今日は10日、トレーナーとの約束の日である。今日の予定はトレーナーとのデート、もとい理解度向上のための調査である。行動プランはトレーナーが考えてくれると聞いている。
今思うと、私も変な言い方をしたものだ。デートなどと、前世の私の口からは到底出そうもない言葉だ。ましてや自分は元男なのだからな。これが、前リットに相談したときに言われた「体に引っ張られる」ということなのだろうか?まぁ、日がたてば思い返せるくらいにはまだ自我を保っている自信はあるが…。これではいつか取り返しのつかない失言をしてしまいそうで怖い。なんとかこの「体に引っ張られる」ということをなくしたいものだ。
「お?アルどっかでかけんの?」
どこからか帰ってきた宇宙服姿のゴルシが私にそう尋ねる。本当にどこから帰ってきたんだお前は。
「何、トレーナーと出掛けるだけだ。すぐ戻る」
「トレーナーと?…ほーぅほうほう。なるほどねぇ?さしずめデートってとこか?」
「まぁ、そうなるな」
「ありゃ、思ってたより淡白な反応」
荷物を精査しながらゴルシの質問を流す。ここで変にどもると長くなるのだ。それに私がトレーナーに対して恋愛感情を持っているかと聞かれたら答えはNOだ。確かにいい人材ではある。まず職だが中央のトレーナーというものは下手な医者よりも高給取りで倍率もとても高いという。次に人柄、優しいことに加え、締めるところはきっちり締める、しっかりとアドバイスをくれる、多少の問題はあれど気にはならん。ルックスは、普通といったところだろうか?このように誰にでもわかる優良物件だ。だが、一度人生を走り終えた身としては壁があるのだ。どうもそういう対象には見れない。
「服はそれなのか?もっとこう、デートに合うような服はないのかよ?」
「ない。余所行きがあるだけマシだ」
去年ゴルシと出掛けた時に買ってもらった服を着る。外は11月の寒空だ。この服が着れる季節でよかった。夏に出かけようものなら私の服は制服かジャージになっていたであろう。
「お前なぁ…ま、楽しめよ……待てお前、今カバンに何仕舞った」
「Glockだ。護身は必要だろう?」
「あ・の・なぁ!ここ、日本。平和、OK?」
「案ずるな、ゴム弾しかもっていかんよ。それにくれたのはお前じゃないか」
「そういえばそうだった」
対暴走したウマ娘沈静化を目的とした銃火器の所持が免許制で認められるこの世界故、持ち歩いていても法には問われない。私は免許も持っているしな。ただウマ娘は自力でウマ娘を相手にできるため持っていると不審に思われることもあるだろうが、出さなければいいのだ。何かあったときのカードは多いほうがいい。これは前世でさんざん学んだことだ。
まぁ、この免許はなぜか転生直後から持っていたものでとった覚えなど何一つないのだがね。それに聞く話ではこの免許を持つのはごく少数のため普通の人は存在すら知らないこともあるとか。眉唾だが。*1
「そういえばなのだが、ゴルシは私が免許持ちだと知ってこれを渡してきたのかね?」
「なんだそれ。今初めて聞いたぞ」
「初めて言ったからな。てっきり知ってるもんだとばかり思っていたぞ」
かくいう私も免許の存在を知り、それを何故か自分が持っていると知るまではいつ警察の厄介になるかと内心ひやひやしていたのだがね。自分の財布の中身はしっかり確認しておこう。私との約束だ。
「はぇー…そんなものがあるなんて、この世の中物騒だな」
「ウマ娘と人間ではパワーに差がありすぎるからな、まあ納得のできないことではない」
「まぁそう…なのか?まぁいいや。とりあえず楽しめよ、トレーナーとのデート」
一通りの物は持った。もし何か不足する場合は現地で調達すればいいだろう。そろそろ待ち合わせの時間か。
「ではいってくる」
「おー」
ーーー
ゴルシに見送られて部屋を後にする。待ち合わせはトレーナー寮近くにあるロータリーだ。デートらしくないとは思うが、そもそも名目がデートではないため仕方のないことだ。これはただの外出なのだから。
ロータリーにはすでにトレーナーが車の脇に立っており手招きをしている。車の方は初めて見るものだ。
「おはよう、アル。よく眠れた?サングラスも似合ってるね」
「おはよう、トレーナー。問題はない。サングラスは身バレ防止だ。…それで、この車はどうしたんだ?いつもはシルバーのミニバンだった気がするのだが」
トレーナーの後ろに鎮座しているのは所謂ピックアップトラックだ。この国でよく見る車のサイズよりも一回り大きい。
「あぁ、この前までのは社用車だよ。学園から借りてたんだ。今日のこの車は俺のだ。…といってもまぁ、忙しすぎて全然乗ってないんだけどね」
「なるほど。そういうことだったのか。…トレーナー、この車について詳しく聞かせてほしい。私はこういうのが好物なのだ」
やはり私の根底には男児の魂が残っているようだ。気になる。
トレーナーはそんな私を見て笑った。
「だと思ったよ。まぁまずは乗って。移動中に説明しよう」
促されるままに背の高い座席に乗り込み、ドアを閉める。この車は左側にハンドルがある。マルゼンスキーの車と一緒だ。輸入車なのだろう。
トレーナーはエンジンをかける。ボタン式で一発だ。かなり高いんじゃないのか?この車。
学園から一般道へ出て、少し経った頃、トレーナーが口を開いた。
「この車はJeepっていうアメリカの会社の車だ。車名はグラディエーター。グレードはルビコンだ。ここまで大丈夫?」
「外車だということは分かった。ルビコンというのはどのくらいのグレードだ?」
「一番上だね」
「一番上」
思わず復唱してしまった。
「トレーナー…まさかとは思うがこいつは衝動買いの結果だったり…」
トレーナーのことだ、何かのはずみで車を持ってないことを煽られて財力に任せて買った可能性も否めない。
「…そんなことないよ」
一瞬答えに詰まったのが怪しいな。
「それで、まぁごらんのとおりいろんな機能が大量についているんだ。まだすべてを把握できてないくらいだ。普段使いするのは車体右側を見れるカメラくらいだね」
そういってトレーナーはダッシュボードやディスプレイを指さす。大量のスイッチ類が装備されており、その数はかなりの物だった。流石は最上級グレードといったところか。
そんな絶対高い車に揺られること数十分、車はとある場所付近の駐車場に停車した。
「最初はまあ妥当にお昼でもどうかと思ったんだ。ここくるのは初めてでしょ?」
連れてこられた場所はデパートの中にあるかなりお高い料理店。正直意外だった。
商店街とは比べ物にならないくらいの内装、それに陳列商品。金持ちが集まる場所だ。前世では交流のためにこういった場所に来ることも多々あったため特に違和感は感じない。むしろ少し懐かしいくらいだ。空を選んでからは行くことがなくなったからな。
「えっと確か…こっちだったか…?」
トレーナーは、慣れていないようだ。あちこちをきょろきょろと見まわして忙しない。
「道はあっているぞ」
「えっ、聞こえてたの」
当たり前だ。ウマ娘の聴力を舐めないでもらいたい。
ーーー
その後特に何事もなく昼食を食べ終えた。次は買い物でもするのかと思っていたのだが、どうやら違うようで、トレーナーは車を止めた駐車場へと向かっていた。
「トレーナー?買い物はしないのか?」
「あぁ…まぁ、うん。俺みたいな庶民にはちょっとあそこは居づらくて…ごめん、買い物したかった?」
ふむ、なるほど。落ち着かない、という訳か。仕方あるまい。
「いや、特に買いたいものがあった訳ではない。ただ…」
先にグラディエーターに乗り込んだトレーナーが不思議そうな顔をする。
「美味い昼食だった。感謝する」
「それは…あぁ、どういたしまして」
男というものは女性の前で見栄を張りたがるものだ。分かるぞ、トレーナー。そしてこのことから、少なからず私のことを大切に思ってくれているということが分かる。ありがたいことだ。その調子でもっと私を見るんだ。
少しうれしそうなトレーナーは上機嫌で車を走らせる。向かっている場所は…どこだろうか?やはりまだこの世界の地理にはなれない。ただ車窓から見える景色は普段見ることのない景色であることから、だいぶ遠くまで来ているということだけは分かる。
1時間ほどたったころだろうか。車はとある場所で停車した。
「これは…」
「今日、ちょうどイベントがやっていてね。アルはこういうの好きかな、と思って来てみたんだけど…どう?」
「…ふ、なかなか私という人物を分かっているじゃないかトレーナー?…大正解だ」
響く轟音、空気を切り裂き頭上を飛ぶ機体。まぁ、練習機のようだが。そう、ここは…
「厚木基地か、一度来てみたかったんだ」
「知ってたんだ。普通デートでは絶対に来ないような場所だからね。ヤマが当たってよかったよ」
米軍及び自衛隊の基地である厚木基地。そこは年に数回イベントを開催している。そのうちの一回が今日だったようだ。*2それにしてもトレーナー、普通に私という人物への理解度が高いではないか。何が足りないのか…?
車を降りて受付へと向かう。受付にはそこまで並んでいないが…。
「あちゃー…もう少し早く来ればよかったかな?」
「そのようだな。だが気に病む必要はない。楽しめはするだろう」
すでにイベントは始まっているため基地内は混雑しているように見える。大盛況だ。
「ようこそ!厚木基地へ。身分証の提示と、ここに諸々の記入をお願いします」
受付の自衛官の指示に従い、事項を記入を済ませる。身分証は…学生証でいいか。
「トレセン学園の生徒さんだったんですね。お名前は…え゛っ」
今まで手元のバインダーを見ながら話していた自衛官がはじかれたように顔を上げた。なんだ、どうした。
「あ、いえ、なんでもないです。身分証確認しました。イベントをお楽しみください!」
まぁ、大方私の名前に驚いただけだろう。気にすることではない。
もらったパンフレットに目を通す。イベントは目白押しだ。航空機の展示にライブコンサート、クラシックカー展示に物販か。今の時間は何だ?おぉ、トレセン学園の舞台パフォーマンスか。…トレセン学園!?
「あっはは、そういえば学園で何かやるって話だったな。どうする?先に航空機の方見ちゃおうか?」
「…ふむ、それは後でいいだろう。学園のやつを見に行こう。地味に気になる」
「OK、あっちだね」
パンフレットに従ってその場所へ行くと、どうやらライブステージのようだ。演目はENDLESS DREAM!!か。どちらもジュニア級および未デビューの子たちがやるようだ。せっかくの機会だ、見ていこう。
舞台は簡易的なもの、照明もまぁ普通程度だが会場の雰囲気は最高潮のようだ。まぁ、普段トレセン学園生は学園内にしかいないうえ、ウイニングライブの倍率は頭がおかしいほど高いのだから仕方ないだろう。いったい誰が出てくるのか。
ライブが始まる。
『夢のゲート開いて~』
…うん?待て、見知った顔があるぞ。
『輝き目指して~』
…もう二人いるな。見知った顔が。
トレーナーに目線を送ると、トレーナーも驚いた顔をしていた。計画的なことではなかったようだ。口を押えて目を真ん丸にしている。私もはたから見たらそうなっていたのかもしれない。
だが考えても見てほしい。チームメンバーが告知もなしにステージに立っているのだ。この反応も普通ではないだろうか?
((リット、フギンにムニン、お前ら何やってんだ……!?))
しかもセンターとサブセンター二人だ。本当に何をやっているんだお前らは。マズいな。曲の内容が何一つとして頭に入ってこない。
小声でトレーナーに耳打ちする。
「(なぁトレーナー、あれはどういうことだ?)」
「(俺が聞きたいくらいだ。何も報告は受けてないぞ?)」
曲は進行し、会場の盛り上がりも上々だ。
「センターの子かわいいね、なんていう子だろう?」
「俺知ってるぜ!確かサテリットって名前だったはず。あれだよ、アルカンジュのチームメイトさ」
バレている。まぁメイクデビューを勝ち、ジュニア級である今も1回勝っているのだ。知名度はなくはないだろう。まぁいい、私がここにいることがバレなければいいのだ。幸いにもここは最後列、バレることはあるまい。
「サブセンターの二人もいいわね、心なしかアルカンジュに似ていないかしら?」
「ホントねぇ、親戚か何かなのかしらね!」
子連れの主婦の方々、心臓に悪い会話はやめていただきたい。フギンとムニンは私をモデルにしたかのようにそっくりだからな、困る。曲の途中で離れては失礼にあたるうえ、余計に怪しまれる。せめてこの一曲の間はここにとどまらねば。
「(トレーナー、提案だ。曲が終わったらすぐに離れよう)」
「(賛成だ)」
ほどなくして曲が終わる。私たち二人はそそくさと会場を後にする。曲一曲分の時間だけでどっと疲れてしまった。なんだってこんな目に遭うのだ…。
気を取り直してイベントを見て回る。ステージが大きな催しではあるがこのイベントはそれだけではないのだ。やはりここだろう?軍の航空基地でのイベントといえば…!
「実機展示!やはり、いいな」
「だね。あ、あっちにF-2がある!」
トレーナーのテンションも爆上がりだ。確か前F-16が好きと言っていたものな、F-2に興奮するのも無理はない。私も嫌いではないが、やはりこの国、もといオーシアの系列の機体は敵機という認識が強い。気分としては敵国の航空イベントにもぐりこんだ感じだ。…とても楽しい。
残念なことに、トリガーが駆っていたF-22はこの国には給与されていないらしい。なんでも製造国のアメリカ限定なのだとか。いつか見に行きたいものだ。同じく、私が乗っていたSu-30SMも見に行きたいが…こちらは少しばかり厳しいかもしれんな。
私が調べた限りエルジア系列の機体はロシアという国が製造している機体が多い。そしてロシアはアメリカと対立関係にある。そして日本はアメリカの傘下…いや、同盟国だ。行くことは厳しいだろう。最悪ここで機体を出してしまえばSu-30SMを見ることは可能だがね。領域というものはよくわからない。現実なのか、幻覚なのか。
「失礼、すこしいいでしょうか」
声に反応して振り向くと、そこには自衛官が複数人いた。
「何か御用でしょうか?」
トレーナーが前に出る。こういう時は頼もしいのだ。
「失礼を承知で申し上げます。アルカンジュさん、サインを頂きたい!」
「はい?え、あぁ。そのくらいでしたら…アル、いいよな?」
「構わん」
余計に身構えて損をしたな。何か違反をしたのかと思ったよ。
差し出された色紙にさらさらと書いていく。計3枚。この程度造作はない。
「ありがとうございました!これからも厚木基地一同応援しています!それでは!」
そういってきれいな敬礼を決め、彼らは行ってしまった。さて。
「トレーナー、あっちにF-35があるみたいだ。行ってみないか?」
「お、マジで?いいね行こう」
オーシア系列機体で最新のF-35も展示されているという。これはぜひ見に行かねば。
ーーー
ーー
ー
おじいちゃん航空機鑑賞中
ー
ーー
ーーー
日も暮れてきた。西の空が茜色に染まる時間帯だ。そろそろこのイベントも幕を閉じる。トレーナーのプランではほかにも行く予定の場所があったらしいが二人してイベントに舞い上がってしまい残りの時間をすべてイベントに溶かしてしまったのだ。途中から始まった航空機解説はとてもたのしかったし、F-2のデモ飛行にはトレーナーが狂喜乱舞していた。
私としてもとても満足できた。物販では買いたかった戦闘機Tシャツなど、おおよそ女子が着ることは想定されていないであろうモノを大量購入した。プラモもあったので購入しておいた。作ってSu-30SMの隣に並べるつもりである。
そしてこの服装のカラーリングのせいか、大体の自衛官に私だとバレてしまった。*3騒ぎ立てるような不届き者がいなかったため大した被害にはならなかったことが救いだ。
現在時刻は午後4時を回ったところだ。この季節にもなるとこの時間でももううす暗い。そろそろ学園に帰らねばらならない時間だ。
「いやー、長居しちゃったね。どう?アル、楽しかった?」
駐車場のグラディエーターを目指して寒い風に身を縮こめながら二人並んで歩く。
「そうだな。デートとしてはあり得ないコース取りだったが、私とトレーナーの趣味の外出としては満点の場所選びだった。ありがとう」
「そりゃあよかった!デートなんて経験無いから言われたときはめっちゃ困ったけど何とかなってよかったよ」
私以外の女性にやったら一発アウトだがな。トレーナー…将来大丈夫だろうか?まぁ、大丈夫か。多分。
助手席に座って一路学園を目指す。そしてその道中眠気に襲われた。
「寝てていいよ」
そうか。では遠慮なく寝るとしようか。
本当は私の名前の通り三菱のジープにトレーナーを乗せたかったけどさすがにないなと思ったので現行型にしました。ジープグラディエーター、グレードルビコン。…ルビコン?ルビコン3?…コーラル?うっ、頭が。
???「
ーーー
プロジェクトL’ARC来ましたね。凱旋門賞ですね。凱旋門賞といえばフランスの代表的なレースですよね。
話は変わるんですけどエルジアのモデル国ってフランスなんですよ。
この話には当初深夜テンションで暴走した筆者の考えた非日常パートがありました。ですが流石に違うと思い切除しました。その部分、読みたいですか?
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