エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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賢さがウマ娘基準で天元突破しているミハイおじいちゃん、お金のために走ります。

この度本小説はリボン付き(評価バー色付き)になりました(エスコン4並感)。ありがとうございます!


MISSION 2 「疾走」

 “B2F 地下レース場”

 

 そう書かれた無骨な看板が私を迎える。こんなにワクワクするのは何時ぶりだろうか。

コンクリートで固められた無機質な階段を一段一段降り、扉を開ける。

 その瞬間、興奮した空気が、熱狂した空気が私に襲いかかった。前世では感じたことのない類の空気感に私は思わずたじろぐ。

 

「見ねェ顔だな、嬢ちゃん。出走希望か?」

 

左から声を掛けられる。見るとそこには受付と書かれた札が置かれてるだけの長机と、その奥に煙草を吸いながら座ってる男がいた。

 

「あぁ、そうだ。ここで受付をすればいいのか?」

「そうそう。この紙にレースで使う名前書いて出しな。本名はやめておけ。参加料は…初回特典だ、負けといてやるよ」

 

本名登録非推奨か。本当に違法なんだろうな…この国の警察は何をしているんだ?まぁ、今の私にとってはありがたいが。

 

「それにしても、賭けとか進路妨害上等のこのレースに進んで出ようだなんて珍しいなァ。余程金に困ってるのか?」

「その通りだ。この先生きていくための金が必要でな。…書けた。これでいいか?」

 

紙を差し出すと、男は面倒くさそうに片手で受け取り、確認を始めた。

 

「出走ネーム“フランカー”、怪我云々自己責任に同意…、出走時服貸し出し希望、よし、これで大丈夫だ。服は出走前の控室に各種サイズが置いてあるからそれを使え。今さっき3Rが終わって次…には間に合わないからお前さんが出るのは今日の最終走、5Rだ。4Rは観客席でレースを楽しみな」

 

そう言い残すと男は紙を持って奥に消えてしまった。さて、言われた通りにレース観戦といこうか。レースというものがどう言うものなのかを知る必要があるしな。

 

『まもなく第4Rが始まります。出走者は速やかに準備をお願いします』

 

何重にも重なって聞こえる場内放送が4R準備開始を告げる。私はレース場を囲むように設置されている観客席の一つに腰を下ろした。

 まぁ、ウマ娘とまで言うのだから想像はしていたが、前世にもあった競馬で馬の代わりにウマ娘が走ると言う物のようだ。あの金属の檻…?は何に使うのだ?

 しばらくして出走するウマ娘がチラホラとレーストラックの上に現れ始め、檻の中に入っていった。そうかなるほど、あれはゲートか。あのような形をしているのだな。

 

『地下レース場ステークス。芝2000の右回り、まもなく出走です。賭けをする場合はお早めに券売機での購入を…』

 

 やはり賭けか。恐らくだが賭けという部分が違法なのだろう。隣の男性2人が誰が勝つかで盛り上がっている。

 

「このレース、勝つのはリヴァーストームだな!俺は単勝で五万賭けたぜ」

「何をいう。やはり勝つのはディンギルスだろう。私は賭けなかったが」

 

こんな感じで皆出走者に金を賭けたり賭けなかったりして楽しむのだろう。そして場内放送を聞く限り人気と言うものがあり、人気が低ければ低いほど勝った時の賞金倍率が高くなる仕組みのようだ。隣の男性は1番人気に賭けているようだ。

 

『ゲートインが完了しました。…今スタートです!』

 

 ウマ娘が走り出すのを見て私は思わず息を呑んだ。走り方が人間のそれとは全く違うのだ。足を大きく動かし、前へ前へと跳ぶように走って行く。そして何よりも、速い。自動車くらいの速度は出ているのではないだろうか。私はそこで受付の怪我は自己責任という項目の意味を悟った。この速度で転倒でもしようものなら、最悪死に至るだろう。

 

 周囲がレースで熱くなる中、私は冷静に走り方、そして各ウマ娘のペース配分を観察していた。

金を稼ぐための技術で、盗める技術は盗んでおくべきだ。だが、見る限り、走っているウマ娘はただただ速さを競っているように見受けられる。そこまでレベルは高くはないのだろう。というか、レベルが高い奴らはトレセン学園とやらに行くから居ないのか。お、1人抜け出したな。

 

『ディンギルス抜け出した!先頭はディンギルス!ディンギルス、今先頭でゴールイン!2着はリヴァーストーム!』

 

 終わったか。では移動するとしよう。

 

「なあ君、次のレース出るのかい?」

 

その時、隣の先程一着を当てていた男に声を掛けられた。

 

「あぁ、そうだ。初めてのレースだが、絶対に、勝つ」

 

 おかしい。なぜこんなに闘志が湧き上がってきているのか。これがウマ娘としての本能というものなのか?

 

「そうか。応援しているよ。名前はなんていうんだ?」

「ミハ…アル…ゴホン、フランカーだ」

 

名前が三つあるとだいぶ不便だ。男は苦笑しながら見送ってくれた。私は案内看板に従って控室へと向かう。

 

ーーー

 

 控室に着くと、そこにはもう既に次の出走予定の奴らがいた。全員が全員目をぎらつかせ、私を睨む。だがその威圧感は私を墜とした3本線や歴戦のパイロットのそれと比べるとまるでそよ風だ。可愛いものだな。

 

「オイ、お前が飛び入りの奴だな?」

「そうだ。よろしく頼む」

 

控室にいた奴の中でも一際偉そうな態度をした奴が突っかかってきた。

 

「フン、精々頑張るんだな。私の背中を拝ませながらゴールさせてやるよ」

「…そうか。楽しみにしているぞ」

 

貸し出しのジャージに身を包み、係の人から名前の書かれたゼッケンを受け取る。

 

『本日の最終走、第5Rに出走予定の方はターフに集合してください。まもなく始まります』

 

場内放送が響き、控室内のウマ娘達が一斉に立ち上がり、移動を始める。

 薄暗い通路を通り、歓声が響くコースへと辿り着く。指示されたとおりに並び、ゲートインを待つ。

 

『本日最終走は粒ぞろいです。地下レース場ステークス覇者のみが集められたこのレース…おっと、失礼しました。当日参加、しかも走ることが初めての飛び入りがいたようです。…大丈夫でしょうか…?』

『無事に完走してくれることを祈ります。それでは6番人気から順に発表していきましょう』

 

 地下レースの覇者だけが集まっているレースだと…!?聞いてないぞ!?…いや、当日参加できただけありがたいと思うことにしよう。しかし、解説の言っていた無事に完走することを祈るという言葉から、ラフプレーが日常茶飯事のレースなのだろう。ふむ、不必要な接触を避ける走り方をしてみるとするか。

 

『6番人気は飛び入り参加のこのウマ娘。王者打倒なるか?フランカー!』

 

 会場にどよめきが起こる。まあ無理もないだろう。見慣れた顔ぶれであろう王者達の中に突然ルーキーが放り込まれたのだからな。だが私は心身ともに違法レースの王者に負けるようなヤワな作りはしていない。面白いレースになることを約束しよう。

 

 その後、恙無く紹介が進み残すは1番人気のみとなった。

 

『本日の一番人気はやはりこのウマ娘、現在制覇数最多を誇るスーパーセイバー!』

 

 先程控室で突っかかってきたやつが片手を突き上げる。途端に会場には割れんばかりの歓声が巻き起こった。

 

『以上6人による出走です。…各ウマ娘ゲートインが完了しました』

『今スタートです!』

 

 ガコン!という音ともに目の前の金属板が消える。私は地面を力強く蹴り飛ばし、前へと進む。先程の第4Rでスタートが1番早かった奴の見よう見まねだ。自分では完璧に行けたと思ったのだが…

 

『あぁっと、6番フランカー、出遅れです!』

 

どうやら出遅れという判定になるほど遅かったようだ。こればかりは慣れが必要だな。…だがまあいい。元より集団の後ろに着く作戦だ。

私は息を大きく吸い、団子状態になっている集団の後ろについた。

 

『先頭は1番スーパーセイバー。1バ身離れて3番ラースタチカ、………最後尾は6番フランカーです』

『フランカーは追い込み策を執ったみたいですね。これが吉と出るか凶と出るか。見ものですね』

 

 歩幅を大きくとり最高速を上げる。確かこのような走法はストライド云々と言われていたような気がする。まあ前世の知識だからこの世界で通じるかは知らないが。

 そして実際に走って見て思ったのだが…

 

このレース、見た目よりも意外と遅い。

 

出遅れた私が余裕で追いつけてしまう程にはスローペースである。ただ、遅いとはいえ人が走るよりかははるかに速いので接触や転倒には注意が必要だが。

 

「いつものレースはこの位の速度なのかね?」

「…ッ、いつもよりっ、速いよ!」

 

すぐ前を走る蒼い髪が特徴のウマ娘に語り掛ける。どうやらいつもよりもハイペースらしい。大方私を焦らせるための虚言だろうが、私にはまだ余裕がある。この茶番(スローペース)に付き合ってやるとしようか。

 

『間もなく第三コーナーに入ります。順位は変動なし、出遅れたフランカーは最後尾にぴったりとくっついて不気味に息をひそめています。解説さん、どう思いますか?』

『徹底的にマークしてるためフランカーの前の子はさぞかし走りにくいでしょうね。ゴリゴリと無駄にスタミナを削られているはずです。もしかしたら大番狂わせがあるかもしれませんよ』

 

 三度目のコーナーに差し掛かる。コースはオーバルを一周。つまりコーナーはこれ含めあと二つだ。まだ仕掛ける時ではない。

 不意に前の奴がヨレて下がってくる。急に下がるなんて危ないではないか。

 

『おっと、ここで4番バイパーゼロが下がります。何があったんでしょうか』

『スタミナ切れにしては早い気がしますね。何かあったのでしょうか』

 

 追い越すときに横目で4番の子の表情を確認すると、どうやらとても苦しげな様子だ。…まさかこんな簡単な威圧(徹底マーク)ですぐにスタミナが消費されるのか?もしそうだとしたら、全員に同じことをやれば勝てるのではなかろうか。

 

『6番フランカー、今度は5番ベルクートの後ろにピタリと着いた。5番ベルクート、非常に走りづらそうです』

『本当にこのレースが初めてなんでしょうか?疑いたくなるようなマーク技術ですね』

 

 ふむ。手はそのように振るべきなのだな。戦いの中で成長していく感覚、長い間忘れていたこの感覚がとても心地よく感じる。

 

『間もなく第四コーナーを抜けます。ここで1番スーパーセイバーがスパートに入った。3番と2番も追随します。おっと、5番ベルクートスタミナ切れでしょうか。ズルズルと下がってその順位を6番フランカーに渡します』

『スーパーセイバー速いですね。後続は追いつけるのでしょうか』

 

「私も行かせてくれ。勝たねばならないのだ」

「何を…ッ!行かせるか!」

 

 私が体を右に振ると2番も体を右に振る。左に振っても同様だ。なるほど、これが走行妨害という奴か。

ならば妨害が届かない範囲まで行けばいいだけの話だ。

 

『2番ミジェットが6番フランカーを妨害しています。おっと、ここで6番フランカー大外へと出た。何かあったのでしょうか』

 

 姿勢を思いっきり前に傾け、地面をより一層力強く蹴飛ばす。前のレースで見て学んだ技術だ。手を大きく振り、足を前へ前へと出す。

 

『6番フランカー大外でスパートに入った。これは…!』

『粗削りではありますがかなりいい形でのスパートですね。速度がどんどんと上がっています』

『2番を追い越しその勢いで3番も追い抜いた!なんという末脚だ!?』

 

 私の視界に(スーパーセイバー)が映る。奴はこっちを見て一瞬驚いたような顔をしたがまたすぐに前を向き、口角を上げ、スピードも上げた。

 

「そうこなくてはな…!」

 

 謎の高揚感が私の足の回転数をさらに上げる。楽しい。走るということはこんなにも楽しいものだったのか。

奴の背中がだんだんと大きくなる。その驚いた顔をもっと私に見せてくれ。

 

『残り100を切ったところで1番スーパーセイバーと6番フランカーが並んだ!』

『両者一歩も譲りません。一進一退と言ったところでしょうか』

 

「よう、若いの。悪いが先に行かせてもらうぞ」

「!?…ッ、なん、で、喋れんだよっ!?」

「そこでしゃべったのが貴様の運のツキだ。ほら、もう加速できないだろう?」

「…っ!」

 

僅かではあるが私が前に出る。奴に再加速するスタミナは残っていない。このレースは…

 

『今フランカーが先頭でゴールイン!まさかまさかの下剋上です!一着はフランカー!』

 

全機撃墜で、私の勝ちだ。

 

ーーー

ーー

 

「なぁ、フランカー」

 

レースが終わり、控え室に戻るとスーパーセイバーが話しかけてきた。…なんだ、暴力に訴えるつもりか?

 などと警戒していたのだが、予想に反して奴は手を差し出してきた。

 

「お前、速いな!おめでとうと言っておくぜ」

「ふむ。意外と優しいのだな。私はてっきり勝てなかった腹いせに殴られるくらい覚悟していたのだが」

「…お前、そんなかわいい顔して怖いこと言うなよな…そんなことはしないぜ。速いやつは偉いんだ」

 

なんだその戦闘民族のスローガンみたいなものは。いや、この世界だと真面目にそうなのかもしれないな。

 

「礼は受け取っておこう。また稼ぎが必要になったらここに来るだろう。その時はまた負けてもらうとするかな」

「ふっ、ぬかせ。次こそは負けない」

 

差し出された手を握り返しながら私たちは笑う。空を飛ぶ以外にも楽しいことを見つけた瞬間であった。

 

ーー

ーーー

 

 地上への階段を上り終えた私の頬を涼しい風がなでる。日はもう沈んでおり、月明かりと街灯だけが道路を照らしている。さて…

 

「これからどうしたものか」

 

レースの賞金はしっかりともらってきた。私一人が贅沢をしなければ1か月はもつのではないかと思える量だ。そう、金はあるのだが…

 

「宿は…どこだ。ここは、どこだ」

 

こうなるんだったら宿の場所を聞いてくるべきだった。歩きながら考えていたためレース場への戻り方もわからない。いったい私は何をしているんだ?

 

「君、ちょっといいかな」

 

不意に後ろから声をかけられた。急いで振り返ると、先ほどレース前に声をかけてきた男がいた。

 

「なんだ?身体目的なら応戦するぞ?」

 

私が冗談めかして言うと、男は慌てて手を振って否定した。

 

「いやいやいや、そんなつもりはなくてね。あ、俺はこういう者なんだけど…」

 

私は男が差し出してきた名刺を受け取った。




 レース描写ってこんなものでいいんでしょうか…?ウマ娘アニメ未視聴、ゲームのレースはほとんど飛ばしてるトレーナーなので…。もしおかしな点がありましたら指摘していただけると幸いです。
 違法レースは言わばトレセン学園に入れなかった落ちこぼれの集まりなので実力はそこまで高くないです。そのため一度も走ったことのないミハイおじいちゃんが勝てた、と言うことです。
 口調が変なところがありましたらご指摘ください。
 今回登場したウマ娘は…多分今後は出ません。

それではまた次回、お会いしましょう。
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