ゴルシ産のくじ引きにより、部屋割りは順当に決まった。私がくじ引きで引いた1号室は私の他にテイオーと、先ほどのお嬢様ことメジロマックイーンだ。隣の部屋、2号室はバスの座席きめで負けた際左回りで考え込んでいたサイレンススズカ、おやつの食べ過ぎで注意されていたスペシャルウィーク、そしてゴルシ。3号室は道中じゃれあいばかりだったウオッカとダイワスカーレット、そしてゴツイ機器を持ち込んでいたドーラだ。本人曰くトレーナーに持たされたらしい。
そして現在は夜が明けて次の日の早朝である。前日夜はみな移動に疲れて寝てしまった故、面白いことがなかったのだ。強いて言うならメジロマックイーンに名前呼びを許されたこと、そして彼女のことが少しだけわかったことが挙げられるな。
「アルぅ!マックイーン!置いてっちゃうよぉ!」
おっと。遅れるわけにはいかない。今は朝のランニングの途中なのだ。私たちの部屋が一番の早起きだったようで、部屋メンバー以外のメンバーの姿は見えない。現状はテイオーが先行し、私たちがそれを追いかけている形だ。場所は合宿場周りの一般道。田舎であることと、早朝であることが相まって車の心配はないため、安心して走ることができる。海辺ではあるが、山もすぐ近くにあり、ランニングコースはアップダウンが激しい。これはいい負荷になる。景色がいつもと違うことで新鮮な気分で走れるのもポイントだな。
「そう急ぐな。また骨が折れるぞ」
「そうですわよ。あなたは病み上がりなのですから無理な速度を出すことは厳禁ですわ」
「うっ…」
テイオーが言葉に詰まる。本来、彼女は合宿に参加できないはずだった。だがテイオーは骨折を異例の速さで治し、こうして合宿に参加している。きれいに折れていたとはいえわずか一か月半で骨折を治すというのは…。いやはや、ウマ娘の体は神秘だな。
とはいえ、万全ではない。いつでも骨折が再発する可能性はある。医師の見立てでは、再発する可能性は七割を超えているとのことだ。そんな状態でまた現場に戻ってこられた彼女は本当に強い。合宿参加の旨を聞いたときは驚いた。
だが、少し無理をしているようにも見える。所謂空元気というものに見えるのだ。思い過ごしなら、いいのだがね。
「ボクを誰だと思ってるのさ!無敵のテイオー様だぞう!?骨折くらいじゃ止まらないもんね!」
「ほう…?無敵とな…」
「アルカンジュさん、乗らないでくださいまし…」
速度を上げそうになった私の肩をマックイーンが掴む。おっと危ない、乗せられるところだった。
ーーー
ランニングが終わり、朝食を終えたら本格的なトレーニングが始まる。ここからは各トレーナーの指示に従ってトレーニングをすることになる。テイオーは別れ際にハードトレーニングに参加できないことを嘆いていた。やはり万全ではないようだ。
「トレーナー、来たぞ」
砂浜にジャージ姿でストップウォッチをもって待機しているトレーナーのもとへと歩く。彼は私に気づくとにっこりと笑って言った。
「よく来たね。覚悟はできてる?」
「…それは、どういう…」
そこまで言って言葉を失った。トレーナーの後ろに大型工事現場で使用されるダンプトラックのタイヤと思しきものが鎮座していたからだ。いや、ダンプのタイヤより大きいかもしれない。なんだあのタイヤは。そして気づきたくなかったが、そのタイヤには太いワイヤーロープが括り付けられていた。十中八九、あれを引っ張るためのものだろう。
「気づいたみたいだね。夏合宿恒例、巨大タイヤ引きだよ。これのおかげで瞬発力が鍛えられるんだ。加速力がほかの走法よりも求められる差しや追い込みの子にうってつけのトレーニングなんだよ」
バカなのか?いや、効果はあるのだろうが、その効果増大のためにトレーニング機器そのものを大きくするという発想は初めて見たぞ?前世ではこんなこと…あぁ、なるほど。そもそも
「了解した。それで?何kmこれを引っ張ればいいのだ?」
「え?いや最初は300m位で…あ、やっぱりやれるだけやってみよう。アルならいけるかもしれない。いきなり全力で引っ張ろうとしないように気を付けてね。足の筋を痛めることがあるから」
トレーナーの声を背に、巨大タイヤにつけられたワイヤーロープを自身に固定する。ジャージの上からのためそこまで食い込みはしない。これなら引っ張ってもそこまで痛くはなさそうだ。
そして周りを見渡して気が付いたが、ほとんどの生徒が水着でトレーニングに勤しんでいる。私は普通の学園指定のジャージなのだが…。
「ん?…あぁ、気にしなくていいよ。トレーニングの休憩時間に海に入るチームのメンバーは水着なことが多いんだ」
「なるほどな。水着が指定なのかと思ってしまったぞ」
「…ははは…半ば慣例になってるからあながち間違いじゃないよ…。夏合宿でジャージな生徒は少数派も少数派、片手で数えられるからね…」
トレーナーが私の視線の先を追って察したのか、説明をくれた。そして頭を抱えた。まぁ、若い男性トレーナーにとっては辛いだろうな。うら若い乙女が水着姿で動き回っているのを邪な感情抜きに接さねばならないのだからな。頭ではわかっていても体を制御するのは難しかろう。安心したまえトレーナー。私はジャージ派だ。水着は本格的なオフの日だけでよい。
「では、行ってくるぞ」
「いってらっしゃい。気を付けてね。まあ俺も同行するけど」
トレーナーと一緒に、私は巨大タイヤを引きずって砂浜を一歩一歩着実に進んでいく。学園で行っていたパワートレーニングとは比較にならないほどの負荷に呻きながら、なるべく速く、そして足にかかる負担を減らしながら。
(これは…効くな…!)
パワーにはそれなりの自信があった私だが、それでもキツい。……おや?急にタイヤが重くなったような気がする。
「ほぉれアル!気張れぇ!」
上から聞こえてきたのは聞き慣れすぎた同室の声。私は振り返らずに声を張る。
「ゴルシ自分のチームのトレーニングはどうしたぁ!?」
「あん?いったん休憩だよきゅーけー」
まだトレーニングが始まってから十数分だぞ…?
まぁ、ゴルシに関する事象を気にしていたらきりがない。故にまじめに相手にするだけ無駄である。私はゴルシの体重分がプラスされたタイヤを引いて砂浜を進むことを決めた。
ーーー
ーー
ー
ーー
ーーー
「お疲れアル。まさか砂浜の端から端までを何往復もできるとは…。見てた感じ大丈夫だと思うけど一応脚の確認をするね。そこのベンチに座ってもらえる?」
疲…れた…。ゴルシに煽られたことと、トレーナーが間近にいた手前自分の実力以上のトレーニングをしてしまった気がする。もう足が動かない。
「特に異常は…なさそうだね。良かった。今日のトレーニングはここまで。もう夕方だしね」
気づけば空が茜色に染まっていた。海の照り返しがとても幻想的だ。
「そろそろ戻ろうか。ここのごはんは美味しいんだよ」
「そうなのか。それは楽しみだ」
夕暮れ時の砂浜を二人で歩いて宿へ戻り、新しいジャージに着替えて食堂に向かった。どうやら私が一番遅かったようで、もう全員が席についている。どうやらここは全員で食べ始める方式だったようだ。
「すまない。遅くなった」
「2分の遅刻です!」
そういって私を咎めるのはスペシャルウィーク。通称スぺちゃんだ。食にはうるさいらしい。今も頬を膨らませて私の遅刻に抗議している。許してくれ。
「まぁ、二分位だしいいだろう。それじゃみんな集まったな。…手を合わせて」
沖野トレーナーの掛け声で手を合わせる。
「いたd「いただきます!!!!」はえーよスぺ!」
食堂は笑いに包まれた。夕食として出たカレーライスは美味であったことと、スペシャルウィークがほぼすべてを食べつくしたことをここにに記しておこう。私にあの食事量は真似できそうにない。案の定腹を盛大に膨らませて沖野トレーナーに叱られていた。学習しないのだな…。
ーーー
飯を食べ終え、めいめいの部屋に戻る最中のこと。隣を歩くトレーナーがふとこう言った。
「脚に異常がないとはいえ、ちゃんとマッサージをしておくんだよ?合宿場にはマッサージ師が常駐していたはずだからやってもらうのもいいんじゃないかな」
…ふむ。そうだな…。
「…トレーナーは」
「うん?」
「トレーナーにマッサージをしてもらうことは可能か?」
「…うん??」
どうやらトレーナーは私が言ったことを理解できなかったようだ。
「なんだ、言っていることがわからなかったか?」
「いやいやいや、そういうことじゃなくて…。俺男だよ?俺が女だったらまだ問題なかったかもしれないが…」
「私が構わんと言っている。それに、私の身体を知らないマッサージ師よりも知っているトレーナーのほうがいいのではないか?」
「言い方ァ!誤解を!生む!」
若干顔を赤くしたトレーナーが叫ぶ。近くで聞いていたダイワスカーレットも手を口に当て目を丸くしている。…ふむ。確かに誤解を与える表現だったかもしれないな。
「確かにアルの言うことも一理あるけれども、やるにしても場所がない。俺がアルの部屋に行っても、アルが俺たちの部屋に来ても、一緒にいる人が気まずくなってしまう。だから、ここ専属の人のところに行ってきてね。いいかい?」
「…仕方あるまい。そうしよう」
今回のトレーナーとの距離の縮め方は少しばかり強引だったかもしれない。もうしばらく信頼関係を築いてからにするとしよう。マッサージ師がいるのは…あっちか。
「それじゃあ、また明日」
「あぁ。また明日」
トレーナーと別れ、管内案内に書いてあった場所まで赴く。ほどなくして、ほかの部屋とあまり変わらない外装の扉に「按摩処」と書かれた札がかかっている部屋にたどり着いた。
中にいたのは女性。ウマ娘ではない。トレーナーに行くように言われた旨を伝えると快く了承してくれた。約30分に及ぶマッサージだったが、気持ちよさのあまり途中で寝てしまったことが悔やまれる。起こされたときに何時間も寝たような快感を得られたのは驚いたものだ。
お礼を言い部屋を出て、自室に向かう。扉のノブをひねろうとした時、ふと部屋の中が騒がしいことに気が付いた。何かあったのだろうか。
「今戻ったz「私のターン!ドロー!」…なんだ?」
部屋には合宿に来ていたメンバー全員が勢ぞろいしており、カードゲームを嗜んでいるようだった。ただ全員がドーラが持ち込んでいたゴツイ機械を手に付け、目つきが変わっている。怖いのだが…?
「…アルさん。こちらを」
帰ってきた私に気づいたドーラが機械を差し出してくる。
「説明が欲しいのだが。今は何をしている最中で、これは何だ?」
「…今は遊戯王なるカードゲームを自由時間を使い楽しんでいる最中です。そしてこれはそれをさらに楽しくする機械…らしいです。詳しくは私のトレーナーに聞いていただければ…」
「いや、私はカードゲームのルールを知らないのだが…」
そこはご安心を。とドーラはルールブックを私に押し付けてきた。…困った。少し休みたいのだが…。
「しっかりとトレーナーさんたちには許可を取ってありますよ。レース時の判断力の強化トレーニングにもなるのだとか」
「やらせてもらおうか」
自身の強化につながるのならやらねば。みすみすチャンスを逃すわけにはいかない。
早くレースが書きたい……!菊花賞まであと何話挟めばいいかな…?
次回:アルカンジュ、死す。デュエルスタンバイ!
なおおじいちゃんは実戦で判断能力磨かれすぎている故デュエルトレーニングがまったく意味をなさないと気付くのは数日後。
ーーー
夏合宿一日目
パワー+60
スタミナ+30
根性+60
皆さんが考えるアルカンジュに必要な強化とは?
-
スピード
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スタミナ
-
パワー
-
根性
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賢さ
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スキル(速度アップ系)
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スキル(加速力系)
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スキル(回復系)
-
スキル(コツ系)
-
スキル(固有引継ぎ系)
-
固有スキル