2022/11/13 、日間ランキング二次創作の部95位に載りました!読んでくださった方々、ありがとうございます。
皐月賞の激闘から数日後、休暇を終えてトレーニングを再開した私達はある問題に直面していた。その問題とは、言わずもがなテイオーの強さについてである。
彼女は元の素質が他と比べて頭一つどころか頭三つくらいは飛びぬけていた。しかしそこに慢心が加わったことで私と対等…ではなかったが、そのくらいにまで戦力が落ちていたのだ。それを先の皐月賞で刺激し、慢心を取っ払ってしまったおかげで、元の素質以上の実力にまで飛躍的に成長してしまったのだ。これは昨日沖野トレーナーから聞いた話だが、皐月賞以後以前よりもまじめに、且つ大量のトレーニングを行うようになったテイオーは日ごとの実力の伸びがこれまでの誰よりも大きいのだとか。
つまりだ、今の私では対抗できない次元まで彼女は行ってしまったわけだ。私とてトレーニングをサボっているわけではないし、寧ろ前よりも沢山こなすようにしているのだが、実力差は縮まらない。このまま東京優駿を走ったら大差でもつけられかねない状況である。
どれだけ努力しても追い越すことはおろか追いつくことすらできない実力の塊、トウカイテイオー。彼女を超えるにはどうしたらいいか、チームソルは現在トレーナー室で頭をひねっているわけである。
「純粋なトレーニングでは…」
「無理だね。いや、アルの伸びしろも類稀なる域ではあるんだけど、如何せん相手が悪い。アルが10年に1人の逸材だとすれば彼女は50年に1人の逸材だからね」
「あーあー、化け物ばっか」
リットがお手上げだ、というように頭を振った。トレーナーも部屋の天井を見てため息を吐く。そんなことしている暇があるならトレーニング、という考えは私たちの頭にはない。というのも、昨日沖野トレーナーに話を聞いた時にテイオーの練習風景を見させてもらった、否、見せつけられたからである。
「あんなん勝てないって!このままクラシック三冠獲っちまう勢いだぞ」
「そうだな…でもテイオーのスタミナは並のはず、最初から私がテイオーの真後ろにつけてずっと削り続けるというのは…」
これならいけるのではないだろうか。そう思ったのだが…
「アル…。マヤノとドーラ、それにそのほかダービーに出てくるやつらはテイオー以下とはいえ強豪揃いだ。一人を徹底マークしていたら他の出走メンバーにさらっとダービーの冠を持っていかれてしまうよ」
「かといって全員マーク、ちょっと譲って一位候補マークにするとテイオーが削り切れない。それにもしかしたら彼女は何かしらのマーク対応策を持っているかもしれないだろ。彼女にじっくりマークしたことはないんだろ?」
このとおり、二人に真っ当な理由付きで否定されてしまった。先程から案が出るたびにこれだ。何かいい方法はないのかね。
そんな風に三人して頭を抱えていると、トレーナー室のドアを軽くノックする音が聞こえた。トレーナーがどうぞ、と声をかけて入ってきたのは知らない奴だった。
「…誰だ?」
私とリットは全く知らない様子、対してトレーナーは微かに息をのむ様子があったことから、知ってはいるようだ。暗めの茶髪で腰の辺りまで伸びた髪、前髪にはしずく模様を上下反転したような特徴的な白い流星が入っているそのウマ娘は不敵な笑みを浮かべたまま、口を開いた。
「シリウスシンボリだ。呼び方はシリウスでいい」
「シンボリ…確か会長も…」
「おっとそこまでだ。私は皇帝サマと一緒にされるのが好きじゃないんでね」
ぼそっと言いかけたリットにシリウスは鋭い視線を飛ばす。トレーナーは大分緊張しているが、リットは両手を軽く上げて降参の意を示した。リットに彼女の威圧は全く効いていない様子である。まぁ精神的に年下の娘の威圧なんざ怖くないし、当然ではある。
ふむ、第一印象から推察するに会長と遠くない関係にあり、それでもって仲がよろしくない、俺様タイプのウマ娘と見た。
「シリウス…一体何の用だ?ここにルドルフはいないぞ…」
トレーナー、なんでそんなに喧嘩腰なんだ。
「あぁ?トウカイテイオーに勝てそうになくて頭抱えてるどっかの誰かさんの担当を助けに来てやったってのにその対応はないんじゃないか?」
「そっか。すまない」
シリウスの言葉にトレーナーは怒気を霧散させ、いつもどおりの雰囲気に戻った。
「シリウスと言ったな。助けに来てくれたのは正直ありがたい事なのだが、なぜだ?」
タダではあるまい。こう言った性格の奴は基本的に対価を望んで何かしらの行動を起こすことが多い。果たしてこの子は何を望むのか。
「皇帝サマが肩入れしているトウカイテイオーとやらを負かすためだ。…その表情は知らないみたいだな。最近の皇帝サマはそいつに自分の技術を教えてるぞ」
そこで私はゴルシに先日聞いた話を思い出した。会長…シンボリルドルフは走りに関して他者にアドバイスをするという事はほとんどしないことで有名らしい。なんでも公平性を保つため、とからしいが。そんな彼女が肩入れしたとなると、なるほど、あの実力の飛躍っぷりにも納得である。
「自分と同じ無敗の三冠が誕生しそうだからかどうかは知らんが、これまで他の奴らには不干渉だったあいつが急に干渉し始めた。おかげでトウカイテイオーの実力は今、うなぎ上りに上がっている。このままじゃ誰も追いつけなくなる。という事で私の出番だ。お前をあいつ…トウカイテイオーを超える実力を持つまでに仕上げる手伝いをしてやる。私の助力への対価はダービーに勝つことだ」
不敵に言い放ったシリウスからは、確かな自信が感じられた。どうやら策はあるようだ。そして、コイツの意図も読めた。
「つまりだ、テイオーに私が勝つことによって会長にマウントを取りたい、そういうことだな?」
「……まぁそうだ。あいつを煽れれば私はそれでいい」
なんと幼稚な動機か。しかし今の私には絶好のチャンスである。なんせ八方塞がりだったのだからな。そんな時に天から手が差し伸べられたら掴むに決まっている。しかも私にデメリットとなりうる対価も必要としないのであればなおさらだ。
「トレーナー、いいだろうか」
一応彼に許可を取らないと私は何もできない。という事で許可を取ろうとトレーナーの方を見る。
「うーん…シリウス、頼むからアルとテイオーが不仲になるような状態にだけはしないでくれよ?」
「任せておけ。その点は大丈夫だ」
不安げなトレーナーだったが、シリウスを信じる気になったのか、彼女の考案するトレーニングをすることを許可してくれた。
「それじゃあ、これからシリウスとトレーニング案を相談して決めるから、今日は自主練という事にしてくれ」
「明日を楽しみにしておくんだな」
どうやら今から考えるらしい。まぁ、何もデータを見ずに私に合ったトレーニングなど提案できるはずもないから、当然か。
トレーナーはシリウスを事務机の方に招き、ああでもないこうでもないと議論を始めた。
さて、晴れて協力者を得たわけだが先ほど言われた通り今私はやることが特にない。
「リット、これからどうする」
「俺はもうしばらくここにいる。アルこそどうするんだ?」
「私はそうだな…ジムにでも行ってこようかと思う」
そう告げ、部屋を後にする。
それにしても会長がテイオーに協力…か。会長はたしかG1を7勝しているウマ娘で、無敗の三冠…だったか?それを獲っているはずだ。それはもう、技術は素晴らしいものだろう。そんな純度100%の航空燃料みたいな技術を覚醒したテイオーが学んでいるのだから、まぁ納得の結果である。
そしてそれに対抗し得るシリウスのトレーニングとはどういう物だろうか。どれだけ考えてみても私には分からない。ここまで気になるのならトレーナー室に残って脇から覗いていればよかったかもしれないな。
そんなふうに考え事をしながら歩いていると、いつの間にかあまり来たことのない場所に来てしまった。ここは…
「三女神の像…か…」
石像の周りは噴水で、外周にはベンチも置かれている円形のそこまで広くない広場だ。
確か…すべてのウマ娘の始祖と言われているんだったか…?まぁ前世持ちの私には関係ないが。
そんなことを考えてきた道を引き返そうとした時だった。
ふと目の前が暗くなり、訳の分からない空間に放り出される。突然のことに周りを見渡すも、モヤモヤとした黒い空間がずっと広がっているだけ。動こうにも足が固定されているように動かない。
(ここはどこだ!?私は学園にいたはずでは…)
不意に視界の端が金色に光輝き、思わずそちらの方を向く。
その瞬間、私の後ろから轟音を響かせながら一機の戦闘機がその光に向かって飛んで行った。翼端が黄色に塗られ、「013」のナンバーと、エルジアのラウンデルが付いたSu-37。
その正体を思い浮かべてハッ、となり、光の中に飛び去った機体を追いかけようと踏み出そうとした瞬間、またもや私の後ろから、だが今度はウマ娘が追い越し、同じく光の中に消えていった。顔は見えなかったが、何か近しいものを感じた。
追いかけなくては、と本能的に感じた。動かなかった脚は動くようになっており、無我夢中で、自分がなぜこの空間にいるかも、この空間が何なのかも考えずに金色の光を目指した。
空中を駆けるような不思議な感覚で、その光に触れた。と感じた瞬間、私の視界はブラックアウトした。
ーーー
私は三女神の像の付近に設置されているベンチで目を覚ました。おかしいな、こんなところで寝たはずがないのだが…。なにか、大事なことを忘れているような、そんな気がする。そして何よりも…
「体が…軽い?寝不足ではなかったはずだが…?」
この世界に来た時も体の軽さに驚いたが、あれは若返りと種族の違いによる体の軽さを感じただけだった。だが今はその軽さではない。昨日までの身体の重さと今の身体の重さの感じ方が違うのだ。これは…
「進化…?いや、うぅむ…はて…?」
一年間筋トレを続け、一年前の自分と今の自分を比べた時に感じる軽さ…と言えば伝わるだろうか。どういった理屈によるものなのかは分からない。理屈では説明できないものなのかもしれない。ただ一つ言えるのは私のスペックが上がったという事だ。
「これならば、テイオーに勝てる…か?」
走らずとも感じられる性能上昇、走ったらどの程度感じられるのだろうか。ジムに行くのはやめだ。今すぐコースに行こう。なるだけ人に見られないように、人のいないコース…この前マルゼンスキーと走ったときに使ったところに行こう。
相変わらずそのコースは人気がないのか、今はジャージ姿の私が一人いるだけだ。
実に好都合。そう判断した私は呼吸を整え走り出した。
(速い…!)
段違い、というべきか。それほどまでに私の脚は軽く、速く、でも力強く地面を蹴っていた。昨日までも飛ぶような走りはできたが、今同じ走りをすると勝手が違いすぎて転んでしまいそうだ。
コーナーに差し掛かり、ピッチ走法に切り替える。その動作も昨日よりスムーズに行うことができ、そしてコーナーでの速度も速くなっていた。そして立ち上がりの速度がありえないほど速くなっている。
(楽しい…!まるで空を飛んでいるようだ!)
そう思った瞬間、視界が薄緑のフィルターがかかったようになり、一瞬ではあったが、前世で見慣れたHUDの表示が見えたような気がした。だがそれはすぐに霧散し、いつもの視界が戻ってくる。
今のは何だったのか、と気にする間もなく3コーナーに入る。やはり速い。直線と大差ない速度で曲がることができる。そしてコーナー上がりでさらに加速、その速度を維持して簡易ゴール板を駆け抜けた。
スタミナ残量は八割以上。もちろん全力ではなかったにしても、かなり頑張って走ってこれだ。これは本当にテイオーに勝つことができるかもしれない。
それと…向正面で一瞬見えたあのHUD画面…あれはいったい何だったのか。トレーナーやシリウス、マルゼンスキーなら何かわかるかもしれない。
私は興奮冷めやらぬままに、汗をぬぐってトレーナー室へと駆けだした。
想いを受け継いだ!
「黄色の13」の継承効果!
ストレンジリアルの因子が発動!
エースの因子が発動!
AAMの因子が発動!
「黄色の13(ウマ娘)」の継承効果!
スピード・スタミナ・パワー・根性・賢さの因子が発動!
芝の因子が発動!
中距離の因子が発動!
スピードが150上がった!
スタミナが100上がった!
パワーが80上がった!
根性が60上がった!
さらなる高みを目指して賢さが50上がった!
芝適性が上がった!(S)
中距離の適性が上がった!(S)
「エース」のヒントLvが上がった!
「AAM」のヒントLvが上がった!
因子「ストレンジリアル」:全ステータス+50~70(ランダム)
SRスキル「エース」:レース出走時、スピード・スタミナ+50
Rスキル「AAM」:前を走るウマ娘のスタミナを削る
次回に続きます。今回だけでテイオーに勝てそうとか言わないで。