エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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イジメっ子粛清の時間だオラァ!まあ粛清というか一方的なレースによる虐殺というか…まあ、サクサク行きます。

あ、サテリットことヴィト視点でございます。


MISSION 11 「飛翔」

 チームに入った翌日の朝。俺はこの子の記憶を頼りに朝の支度を行っていた。スカートのことはもう諦めるとして、やはり大変なのは髪のセットやスキンケアの類である。ほっといたらボサボサになったり肌荒れに繋がったりするらしい。いやぁ女ってのはめんどくさいね。ちょっと楽しいけれど。

 

「よし」

 

 朝のルーティーンを終え、部屋を見渡す。もともと2人部屋だった部屋らしいが、記憶によれば同室の子は少し前に辞めていってしまったらしい。この学園の闇を少しばかり見た気がした。

 半分が酷く殺風景な部屋の扉を閉めて鍵をかける。少しばかりに教科書が入った通学カバンを肩にかけ、教室棟を目指す。ルームメイトがいなくなってからはこの子は一人で登校していたみたいだが…

 

「おはよう、サテリット」

「おっ…はようござ…おはよう、アルカンジュ」

 

 今はキング(アルカンジュ)がいる。しどろもどろになりながらも何とか挨拶を返した俺の隣に立って歩き始めた彼女と一緒に、秋の涼しい朝の短い登校時間を楽しむ。

 

「私の他に一緒に登校するような子はいないのか?ヴィ…サテリット」

「そんな仲いい奴がいたならこの子あそこまで精神ボロボロになってないだろうな」

「…もしクラスで何かあったら言うんだぞ?私が何とかして…」

「いや、それには及ばないさ。自分で何とかして見せる」

 

 そう言うとアルカンジュは微かに笑って視線を俺から外した。少し行った先で彼女と別れる。俺は3階、彼女は2階が教室だからな。

 

 

 「おはようございまーす」

 

そう呟いて教室に入ると、結構な数の視線が俺を射抜いた。まぁいつも挨拶しない奴がしたらそうなるわな。今日からはこれがスタンダードになるから慣れておくことだな。

 教室の端の方の自分の机へと向かい、教科書類を机の中に移動させていた時だった。いきなり横から衝撃が来て俺は床に倒れ込んだ。

 

「あw、ごっめぇ~ん、弱すぎて居たの気づかなかったわ~w」

 

 さらにそこから追い打ちをかけるように近くのゴミ箱が別な奴によって蹴り倒され、中身が俺に少々降りかかった。

 

「チッ…ミスったわ」

「ちょっとぉw、やるならもっと派手にやんなきゃ面白くないっての!」

 

 なんだこの仕打ちは。こんなことに毎日耐えていたというのか、この子は。いったいなぜこんな事に…記憶の中に何かこの現状を知るカギは…あった。

 この学園においてクラス分けはその子の実力に応じて行われる。その学年の中でもトップ層と言われる者たちはA組、以降B,C,Dと下降していく。つまり所属クラスによってどの程度の実力か判明してしまうのだ。

 そしてここ…俺の所属するクラスはE。最底辺だ。

 彼女ら、この子をイジメていた子たちも入学当初はエリートとして期待されていたに違いない。この学園に入れるだけで相当の才能の持ち主だからな。だが段々とクラス分けという手段で顕著に示される実力差に絶望し、無意識のうちに自分より弱いものを虐げるようになったのだろう。そしてそこに選ばれたのがこの子という訳…か。

 頭についたごみを払い、立ち上がる。椅子から落ちたときにぶつけた腰のあたりが地味に痛い。

 

「そのゴミ箱片づけとけよ?同じゴミなんだから楽でしょ?」

 

 最初に俺を突き飛ばした奴が半笑いでそう言う。周りも同調したように声を殺して笑っている。どうやらクラスにこの子の味方はいないようだ。

 

「お前が蹴って倒したんだからお前が直しとけ、俺がやる義理はない」

「あ゛?」

「へぇ~、珍しく元気じゃん」

 

 多少のどよめきが起こる。

 

「久々に分からせる必要がありそうじゃん?」

 

 イジメグループの一人が立ち上がって俺の胸ぐらをつかんで引き寄せる。しかしそれは意外にも彼女の仲間によって止められた。

 

「まぁまぁ、どうせ今日の模擬レースで勝てなかったらコイツ退学じゃん?レースでぼろ負けした後にリンチした方が面白そうじゃない?抵抗もしなさそうだし」

 

もちろん、こんなクソみたいな動機で、だが。

 

「それもそうだね~。…レースの後が楽しみになってきた」

「それなら俺からも一つ提案がある」

 

 服を整えながら俺は真っ直ぐにそいつらを見つめていった。

 

「もし俺が今回のレースに勝ったのならば、金輪際関わらないでほしい」

「へぇ…もし負けたら?」

 

グループの一人がイラつきを隠さずにそう言う。

 

「退学になる前に貴様らの言う事を何でも聞くとしよう」

 

俺は臆せずに即答し睨み返す。しばしの静寂の後、彼女らは笑い出した。

 

「アンタが?レースで最下位以外獲ったことのないアンタが!?」

「傑作だよ!レース後が今から楽しみになってきたわ」

 

 彼女らは笑いながら自分の席の方へ戻っていった。丁度その時先生が入ってきて、HRが始まった。

 

「今日は模擬レースだ。サテリット、特にお前はこの学園に残るか否かがかかっている。頑張って走るように」

 

 全く応援する気の感じられない事務的な先生の物言いにイラっとするが、何とか落ち着かせる。この種族は、なんというか自分の感情を制御するのが苦手であるように思う。先程のやり取りでも思わず相手を睨んでしまった。俺はここまで短気な性格ではなかった気がするが、憑依してからなんだかうまくいかない。これがウマ娘としての本能という奴なのだろうか。

 

「~~以上だ。体操服に着替えてコースに集合するように」

 

 先生は無感情で手元のテキストを読み終えると、こちらを見ることなく教室から出て行ってしまった。実力主義の世界はどこも怖いもんだ。キングはAクラスだって言ってたからさぞかし良い待遇なんだろうな。

 そんな対応にも慣れっこなのか、教室内はいそいそと準備を始めた。俺も体操着に着替え、準備をする。幸い、何か自分のものがなくなったりすると言う類のイジメは今日は行われなかったようだ。ちなみにゴミ箱は蹴っ倒した奴が律儀に直していた。根はいい奴なのかもしれない。

 

ーーー

 

 コースに出ると、そこには観客がいた。何のことはない、この後ここのコースを使うA~D組の奴らだ。待機時間が暇だから冷やかしついでに見ているといった具合だろう。お、トレーナーもいる。あーあ、俺も早くAに上がりたい…。というのも、成績さえ残せば上位クラスに即編入させられるので、俺らE組にもチャンスがあるっちゃある。ほぼないも同義だけどな。

 昨日少しだけ行ったトレーニング…もとい俺の走法確認においてトレーナーからは“なぜ今まで勝てなかったのか”とのお墨付きをもらっているから正直あんまり緊張はしていない。もっとも、わずかに残るこの子は怯え切っているが。

 

 「1600m始めるぞ~出る奴は準備だ」

 

指導教官が声を張る。俺が出るやつはもうそろそろ始まるようだ。

 ゲートに案内されるがままに入ると、隣に先ほどの奴が入ってきた。

 

「せいぜい頑張ることね。E組の中とはいえいつも上位の私を万年最下位が抜かせるとは到底思えないけれど」

「口が減ら無い奴だ。嫌いじゃないぞ」

 

 最後の子のゲートインが完了し、教官がコース脇へと移動して拡声器を手に取る。いよいよスタートだ。

 

『模擬レース芝1600m…スタートッ!』

 

 ガコン!という重々しい金属音と共に目の前を遮る板が消える。瞬間、俺は昨日ちょっとばかし習った踏み込み法を以てゲートから飛び出す。

 

『!?』

 

 周りの奴が息をのむ音が聞こえた。スタートダッシュは完璧だ。というか、()()()()()。俺は先行~差しが得意であったはずなのに、先頭に躍り出てしまった。これはマズい。

 

「…ッ!」

 

 と思っていたのだが、焦った後続が無理をして俺の前まで飛び出てきてくれた。感謝するぞ名も知らぬクラスメイトよ。ついでにこの子のことをイジメてきた奴も俺の前へ。

 俺が作り出した異常なハイペースによってこのレースはE組では今まで見られなかったレース進行速度となった。作り出したと言ってもスタートダッシュをトレーナーの指示に従ってやっただけなのだがな。

 

 そんな異例のペースを維持したまま集団は第1コーナーへと差し掛かる。慣れていないハイペースのまま突っ込んだ先頭集団は自身を制御することができず、大幅に減速。追加で外に膨らんだせいで俺の目の前には誰もいない。隣にはいるけどな。そして減速したせいで集団全体が後方へと下がり、また俺が先頭に躍り出る。

 

 もういいや。行っちまおう。

 

 俺はそのまま速度を維持するために歩幅を変更、上体を内に傾ける。途端に脇にいた子も後ろに流れていき、完全に俺の独走となる。大まかな計算ではあるがこのまま先頭を維持していてもスタミナはもつ。はずだ。

 向こう正面に入ってチラッと後ろを確認する。

 

「おっとぉ?」

 

 驚いたことにもうかなりの差が開いている。何バ身だろうか。5か6はありそうだ。

 あれか?最終直線になったらめっちゃ鋭い末脚で差しに来る算段か?いや、Eの連中にそんな頭と実力はないはず…よし。

 俺は考えるのをやめてただひたすら前に進むことに決めた。ベストな走りを維持できれば勝てるかもしれない。

 

 第3コーナーに入るとき、また走法を変え、上体を倒す。足首を捻らないように慎重に角度を調整して地に足をつけ、そのままロスを最低限にして踏み抜く。昨日キングから教えてもらったものだ。何せ、ウマ娘はその力故に足首にかかる負担がとても大きく、適当な走り方ではそのうち足首を壊して引退、という事になってしまうらしい。長く走り続け、安定した生活を送りたければこれを身につけろと血気迫る表情で言われたのだ。そりゃもう必死で習得したさ。おかげでキングのそれには及ばないもののまぁかなりよさげな走りはできていると思う。

 第4コーナーを抜け、最終直線に入る。後ろのことは気にせず、俺はスパートをかける。スタミナはまだまだ余裕がある。

 

「は…ぁッ!」

 

 息を大きく吸い、吐く。それと同時に大地を強くけり、前へ飛ぶ。空気抵抗で状態が起き上がらないように倒すことも忘れない。

 ゴール板を駆け抜け、上体を起こす。っしゃぁ!勝ったぞぉ!…心なしかこの子も喜んでるように思える。

 ふと息を整えて周りを見ると、全員が怪異を見るような目でこちらを見ていた。トレーナーは爆笑している。

 

「えっと…お疲れ…?うん、今日はもう終わりでいいよ。ゆっくり休んでね?」

 

 教官が戸惑ったように俺に話しかける。後続はまだ来ていない。つまりあれだ、大差というやつで勝ってしまったのだ。文句のつけようがない勝利。これはB組くらいには編入されるんじゃないか?

 今頃遅れてゴールしてきたクラスメイトは信じられない物を見るような目でこちらを見ている。いじめっ子一同はすっかり怖気づいてしまっている。レースにも、精神的にも、俺の勝ちだ。これで俺に関わってくることはもうないだろう。

 その後D組の連中がコースに入ってきて、E組ははける。その過程で今日は解散という形になり、一人歩いていた俺にトレーナーが未だに目じりに涙を浮かべながらこちらへやってきた。

 

「いや、ヤバいねサテリット。ちょっと教えたらこれって…これまで本当何してたんだ?」

 

 そう言ってトレーナーはまた笑いだす。この笑いはあれだ、どういう感情をしていいか分からない時に出る笑いだ。俺にはよく分かる。

 

「これもトレーナーのおかげだ。ありがとう。それとそうだな…、サテリットでもいいが、気軽にリットとでも呼んでくれないか?」

「そっちがいいって言うのなら呼ばせてもらおうかな。いやーこれからが楽しみだ!それと、ちょっと話があるからトレーナー室に後できてくれ。シャワーを浴びて着替えた後でな」

 

ーーー

 

 トレーナーと別れ、シャワーを軽く浴び、トレーナー室へと向かう。ちなみにシャワー室の脱衣所でイジメっ子たちには謝られた。まぁ許すわけもなく関わらないでくれとだけ言ってきた。

 

「トレーナー、入るぞ」

 

 ノックしてトレーナー室に入る。トレーナーは資料を俺の方に差し出し、こう告げた。

 

「リットのデビュー時期についてだ。今年は無理、というかアルカンジュに被っちゃうから来年にしようと思う。異論はあるかな?」

「ない。こちらはトレーナーの指示に全て従う。遠慮なく言ってくれ」

 

 俺がそう言うとトレーナーはちょっと悲しそうな眼をした。

 

「自分の意見がある場合はちゃんと言ってね?俺は意見の押しつけはしたくないからさ」

「…あぁ。分かった。ありがとう、トレーナー」

 

 ほんと、いい奴だよこのトレーナーは。今世は前世とは別な意味で恵まれている。

 

「それじゃ言わせてもらおうか」

「おっ、いいよ!遠慮なく言っ…」

「俺に三冠を取らせてくれ」

 

 トレーナーが固まる。そりゃそうだ。俺は菊花賞…とやらの3000mをどうどう考えても走り切れない。さてトレーナーはこれにどう返す?

 

「…よし!来年のデビューまでは全部スタミナ訓練だな!」

「ふ…ははは!そうきたか!」

 

 本当に俺らのことを第一に考えてくれている。今世は前世以上に楽しめそうだ。




 かっっっっなりの難産でした。このクオリティでご容赦ください‥。次回でようやく弥生賞行きます。
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