海のフルーフ   作:矢田悠進

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5.多分、サメに戻る薬なのよ

「おお! おいしそ〜!」

 

目の前に運ばれてきたハンバーグプレートを見てフルーフはよだれをたらす。

 

「ふふ、いただきます!」

 

「ゥンまああ〜〜いっ!」

 

がっつくフルーフは子供のようで可愛らしい。

 

「フルーフ、お肉好きなんだ」

「当たり前でしょ! 人間の体を得たってことは人間の舌を得たってことよ。これは人間の味覚を得たってことなの。サメのままじゃ味わうことなんてなかった絶品よ!!」

「なるほど……」

 

高速で動くフルーフの手と口を眺めながらアオもナポリタンに手をつける。

 

「うま……」

 

慣れ親しんだ味だが、一生飽きない自信がある。

二人はあっという間に料理をたいらげてしまった。

 

 

アオとフルーフは腹ごなしにだらだらと散歩をしていたが、やがて海辺に戻ってきた。フルーフが波のある方へサクサクと歩いて行くので、アオも後をついていった。

波に足が濡らされるギリギリのところでフルーフは立ち止まり、振り返った。

 

「ね、もう一つ魔法を見せてあげる」

 

そう言って、フルーフは上着のポケットから小瓶を取り出す。中には真珠が一粒入っていた。

 

「真珠?」

「そう見えるでしょ。でもこれが魔法のアイテムなのよ」

 

続けてフルーフはまだしていない魔法の話を始めた。

 

「深海の魔女に会った時、三つの薬をもらったわ。そのうちニ錠はその場で飲んで、最後の一錠は今ここに。一つは私の願い通りの人間になる薬。二つ目がきっと、唐辛子が生える薬だったんでしょうね。三つ目は、海に帰ってくる時はこれを飲んで戻って来いって言われたの。多分、サメに戻る薬なのよ」

「サメに戻る薬……そっか、薬なんだね、それ」

 

アオは改めて小瓶の真珠に目をやる。たしかに、飲もうと思えば飲み込めそうだ。

 

「私ね、毎日考えてた。これを飲んで海に戻るかどうか。唐辛子のことがあるから、魔女のところに戻って文句を言わなきゃいけないんでしょうね。でもそれより、結局人間になりきれてないことが悔しいの。私は人間でもサメでもない、半端な化け物……」

「そんなこと言わないでよ!」

 

アオが話を遮って叫ぶ。

 

「半端な化け物だなんて自分を卑下しちゃ悲しいよ! フルーフは人間でもあってサメでもある、オンリーワンな生き物だよ!」

「……! その言葉、覚えておきなさいよ? それに、話にはまだ続きがあるの。私、アオと会って初めて人間になって良かったって心から思ったのよ。まだ2日しか会ってないけどね、これから楽しくなるかもって思ったの。だから、だからその……とりあえずこれはいらない!」

 

フルーフは感情が抑えきれなくなって、サメに戻る薬だというのが入った小瓶を、海に投げ捨ててしまった。

 

「わああ! フルーフ!? 捨てちゃっていいの!?」

「いいのいいの。当分海には戻らないって決めたから! そのかわり、アオ」

「なに?」

「……これからも友達でいてくれる?」

「……! もちろんっ!」

 

 

* 第1章「サメのフルーフ」完 *

 

 




第2章「イカの護衛はイカが?」(仮題)
お楽しみに
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