ということで活動報告にて上記と同じ旨を伝えたところクリスマス回とトレーニング回の2話に分けるならいいという許可が出たので弥生賞ははるか遠くに行きました。お許しを。できるだけイベントは飛ばしたくないのです…。
お気に入り300件ありがとうございます!
朝、私はぬくぬくと暖まっていた布団を引っぺがされることで目覚めた。途端に冷気が私の体を包み、熱を奪ってゆく。枕元にあった時計を持ち上げて現在時刻を確認する。
「まだ5時ではないか…なぜ布団を退けたんだ?ゴルシ」
5時と言えば、前世では普通に起きて活動していた時間だが、この世界に来てから6時起きが定着してしまったためまだ眠たく感じる。それに今日は12月24日。この世界だとクリスマス・イヴと呼ばれる何かの宗教の教祖の誕生日の一日前なのだとか。この国でのクリスマスは宗教的な側面よりお祭り的な側面の方が強いみたいだがね。
「何故って、今日はクリスマス・イヴだぞ?遊びに行くって言ってたじゃねぇか!」
「…そんなことを言った覚えはないが」
「そりゃぁおめぇ、今言ったからな」
ハチャメチャなことを言っているように感じられる彼女だが、こう見えて意味はちゃんとある。ちなみに今のやり取りはゴルシ語から日本語に訳すると「一緒に遊びに行こうよ」という意味になる。今日と明日はチームも休みなので特に問題はない。
「私のチームは休みだが、ゴルシのチームは何かないのか?」
「おう!スピカも休みなんだよ。ゴルシちゃん暇で暇でこのままじゃ干からびちまう」
「分かった。一緒に出掛けようか」
ゴルシは私の返事を聞くや否やガッツポーズをして何やらごそごそと準備を始めた。段ボールからシュノーケルや浮き輪を取り出しているのは見なかったことにする。
「それで?どこに連れて行ってくれるんだ?」
「あん?そんなもん決まってんじゃねーか。この辺で出かけるって言ったら商店街しかないだろ?」
久々の商店街だな。これを機にそろそろなくなってきた日用品を買い足しておくか。マヤに教えてもらったシャンプー類と…あとは…何かあるだろうか。
「なぁアル、お昼は何食べたい?」
「まだ朝飯すら食べていないだろう…そうだな、商店街の喫茶店にでも行こうか?」
「…お前それで足りるのか?」
「あぁ。足りる」
私は小食の部類なのでね。もちろんウマ娘基準だが。朝も食堂の一番小さい朝食セットで間に合ってしまうのだ。燃費は最高峰である。
そこで気づいた。今流されるように色々と準備をしているが、まだ朝の5時過ぎではないか。まだ外は暗く、商店街はおろか学園の食堂も開いていない時間だ。こんな時間に起こして何をしようというのか。
「よぉし!ランニング行こうぜ!」
なるほど、早朝ランニングか。空気も綺麗なこの時期の早朝ランニングはさぞかし楽しかろう。
「行こうか。コースは?」
「とりあえずはいつもの外周な!そしてその後はまだ目覚めてない町の中を全力疾走!」
「…楽しそうだな」
「そりゃあな。久々にアルと何かできるってんだから楽しみに決まってんだろ!」
ゴルシのこの偶に出てくるストレートな感じが私はとても好きである。まるで孫娘達を見ているようで微笑ましいのだ。
「…何だよアル、その慈愛に満ちた視線はよぉ…」
「いや何、随分と可愛いなと思ってな」
「かわっ…おま……ありがとう」
ゴルシは何か言っていたが、最後の方は小さくて聞き取れなかった。私はせっせとジャージに着替え、顔を洗い、走る準備を整えた。ゴルシも整ったようだな。
部屋から出て、鍵をかける。廊下はまだ薄暗く、静まり返っている。部屋の中は比較的防音性が高いので喋っても大丈夫だったが廊下はそうではない。二人して静かに寮の出口まで小走りで移動する。
寮を出て学園内を塀に沿って走る。朝靄を切って進んでいく感覚が気持ちいい。
「アル、次はどのレースを走るんだ?」
唐突にゴルシが聞いてきた。
「弥生賞らしい。皐月賞に出るためにはそこを勝たねばならないらしくてな」
「弥生かぁ…。なぁアル、お前なんか目標とかあるの?」
「目標…」
目標、目標か。あまり考えたことがなかったな。最初は程々に勝って稼げれば程度の事しか考えていなかったからな…。
「具体的な目標と言われればない、というのが本音だ。ただ皆と走ることが私の最近の楽しみではある。学園が平和すぎてちょっと不安だが」
「走るのが楽しい…か。スズカみたいだなオメー。それはそれとしてこの学園平和か?最近アルのチームに入ったサテリットがいたクラスとか地獄そのものだろうが。それに人知れず去っていく奴もいる訳だし」
「サテリットから聞いたが、地獄にしては大分ぬるい。誰も死んでいないしな。それと去っていくのは仕方がない。実力がなかっただけだ」
「お前さ…ここに来る前何やってたんだ…?まともな育ち方してたらこの学園を平和だなんて言わないと思うんだが」
常に死と隣り合わせの環境で生きてきた私達にとってこの学園の環境は平和といっても過言ではない。
「私の経歴なんてどうでもいいだろう。…さぁ、外周が終わったが、どこに連れて行ってくれるんだ?」
「話逸らしやがったなオメー…まぁいいや。いつか聞かせてくれよ?それじゃあ!登山と洒落込もうじゃねぇか!」
……は?
ーーー
私は今トレセン学園付近の小高い山の上にいる。山というから本格的なものを想像して身構えてしまったが、そんなことはなく、細い道がちゃんとある山だった。ゴルシがいつも自主トレーニングの時に使っている山で、ゴルシの他にはサテリット…この場合は中身がヴィトでない頃の彼女だな、とその他数名程度しか使っていない秘密スポット的な扱いの山だそうだ。
山頂から見下ろす府中の街並みは日の出に照らされてとてもきれいの一言に尽きる。結構早めのペースで登ってきて疲れた後に見る景色ほど綺麗なものはない。
ちょっと開けたところに設置されたベンチに二人して腰掛ける。
「そういやよ、お前のチーム…ソルだっけ?そこにサテリットはいったじゃんか。彼女どうしたんだ?性格が180度変わってたんだよ」
「…そうなのか」
ゴルシの質問を流す。どうしてさっきからこうも答えにくい所ばかり突いてくるのだ。
「それとアル、サテリットとちょっと仲が良すぎはしないか?チームメンバーとは言え入って数日だろう?」
「…話しやすくてな」
やめてくれないかゴルシ。これ以上の言葉のミサイルは避けられそうにない。
「そしてサテリット海外出身じゃないよな。お前の親戚でもないよな」
「……まぁ、いろいろとあるんだよ」
回避できたか?これでダメならもう為す術はない。元男として学園を追われることだろう。
「……さっきも言ったが、いつかは話してくれよ?お前がどんな奴だって私は受け入れるぜ」
「…あぁ、いつか、な」
何とか回避できたようだ。ほぼ被弾だが。走って書いた汗とは違う汗が額から垂れる。ゴルシは私の返答を聞くや否や勢い良く立ち上がり、こちらを向いて言った。
「さぁ!こっから学園まで競争すっぞ!負けたら火星探査の刑だからな!」
「なんだそれは…。だが悪くないな。お前を火星に送るとしよう」
軽口をたたきながら整理運動兼準備運動を始める。下り坂は上りと比べて足にかかる負担が尋常じゃないくらい跳ね上がるからな。こんなところでケガがもとで引退となったら目も当てられない。
「…アル。
…うん?
「…ゴルシお前!どこまで知っているのだ!?」
「ふぉっふぉっふぉっ、何のことか分からんぞ~、大丈夫、ほかの奴には言わねぇから!」
「絶対知っている口ぶりではないか!」
脱兎のごとく駆け出したゴルシを必死に追う。こうして私のクリスマス・イヴは幕を開けた。
ーーー
時刻は午前九時半。あのあとシャワーを浴び、部屋に戻ってからゴルシは二度寝し、私は彼女にもらった拳銃の整備をしていた。定期的にやらないといざという時に撃てないからな。パーツごとにバラし、磨き、油をさして元に戻す。前世では散々やった事だったが、こっちは体が慣れていないせいなのか、地味に手間取ってしまった。
あの後ゴルシに何を知っているかと詰め寄ったのだが、終ぞ情報は得られなかった。彼女も私と同様はぐらかしてしまうのだ。本人が他言する気はないと言っているのでひとまずは信用してみようと思う所存である。
カシャン!という音を立ててスライドを戻す。もちろん弾は入れていないが動作を確認するために構えてトリガーを引く。カチッという音がしたことを確認したら整備完了だ。
「お前ホント手慣れてるなぁ」
いつの間にか起きたゴルシがそう呟く。彼女はよっ、と掛け声をかけて立ち上がり、着替え始めた。
「…なぜ制服から着替える?」
ゴルシはきょとんと首をかしげる。かなり可愛いので自重してもらいたい。
「アル、まさかとは思うが休日に制服で出かけるなんて言わないよな?」
「前マヤと行った時は制服だったが?」
「…Oh…私服持ってる?」
「ジーパンと白シャツなら」
ゴルシは頭を抱えた。ジーパンと白シャツの何が悪いというのか。私は好きだぞ、着やすくて。
「まぁいいや。とりあえずそれに着替えろ。その間に外出届出してきちまうから。今日はお出かけコースに洋服店も追加だな、こりゃ」
呆れたように言って彼女は部屋を出て行った。私は言われたとおりに着替え、荷物をボディバッグに詰め込んだ。
終わったのを見計らったようにドアが開き、ゴルシが顔を出す。
「外出届承認されたぞー。おぉ、意外とその格好でも悪くはないな。素材がいいからか?」
「お世辞は良い。それで、どこに連れて行ってくれるんだ?お出かけコースと言っていたから何かしら計画があるのだろう?」
「おう!楽しみにしておけよ!」
こうして私たちは動き始めた商店街へと繰り出していくのだった。
ごめんなさい。書ききれませんでした次回に続きます。
ゴルシかわいい
誠に私事ではありますがAC7にてクルビットができるようになりました。