海のフルーフ   作:矢田悠進

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1話では誰かの目を通したフルーフの姿のファーストインパクトみたいなものを描写したくて一人称視点にしました。三人称視点の方が書きやすいのでここからは三人称にします。


2.私はホホジロザメなの

「よっ」

フルーフは座っていた岩からアオの隣に飛び降りた。

 

「せっかくだし少しおしゃべりに付き合ってくれない?」

「えっと」

 

アオは腕時計に目をやる。この後の予定などはないのでそんなことをする必要はないのだが、目の前の少女から視線を外して冷静になりたかった。

 

「いいですよ!」

「決まりね。ねえ、アオって呼んでいい?」

「はい!」

「……緊張してる? 当たり前よね、こんな化け物が相手では」

「そんなことないです!」

 

アオは食い気味に否定した。確かにフルーフは奇怪な見た目だが、化け物とは思えなかった。

 

「うん、緊張してないし、化け物ではないと思います! フルーフさん可愛いから!」

「……ふふっ、あなた面白いね。あっちのベンチに移動しましょうか」

 

ここらは海岸線に沿って舗装された道路が伸びている。その道路と砂浜の境界にいくつか設置されたベンチをフルーフは指差していた。

 

アオとフルーフは砂の感触を足の裏に感じながらベンチに向かう。先を歩くフルーフの尾ひれがゆらゆら左右に揺れているのを、後に続くアオはついじっと見てしまった。見ているうちに、彼女に対する恐怖とか異物感は無くなった。アオの常識の中に、フルーフという存在はすっかり溶け込んでしまった。

二人はベンチに腰かける。わずかに砂が乗っているせいで、ざらついていた。わずかな沈黙の後、最初に口を開いたのはフルーフだった。

 

「私ね、元は魚なの」

「魚なんだね! じゃあサメさん!?」

「すんなり信じてくれるのね……。あなたすごいわ。私はホホジロザメなの」

「ホホジロザメかあ〜! サメの妖精で唐辛子がオマケか、唐辛子の妖精でサメがオマケか気になってたんだけどサメの……ホホジロザメの妖精なんだね?」

「そんなふうに思ってたの……? ただ、妖精ではないわ。唐辛子がオマケなのは正解だけど。アオは人魚姫って知ってる?」

「童話の人魚姫? もちろん知ってるよ」

「そう、その童話を知った私は……人魚姫のように人間になりたいと思ってしまって、海の底の魔女に会いに行ったの」

「魔女!? 魔女って誰!」

「魔女は魔女よ……海の奥深くで魔法を研究している存在よ。それで、私は魔女のところへ行って『人間にしてくれ』ってお願いしたの。そうしてこの姿になったのよ」

「……じゃあフルーフは妖精じゃなくて人間ってこと?」

「そうね。一応……」

 

アオはフルーフを、フルーフは自分自身を改めて眺める。そこそこ人間、そこそこ魚、そして残りは唐辛子……。

 

「この唐辛子は、飾りじゃなくて本物よ。本当に生えてくるの。これは魔女にやられたのよ! 人間の体を手に入れるだけじゃなくて、『体から唐辛子が生えてくる魔法』をかけられたに違いないわ」

「体から唐辛子……」

 

何のための魔法なのか全く分からないが、確かにフルーフを見る限りそう言い表すしかない。

 

「どうしようもないイタズラよね。特にこの、おでこから生えてくるやつは成長も速くて痛みもするのよ。こうやって包帯を巻いておくと少しはマシになるんだけどね……完全に押さえつけるように巻いてたのに隙間から飛び出してくるのはなんでなのよ〜!」

 

よほど腹立たしいのか、唐辛子のこととなるとテンションが高いなと、アオは思った。

日が完全に沈み、辺りが一段と暗くなる。

 

「さて、今日はこの辺にしましょうか」

 

フルーフは勢いよくベンチから立ち上がる。アオもあわせてゆっくりと腰を上げた。

 

「また会いましょ」

「……うん! またね!」

 

フルーフが最初にいた岩場の方に向かって去っていくのをしばらく見送って、アオも自宅へと急いだ。

 

アオは、フルーフがどこに住んでいるか気になって、その日はなかなか寝つけなかった。

「人間だから陸? ちょっとサメが残ってるから海? むむむ…………」

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