ーー皐月賞に出走せよ
ーー最も速いウマ娘が勝つと言われるクラッシックロードの第一戦、皐月賞。
ーーこのレースで5着以内となった者には東京優駿…日本ダービーの優先出走権が与えられる。
そして今日、ーーーー年、四月十四日。今年のクラッシックロードが幕を開ける。
栄光の一冠目を手にするのは果たして誰か。
がやがやという地上の喧騒を控室で聞きながら、私は今勝負服に手を通している。
ーー勝負服。それはG1レースでのみ着用が許された特別な服。トレーナー曰く、
私の勝負服は黒い軍服となった。なぜかというと…
ーーー
「アル、皐月賞に出る時の勝負服の案、考えておいてね」
弥生賞を勝った次の日、トレーナーがそう言って紙を一枚渡してくる。どうやらここに原案を描くらしいが…はてどんなものを描けばいいのやら。
「難しく考えないで、着たいと思う服を描けばいいと思うよ」
その日、結局トレーナー室にいる間は何も案が思いつかず、部屋に持ち帰ることになった。
そこで目にしたのが、この前ゴルシと出かけた時に買ったあのコートだった。
(ふむ…前世でもこう言ったコートはよく着ていたからな…。そうだ、前世で着ていた物を描けばいいではないか。勝負服とは言わばここ一番の時に着る服。つまり正装に値するわけだろう?ここは軍人らしく軍服でいこうじゃないか)
という経緯で私の画力を総動員して思い出せる限り前世の服に寄せたデザインの服を描き、トレーナーに提出した。
ーーー
…という訳だ。届いたものはなぜか追加されていた軍帽や黒手袋、袖端、裾端のオレンジの差し色を除いて概ね予想通りのものだった。私としてはうれしかったので無問題である。
「アルカンジュさん、メイク完了しました」
思案にふけっていると、メイク担当がにこやかに報告してきた。なんとG1レース…というか有名になるとメイク担当までつくらしい。トレーナーから聞いた時は目が飛び出るかと思った。なんせ、前世は言わずもがな、今世もいままで化粧の類はやったことがなかったからだ。まぁ、自分でやるのではないので気は楽だったが。
鏡を見ると、そこにはいつもよりも血色が良いように見える今となってはもう見慣れた顔。うむ、実に綺麗だ。黒い服に白い肌が映えていてとても良い。
「ありがとうございます」
「はい、頑張ってくださいね!」
メイク担当が控室から出ていき、入れ替わりでトレーナーが入ってくる。
「アル、似合ってるじゃないか。カッコいいよ」
「当たり前だ。それでは、ブリーフィングといこうじゃないか」
「OK」
トレーナーは壁に立てかけてあったパイプ椅子を展開し、座ってタブレットを起動する。
「今回のレース展開予想を分かりやすいように3Dデータに起こしてみた。見てくれ」
そう言って再生ボタンを彼が押すと、一斉に駒が動き始めた。大外が私で、その内にいるのがテイオーか。奴はするすると上がって行って、先行位置につく。予想だとマヤも先行か。そのほかも先行が多いな。若干先頭よりの集団ができそうという訳か。
向こう正面に入ってからはノーマルペースで進んで、最終直線で私が上がって行ってテイオー、マヤ、私の戦いになる、と。そういうことだな?
「とまぁ、こういう風になるかなって俺なりに予想してみたんだ。どう思う?」
「悪いが、こうはならんな。トレーナーの見立てではほかの奴らが最後まで残っているみたいだが、それはない。テイオーとマヤ、そして弥生賞で戦ったスペリオルドーラ以外の連中はレース中盤までで削り切れる。シミュレートの様に後方1バ身程度の差では済まないだろう」
「おぉ、言うねぇ。じゃ、楽しみにしておくとするよ。それじゃあ、俺は観客席でリットとかと見てるから」
そう言って笑ったトレーナーは控室を出て行った。地下道への集合時間まではまだある。何をしたものか…。
正直今の私でテイオーに勝てるか、と言われたら確信をもって頷くことはできない。タイムが違うのだ。それも数秒も。ただそれは何も邪魔がないトレーニングでのタイムだ。この皐月賞、勝つためにはいかに早く前方の邪魔な奴らを消し飛ばすかにある。向正面が終わる頃には奴の後ろにつけていないと勝ち目がない。それほどまでに強いのだ。
ただ、弱点もある。それは心構えだ。奴は慢心している。少し前までは強さを手に入れたが故の傲慢さと思っていたが、そんなものではなかった。もっとちゃちな、お子様によくある慢心である。それも、対して苦労せずとも世代最速という称号が手に入っているからに他ならない。それにこの皐月賞は最も速いウマ娘が勝つと言われているレース。慢心はさらに大きくなっていることだろう。
そこにつけ込む。奴と他が競り合っている間、決して本気は出さないだろう。そしてそこに気を取られている間に私がトップスピードを以て死角から
集合時間となり、地下道へ来た私の目の前には、これまた色とりどりな勝負服に身を包んだ出走メンバーが神妙な面付きをしていた。原因は、青白ツートンの軍服チックな勝負服に身を包んだ奴のせいであろう。緊張している大多数のメンバーと違い、彼女は落ち着いている…というよりもへらへら笑っている感じだった。実に腹が立つ。*1
他の落ち着いているメンバーは、やはりというべきか。スペリオルドーラ。黒地に紅色の線が入った帽子とインナー。そしてその上にカーキのジャケット。下は黒のカーゴパンツというミリタリーチックな服装だ。特徴的なのはジャケットの左胸に入っている銀色の鷲のような紋章の上に金色のヘッドライトのようなものが付いていることだ。あれはいったい何モチーフなのだろうか。*2
そして意外にも落ち着いていたのはマヤことマヤノトップガンだ。彼女の勝負服は見ただけで分かる。空軍服のアレンジだ。私の勝負服が長いコートそのままなのに対して彼女の者は色々と短くつくられている。そして首からドックタグを下げているのが印象的だった。年頃の娘があんなに肌をさらしていいものか…。まぁ、そこは私が口を出すところではないだろう。
「アルちゃん久しぶり、今日はよろしくね!」
「…あぁ」
「もー、そんなに構えなくっていいじゃんか!ま、勝つのはボクだけどね~」
直接煽りを受けても動じない私に飽きたのか、彼女はまた別な奴の元へちょっかいを掛けに行った。あ、あっちの子はキレたな。テイオーが楽しそうにしている。
『間もなく出走メンバー紹介が始まります』
アナウンスが鳴り、私たちの間に緊張が走る。流石にテイオーも黙ったようだ。
さて、情報確認の時間だ。
『ーーーー年、皐月賞の出走メンバーを紹介します』
『一枠一番、イイデシビア』
差し策を執るウマ娘。特に目立った戦績はない。
『一枠二番、シャコーグレイド』
差し、先行系のウマ娘。長距離向きの適性らしいので、今回レースで脅威になりえることはないだろう。
『二枠三番、スペリオルドーラ』
言わずもがな。根っからの先行屋だ。前は威圧に少し耐えていたな。今回のレースではどうなる?楽しみだ。
『二枠四番、マヤノトップガン』
変化自在の脚質を持つウマ娘。今日は何で来る?後ろめなら早々に削ってやる。まだ私と同様本格化が始まっていないからな、他と比べて脅威ではあるが、最終的に残るメンバーの中では一番脅威ではない。油断はしないが。
『三枠五番、イイデサターン』
イイデ家二人目。こっちは先行。脅威ではない。
『三枠六番、ブリザード』
差し策を執るウマ娘。同じく脅威ではない。掛かりやすいとの情報は聞いたことがある。好きな季節は冬だそうだ。
『三枠七番、アサキチ』
先行。弥生賞でのことがあるから気にすることはない。
『四枠八番、レガシーオブゼルダ』
先行策を執る、という事しか分からない。ゲームが好きらしい。
『四枠九番、シンホリスキー』
逃げよりの先行を執るウマ娘。それ以外のデータは判明していない。
『四枠十番、ダンスダンスダンス』
沢山踊ってそうな名前の先行よりの差しウマ娘。本人の趣味はストリートダンスだとか。
『五枠十一番、イブキマイカグラ』
私と同じ、追い込みウマ娘。舞が得意だとか。でも最近はストリートダンスにハマってるとかなんとか。ダンスダンスダンスと仲良くやれそうな子だ。
『六枠十二番、ヤングシゲオー』
ダートの方が得意らしいが…、大丈夫か?
『六枠十三番、イイデセゾン』
イイデ家三人目。こちらはお初じゃない。弥生賞でもお世話になった逃げウマ娘だ。今日はかなり外枠だが、うまく逃げられるといいな。できるのならまたハイペースにしてくれ。
『六枠十四番、サクラヤマトオー』
差しよりの先行。関わりがないから詳細データは不明だ。
『七枠十五番、ヴァイスシーダー』
差し策を執るウマ娘。脅威にはなりえない。
『七枠十六番、カネハボマイ』
先行策を執るらしい。こちらも同様データがない。
『七枠十七番、トウカイテイオー』
私の撃墜目標であり、これまで勝ったことのない相手。慢心している隙をつくしか方法が今のところない。いつか絶対、本気になった貴様に勝ってやる。無論、今日も負けるつもりは微塵もないがね。
『八枠十八番、アルカンジュ』
弥生賞の時よりもさらに増え、空きが見られないほどになった観客席に向けて、手袋を整え、帽子を取り、片足を一歩引いて一礼。もちろん帽子は手に持って胸の前だ。礼儀はきちんとせんといかんからな。
歓声に沸く客席を後にして、ゲートへと向かう。全く、まだレース前で、今回は一番人気でもないのにとんだ歓声だな。
「すごい歓声じゃん、アルちゃん」
おっと、今回の一番人気様のお出ましだ。
「貴様の方がすごかっただろうが」
彼女の方を見ることなく、ゲートへと入る。
『ーーーー年、皐月賞。絶好の天気に恵まれた中山レース場では現在、ゲートインが進んでおります』
『今日の人気を振り返っていきましょう』
深呼吸をする。余計な息を吐ききって、新鮮な空気を吸い込む。
『三番人気はこの子、スペリオルドーラ』
『安定した先行策による掲示板率が高いウマ娘です。好走を期待したいです』
前を見据え、姿勢を低く。いつでも飛び出せるように。
『二番人気はこの子、アルカンジュ』
『レースに波乱を巻き起こすウマ娘。気合十分といった感じです』
さぁ、準備はできた。
『そして二位とかなり差をつけての一番人気に推されました、トウカイテイオー!』
『世代の中でも群を抜いた素質を持っています。私イチオシのウマ娘ですよ』
『ゲートインが完了したようです。クラシックロードのスタート地点、皐月賞…』
『今、スタートです!』
脚に力をこめ、飛ぶようにして走り出す。私はまずまずのスタートが切れればよい。どうせ一番後ろにつくのだから。だが今回は弥生賞同様2000m。そんなに長いレースではない。展開を早めていくぞ!
『三番人気の三番、スペリオルドーラは4番手に、二番人気の十八番、アルカンジュは最後尾、一番人気の十七番、トウカイテイオーは3番手につけたようです』
『十三番イイデセゾン、運良く前に出ることができたようです。ぐいぐいとレースを引っ張っていきます』
ナイスだイイデセゾン。これで前目の先行は少し削れるだろう。
『十八番アルカンジュ、前を走る十一番イブキマイカグラにピタリとつけました』
『あぁ…始まりましたね。彼女のすり潰しが』
足音を大きく鳴らす。これで私の方を意識させた後、若干右に、そして次は左に、視界の端にちらちらと映るように走る。そしてたまらず振り返ったときに…
「ヒッ…」
一睨み、そしてちょっと加速するとあっさりと
『先頭集団順位は変わらず、後方集団を見ていきましょう』
『十八番アルカンジュ、ターゲットを変更しました。次は…六番ブリザードと十五番ヴァイスシーダーですね』
私と戦ったことのない者は正直簡単だ。背後から威圧を飛ばしつつ、視界に映り込めばいい。足音を大きくする必要すらないのだ。私が抜きに来ると思って周りを気にするようになり、自分のペースを維持できなくなる。こうなってしまえばあとは何もしなくても
『十八番アルカンジュ、インから六番と十五番を抜いた!』
『これまでのレースと比べると早い仕掛けですね。まだ1コーナーですよ』
次の目標は前を走る二番シャコーグレイド、十二番ヤングシゲオー、十四番サクラヤマトオー。三人とも第2コーナーをインベタで回ろうと必死になっているため、こちらが威圧をかけてもなかなか気づくことはないだろう。こういう集団はどうするかというと…
『十八番アルカンジュが外から集団を一気に抜いた!これで12位に浮上!』
『向正面に入ります。先頭集団の順位は変わらず先頭が十三番イイデセゾン、3バ身はなれて2番手に九番、シンホリスキー、1バ身差、3番手は十七番トウカイテイオー、こちらも1バ身差、4番手に三番スペリオルドーラ、2バ身離れて5番手に四番マヤノトップガン、その次固まって五番イイデサターン、八番レガシーオブゼルダ、七番アサキチ、十六番カネハボマイ、そこから2バ身離れて一番イイデシビア、その次十番ダンスダンスダンス、その次2…1バ身離れて十八番アルカンジュ。また坂で加速しています。次はーーー……』
坂だろうが関係ない。スタミナは余っておるのでな。そして、これだけハイスピードのウマ娘が後続から来たと認識した目の前の奴らはというと…
『十番と一番が加速!』
『見事に掛かりましたね。一息つけるといいのですが』
このように、いとも簡単に掛かってしまう。シニア級ならもっとまともな判断もできるのかもしれないが、今はクラシック級、しかも皐月賞。その判断をできる者は少ないだろう。こうして二名がかかって無理な加速をし始めるとどうなるのか、それはもう面白い事になるのだ。
『十番と一番のあおりを受けて先行集団四名も加速!?まだ3コーナー手前ですよ!?』
『六名が固まって四番マヤノトップガンとの距離を詰めています』
そう、こうやって集団で掛からせて先頭の連中に間接的に圧をかけることができるのだ。悪く思うなよ、これもまた勝負のやり方だ。恐らくこれでマヤは垂れる。
『第4コーナーに差し掛かったところで四番マヤノトップガン失速!集団の後ろへと下がっていきます!』
垂れてきたマヤを軽く躱して集団を追随する。連中はオーバースピードで外に膨らんでいるから抜くのは簡単だ。
『第4コーナーのインを突いて十八番アルカンジュが集団を抜き去りました!』
『これにて5番手に浮上です』
最終直線に入る。テイオーが振り返らずに姿勢を変える。マズい。
『最終直線に入ります。ここで外枠が祟ったか?十三番イイデセゾンずるずると下がっていきます』
『十七番トウカイテイオー、スパートに入った!九番シンホリスキーを一瞬で抜き去って後続との差を広げます』
誰も競り合う者がいない。非常にマズい。スペリオルドーラもスパートに入ったがあれは…間に合わないな。はぁ、果たして追いつけるだろうか?
だがやるしかない。私しかできる奴はいない。
『十八番アルカンジュ、姿勢を低くしてスパートに入ります!』
『ものすごい加速だ!?九番シンホリスキーを抜き、三番スペリオルドーラも抜き…だが先頭まではまだ差がある!その差およそ5バ身!』
『中山の直線は短いぞ!?アルカンジュは間に合うのか!?』
アフターバーナー、起動。できる限りの全スタミナを投入し、息を止める。ストライドとピッチをどちらも上げ、体を前へ前へと押し出す。飛ぶように、なるべく足が地面についている時間を短く、されどもしっかりと踏み込んで。
『十八番アルカンジュ、何だこの加速は!?ありえない!ものの数秒で2バ身もの差を詰めました!』
『十七番トウカイテイオー、一瞬振り返った後再加速します…』
再加速か。思えば模擬レースではそいつに成す術なくやられたんだったな。だが今は違う。
『…が、アルカンジュ離れない!むしろじりじりと近寄っていく!』
『ゴールまで残り50m!アルカンジュどうだ!?』
再加速。スタミナの消費量をさらに上げただけだがね。おかげで自慢のスタミナが尽きそうだ。どうだ?テイオー、引き離せない相手を前にした時の感情は。
息はまだ吐かない。吐かずともまだこの足は回り続ける。だが…
ーーー少し…足りないか…。
『今並んでゴールイン!これはどっちでしょうか?』
『僅かに十七番トウカイテイオーが先行していたように見えました。判定を待ちましょう』
『タイムは…1:57.7!?レコードです!皐月賞レコードが更新されました!』
『3着は三番スペリオルドーラ、4着は意地を見せた再加速で四番マヤノトップガン。5位はーー…』
ゴール板を駆け抜け、コース内側の柵にもたれかかる。流石の私でもこれを無表情で立っていることはできない。
『着順が確定しました!1着は十七番トウカイテイオー、2着はアタマ差で十八番アルカンジュです!』
アタマ差…今度は私が負ける番だったか…。はっ、慢心しきった小娘ごときに勝てないとは、私もまだまだだな。
呼吸が整ってきた。私は未だにターフに座り込んで肩で息をしているテイオーの元へと近寄り、手を差し出して話しかける。
「立て、勝者よ。まずは応援してくれた観客に応えたらどうだ?」
テイオーは若干ふらつきながらも私の手を掴んで立ち、観客席に向かって一本指を突き上げた。
途端、静かになりつつあった観客席が爆発的に盛り上がった。この一本指は…そうか、一冠目か。たしか、現生徒会長のシンボリルドルフがやったパフォーマンスなんだったか?普段から言ってる通り、憧れなのだろう。
ふらふらのテイオーに肩を貸し、ウィナーズサークルにて係員に引き渡す。背を向けて去ろうとした時、声が投げかけられた。
「ありがとう、アル」
思わず振り返ると、そこには係員の手を離れ、自分の足で立っているレース前とは違った顔つきをしたトウカイテイオーがいた。その目からはもう、慢心は感じられなかった。
「遅いお目覚めだな。テイオー」
そう告げ、再び背を向けて地下道へと向かう。トレーナーはいつも通り、控室前の壁にもたれかかっていた。
「トレーナー、戻ったぞ」
「アル!足は大丈夫か!?痛みとか、ない?」
声をかけるなり、いきなり屈んで脚を触り始めるトレーナー。
「どうした貴様、沖野トレーナーに感化でもされたのか?」
「あ゛っ…いや、最後無理な加速してたから足に異常はないかなって心配で」
慌て始めるトレーナーの姿に思わずクスリと笑ってしまう。
「笑わないでくれよ…。で、大丈夫なんだな?」
「あぁ。この位の加速には耐えられるようにトレーニングしてきたからな。大丈夫だ」
そういうと安心したのか、トレーナーはライブ会場へと行ってしまった。そうか、控室でのお色直し…とでもいうのか?それがあるから入れないのか。
室内に入ると、先ほどのメイク担当と見慣れない顔が数人がいた。
「お疲れさまでしたアルカンジュさん。メイク直しと、服を軽く整えますので、いったん脱いでそこにかけて、貴女はここに座ってください」
テキパキと指示が飛ぶ。脱いだ服は見慣れない方々が整えてくれるそうだ。勝負服はウイニングライブにも使うから、ああした手入れが必須なのだろう。私にはよく分からん。
もみくちゃにされること十数分、すっかりレース前と遜色ない姿に戻った私はライブ会場へと足を進めていた。
「アルちゃぁぁん!」
「マヤか」
不意に後ろからマヤが追いついてきて、隣に並んだ。彼女は一回沈んだものの、再加速で何とか4位に滑り込んだらしい。
「今日は負けちゃって、直接戦えた感じはしなかったけど、ダービーでは私が勝つから!お楽しみにっ!じゃあね!」
そう言い残すと、彼女は小走りでかけていった。
「…アルカンジュさん」
「スペリオルドーラか」
「あの加速は一体…?」
まあ気になるだろうな。これまでひた隠しにしてた訳だからな。
「スタミナ消費量を上げて速度に変換しただけだ。やろうと思えばだれでもできる」
「……誰でもはできませんよ、それ。そして…毎度恒例になりつつありますが、次は勝ちます」
「楽しみにしている。そしてスパートのキレをもっと良くすればアンタはもっと強くなれる」
「…助言、感謝します。では」
そう言ってスペリオルドーラはマヤの後を追うように会場へと行ってしまった。そしてこの流れは…
「アル~」
いつの間にかちゃん付けではなくなったテイオーだ。まぁ呼び捨てでも私は構わないからいいのだが。
「次は大差勝ちしてあげるからね!」
「言ってろ。私が勝って見せる」
お互いに軽く笑い合う。不意にテイオーがまじめな表情になった。
「さっきも言ったけど…ありがとうね、アル」
「いい目になったな。東京優駿が楽しみだ」
「…会話でダービーをその呼び方する人初めて見たかも…希少種?」
「私を動物扱いしないでもらえるか?」
真面目な雰囲気は一瞬にして瓦解し、二人してまた笑い合った。
ーーー
そのすぐ後、ウイニングライブが始まった。歌う曲は「Wining the soul」。クラッシックの三冠レースにて歌われる曲で、「Make debut!!」とは毛色が180度違う曲だ。私はかなり好きである。トレーナーに聞いた話だが、彼の趣味が作曲で、この曲の作成に携わった*3らしく、前に自慢されたことがある。
曲が始まり、最前列にテイオーのファングループと私のファングループが鎮座しているのが見えた。もちろん、テイオーの方が規模は大きいので文句を言われることはないだろう。ただ、な。トレーナーと愉快な仲間たち、法被にサイリウム、そして横断幕はいかがなものかと思うぞ。応援してくれるのはありがたいけどな。
ライブの完成度?私をだれだと思っている。もちろん完璧に仕上げてある。ミスは無し、かなりカッコよく踊れたはずだ。会場のボルテージも最高潮、実によくできたライブだったと言えるだろう。
ピピッ
ーー日本ダービーに勝利せよ
ーーーーーーーーーーーー
お読みいただきありがとうございました。誤字等ございましたらご指摘のほど、お願いします。
テイオーが実質強化され、ダービーの難易度がACE級になったことを報告します。油断しないテイオーとか最強か?
そしてG2弥生賞までで出すのをやめる予定だったスペリオルドーラですが、優先出走権の存在をすっぽり抜けていたためなんかG1も走る運びとなりました。そういえば皐月賞で与えられる日本ダービーの優先出走権は5位までなんだそうだ。…ふーん…。
まだスペリオルドーラの連勤は続きそうです。
とりか様より頂いた勝負服姿のアルカンジュです!
【挿絵表示】
キサラギ職員様より頂いた勝負服姿のアルカンジュです!
【挿絵表示】