「スカイさん、なんで携帯食料3つも取っちゃうんですか!」
「にゃはは~♪ 弱肉強食の世界じゃ、早い者勝ちだからね」
ニシノフラワーは携帯ゲーム機を手に持ちながら、ソファからぶら下がた足をばたつかせたくなるのを、必死に抑えていた。
代わりに、右膝をちょっとだけ持ち上げた。
「うっ……手元がぶれるから、やめて欲しいな」
「ちょっと足を上げただけじゃないですか」
ニシノフラワーは、自分の膝の上でうつ伏せになっているセイウンスカイのうめき声を聞いて、少しばかり溜飲を下げた。フラワー達が座っているソファはL字型になっており、6人座っても余裕があるくらい広々としている。スカイがわざわざフラワーの膝の上に乗るほど窮屈ではない。
しかし、フラワーの膝の上がスカイにとっての定位置になってしまった。
フラワーにとって動きづらいし、夏には暑くてしょうがないこともある。でもスカイのその鼓動を確かに感じることが出来るのは嫌いではなかった。それに今みたいにフラワーの気分次第でスカイの動きを制御できるのも悪くなかった。
「昔みたいな可愛いげが少なくなって私悲しいな」
「振り回されるばかりじゃいけないって教えてくれたのはスカイさんですから」
そんなやり取りをしながら、2人で協力しながらモンスターを狩るゲームをこなしていく。フラワーはゲームをやったことはなかった。でも、スカイに勧められてからは、頻度は高くないが協力できるゲームであれば付き合うようにはなった。
「フラワー、尻尾お願いね~」
「スカイさんの方がたくさんダメージを与えられる武器じゃないですか」
「えー、尻尾狙うのめんどくさい」
「斧剣使いのスカイさんの役目を果たせてないですよね? その責任を私に押し付けるのは違くないですか?」
「あちゃ~、どうしてこんなにひねくれちゃったかなあ」
「ふふふ、スカイの薫陶あってですから」
フラワーは本当にそう信じている。
『このゲームをする時は口がちょっと悪くなるのがマナーだよ。誰かが尻尾切って、ハチミツくださいって言うと、お前がやれって返すのが礼儀だから、間違えちゃダメだよ~』
今考えればそんなことはないとはっきり分かる。しかし、スカイの言うことは全て真に受けていた、当時のフラワーには本当にそうなのだと思い込んでいたのだ。
しかし、本当に偶然の出来事だった。ビコーペガサスやシンコウウィンディと一緒にゲームをした時、ゲーム中の自分の言動があまり好意的に受け取ってもらえないことを知った。恥ずかしくて、顔を真っ赤にして二人に謝る一方で、スカイに対する不満を感じたのはフラワーにとって懐かしい記憶だ。
矯正しようと思っても、スカイも軽口をたたいてしまい、無条件に口が反応してしまうため、もう諦めて2人だけの時にこのゲームをすることを心に誓った。
「そろそろ捕まえられそうですよ」
「私が罠持ってると思ってる?」
「状況報告をしただけですから……はい、捕まえました」
「助かるよ~」
手慣れたようにゲームを進めていく。淡々とこなしていくだけだが、フラワーはこの時間が嫌いではなかった。
「次の依頼はスカイさんお願いします」
「はいよ~」
「所で、そろそろ模様替えしようと思ってるんですけど、次のお休み、一緒に家具屋に行きませんか?」
「貼ったよ~……そうだねえ。フラワーが言ってくれたら私が買いに行くけど」
「ありがとうございます。あー、これはちょっと装備変えますね……スカイさんに任せると過剰な安眠グッズが増えるのでダメです」
「けちんぼフラワー」
フラワーはあまり会話が得意ではない。ずっと一緒にいるけれど普通の会話でも、ちょっとだけ無言になる瞬間が続くと、気まずくなりまた会話が途切れるなんてこともある。その点、ゲームを行うことで多少の無言も気にならず、日常会話も出来るのでこの瞬間を気に入っていた。
依頼がはじまり、お互いにゲームに集中する。
鳥のさえずりと、自動車の行き交う音以外はほとんど何もない。聞こえるのはゲームの音と、ご機嫌そうな鼻歌だけ。
――この時間がずっと続いたらいいな。
昼下がりの、穏やかに過ぎていく束の間のひととき。ささやかな幸せを嚙みしめていた。
「ふぃ~、そろそろ終わろうか」
「日も傾いてきましたね」
陽の光に赤みが少しだけ混じりはじめる。
子どもたちの声も聞こえてくる。ここからあっという間に夜になっていくのだ。
「ねえ、今から釣り具屋に行かない? ちょこっとだけで終わるからさ」
「でも、そういって2時間はいますよね」
「大丈夫大丈夫! セイちゃんの誠実さを信じてくださいよ」
「ふふふ、期待しないでおきますね」
お互いにゲーム機を収納ケースにしまった後、外出の準備をする。ついでに部屋を見回り、切れかけている日用品の確認をすることにした。
「キッチン用品、よし。……洗濯用洗剤、柔軟剤、よし。……ボディソープ、シャンプー、コンディショナーも大丈夫。……アルコール消毒液、芳香剤、トイレ用洗剤、あ、トイレットペーパーがあと1個しかない」
そして、フラワーはまた大事なことに気づいてしまった。
「どうしてスカイさんは三角折にしないんだろう」
これだけはフラワーにとって理解できない生活様式の決定的な違いだった。
三角折とは、諸説あるが消防士が急に対応できるようすぐに引っ張りだせるように工夫したことがはじまりと言われている。だからこそ、次の人のことを考えてそれをすべきだと思っていた。
『でも、菌がついてる手で折るのは不衛生じゃない?』
『それは……』
その指摘は最もだった。しかし、利便性を考えるのであれば、トイレ内にアルコール消毒液を置き、消毒して手を乾燥させた後に三角折にすれば問題ないと思っていた。そのために消毒液を設置しているが中々減っていない。それが意味することはなんとなく分かる。
「まあ、いいですけど」
ちょっとした違い。
別に三角折に固執しているわけではない。
ただ、この違いから見えるお互いの思考の違いがあった。
フラワーはその物品を使った人が次に使う人が使いやすいように準備をする。
スカイはその物品を使う人が、自分が使いやすいようにその場で準備をする。
今はフラワーが気にしないだけ。
でも、譲れない行為に於いてその差異が出た時に自分が妥協できるだろうか。スカイのその性質をありのまま受け止めることができるだろうか。3年が経った今でもその不安はぼんやりとしながらも確かにあった。
お互いにお互いを知っている。だからこそ譲れない一線も存在する。それが顕在して決定的な亀裂が生じるという気に病んでもしょうがない“もしも”。
どうしてか、最近はそんなもしもを考えることが多い。
「フラワー、準備できたよー」
「はーい……さて、買わないといけないもの書いたし、私も出る準備しないと」
風のように気ままな言葉に急かされて、フラワーはもしもをしまい込んで準備をすることにした。
「……期待してませんでしたけど」
薄暗くなった広場には、人が賑わい始めている。仕事が終わり、1日の疲れを癒すため、誰かと遊ぶため、食事をするため、各々の考えで人が集まり始めている。
スカイとは1時間後に、広場で待ち合わせをしていた。けれど、その時刻になってもスカイはやってこない。大方、時間を見ることもせず好きなお店をぶらぶらとしているのだろう。
別に気にはしていない。していないはずなのに。
「もしも……」
そう口にしようとしたため、すぐに口元を押さえた。
――もしも、飽きられてしまっていたら。
そんな有り得ないはずのことを考えてしまったから。
浅い付き合いではない。だからこそ、知らないことがあると不安になってしまう。少しでも知っておかないと離れていってしまいそうだと思うから。
フラワーにとって、スカイは自由気ままだけれど、お日様のように誰かをあったかく出来る人だと思っている。それは誰にでも平等だということ。
『スカイさんって、あなたを見ている時は本当に幸せそうな顔をするの。この私と一緒に食堂で食事を取っているのによ? 全く妬けちゃいそう』
『セイウンスカイに言われたんだよ。ニシノフラワーのトレーナーなんだから、彼女の道を閉ざすような選択をしたら絶対に許さないって。だからこそ、君に無茶をさせたくはなかった』
トレセン学園に入ってから今に至るまでに、セイウンスカイというウマ娘の存在はニシノフラワーというウマ娘にとって計り知れないほど多大な影響を与えてきた。それは間違いない。
――間違いなく、スカイさんは私のためだけを思って行動してくれた。それはつまり、私にとってスカイさんが特別なようにスカイさんも私のことが……
「あの、すいません」
「ひゃ、は、はい!……なんでしょうか」
自分の中の劣等感に沈んでしまっていたところに、声をかけられフラワーは意識を引き上げられた。
見たところ、夫婦のようで困ったような表情で話しかけていたようだった。
「ウマ娘の子どもを見かけませんでしたか? 私と同じ栗毛なのですが……」
「いえ、見かけてないです」
「そうですか、すいません」
そう言って、夫婦はまた別の人に声をかけていた。どうしてかフラワーは夫婦の行方を目で追ってしまう。
必死に娘を探している様子はフラワーにはなんとなく思うところがあったから。
『お母さん! お父さん!』
『フラワー……ごめん、ごめんね』
『フラワーちゃん! ちゃんと私がちゃんと手を繋いでいなかったから』
昔、ショッピングモールで迷子になったことがあった。本当に不安で不安でしょうがなくって、両親を見かけたら時はとても安心して泣いたのを覚えている。
でも、今の夫婦の顔を見て分かった。両親だって不安でしょうがないのだ。自分の子どもが、大切にしようと思っていたものが手から零れ落ちてしまうのではないかというとてつもない不安で押しつぶされそうになっているのだ。
――何か出来ることはないかな。
気づけば、その一心でフラワーは立ち上がり、周囲を見渡す。
栗毛の小さなウマ娘なんて珍しくはない。どの子も目を凝らして見るが、あのウマ娘のお母さんのようではない。歩いて探そうか、そうすればスカイが待ち合わせ場所に来た時にいなかったらどうしようか。
そんな逡巡をしていると聞き馴染みのある声が聞こえた。
「そんなに急ぐと危ないって!」
「スカ……きゃ!」
「ご、ごめんなさい。おねえちゃん」
スカイの声が聞こえた気がした。その方へ振り向こうとすると、足元に衝撃が走る。
女の子の声。
見下ろしてみると、栗毛のウマ娘がそこにはいた。
「あなた!」
似たような面影を先ほど見た。確かに、あのウマ娘のお母さんと目元がそっくりだった。フラワーはその子のバツの悪そうな表情を和らげるように、頭を撫でて笑顔で声をかける。
「お父さんとお母さんをさがしているの?」
「……うん、さっきちょっと見えた気がしたの」
「あーもう! だから……ってフラワー」
「おねえちゃん!」
そう言って、スカイに対して嬉しそうに声をかける栗毛の少女を見て、フラワーは笑みがこぼれた。
どうしてか、陽の光に当たったように心が暖かい気持ちになった。
――やっぱりスカイさんはスカイさんだ。
さっきまで、考えていたもしもも吹き飛んだ。不安そうな夫婦の表情を見てモヤモヤとした感情がすっと消えていく。
「スカイさん、この子のお母さんと思う人についさっき出会ったんです」
「それって」
「着いてきてください!……お母さんとお父さんの所に行こう、ね?」
「うん!!!」
栗毛の少女の手を握る。零れ落ちてしまわないように、はぐれないように。
少女の空いた片方の手はすぐに埋まった。たぶん、お日様みたいにあったかいだろうなとフラワーは思った。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「ありがとう! お姉ちゃんたち!」
「いえいえ~」
「たまたま見かけただけなので」
見つけるのに時間はかからなかった。みんな笑顔になってくれたのが嬉しくて、フラワーも自然と笑みがこぼれる。
「バイバイ! お姉ちゃんたち!」
「今度は手を離さないようにね~」
「ありがとうございました!」
「では、お気をつけてください」
そう言って、2人で家族がみえなくなるまで見送っていた。
「……スカイさん、私を放って好きなことしてたのかと思ってました」
「ニャハハ~、時間すぎたのに気づいて、そろそろ戻らないとな~って時に見かけたから間違いじゃないかも」
――それは嘘。
絶対に口に出さないように気をつける。
きっと、そうではないんだろう。普段なら両手いっぱい持っているはずのお気に入りのお店の袋を持っていない。沢山の買い物をする前に見つけたんだと思う。少しでも見つけやすくするために身軽にした。本人に聞いてもきっとはぐらかされてしまうだろうから聞かない。
「そうですね」
「え~、その含みのある言い方。気になるな」
「もうすっかり暗くなっちゃいましたね」
「うん」
「今日はお外でご飯食べませんか」
「うん」
そう言って、フラワー達は歩き出す。人ごみの中に入る直前、2人で身を寄せ合った。はぐれないようにどちらともなく手を差し出して握り締める。
お互いに考えていることが同じなようでフラワーは少しだけ耳がピクリと動いた。
「どこに行きます?」
「え~、どこでもいいよ」
「じゃあ、和食にしますか」
「なんだかパエリア食べたいかも~」
「……むう」
――行きたいところが決まってるなら先に言ってほしい。
「じょーだん、じょーだん。じゃあ、あのお店に行こっか」
スカイが指さした場所の先を見る。そこにあったのは何度かいったことのある懐石料理屋だった。
「いいですね。でも、予約しとかないといけないですよね」
「それは大丈夫」
「え?」
そう言って、フラワーは少しだけ強く手を引かれた。
「もう取ってあるから」
「え?」
フラワーには言われた意味がよく分からなかった。
「今日は最初から外で食べるつもりだったよ」
夜の街は店や車の明かりで入り乱れている。光と影が交互に差し込み、スカイの表情を変えていく。
「お互いに休みなんて合わないし、記念日なんて守れないなと思った、私は考えたんだよ」
その瞬間は全ての光がスカイに当たっていたような気がした。様々な光を吸い込んだ髪は美しい芦毛だった。照れくさそうなスカイの笑顔にフラワーは言葉を失った。
「何気ない日を記念日みたいに祝えばいいでしょ?」
太陽みたいにあったかくて優しい言葉だった。
「ズルいです……スカイさん」
「ニャハハ~」
また、笑ってごまかされてしまった。でも不思議とフラワーは悪い気分はしなかった。
普段では口にしないような豪華な料理に2人で舌鼓を打つ。
全て個室で、気兼ねなく食事や会話を楽しめるこの店舗をフラワーは気に入っていた。
店の中央にはガラス張りの中にししおどしが設置されており、天井をくり抜いたような作りから差し込む月光が幻想的だった。
「あの子、お母さんとお父さん見つかって良かったですね」
「ね、一時はどうなることかと思ったよ」
「私もお母さんとお父さんとはぐれたことがあるんです」
「そうなんだ」
「その時、お母さんとお父さんを見つけた時はすごく嬉しくて涙が出ちゃったんですよね」
「ふーん」
「だから、あの子もきっと今は安心してるんだろうなって」
「ね」
どうしてか、スカイの口数が少なくなった。自分の話がつまらなかったのだろうかと考えて少し話を止めて、フラワーは食事を続ける。
ちょろちょろと流れる水と、かこん、というししおどしの音だけがその場に響いていた。
なんとなく気まずくて、口を開けることが出来ないでいると、スカイから話しかけられた。
「フラワーはさ、“もしも”って考えたことある?」
「っ!……どういう、ことですか」
あまりの驚きで言葉が出てこなかった。さっきまでずっと巡らせていて、すぐに振り切ることが出来た、終わりのない思考。やっと拭ったかと思えば、まさか本人からその言葉がかけられるとは思っていなかったから。
正直、聞くのが怖かった。聞いてしまえば終わってしまうような気がしたから。
「えーっと……」
必死に覚悟を決めて、スカイに問う。しかし、彼女はそれから先の言葉を中々続けない。
もどかしさだけがフラワーの中を占めていた。ああ、この瞬間が早く終わってくれないかと神様に祈りたくてしょうがない心を必死に堪える。
ただ、受け入れるだけ。これからも続けていくために。
「“もしも”自分が結婚して子どもが出来たらなあとか考えたこと、ある?」
「は?」
口を押さえてかみつぶすけれど、言葉はもう吐き出してしまっていた。
自分が考えてもいなかったことを言われたのだ。自分でもこんな間の抜けた声が出るなんて思ってもないくらいにはびっくりしていたんだと思う。
「だから……好きな人と、結婚してさ、子どもが出来て、その子の成長を見守るのが羨ましいなとか、思わない?」
「えーっと」
どう返事をすればいいか分からなかった。何を考えているのか、そんな質問されたのは今までなかったから。どうしたものかと、逡巡していると、スカイの耳が少しだけ揺れているのが分かった。目を伏せながら絶対にこっちを見ようとしないのに気づく。
そして理解した。
――スカイさんも怖いんだ。
そう思った瞬間にスカイの質問の意味が分かった気がした。彼女の考えていることの一端を垣間見た気がした。優しい気持ちがとめどなく溢れてくる。
――私が飽きられたらどうしようなんて、ことを考えてみたいに、スカイさんも私の気持ちが離れていないか確認するのが怖いんだ。
「ふふふっ」
「なんで笑うの!?」
「いや、それは」
なんとなくおかしくなってしまって、フラワーは笑いが堪えられなくなってしまった。
お互いに違うもしもだと思っていた。でも、本質的には同じものだ。
フラワーは“もしも”この先で亀裂が入ったらどうしようということに固執している。
スカイは“もしも”この選択を後悔していたらどうしようということに固執している。
お互いに相手から嫌われていることを想像しても、自分が相手を嫌うことなど想像していない。
それが分かっただけでフラワーは面白くてしょうがなかった。
「すいません……それでですね。スカイさんの質問なんですけど」
「うん」
「子どもが欲しいなと思うことはあります」
「そう」
見るからに、耳がしおれていくのがおかしくて愛らしいとひどく感じる。
「でも、それは大好きな人との繋がりだから、大事なんです」
「うん」
「スカイさんのことが好きです。大好きです」
「……そ」
「スカイさんとの子どもがいたら幸せだろうなと思うけど、他の人との子どもはあんまり想像できません」
うまく伝わっているのかは分からない。でも、この気持ちを自分なりに正確に伝えるように苦心する。
「そして、今は子どもが出来ないので、別にいりません」
愛の結晶だからこそ、意味があって、子どもをつくるために結婚とかはあんまり現実的じゃないなと思う。
「私は、後ろ向きなもしもに囚われるよりも、スカイさんとの幸せな明日を考えたいです」
「っっ!」
「だから、あんまりそういう“もしも”を考えたことはないです……こんな感じでいいですか?」
フラワーは自分の回答に不安が隠せない。スカイの表情も見えない。
「……ずっるい」
「うまく聞こえませんでした」
スカイの微かな声に笑みがこぼれた。
「あーあ、最近のスカイって全然可愛くなくなっちゃったな」
スカイは観念したかのように、机に体を突っ伏した。フラワーの目をしっかりと捉えながら。
「振り回されるだけじゃいけないって教えてくれたのはスカイさんですから」
自分が早く大人になって隣に立ちたいという思いはフラワーの頭の片隅に常にあった。
しかし、そうではない。
――スカイさんだって完璧な大人じゃないんだから。
自分で相手を上に見すぎていた。対等ではないと思いこんでいただけで案外そうじゃないのかもしれない。
でも、やっぱり、自分だけを見て欲しいという幼稚な考えもフラワーは捨てられない。
「スカイさんは……こういう私、嫌いですか?」
「……………………」
また、黙り込んでしまった。
また、無音がこの場に満ちる。
「……嫌いだったら、こんな場所に連れてこないし」
「っっ」
「あーもう、好き好き大好き! でも、私みたいな絞りっかすといたらきっと不幸になるって思うじゃん!? じゃあ、そろそろ切り出さないといけないかなって思ってもしょうがないと思うんだけど私は」
顔が熱くてしょうがない。
言葉が上手く出せない。
そんな風に考えていたなんて知らなかった。
「あの…………」
「なに」
「…………もう一回、言ってくれませんか。好きって」
「っっ!」
正直、熱くて顔を合わせられない。こんな表情みせるなんて恥ずかしすぎる。
もう、大体のことは受け止めると思っていたのに、こんな言葉一つでこんなに取り乱すとは思っていなかった。
「もう一回しか言わないから」
「……はい」
――――――好き。
――ごめんなさい、スカイさん。その心配はあんまり必要ないと思います。
――だって、私はあなたが思っているよりも、もっとずっと。
――あなたに焦がれていますから。
そんな思いも言えずに、私たちはただ無言で、ししおどしが何度なったか分からないくらいにそのまま過ごした。
今日は何気ない日だった。ほんのちょっぴりのハプニングとサプライズ以外はいつも通り。
でも、こういう何気ない日々が何より尊いんだと思う。
だから、私の気持ちは変わりません。
――――あなたの側にいられるだけで幸せです。