エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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MISSION 25 「初夏の兆し」

 シリウスは私を学園内のジムへと案内した。ここで一体何をするのだろうか。

 

「トレーニングの前に、まずは説明だ。今お前はどんな相手にも全力で当たっている状態だ。ここまではいいな?」

 

シリウスの言葉に頷く。そうだ、私はいつだって全力…少なくともデビュー後は全力だ。

 

「全力なことはいい。己のすべてを使って戦っているのは素晴らしい事だ。ただこれはお前の弱点になり得る。何故かわかるか?」

 

全力が弱点…?…あぁ、そう言う事か。

 

「対策されてしまうという事だな?」

「そういうこった。ガンメタ張られちまうんだよ」

 

シリウスは満足げに頷き、ランニングマシンを指さした。

 

「今日からお前にはあのマシンでこれまで出したことのある最高速が巡航速度になるまでスタミナトレーニングをしてもらう。トレーナーからは許可を得てあるぞ」

「つまり…いつも全力で練習しているように見せかけ、その実もっと上の速度域を使えるようにしておけという事だな?」

「そう言っているだろ。このマシンでスタミナを鍛え、それが終わったら上の速度域を引き出すトレーニングを始める。いいな?」

「了解」

 

そういうことなら話は早い。単純なトレーニングなら得意ではないが、平気だ。慣れている。

 

「並走…というよりかは同時トレーニングは私が務める。…トレーニングとはいえ私は引退も近い。監視役と言った方が近いかもしれねえな」

 

シリウスが引退か。まだ走りの方は全然現役の様に思えたが…。深くは聞かないでおくとしようか。本人もどこか悲しげだ。

 ランニングマシンの電源をつける。ピッという起動音と共に目の前のタッチパネルにメニューが表示された。ここで私が選択するのは先のダービーの時の私の速度データだ。そう、このランニングマシンは過去のレースで一着を飾ったウマ娘のデータが保存されているのだ。現状の全力で勝った私の速度データを使うことで徐々に負荷をかけることができるのだ。学園の設備は実に素晴らしい。私の訓練生時代にもこういった設備が欲しかったものだ。

 ゆっくりと回り始めたベルトに合わせるように足を動かし、数秒の後に全力疾走へと移行する。風を切る感覚がないという事実がやけに気持ち悪い。どうせなら走って芝の匂いと共に風を感じたいが…。全く、いつから感覚までもウマ娘に染まってしまったのだろうか。

 

「随分と余裕だな?」

 

 隣で走るシリウスが話しかけてきた。言われてみれば、考え事をしながら前のレースの最高速に近い速度で走っていられるくらいには余裕がある。ダービーが終わってからそこまで重度のトレーニングはしていないはずだが…衰えないどころか成長するとはどういう了見だ?どうなっているのだこの体は?

 

「訳が分からねぇって顔だな?おそらくそいつは本格化の前兆だ…せっかく考えたトレーニングメニューが無駄になるのはちと癪だが、喜ばしい事だな」

 

 本格化とな。確かトレーナーも言っていた。ウマ娘によって個体差はあるが、著しく身体能力が成長する時期があると。それが起こる前兆だというのか…。いやはや、ウマ娘というのは摩訶不思議なものだな。最低限の運動だけでこんなにも身体能力が変わるとは。

 

「そしてお前は実に運がいい。本格化の時期は普通の学園でのトレーニングでも十分に実力を伸ばすことができる時期だが、夏合宿での集中強化を行うことでさらに実力を伸ばすことができるんだ。時期的にも丁度だろ?」

 

 なるほど。身体能力が伸びやすい時期に一日中トレーニングができる夏合宿の時期が当たっている訳か。実に良いことではないか。これでまた一歩成長できるわけだな?正直ダービー前のトレーニングは微妙に伸び悩んできた時期であったからこの情報はうれしい。トレーニングのモチベーションも上がるというものだ。

 

「嬉しそうだな、アル。…お前本当に顔に出るんだな」

 

そんなことはないはずだが。

 

「そんなことなくないぞ。ほらまた。…おもしれ―奴」

 

口に出していないことを言い当てられてしまった。まさか本当に表情に出やすいのだろうか。あっちでは表情があまり変わらず、部下に誤解を与えたりしたこともあったが…。本当に、この世界の私は何もかもが反対なのだな。いや、自由でありたいという生きる根幹は同じ、か。

 

「そろそろ休憩にするぞ。何事もやりすぎはよくねえ」

 

 マシンの操作パネルで停止を選び、徐々に減速していくベルトの上で息を整えた。マシンを降りてジムの床に降り立つ。

 

「ほらよ」

 

シリウスが私に向かってスポーツドリンクのボトルを放り投げる。私はそれをキャッチして蓋を開け、口をつけた。運動後の火照った体に冷たい水分がしみわたっていく感覚が心地よい。

 

 ふと見やった窓の外、日の光に照らされ、風に吹かれる新緑が目に入った。綺麗な色だ。

 

ーーー成長の夏が、始まる。






Q.めっっっっっちゃ短くないですか?
A.ごめんなさい。トレーニング回にしようと思ったら時期的に夏合宿が近いことを思い出したのです。

次回は夏合宿になるかもしれません。ネタがあるにはあるのですが少なすぎて合宿全部は到底今のところ書けないので夏合宿のすべてのネタを思いついたら書き始めます。



…ネタ、どこかに落ちてませんかね。はっはっは。3つくらいはあるのですが。
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