今回はすごく読みにくいと思われます。というか読み返してそう思いました。
そしてオチがない。(最重要且つあってはならない事実)
選抜レース翌日の放課後、私は制服からジャージに着替えてトレーナー室に向かっていた。
「こば…トレーナー、邪魔するぞ」
危うく小林と呼んでしまいそうになり、慌てて言い正す。この際呼び方をトレーナーに統一してしまおうか。その方が都合がよさそうだ。
トレーナーは私が来たことに気づくと微笑んで出迎えてくれた。
「待ってたよ。それじゃあ早速トレーニングについて説明するぞ」
ホワイトボードの前に立った彼は意気揚々と話しだした。
「この前の選抜レースの映像を解析した結果、アルカンジュ、君はウマ娘の走り方と人間の走り方の混合型のような走りをしている。それであの速さなんだから、ウマ娘の走り方に最適化できた場合の恩恵はかなりの物になるはずだ」
「なるほどな。それで、何をしたらいい?」
「まぁそう焦ることはないよ。とりあえず当面の目標を書き出すと…こうなるね」
トレーナーはホワイトボードに「1,走り方矯正」「2,基礎トレーニング」「3,スタート練習」と書きだした。つまり私はまだフォームがごちゃごちゃで、本来のスピードを出せていないという事か。何事も基礎から固めていかねばいずれ崩れるからな。
私がそう納得しかけていた折、トレーナーが“だけど”と付け足した。
「なんだ、何か問題でもあるのか?」
「走りの矯正は一歩間違うと一生それが治らなくなる可能性がある。キャリア的には新人に分類される俺が軽く口出ししていい項目じゃないんだ。どうしたもんかな…」
そう言ってトレーナーは考え込む。確かに、そのウマ娘の選手生命がかかった事項だ。簡単なことではないのだろう。トレーナーと同じように私も考える。そして一つの案を思いついた。
「トレーナー、有名なウマ娘に頼んで指導してもらうというのはどうだ?そのくらいのウマ娘なら走り方も確立しているだろう?」
「なるほど!その手があったか…東条さんに誰か融通してもらおうかな…受け入れてくれるといいんだけど」
「東条とやらは何者だ?」
私がそう尋ねるとトレーナーは驚いた顔をした。しまった、この世界じゃ常識として知っておくべき人物だったのか?
「東条さんはここ、トレセン学園の中でもトップチームと言われるチーム・リギルのトレーナーだよ。シンボリルドルフとかマルゼンスキーがいるチームだね」
トレーナーの説明の中の聞き覚えのある名前に自分の耳が反応したのがわかった。もう少し感情を抑えられないものか…。
「その反応からしてマルゼンスキーは知ってるみたいだね」
「あぁ、この前散々世話になった。…それと、マルゼンスキーは強かったのだな、知らなかった」
私のカミングアウトにトレーナーは目を点にしている。聞くところによると、マルゼンスキーは別名「スーパーカー」と呼ばれている、まぁ要するにデビュー前のウマ娘達にとって雲の上の存在らしい。それに加えて友人が少ないらしく、気軽に話しかけられる存在ではないらしい。
これは私の憶測だが、本人はみなと仲良くしたいのかもしれないが、その強さ故恐れられているのではないだろうか。……前世の私のように。私も尊敬はされど戦友と呼べるような気兼ねなく話せる人物はいなかった。部下も私を慕ってくれてはいたが、どこか怯えながら接している感じがあった。
その仮説にたどり着いた時、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚えた。…いかんな。まだこれが事実と確定したわけではないのに。
「それじゃあ、東条さんに連絡してみるよ。OKがもらえるかは分からないけど、フォームの矯正をしない事には基礎トレーニングもスタート練習も無駄になっちゃうからね」
そう言って彼は電話をかけ始めた。幸いにして繋がったようで、マルゼンスキーを貸してはくれないかと切り出した。十数秒くらいトレーナー室に重い空気が流れた後、トレーナーの声色が明るくなった。
「…はい、ありがとうございます!では」
「よく許可が下りたな。雲の上の存在なのだろう?」
「君の名前を出したら本人が二つ返事で了承したそうだ。今から来…」
トレーナーが言い終わらないうちに扉が開け放たれ、聞き覚えのある声が響いた。
「アルちゃん!トレーニングするわよ!」
早すぎではないだろうか。まだ電話を切って十秒くらいだぞ。
「…数日ぶりだな、マルゼンスキー。また世話になることになるな」
「私に任せなさい!それで、フォームの改善だったわよね?小林トレーナー、アルちゃんをお借りしても?」
「あぁ…構わない。その子は今、ウマ娘と人間の走りの混合型のような走り、そして体幹がブレていること、全身に力が入りすぎていることが課題点としてあげられる。まぁ、見ればわかるだろうが、そこを重点的にやろうかと思っている」
「大体のことは分かったわ。…今更言うのもなんだけど、私がやっちゃって大丈夫?」
マルゼンスキーの顔色からは、勢いで来たは良いけど本当に部外者がやっていいものか、という戸惑いの色が感じられる。
「構わない。人間よりウマ娘の方が感覚的なところは分かるはずだからな」
トレーナーのその一言で心配が吹き飛んだのか、マルゼンスキーは私を引きずるようにしてトレーナー室から出て行く。トレーナーは笑いながらついてきた。見ているなら助けてくれ。
ーーー
「それじゃ、軽く走ってみましょうか。フォームを見るだけだから軽くでいいわよ」
「分かった。名指導を期待しておくぞ」
私は地面を蹴って前へと進む。軽く走るとはいえ人間のそれを軽く凌駕する速度なのでこちらとしてはまだ恐怖心がある。マルゼンスキーは私の後ろにぴったりとついて走っている。なんとなくだが、走りにくい。
「アルちゃん、一定の歩幅を意識して、なるべく体を上下に動かさないようにできる?」
コースを半周してトレーナーが豆粒くらいの大きさになった頃だっただろうか、不意にマルゼンスキーが口を開いた。私は言われた通りに…おや?なぜだ?できないではないか。
「無理にしなくていいわ。課題は見えたからね」
どうやら私の修正すべき点が見つかったようだ。走りを変えることなく一周走り、トレーナーの元へ戻ってきた。マルゼンスキーはトレーナーに何か話した後、こちらへ来た。
「アルちゃんはね、人の走り方のままウマ娘の速度域を使っているから変になっているの。えっと…ピッチ走法とストライド走法って分かる?」
「あぁ、聞いたことはある」
「じゃあ話は速いわね。そのどちらの走法にも必要になる筋肉がそれぞれあるのだけれど、後ろから見る限りそれがどっちもうまく鍛えられてないの。だから走るときに力まないと走れなくて、結果として体幹もブレて速度も乗らない、なんて結果になっているわ。つまり…」
「…つまり、何だ?」
彼女は深刻そうな顔をした後、すぐに悪戯っぽい表情を浮かべて言った。
「基礎練ね。筋トレよ!」
何を言われるかと身構えていた私は拍子抜けして足の力が抜けてしまった。おいトレーナー。笑うな。
「この後はジムに行って筋トレしましょうか。多分今リギルのメンバーが使っている頃だから使えるはずよ」
「それは大丈夫なのか?アルカンジュはリギル所属じゃないけど」
「そういう決まりごとは守った方がいいのではないのか?」
私達がそういうとマルゼンスキーは少し考える様子を見せた後、サムズアップしてこう言った。
「何も問題はないわ!…多分」
「「多分!?」」
ーーー
「…という訳で、ジムの一角を貸してほしいんだけど、ダメかしら?トレーナー」
現在、私たちの前で眉間を押さえているいかにもキャリアウーマンと言った感じの女性が東条さんらしい。いかにも苦労人という雰囲気が感じられる。
「連れてきちゃったのを追い返すのもあれだし…はぁ、いいわよ。筋トレならあっちの器具を使うといいわ。貴方たちには期待しているし、特別よ」
渋々許可をくれた東条トレーナーは小林にそう言ってほほ笑んだ。おいトレーナー、にやけるな。墜とすぞ。
その後私たちはジムの一角の筋トレ用具が置いてあるところまできた。マルゼンスキーはチームのミーティングに呼ばれてしまったのでトレーナーが私に指示を出す。
「アルカンジュはピッチ走法にはあまり向かないだろう。身長が大きいし足が長いからな。もちろんピッチ走法のためのトレーニングをしないという訳じゃないけど、ひとまずはストライド走法を強化する。下半身を重点的に全身の筋肉を強化していくんだ。スクワット、プッシュアップやプランクとかだな。そのあとは…ちょっと靴にこの錘をくっつけてくれ」
筋トレ方法はどうやら前世と何ら変わらないらしい。そんなことを考えながら私はトレーナーに渡されたやたらと重い錘をシューズに括り付けた。
「その姿勢でトモ…で通じるよな?んん、トモを直角に上げて膝下を前に出さず、つま先を地面に向けてそれをキープしてみてくれ。30秒測るぞ」
言われたとおりにするが、重い。だんだんと足がプルプルしてくる。随分とこの体は貧弱なようだ。
「30秒だ」
「…ッ」
「次は反対…と言いたいけど無理そうだね。しばらくはこれを続けよう。これが左右30回ずつできるようになればストライド走法に必要な筋肉は化けるはずだ。副産物でピッチ走法も速くなるぞ。それじゃあ次はプッシュアップ逝ってみようか」
「おい、漢字がおかしくないか?」
トレーナーの言葉に違和感を覚えつつも私は
「…ッはぁっ」
腕に限界が来てそのまま床に倒れ込む。
「10回か…人かな?」
嘘だろう!?この体貧弱すぎないか?…決めたぞ。部屋では筋トレをして過ごそう。そしてトレーニング時間も筋トレだ。前世よりも種族的に優位なのにスペックで劣っているなど私が私自身を許せない。オーバーワークになるギリギリまで粘って前世の感覚を取り戻してやる。今上で笑っているトレーナーに一泡吹かせてやるのだ。
「トレーナー、自主トレーニングはやってもいいだろうか?」
「んぁ?構わないよ」
言質は取った。実行あるのみだ。
俺こと小林は眼下のぷるぷる震えながらプッシュアップをしているアルカンジュを見おろしている。この
「トレーナー、自主トレーニングはやってもいいだろうか?」
「んぁ?構わないよ」
こうして一生懸命に強くなろうとトレーニングする姿から見ても身分偽造するような子には見えないのだ。それに本人は最初スカウトを断っていたしな。
まぁ、アルカンジュがどんな過去を持っていたとしても俺は受け止められる自信がある。いつか話してくれることを期待しよう。
そんなことよりも俺は体が不完全の極みと言ってもいい状態でトウカイテイオーにくらいついていたこいつがマトモな体の使い方を覚えたらどんな
「って、アルカンジュ、今自主トレーニングって言ったか?」
「ッあぁ、…そう、言ったが?なんだ、生返事、は良くないぞ。自主、練はダメだ、ったか?」
プランクをしながら返事をするアルカンジュ。腕は相変わらずプルプルしている。よくその状態でしゃべれるもんだ。化け物じみた素質だ。
「いや、やりすぎに注意さえしてくれればいいんだ。引き際が分からない時は同室の奴に聞いて……まぁ、たぶんちゃんとした答えをくれると思うから」
「わか、った…ぐへぇ」
年頃の乙女が出してはいけないような声を上げてアルカンジュは崩れ落ちた。数週間でどれくらい伸びるかが見ものだな。
その後私たちはチームリギルの使用時間ギリギリまで部屋の隅で筋トレを行い、今はトレーナー室で話し合いの最中だ。トレーナー曰く進路とチーム名を決めなければならないようだ。
「アルカンジュの距離適性は中距離だろうから、進むのはクラッシック路線かティアラ路線なんだけど…」
「トウカイテイオーが進むのはどちらだ?私は奴と再戦を誓った。負けっぱなし、そして約束の放棄は私の性に合わない」
「…じゃあクラシック路線だね。かなり厳しい戦いになりそうだけど大丈夫かい?」
厳しい戦い?そんなもの前世で腐るほど経験し、そのたびに生還してきたのだ。…最後を除いてだがな。今更厳しい戦いを恐れる理由などない。
「大丈夫だ。障害はすべて撃ち落として見せよう」
私は自信をもって言い切った。根拠はないが、できる気がする。
「いい心構えだ。それじゃあ次はチーム名を決めなければならない。今のところチームメイトは君一人だが、まぁ、じきに集まることを願いたい。何かチーム名のリクエストはあるか?」
トレーナーが私に答えを求める。トレーナー室の長机に頬杖を突きながら話を聞いていた私は反射的に答えていた。
「ソルでどうだ?」
「ソル?太陽神か。いいなそれ、それにしよう!」
「ソルの前に第68実験飛行隊とつけてはいけないだろうか」
「うん、ダメだね」
流石にダメだったか。まぁいい。もし私のような境遇の者がいたら
「前から思ってたんだけどさ、アルカンジュって戦闘機好きなのか?言葉の端々にその気が見られるんだが」
「よく分かったな。戦闘機は私の原点だ。なんだ、トレーナーもか?」
私が身を乗り出して問うと、トレーナーは軽く笑って言った。
「まぁ人並みに知っているつもりではあるよ。好きな機体はF-16だ」
「おぉ!こっちにもあるのか!」
「こっち?」
…マズイ。やらかした。つい興奮して口が滑ってしまった。どうしたものか。なんと言い訳しよう。
「気にするな」
「アッハイ」
悩んだ結果、ゴリ押しで通すことになったがまあいいだろう。
ふと時計に目をやるともうすぐ寮の門限だ。トレーナーもそれに気づいたのか、チーム・ソルの初日はここでお開きとなった。
ーーー
寮に帰り、自室の扉を開けるとゴールドシップが面白そうなものを見つけた目つきでこちらに近寄ってきた。こういう奴は先制攻撃すれば何とかなるはずだ。
「よう、待ってたぜ~?実は今からな…」
「筋トレだ。邪魔はしないでくれ」
「…おっ、おう!いいぜ!ゴルシちゃん筋トレは得意なんだよ」
よし、誘導完了。なんか一緒にやる流れになってはいるがまぁいい。ここでいっぱい汗を流してから風呂に行くとするか。
数十分後。私は真面目な顔をしたゴールドシップにそろそろやめとけと言われたので風呂に行くことになった。そしてさも当然というようにゴールドシップはついてきた。
「…なぜついてくる」
寮の廊下を歩きながら隣に尋ねるとゴールドシップは柔らかな笑みを浮かべてこう言った。
「いや、な。私って同室ができるのって初めてなんだよ。だからちょっとうれしくてさ。仲良くなりたいな…って思っただけなんだ。迷惑だったか?」
…なんだこいつ可愛いな。狂人だのなんだの言われているが実はまともなのではないか?
「いや、迷惑などではない。気になっただけだ。…ところでゴールドシップ」
「んぁ?」
私は歩くのをやめ、ゴールドシップに問う。
「風呂場はどこだ」
「知らずに歩いてたのかよ!?」
ーーー
(ゴールドシップの案内で)風呂場についた。
先日泊まった旅館よりも豪華なお風呂がそこにはあり、結構な人数のウマ娘が入浴している。女となった今でも精神は変わらないので少々…いや、かなり目に毒である。目の保養ともいうがな。
「さすがに入り方は分かるよな?あ、でも外国出身なんだったか?」
「いいや、大丈夫だ。数日前に宿屋で学んだ」
この後は特に何もなく入浴を終えた。ゴールドシップが終始私の髪を綺麗だと言って触っていたが、私からしたらゴールドシップの方が綺麗だと思う。銀髪…もとい葦毛はそこまで多くないようで、風呂場で二人固まっていたせいかとても視線を集めてしまった。まぁ半分くらいはゴールドシップの人望(?)のおかげだとは思うが。
ーーー
「フラッシュだ!」
「フォーカード」
「ぬおっ…また負けた…!このゴルシちゃんが勝てないなんて…」
現在部屋に戻ってトランプゲームの真っ最中だ。現在行っているのはポーカー。私が勝ったところだ。
「ババ抜き、大富豪、七ならべ、神経衰弱、ブラックジャック、ポーカー、すべて私の勝ちだ。なぁ、そろそろ寝ないか?」
「勝ち逃げは許さない…と言いたいところだが確かに時間だな。この借りは明日返すぜ!それじゃおやすみ!」
そう言ってゴールドシップは電気を消した。あたりが静寂に包まれる。途端に筋トレの疲労がどっと私を襲い、抗う間もなく私の意識は遠のいていった。
ちなみにマルゼンスキーはミーティングが終わった後アルカンジュと一緒に筋トレしてたりする。(筋トレにおける)圧倒的実力差を見せつけられてアルカンジュが燃えたのはまた別のお話。
初めての同室にウキウキのゴールドシップさん(年齢不詳)。解釈違いの方いらっしゃいましたら申し訳ありません。
なぜ着いてくるのかと言う割には風呂場の位置が分からないミハイおじいちゃん。もうこれわけわからんな。
次のお話はプランが二つほどあるのでどちらになるのかわかりません。なので未定という扱いにしておきます。
それではまた次回お会いしましょう。