ウェーブが続き最終コーナーの右90°、ホームストレート中に一回スロープセクションを入れて一周となる。
全体としてはクリスマスの靴下のような形になるか。ミニ四駆を始めたばかりの人がレースを楽しむには程良い難易度である。
そんなコースで走り始めた二台のマシンはというと。
「いっけーマグナム!」
「負けるなソニック!」
熾烈なデッドヒートを繰り広げていた。
軽さからくるスピードと加速力で勝るマグナム。
安定性とコーナーでの減速が少ないソニック。
まるで漫画やアニメで語られたような性能差を再現した走りの二台。
抜きつ抜かれつ、二台は走る。観客は歓声に沸き、二人のウマ娘は手に汗握る。
しかしそれも終わりが、決着が訪れる。
ほぼ同じタイミングで最終コーナーを曲がる二台。バックストレートで加速し、スロープを超える時にそれは起こった。
「ああ!?」
僅かに先を行っていたマグナムが空中でバランスを崩し、コースの壁に引っかかってしまったのだ。
もとよりその予兆はあったのだ。スロープを跳び越える度、なんとかコースに復帰している状態だったのでいつコースアウトしてもおかしくなかった。それが最後に起きてしまった。
その隙にナイスネイチャのバンガードソニックが、マグナムと比べれば安定した挙動でスロープを通過し着地。マグナムをしり目にゴールラインを超えた。
「っし!」
それを見てネイチャは小さくガッツポーズ。
「うわあああん! まーけーたー!」
対してターボは頭を抱えて盛大に叫んでしまった。無理もない話である。
「お疲れ様です。ターボさんは残念でしたね」
「う~~、悔しい! 悔しい! なにが悪かったのかな……」
しょんぼりとした様子で耳を垂れされるターボを見て、白帽子の少年は良い兆候だと頷く。
「ターボさん、やっぱり負けっぱなしは嫌です?」
「もちろん! 勝つまでやるもん!」
「えぇ~」
「それじゃマシンの見直しをしましょうか。ブレーキの利きが弱すぎたかな? それとも……」
「おっと、スイッチ入っちゃってますなこれは」
「やるぞ~」
それから、時間になるまでターボとネイチャは目いっぱいミニ四駆を楽しんだ。
競争ウマ娘たる彼女らにとって、気軽に熱中できて何事にも縛られないレース。勿論何かを賭けたほうが楽しめるというウマ娘もいるがそれはそれ。良い息抜きになった。
「ターボ、楽しかった?」
「うん! またレースしたいし、走らせるだけでも楽しい!」
「それはなにより」
そうして店を出ようとしたところで、最後に白帽子の少年が二人に声をかけた。
「ミニ四駆、出来れば大事にしてくださいね。たとえ飽きたとしても、手放すことになったとしても、世界で最初の貴女達のミニ四駆なので」
その言葉に、二人のウマ娘は顔を見合わせた後、少年に向かって笑顔で答えたのであった。
ハイ、自分的にこの小説書き始める時にやりたかったノルマは回収ですわ。
なんのことか分かるかな?ヒント(の半分)はブロワイエ。