海のフルーフ   作:矢田悠進

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3.がおー

次の日は土曜日だった。天気は快晴。

アオはフルーフのことが忘れられなかった。また会いたい。もっと話を聞いてみたい。アオは海へ出かけた。時計の針は10時を指していた。

 

20分ほど歩いて海岸沿いの道路まで来たアオは、フルーフを探しながら砂浜へと足を踏み入れる。昨日フルーフがいた岩肌の上には何もなかった。

 

「そう簡単には見つからないか……」

 

落ち着いて考えれば、あの不可思議な見た目の存在が人目につくところでうろちょろしているはずがない。そもそも、あれは幻だったのかも……。アオがぼんやりと昨日のことの全てを疑い始めたその時、

 

「しゃーーーくっ!」

「うわっ、わっ、わああ!!」

 

突然大声と共に背中を叩かれ、アオは思わず悲鳴をあげる。女々しい声など出せないので、小刻みで不審な叫びになってしまったが。

 

「フルーフ……!」

「あっはは! びっくりした? がおー」

 

フルーフは爪を立てて両の手を目線の高さまで持ってきて、得意げな顔でそう言った。サメらしさのようなものをアピールしているのかもしれないが、やはりその姿はほとんど人間だった。

 

「朝からどうしたの?」

「フルーフともっと話したくてきちゃった!」

「私と? ……ふーん」

「この街の海にキミみたいな素敵な子がいたなんて知らなかったからワクワクしちゃって。どうして今まで気づかなかったんだろう!」

「それは私が上手く隠れてるからよ」

「昨日も今日もこんなに簡単に会えてるのに?」

「昨日は油断してたの……今日は、あなたこんなところまで歩いてきて簡単だなんてやっぱり面白いのね」

 

アオはそう言われてまわりを見る。砂浜の端だった。実は、海岸沿いの道路から砂浜に行くには階段を降りる必要がある。道路は海より5メートルほど高いところにあるのだ。そして、アオは階段から最も離れた所まで歩いて来ていた。海水浴の季節でもないし、そもそもこの浜辺は遊ぶ場所としては使われておらず近隣住民しか立ち入らない。

 

「うわ! もう端の方だ! 確かにこの辺まで来る人はいないよね」

「そうよ。人がいるのは向こうの階段の近くだけ。昨日は私がニンゲンのゾーンに近づきすぎたとするなら、今日はあなたが自然のゾーンまで来てるわ」

 

バシャ、バシャと波は絶えない。ここでもし溺れれば……誰にも気づいてもらえないだろう。

 

「まあいいわ。せっかく来てくれたんだし、私のこと、もっと知ってもらおうかな」

 

フルーフは上の道路と下の砂浜を隔てる壁沿いで何かごそごそと探し始める。

 

「ふふーん」

 

フルーフは半分砂に埋もれていたぼろぼろの缶を持ち上げる。

 

「これ、私の持ち物入れ。拾い物だけどね」

「へ〜。お菓子の缶かな」

 

フルーフは四角い缶を開ける。そして中から取り出したのは、ハサミだった。

 

「しゃきーん」

「は、ハサミ!? 何するの?」

「唐辛子を切るわ」

 

フルーフは躊躇なく、額の唐辛子を根本から切断した。ストンと落ちる唐辛子の実に、アオは叫ぶ。

 

「わーー!!」

「大丈夫よ。髪の毛と一緒で、唐辛子の部分は切っても痛くないの」

「……そうなんだ。収穫、できるんだね」

 

フルーフは頭頂部から生えている短い葉や、尾ひれの花など魔法の唐辛子を切り落としていった。

 

「……スッキリしたね」

 

それを聞いてフルーフはニヤリと笑う。

 

「ふふ。もっとスッキリできるわよ。……ふんっ!」

 

フルーフは全身に力を入れる。すると、ぼしゅん!と煙が上がって、フルーフの尾ひれが消えた。

 

「わあ! ひれが消えちゃった……!」

「じゃじゃーん。サメのパーツも引っ込めることができるのよ。集中力がいるから、普段はヒレつきで過ごしてるけど」

 

唐辛子を切り落とし、尾ひれを隠したフルーフはアオに言う。

 

「さ、出かけましょ」

「どこに?」

「……ニンゲンの街っ!」

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