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寒い。気が付くと、そこはまだ車内だった。意識がおぼつかない。どうやらずいぶんと深く寝入ってしまっていたようだ。目の前の窓から見える景色は…駐車場。そして夜だ。駐車場から見える建物には見覚えがある。学園からそう遠くない場所だ。そして気になることが一つ。トレーナーがいない。シートは冷え切っている。降りてからかなり時間が経っているのかもしれない。現在時刻は…9時!?学園の門限を過ぎているではないか!
先ほどまでの気分を払拭して気持ちを切り替える。なんだ、何があった。私の荷物はすべて無事、トレーナーは荷物ごと消えている。車が停まっている場所は市営の立体駐車場。その何階かだ。1階ではない。止めるのに特に料金がかからないタイプのやつだ。
(もしやトレーナーの身に何かあったのでは?)
いやな考えが私の頭をよぎる。ここは確か小さめの百貨店が併設されていたはず。もしトレーナーが買い出しに立ち寄ったとして、その時に何かあったのであればこの状況も頷ける。転倒して頭でも打って病院行きか?あり得なくはないが、ないだろう。別に雨が降った後で滑りやすいということもない。
車内をもう一度見渡すと、運転席のドアポケットに車のカギが入っているのが見えた。…不用心がすぎないか?私がいるから大丈夫とでも思ったのか、
または…すぐ戻るつもりだったのか。
カバンから拳銃を取り出し、腰のホルスターへと入れる。残弾よし、動作不良なし。
カギを手に取り、外へ出る。11月の夜風は身を切るような冷たさで私に襲い掛かってくる。車の鍵を閉め、隣の施設へと続く連絡通路へと歩みを進める。見たところ異常はなし。だが午後9時故そろそろ閉館のはず。なのに駐車場に残っている車が多い。
ふと、視界に光が、耳に何やら喧噪が飛び込んできた。表の方だ。立体駐車場の端に行って見下ろす。そこには、警察車両と、少ないが機動隊の姿があった。ケーブルテレビ局の車もある。これで嫌な予感は確信に変わった。トレーナーは何かしらに巻き込まれたのだ。
『犯人グループに告ぐ!君たちは包囲されている!大人しくしなさい!』
拡声器を通した声がこちらまで聞こえてくる。包囲という割には…連絡通路が。だれも居ないぞ。一階を取り囲んでいるから大丈夫という理論か?
こうなると分かっていればフル装備で来たのだが。まぁ普通こうはならないからしたないだろう。今ある使えそうなものは…拳銃、およびその予備弾薬くらいのものか。車に発煙筒くらいはあるだろう。
このまま車の中にいては凍え死ぬし、第一トレーナーがいないと学園には帰れない。エンジンをかければ暖房はつくだろうがトレーナーがいつ帰ってくるかもわからないのに燃料を浪費するのは気が引ける。
警察に任せていては日をまたいでも事件が解決するかどうか。ここの国の警察は動きづらいらしいからな。銃も最低限、装備も最低限。それだけ平和ということだが、有事の際の対応力はそこまで大きくはないと聞く。
身体も準備完了。先ほどまで眠っていたとは思えないほどあったまっている。トレーナーは何があっても助ける。必ず。
ただすべてを私一人でやることはできない。限度ってものがあるのだ。おそらくだが犯人は人質を盾に内部にある銀行にでも立てこもっているのだろう。先ほど見た限りだと人質さえどうにかなればあとは警察がやってくれそうな雰囲気だった。だがケーブルテレビが来ているのだ。私が何かアクションを起こすことは難しい。どうしたものか。
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施設内に普通に入り、階段から階下を窺うとやはり銀行に立てこもっているようだ。人数は4人。武装は拳銃、および猟銃。厄介だな。
「こいつがどうなってもいいのかぁ!?つかまってる仲間を釈放、あと逃走用の車を早く用意しろぉ!」
人質に取られているのは……
俺は今銃口を突き付けられながらずるずると連行されている。犯人グループの要求通り車が用意されたみたいだ。アルとのお出かけの帰りにちょっと買い物を、と思ったら厄介なことに巻き込まれてしまった。俺は進んで人質となった。怯え切った主婦の方々よりは俺の方がいいと考えたためだ。
だが、勢いで立候補してから思ったが、置いてきてしまったアルが気になる。キーは置いてきたからもし起きても暖房をつけるくらいはできるだろうから、死にはしない。まぁすぐ戻るつもりだったから置いてきただけなんだけどな。
問題はアルがこっちを見に来ないかどうかだ。どこか無鉄砲なところがある彼女のことだ、もしかしたら何か無茶をするかもしれない。警察が解決するまで寝ていてほしいものだ。
犯人グループに連れられて警察が用意した車に乗せられる。5人乗りの至って普通のファミリーカーだ。俺は後部座席の真ん中に押し込められた。狭い。
「人質のあんちゃん、大人しくしててくれよ?俺らが空港に着くまでの辛抱さ」
犯人グループの一人が拳銃を俺に押し付けながらニヤニヤと笑う。どうしよう、空港ついて飛行機乗ったらデルタフォースのあれよろしく撃ち殺されそうなんだが。たかが小規模百貨店でこんな大規模なことやるか?普通。もっと大きいところでやれよ。
警察を後目に車は発車する。俺という人質がいるため警察は動けない。特殊ウマ娘部隊の到着は間に合わなかったか。クソ、ワンチャン俺このまま死ぬんじゃねえか?それだけは嫌だなぁ。
「車にGPSとかつけられてねえだろうな?」
「スキャンした結果なさそうです」
「この国の警察は大人しくていいな。人質とっただけでこっちの要求全部のみやがる」
そういって主犯格の男らしい助手席の男が笑う。この国とか言ったよ今。まさかの国際的組織?うそだろ?
「あんちゃん、大分と顔色が悪いみてぇだな?大丈夫か?」
俺の隣に座っているやつが笑いながら話しかけてくる。そりゃ悪いに決まってんだろこちとらいつ死ぬかわからねえんだぞ。
「だんまりか。つまんねぇな…。リーダー、どうします?」
「今は放っておけ02。そいつは居るだけでいいんだ。そうすりゃ俺らはドジやった04も連れて高飛びできるんだからよ」
「へえへえ」
車は一般道から高速に乗る。ご丁寧にETCもついているようだ。警察はまだ来ていない。
「お、飛行機の準備ができたみたいですぜ。05から連絡入りやした」
「早いな。順調なのはいいことだ」
マジか。多分あれだよな、俺は飛行機に乗り込むまでの人質だから飛行場ついたらこの世とおさらばだよな?周りを走行する車はほとんどなく、それでもってこの車自体に異変はないため何も気にされない。俺はようやく本格的に焦り始めた。まぁっずい。警察!早く来てくれっ!
「…リーダー、車が一台…」
「サツか?」
「いえ…違うようです。ただ、なんというか。雰囲気が…」
「ならただの一般車だろ。03、気にするな」
俺はバックミラーを見やる。確かについてきている車はいるな。近づいてきていないか?
「光の遮り方からしてライトガード付き…」
「どうした?01」
「いえなんでも」
ライトガード付き?珍しいな。それはそれとして、これでこいつらの判別ができるようになった。運転が03、助手席がリーダーとやら。俺の右が01、左が02。今刑務所にいて多分釈放されるのが04、飛行機手配が05。6人か。
「06以降は?」
「本国の方で待っているとの連絡が」
やっぱ大規模組織だった!マジでなんであんな辺境で事を起こした。あれか?警備が手薄だからか!?
「サツのヘリが来ました!」
「うろたえるな!人質がいる限り奴らはこっちに手出しできねえ」
頭上でヘリの爆音が聞こえる。よかった、まだ俺が助かる望みはあるかもしれない。
「リーダー!後ろの車が速度を上げました!」
「お前ら一般車に対して過敏すぎやしないか?…ほら、追い抜くだけじゃないか」
「デカい車だなぁ」
高速道路を走るこの車の速度は100km/hほど。大の大人5人を乗せてこの速度だ、だいぶん頑張っている方だろう。それを低いエンジン音を響かせながらその車はこの車を抜きにかかる。その車が脇に並んだことで俺はようやくその車の一部を見ることができた。
背は高い。オフロード車だ。そしてフェンダー上、ボンネット側面に燦然と輝くRUBICONの文字。間違いない、俺の車だ。……えっ?
…えっ?
その車は俺らを抜かした後また俺らの前に躍り出た。その時、俺はようやく何かがおかしい、ってことに気が付いた。ただ抜かすだけならそのまま行けばいいだけだからな。わざわざ俺らの前に入る必要はない。
何とも言えない不気味さを感じ取った次の瞬間、事は起こった。
「ッ!?ブレーキ!?」
運転席の03が思わず叫んでブレーキを踏む。あの車、俺らの前で思いっきりブレーキを踏みやがった!
「速度を落として車線変更、そのまま抜け!」
即座に指示を飛ばす。どういうつもりかは知らねえが車間距離はあった。これならぶつかる前によけられる。
(交通量はすくねぇ、警察車両ははるか後方、まだいける!)
だが、その予想は軽々しくひっくり返されることとなった。
その車は急ブレーキの後、その長い車体を横に向けたのだ。
(サイドでも引きやがったのか!?クソが!避けられねぇ!)
「衝撃に備えろ!」
03によって慌ててふまれたブレーキと、ハンドル制御のせいでこちらの車は左を向いてスライドする。こうなってしまってはもう止められない。
車の横と横をぶつけるようにして速度がゼロになる。とてつもない衝撃が車を襲い、一瞬だが意識が遠くなった。
「…ッ、ァア。クソッ、どうなっていやがる…」
悪態をつきながらドアノブに触れる。が、衝撃で歪んだのかドアが開く気配はない。
(ファミリーカーがピックアップトラックに勝てるわけねえだろうが…!誰なんだ一体…?)
「おい、起きろお前ら!」
返事はない。03は頭から血を流して気絶しているし、01も02も、人質まで気絶してやがる。
ドアを蹴り壊し、高速道路へと降り立つ。不幸中の幸いというべきか、警察車両はおろか後続車両すら来ていない。
「あぁどうなってんだよ全く…」
「それはこちらのセリフだな」
不意に投げかけられた言葉に驚いて後ろを振り向く。そこにはこちらと同じくフラフラしながらも拳銃をこちらに向けているウマ娘がいた。大人しく両手を挙げて相対する。
「貴様らが人質にとったのは私のトレーナーでな」
「…なるほどなぁ。愛しのトレーナーが攫われてご立腹ってワケか」
俺の半笑いの返しに相手はムッとしたようだ。
だが失敗したな。トレーナーだと分かっていれば人質になどしなかったんだがな。トレーナーだと今の様に担当が割り込んでくることが多々ある。マジでどうやって嗅ぎつけたんだってレベルで。人質の野郎これを分かっていて立候補しやがったな?畜生めが。
「にしてもお前さん、よく車が運転できたな」
「下らん話に付き合う暇はない。…私のトレーナーを、返してもらおう!!」
それが、俺が最後に聞いた言葉だった。
しまった。感情に任せて銃を使ってしまった。ゴム弾だから死にはしないが…。弾頭と薬莢は回収しておこう。トレーナー、生きているよな?少し…いやかなり荒っぽい停め方をしたが…
犯人たちの車の中をのぞくと犯人たちに挟まれるようにして伸びているトレーナーの姿が確認できた。後部座席のドアを半ば破壊しながら開き、トレーナーを救出する。息はしている。重傷ではなさそうだ。
「良かった…」
自然と口から言葉が漏れる。足から力が抜け、座り込んでしまった。遠くでサイレンの音が聞こえる。もうすぐ警察が到着するのだろう。犯人のことは彼らに任せるとしよう。
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その後、私は署に連行され、詳しい話を聞かれていた。とはいっても、頭上でずっと見ていたヘリからの報告で大体のことはもう既に知られており、改めての確認という形だった。トレーナー及び犯人たちはいったん病院で検査、異常がないことが確認されたらしい。犯人たちは即逮捕である。
そして現在、私はこの銃所持の免許にとても感謝している。なんと、無免許での運転が帳消しになったのだ。なんでも、この免許をとるときに運転訓練もやるからだとか。所持は一般人ではできず、国の特殊組織に所属する人物が主な所持者だという。私はなんというものを所持しているのだ。警察から逸般人認定されてしまったではないか。おかげで助かったが。
今後は無理することのないようにとの厳重注意を受けるのみで取り調べは終わった。トレーナーは明日、退院し通常業務に戻るとのことだ。
一つ心配することがある。グラディエーターの修理費だ。右側面が激しく損傷している。ただでさえ高級な車だ。修理費は…いくらになるのだろうか…。
私の好きな車ゲーはNFSです。
ちなみにおじいちゃんが免許を持っているのはその免許の過程をすべて前世でこなしているからです。免許を持つに値すると女神さまが判断した、ということで。
次から通常業務に戻ります。お騒がせしました。