エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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 2022年9月11日、自分で読み返して文内容が許せなくなったので前話を大幅に改定しました。改定表記がないときに読んでくださった方、申し訳ありませんが今一度前話を読んでいただけると嬉しいです。

 今回は紫菊賞、アルカンジュのG1に出るためのステップレース第一弾です。モブウマ娘の皆さん、対戦ヨロシクオネガイシマス。ネームド?知らない子ですね。

 それとマヤノトップガンとトウカイテイオーってウマ娘だと同学年だから同じ世代だと思って話進めてたら全然違くて笑ってます(笑えない)。いやどうしよう。学年一緒なら世代一緒じゃないの…?

ー追記ー
2023/03/24、モブウマ娘として出していたカルロヴェローチェが実際にいるとのご指摘を受けたので変更しました。これからはこのようなことのないように気をつけていきます。

カルロヴェローチェ→バソット


MISSION 9 「紫菊賞」

 今日は紫菊賞開催の日。京都レース場にて開催されるこのレースはPre-OPグレードに分類されている。

 つまるところそんなに大きなレースではないという事だ。そのためか、観客席にいる人数もメイクデビューより少し増えた程度の人数だ。事前発表によるバ場状態は良。天気は曇り。レースを行う舞台としてまあまあの条件が揃ったと言えるだろう。

 

「緊張しているか?」

「いや、全く」

 

 控室にて待機している私にトレーナーが話しかける。その話し方は本当に心配するようなものではなく、暗に大丈夫だよな?と言っているように感じられた。大丈夫、との意味を込めて返答し、私はストレッチを始める。

 レース前のストレッチはとても重要だ。関節をあらかじめ柔らかくほぐしておくことでスパートの加速力を底上げすることができるのだ。

 

「アルちゃーん!」

「緊張してるー?」

 

 ストレッチも終盤に差し掛かった頃、テイオーとマヤが控室に入ってきた。

 

「ノックぐらいはしてくれ」

「ごめんごめん。…それで、レースへの意気込みは?」

 

 テイオーの問いに私は口角を上げた。

 

「余裕だ。見ておくといい」

 

 私の答えに一瞬固まった彼女らだったが、すぐいつもの表情を取り戻した。

 

「それじゃあ、ボクたちは観客席に行ってるから」

「期待してるからね!」

 

 そう言って控室を出て行った彼女らを見送り、少しだけ残っていたストレッチメニューをこなした。それを終えて立ち上がった時、トレーナーが手招きした。

 

「どうした?トレーナー」

「一つ注意してほしいことがあってね。昨日までの並走トレーニングと同じスタートはしないようにしてほしい。あれはマルゼンスキーに合わせたスタートだから、ジュニア級のこの時期にやってしまうとほぼ確定で先頭に出てしまう。逃げの訓練はしてないし、ライバル達も見ているから少し抑え気味の方がいいかもしれない」

 

 ふむ、それもそう…なのか?まぁトレーナーの言うことだ、間違いはないだろう。

 

「了解した。いつも通りの走り方で行くとしよう」

 

『まもなく出走時間になります。出走者は地下道へ集合してください』

 

 アナウンスが鳴り、私は控室を出る。トレーナーはテイオー達のところへ行くらしい。テクテクと歩いて地下道に着くと、そこにはもう数人が到着しており、見覚えのある顔があった。確か…

 

「…アルカンジュさん」

「スペリオルドーラだったか?」

「…はい。今日は、勝ちます」

 

 大人しそうな見た目と喋り方だが、その目には確かな自信が見てとれた。トレーナーの見立てでは別な奴が1番に警戒すべき対象だったが、変更だ。

 

『出走メンバーを紹介します』

 

 アナウンスが入り、一枠一番から順番に呼ばれて1人、また1人と光の中に姿を消していく。私はまたまた八枠八番。大外だ。

 私はメイクデビューの時同様、呼ばれる名前から心の中で情報を照らし合わせることにした。

 

『一枠一番、バソット』

 

メイクデビューをギリギリで逃げ勝ったウマ娘。確かに速いが持久力があまりない。まあ気にしなくて大丈夫だろう。

 

『二枠二番、エクセルシオール』

 

差しと先行の二刀流。半月前の芙蓉ステークスでテイオーに敗北を喫していたウマ娘。よくまぁ調整が間に合ったものだ。

 

『三枠三番、スペリオルドーラ』

 

メイクデビューでは私の威圧に負けたが、今回はどこまで育っているかが見ものだ。もちろん、負けはしない。

 

『四枠四番、カルロアルマート』

 

先行策を執っているウマ娘。どのレースでも必ず5位以内、掲示板入り率が100%と言う実力者だ。事前ミーティングではこいつが最重要警戒対象だった。

 

『五枠五番、ヴォロシーロフ』

 

末脚のキレが恐ろしく鋭い差しウマ娘。その加速力は要警戒だ。

 

『六枠六番、ラストイグザム』

 

スタミナが切れたところを見た事がない、スタミナに定評のあるウマ娘。こちらも差しウマ娘である。

 

『七枠七番、フラットライン』

 

不運にも外枠になってしまった逃げウマ娘。序盤に前に行こうとするはずだから私とかち合うことはないはずだ。

 

『八枠八番、アルカンジュ』

 

 眩しい視界に目を細めたくなるのを我慢し、私は観客席に向かって一礼する。小さいながらも拍手が起こり、“がんばれー!”や“応援してるぞ”との声が聞こえてきた。テイオー達はゴール前に陣取ってこちらに手を振っている。

 ふと観客席の一角に目を向ける複数人の男性陣が私の名前が書かれたうちわを振っているのが見えた。あいつらは…宿屋にいた連中だな。ああして応援されると慣れないせいかなんだかむず痒くなってしまう。…いかんいかん。集中しなければ。

 

『曇り空が広がる京都レース場、芝2000メートルの右回り、紫菊賞が始まろうとしています』

『人気を振り返っていきましょう』

 

 実況と解説が三番人気から順に紹介していく。今回私はありがたいことに一番人気に推されている。

 

『三番人気はこの子、ヴォロシーロフ』

『末脚のキレに定評のあるウマ娘です。前回レースのごぼう抜きは見事でした』

 

『続く二番人気、バソット』

『根気強い逃げ戦法によるレースペースコントロールが自慢のウマ娘ですね。好走を期待したいです』

 

『そして一番人気はアルカンジュ』

『メイクデビューではメイクデビューらしからぬ走り方で見事勝利を収めました。今日のレースも期待大ですよ』

 

『さあゲートインが完了しました。………今スタートです!』

『各ウマ娘揃ってスタートを切りました』

 

 ガコン!という金属音とともにスタートを切る。もちろんここで適度の力を抜くことは忘れない。マルゼンスキー基準でスタートするとさながら先行ウマ娘レベルの位置につけてしまうからだ。

 

『ハナを取ったのは一番、バソット』

『快調に飛ばしていきますね。今日のレースは若干ハイペースになることが予想されます』

『七番フラットライン、ハナを譲って2番手につきました』

 

 どうやら逃げがいつもよりハイペースらしいな。差しや先行の子達のせいで前が見えないので実況解説は状況を判断しうる唯一の材料だ。

 現在私の前にはヴォロシーロフ、ラストイグザム、カルロアルマート、エクセルシオールの4人が固まって壁を作っている。先行策特化のカルロアルマートがこの位置にいると言うことは前回レースのように各個撃墜されるのを防ぐための壁作りと見て間違い無いだろう。

 

『おっと、二、四、五、六番が固まって八番アルカンジュの前に壁を作っていますね』

『威圧によって一人一人やられていくのを危惧した結果でしょうか。この戦法が刺さるといいのですが』

『アルカンジュが仕掛けた!』

 

 4人固まっているとは言っても横一文字になっている訳ではなく、パンツァーカイル(逆V字)の中に私を閉じ込めているような形だ。私が下がろうとすると右か左のヤツが少し下がってきてそれを牽制する。抜けようにも抜け出せない。

 だがこの包囲網は私を意識しすぎて固まっただけのため、壁をなしている4人の統制が取れていない。現状何とか包囲できているが、前を瓦解させれば崩れ去るだろう。

 その結論に辿り着いた私は前を走るカルロアルマートに近寄り、反則を取られないギリギリの距離を保ちつつ足音を大きく鳴らす。息遣いも聞こえるようにタイミングをずらし、壁の先頭を崩しにかかる。

 

「…ッ!?」

 

 次の瞬間、気圧されたカルロアルマートは前回のスペリオルドーラ同様速度を上げた。そしてこの先は、第1コーナーである。

 速度超過でコーナーへ侵入したカルロアルマートはもちろん外側へ膨らみ、私の前には一人分のスペースがぽっかりとできることになる。これがストレートだったのならすぐその穴を塞がれるというものだが、幸運にもここはカーブ。皆自身の制御に精一杯でその穴が塞がれることはない。

 私はその穴を突いて前に出る。私の周りの集団は私を気にするあまりかなりのスローペースになっていたので先頭集団はかなり先へ行ってしまっている。私を囲んでいたやつらはまだまだ健在、それ故に最終直線で競り合うことになるかもしれないがまずは先頭集団に追いつくことが先だ。

 

『第2コーナーを抜けて向こう正面に入ります。順位を振り返っていきましょう』

『先頭は依然変わらず、一番、バソット。1バ身離れて七番フラットライン』

『ハイペースを維持して走っていますね。最後まで持つといいのですが』

『さらにそこから2バ身離れて三番スペリオルドーラ、大きく離れて八番アルカンジュ、1バ身離れて五番ヴォロシーロフ、二番エクセルシオール、六番ラストイグザムが固まっています。そこからさらに1バ身離れて四番カルロアルマート』

『かなり縦長の展開になりましたね。後続は追いつけるのでしょうか』

 

 前を走るスペリオルドーラとの距離は10バ身以上あるだろうか、ブロックを抜け出すのにかなり手間取ってしまった。

 私はスタミナ消費量を僅かに上げ、平均速度を上げる。感覚としてはスロットルをちょっと開いた感じだろうか。…おっと、ラストイグザムが並びかけてきたな。

 

『八番アルカンジュと六番ラストイグザムが先頭目掛けて加速を始めました。五番ヴォロシーロフと二番エクセルシオールは厳しいか?』

『スタミナに自信がないとこの差を詰めるのは難しいですね』

『後続を引き離したまま先頭集団が第3コーナーに入りました』

 

 ラストイグザムが強引に私の前に出る。そのまま加速して突き放そうとしたみたいだが、私の前、しかもかなり近い距離に出てきたのは失敗だったな。遠慮なくやらせてもらおう。

 だんだんと加速していくラストイグザムのスリップストリームを得られる位置につき、自身のスタミナを減らすことなく速度を上げていく。もちろん、威圧をかけるのは忘れない。

 

「…ッ…」

 

 苦しそうだな、ラストイグザム。どうだ?ただでさえ加速と急な上り坂で削られているスタミナがさらに削られる感覚は。そろそろ限界か?

 

『あぁっと、六番ラストイグザムが垂れます』

『無理な加速と京都レース場特有の上り坂によるスタミナ切れでしょう。苦しそうな表情です』

『後続の先頭八番アルカンジュ、第3コーナー(下り坂)に入ります』

 

 残り3人。まだ5バ身ほど差があるが焦ってはいけない。ここで焦って速度を上げると外に膨らんでしまう。

 私はストライドを小さくし、足の回転数を上げることでコーナーで加速する。ストライド走法はストレートで有利だが、コーナーにおいてはピッチ走法の方が有利なのだ。

 

『八番アルカンジュが加速!』

『どうやらピッチ走法に切り替えたようです。毎度のことながらアルカンジュの技術は同世代で群を抜いていますね』

『三番スペリオルドーラとの距離は2バ身』

 

 第4コーナーに差し掛かったあたりで前を走るスペリオルドーラに狙いを定める。後方集団はもうここまで追いつく実力はないため気兼ねせず彼女(スペリオルドーラ)を墜とせる。そう思っていたのだが……

 

『第4コーナーを回って最終直線へ。先頭は依然一番バソット!未だ速度は落ちません!』

『七番フラットライン、スタートダッシュでスタミナを使いすぎたか!?苦しそうな表情で下がっていきます!』

 

 ゴールまでもう幾らもないというのに、未だに先頭を捉えられていない。つまり時間がないのだ。

 

「…はぁっ!」

 

 そして前を走るスペリオルドーラも私に構うことなくスパートに入る。こうなってしまうと威圧で相手を墜とす戦法はもう使えない。純粋な末脚勝負だ。

 

『三番スペリオルドーラがスパートに入ります。八番アルカンジュもスパートに入った!』

『先頭は一番!その後ろ約3バ身離れて三番と八番!』

『残り200!』

 

 姿勢を低くし、私もスパートの姿勢に入った。スタミナ消費量は変わらず、素のスペックで加速する。ストライドを広く、回転を速く、どんどんスピードを上げる。

 彼女(スペリオルドーラ)を追い越し、2番手へ。1番手を猛追する。

 

『八番アルカンジュが2番手に浮上!一番バソットここまでか!?』

 

 快調に飛ばしていた一番が垂れた。それを回避してトップに躍り出る。

 

『八番アルカンジュ抜け出した!』

 

 その時、背後に気配を感じた。

 

ーーーー来る。

 

『三番スペリオルドーラが加速!?八番アルカンジュに肉薄!』

 

「まだ…終われない!」

 

 彼女が私の隣に並ぶ。息も上がっておりフォームも崩れている。根性のみで食らいついてきているようだ。…苦しそうだな、スペリオルドーラよ。

 一瞬だけ並ばれるものの、私はスタミナ消費量を少し上げ(スロットルをもう少し開け)、僅かに彼女よりも前をキープする。少しでも私が前に出ていれば…

 

『今二人並んでゴーーールっ!僅かにアルカンジュが先頭か!?』

『…着順が確定しました!一着は八番!八番アルカンジュです!二着はアタマ差で三番スペリオルドーラ!三着は一番バソットです』

 

ーーー勝利となる。

 

 速度を緩めて、息を整える。ものの数秒でいつもの状態に戻った私は、早速ウィナーズサークルに立ち、メイクデビューの時同様、観客に向けて一礼して観客の声援を背に受けながら地下道へと戻った。

 

「お疲れ、アルカンジュ。そしておめでとう」

 

 控室に戻ると、トレーナーが微笑んで私を迎えてくれた。

 

「ありがとう、トレーナー。ウイニングライブまでの時間は?」

「あと30分ってとこかな」

 

 30分か。もう着替えておいた方がいい時間だな。

 

「ちょちょちょちょっと!」

「…どうした?トレーナー」

「俺今出てくから!服脱ごうとしないで!?」

「……あ」

 

 トレーナーは顔を赤くしながらどたばたと大急ぎで控室を出て行った。時々自分が女性という事を忘れる時があるのだ。今のように。これから気を付けなければな。

 

「アルカンジュ…さん」

 

 控室を出て通路を歩いていると後ろから聞き覚えのある声で呼び止められた。

 

「スペリオルドーラか。何の用だ?」

「次は…負けません」

「……そうか。待っている」

 

 未だ消えぬ闘志を目に宿した彼女を前に私は内心少し怯んでしまった。彼女はそれだけ告げると私を置いてステージ裏へと消えていった。

 私もそれを追ってライブの準備に入る。

 

 

 

 なお、メイクデビューの様にトレーナーとテイオーは最前列ではしゃいでいた。今回はそこにマヤも追加されていたので私の笑顔は若干ひきつった物になったのだった。




 更新遅くなりましたすみません。
 紫菊賞、勝利!スレ話を挟んだ次の話の予定は決まっておりません故もうしばらくお待ちください。なお前回と今回に登場したランク10機械族エクシーズ(スペリオルドーラ)は作者のお気に入りなので本格的にクラシック路線に入る前まではたびたび出てくるかもしれません。
 今回のモブも創作です。いやぁ、創るって史実を調べるより楽でいいですね。
 それと本当にテイオーとマヤノまさかの同期じゃない問題どうしましょう……リアル競馬全く知らない弊害が…

また次回お会いしましょう。
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