「何やってるんですかあなたたちは!」
目の前で怒っているのは理事長秘書の駿川さんだ。学園に帰還した直後、連行されて今に至る。理事長室で正座させられているのは私とヒシスピード、ゴルシ、そして連帯責任でトレーナーだ。
「確かにあなたたちのやったことは正しい事ですけれど、そこは本当に感謝していますけれど、もし情報の見返りに到底払えないようなものを要求されていたらどうするつもりだったんですか!?」
「いや、それは」
「今は話を聞きなさい!」
今は嵐が過ぎ去るのを待った方がよさそうだ。下手に意見すると殺されかねん。
「会見を見てて私がどれだけ心配したか分かってるんですか?あんな情報リスクなしに得られるものじゃないでしょうに。たとえこれでURAの旧態を打破できてもあなたたちが無事でなければ…」
「た、たづなよ…その辺にしてやってはくれないk」
「理事長は座っててください!」
「う、うむ…座ってはいるのだが…」
嵐は、停滞する模様だ。足が痺れてきたな…。
ーーーー
「ーーーーという訳です。分かりましたか?」
「駿川さん、まず心配してくれたことに関しては礼を言おう。ありがとう。だが、情報に関しては自然と集まってきただけだ。大半が知り合いからのものだから、その点は安心してほしい」
「え?そうなんですか?」
まあイエローと444の情報屋と…恐らくベルカ事変のラーズグリーズの関係者だからな…。この世界においては身内みたいなものだ。
「ん゛んっ…分かりました。お説教はここまでです。立ち上がってもらっても大丈夫ですよ」
「そのことについてなんだが」
正座させられていた面々を1度見渡してから駿川さんに向き直って言う。
「痺れて立てないんだ。助けてはもらえないだろうか…痛い…」
ーーー
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ー
ー
ーー
ーーー
私が記者会見を終えてから8時間。現在時刻は午後の7時。私はトレーナー室でリットとトレーナーと一緒にテレビを見ている。
『こんばんは。午後7時になりました。ニュースをお伝えします』
キャスターが若干興奮気味に開幕のあいさつをする。画面には速報と大きく映し出されている。
『速報です。URA現会長のーーーーが逮捕されました』
映像は連行されるURAの会長。私の出した証拠が決定打となり、このような電撃逮捕に至ったと警察からは聞いている。
『ーーーー容疑者は証拠映像にある通り、意図的に選手の失墜を図り、違法な金銭のやり取りを行ったとして刑法第198条、贈賄罪によって逮捕されました。容疑者は容疑を否認しています。なお会長の下につく幹部も複数名逮捕されており…』
「これアルたちがやったのか?こんなことをやっているなら混ぜてほしかったな」
「すまないリット。忘れていた」
「ちょっとぉ!?」
むくれたリットが私につっかかる。いや本当にすまないとは思っているのだよ。
「アルが辞めるなら俺もここを辞めようかとまで思っていたのに…俺の覚悟を返してくれ!」
「律儀な奴だな。ここでも私を気にするとは…」
「ははは、仲がいいんだな」
あぁ、平和が戻ってきた。数日前のピリピリとした雰囲気はもうどこにも残っていない。これから色々と今回の件に関して質問が飛んでくるだろうが、むしろウェルカムである。今のURA上層部を潰すためだからな。
「今日はもう遅いから、解散にしようか」
時計を見やったトレーナーがそう呟く。
「そうだな…。トレーナー、明日の予定は何かね」
「あ、俺の分の予定も決まってたりする?」
トレーナーはしばし虚空を見つめた後、口を開いた。
「アルは菊花賞に向けての調整、詳細は明日伝えるよ。リットはアルについて行けるようにトレーニングだね。アルに後ろから追いかけてもらってそれに少しでも耐えることができたらもう同世代は怖くないだろうから」
「了解した」
「OK」
トレーナー室を後にして、廊下に出る。
日はもうとうに落ちており、地平線に太陽の残滓が微かに漂うほどだ。間もなく完全に夜の帳が下りるだろう。不満気なリットと別れ、自室へと赴く。説教の後早々と退散したゴルシはもう帰っているだろうか。
自室のドアを開け、中に入る。
「お、帰ってきたなアル。お前SNS関係やってっか?反応みるか?」
ゴルシは布団に寝転がってスマホを眺めていた。私は荷物を整理しながら答える。
「SNS関係は全くやっていないな。批判でも来ていたか?」
「逆だよ逆。賞賛の声が沢山上がってやがる。皆手のひら返しやがってよぉ…なあアル、この機にSNS…ウマッターでも始めてみないか?いまなら教えてやんぞ?」
「断る。面倒だ」
「んだよ~つれないなぁ…ま、私のアカウントで適度にお前の事呟いといてやるから安心しとけ、な?」
なにも安心できない。そう心の中で思いながらベッドに座った。
そういえば、一緒に公開したフランスの不正はどうなったのだろうか…。まぁ、今のところ知る術は…
「お、フランスの方のレース統括機構もぶっ壊れたなこれ」
やはり私もSNSを始めた方がいいのか…?
~翌日、朝のニュース~
『ーーーーー次のニュースです。…昨日、URAが事実上の崩壊を起こし、機能不全に陥りました。現在はトレセン学園がすべての指揮を執っています。この件について、解説の○○さん、お願いします』
『はい。えーとですね…この件はここ1週間ほど世間で必ずと言っていいほど話題に上がっていたトレセン学園の生徒であり、今年のダービーを勝ち取ったアルカンジュ選手が起点となりました。アルカンジュ選手は記者会見で自身の領域に関する問題を解決、その後記者からあった質問、「なぜ記者会見を開くのが遅くなったのか」に対しURAを告発した…というのが流れです』
『なぜ一生徒の告発でここまでの事が?』
『ただ「URAのせいだ」と言っただけならこうはならなかったのでしょうけれど、確固たる証拠、それも言い逃れできない量を公表しての言及でしたので…。よくまぁこれだけの情報を集めたなとは思いましたよ。…私は競バ界隈で長らく解説をやらせていただいていますが、このような事実は全く予想外でしたよ』
『今後URAはどうなると思われますか?』
『今回暴露された旧体制は完全に消えるかと思われます。恐らく現トレセン理事長の秋川理事長の指名で組織が組みなおされるはずですので名家以外の選手にも平等にチャンスが与えられる機関になるかと。ちょっとやり方は強引でしたがアルカンジュ選手には感謝ですね』
『○○さん、ありがとうございました。元URA上層部は3日後、裁判にて罪状が決定されます。裁判は生中継されますので皆さんお見逃しのないようにーーー』
食堂で放送されているニュースを見ていたのだが、視線が…。皆の視線が機関銃のレートで私に突き刺さっているのが分かる。人の視線には慣れていたはずの私だが、好奇な視線を向けられたことはあまりないため…こう、なんというか、こそばゆい。
<あれが噂の?
<そうそう。カッコいいよね!
<ちょっとアウトローな感じがして…イイ!
せめて聞こえない声でやってほしいのだが…。ポーカーフェイスも楽ではないのだぞ。
「アルちゃーん!!」
この声はマヤか。
「昨日記者会見見てたよ!かっこよかった!!」
「そうか。それは良かった」
<アルカンジュさん、クールだねぇ
<マヤノちゃんにああやって詰め寄られて表情一つ変えないのヤバすぎっしょ
「…ぷっ、アルちゃん皆の人気者だね」
「笑うなマヤ」
私は恥ずかしさをごまかすように朝食を食べ終え、食堂を後にする。理事長からは通常通り生活していてよいとのお達しだったので、今日の予定は午前授業、午後トレーニングだ。
ーーーー
『お昼のニュースをお伝えします。フランスの競バ統括機構である「フランスギャロ」がURA同様事実上の崩壊を起こし、日本と同じくシャンティイトレセン学園が現状指揮を執っています。アルカンジュ選手が公開した資料の中にフランスの不正帳簿が多数含まれており、この資料が公開された直後、14年前の凱旋門賞バであるイエローサーティーンを筆頭とする過去の有力選手がフランスギャロを起訴、フランス政府はこの事実を重く受け止め、フランスギャロの上層部、その他資料に書かれていたを全員処罰、結果として上から数えて半数がフランスギャロから消えることになりました。どう思いますか、○○さん』
『スケールがどんどん大きくなってきましたね…。このままだとアメリカにまで監査が入りそうですねえはっはっは』
『イエローサーティーンさんは今回の件に対し、「アルカンジュ、いつかフランスで会おう」とコメントしています』
あと数日は食堂に来る時間を遅らせた方が私のためかもしれない。好奇の視線にはやはり耐え難い。畏怖の視線や非難の視線なら完全耐性持ちなのだがな。
「ア~ル~、オメー随分と人気者じゃんかぁ、んん?」
「黙れゴルシ。貴様も共犯だろうが…まぁ、お前たちのおかげで今があるわけだ。感謝はしている」
<ひょほっ、クールなアルカンジュさんの貴重なデレ!?あっ(死)
<だ、誰か―!保健の先生呼んできてー!
外野がうるさい。
「アルからの感謝も頂いた所で私は失礼するぜ!地中トンネルを開通させねばならんのでなァ!」
「待つんだゴールドシップ!貴様今なんと言った!?」
「げ、エアグルーヴ!…あばよ!」
「待たんか貴様ァ!」
食堂に安寧はなさそうだ。
ーーーー
トレーニングを終え、夕飯を食堂で食べる。ニュースが始まる前にここを立ち去ればある程度の視線に晒されるだけで済む。急がねば…!
『こんばんは。夜のニュースの時間です』
間に合わなかったか…!
『速報です。IFHA*1アメリカ支部が上層部の大幅入れ替えを発表しました。URA、フランスギャロ同様、不正が横行していたことが発覚したとのことです。詳しい情報はまだ入っておりません。○○さん、どう考えますか』
『いやあ…昼に冗談交じりで言ったことが実現してしまうとは…。何はともあれ、各国のレース産業が平等なものに生まれ変わりそうなのでうれしいの一言ですね』
『アメリカの件は日本と同じく情報のリークによって引き起こされました。リークした本人と思しき人物がSNS上で声明を発表しており、「アルカンジュに感謝を。前例がなければ臆病な俺にはできない事だった」と述べています』
うむ。役に立てたのならばよかった。
<あ、アルカンジュが遠い目してる
<規模が膨れ上がってきたからなァ
どうやら私達が起こした行動は予想よりはるかに効果があったようだ。告発するだけでのうのうと生活していることに少しだけ罪悪感を覚えるが、人材の采配は私がやるべきことではない。あとは大人…秋川理事長は大人なのか…?…に任せておけば大丈夫だろう。適材適所というやつだ。
さて、夕飯も食べ終えたことだし、トレーナー室で明日の予定確認といこうじゃないか。
ーーーー
「明日は引き続き今日と同じトレーニングをしていこう。タイムも上がってきてるから、たぶん本格化が始まってきたんだと思う。このまま行けばかなりいい成績を残せるはずだ」
「了解した。リットの分はどうする?」
「あぁ、それならリットといずれ競うことになる連中との合同練習を取り付けてある。油断せずにね?」
「OK任せとけ!」
そんな風にいつも通りのミーティングをしていた時だった。
「…ん?誰だこんな時間に」
気持ち悪いくらいにぴったりと揃ったノックの音が響いた。音の重さからして扉の向こうは…二人か。
「どうぞー?」
トレーナーが不思議そうに入室を許可し、トレーナー室の扉が開いた。
「「失礼します」」
そこには、背丈、容姿共に同じと言っていいくらい似通っている、漆黒の長髪を持つウマ娘が二人、佇んでいた。
最後のオチが雑?……ごめんなさい。なんか最近文章が以前にもまして書けなくなってきているんです…。
短い?…すみません。