エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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まだアイスワーム突破できてないです。


第3章 シニア級
MISSION 41 「洋芝」


 冬の朝、冷たい空気を切り裂いて私はまだ静かな町の中を走っている。一定のリズムを崩さず、且つ速く。

 別に年が明けたからと言って何か特別な変化が起こるわけもなく、私は地道に努力を重ねている。その甲斐あって、始めたばかりのころは学園の外周を走るので時間ギリギリだったが今では商店街をぐるっと一周できるほどにはスピードもスタミナも付いた。並大抵のレースでは負ける気はしない。

 

 だが、足りないのだ。

 

 今年は海外のレース、その中でも最高峰と名高い凱旋門賞を獲りに行く。トレーナーやチームメンバー、他の協力者も私のために良くしてくれている。正直これ以上の練習環境は望めないのではないかというぐらいに。だがそれでも私の実力はまだ、足りない。

 

 『本格化も、終わりかなぁ?』

 

これはトレーナー室で彼がひとり呟いていた言葉だ。その時ちょうど部屋に入ろうとしていた私は諦めに近い感情を覚えた。だが彼は次にこういった。

 

『なら、新しいトレーニングを考えないと』

 

…と。彼は私と共に歩むことをあきらめたわけではなかった。そんな彼に応えるべく、今もこうして走り込みをしているのだ。

 ただ、この走り込みは能力上昇というよりも低下防止のためのものだ。実際トレーナーの言うように実力の伸びは前ほど感じられなくなっているのだ。トレーナーが考えてくれているであろう新しいトレーニングに期待するとしよう。

 

ーーー

 

「今日からは洋芝の訓練だよ」

 

練習場所につくなりトレーナーはそう言った。洋芝、たしか海外の走るのにパワーが必要で、日本の芝よりもスタミナを削られるという長い芝のことだったか。

 

「まあ、洋芝そのものは用意できなかったから、ちょっとおもしろい方法を持ってきた。それが、これだよ」

 

そう言ってトレーナーが指し示したのは、小さいオーバルコース型の泥濘地。北方の春先のような土壌だな、ドロドロだ。学園内にこんな場所があったとは。

 

「VRウマレーターであっちの芝を疑似的に体験することもできるんだけど、やっぱりVRだから効果が今一つなんだよね。だからここで基礎を整えて、VRでおさらい、って感じを予定してるよ。…ここは独占状態で使えるから比較的早く終わっちゃうかもね」

「ここを使う者はいないのか?」

「うん。ここはVRが普及する前、そしてURAが海外挑戦を盛んに行っていたころに作られた場所でね。VRが普及、URAが海外を諦めかけている今はだれも使わないんだよ」

 

海外を諦めかけてるのか。行けるポテンシャルのある子は多いと思うのだがな。

 

「たまーにね、海外でも通用しそうなスペックの子がポッと出てくることがあるんだけど、みんな海外に行くと時差とか、慣れない食事とかで調子崩しちゃってね。日本のウマ娘の海外での戦績は良くないんだ。特にアルが目指している凱旋門賞はそれが顕著なんだよ。だから万全の準備が必要なんだ」

「了解した。この泥濘地での目標は何だ?」

「このコースの全長は1200m。一周1分20秒を切ってもらう。これが最低ラインだよ。全部が全部同じ硬さの土じゃないことも相まってとても走りにくいと思う。でもこれができないようじゃ凱旋門賞じゃ走れない。アルの領域でもカバーしきれない経験の差があるからね。少しでも埋めないと」

「了解だ」

「その意気だよ。シューズとかは気にしなくていい。俺も洗うの手伝うから」

 

 その言葉を背にコースに降り立つ。ずぶっと足が沈み込み、バランスが取れなくなる。即座に足を引き抜いて何とかバランスを保つが、脚を引き抜くのに大分と無駄な力を使ってしまった気がする。嘘だろう?海外はこれが普通だというのか?

 

「まぁ最初はそうなるよ。何とか走れるようになろう」

「何とか、じゃない。完璧に、だ」

「…そうだね。頑張ろう!」

 

ーーー

 

 その日から、私は文字通り泥にまみれながらの練習を繰り返した。

 

始めてから1週間。それなりに走れるようになった。だがランニング程度の速度だ。なのに一周走るだけでとても疲れる。

 

2週間。基本的な踏み込み方、脚の抜き方が分かってきた。ようやくスタートラインだね、と彼に言われた。

 

3週間。泥が必要以上にはねるのでやりたくはないが、前傾姿勢でのスパートもある程度はできるようになってきた。速度を乗せることができるようになってきたのだ。本来のスパートレベルの前傾姿勢をしようものなら顔面から倒れるくらいには遅いがね。タイム計測なんてできたものじゃない。

 

4週間。ここでトレーナーが一つアドバイスをくれた。

 

「泥がなるべくはねないように、走ってごらん。コーナーでは足が滑らないように角度を調整してみて。アルならできるはずだから」

 

 ふわっとしたアドバイスだ。あまり彼らしくはない。

 それを受けて自分なりに考えたことを実践した。脚を入れる時はまっすぐ。抜くときもまっすぐ、そのまま抜く。なので必然的に前傾姿勢になる。だが速度が足りず顔面から倒れこんだ。ここ一か月ほどで慣れた味だ。

 

「速度が足りない!」

「…アル、最初は軽く足をつけて、少し経ったら一気に踏み込んでみて。最初は弱く、優しい踏み込み。次に前へと飛び出す推力を作る力強い踏み込み。一歩に二重の踏み込みを作るんだ」

 

思うように走れない鬱憤から叫んだ私に対しトレーナーが真面目な顔をしてそう告げた。

 

「泥は最初の踏み込みのパワーを分散させてしまうんだ。だから最初は弱く、かき分けるように踏み込み、パワーを十分に伝えることのできる地盤に足が付いたタイミングでフルパワーで踏み込む。そうすると余計なパワーロスを無くすことができる」

 

私は泥だらけの顔で彼を見る。私はきっと呆けた顔をしているに違いない。

 

「洋芝にも泥の様にパワーを分散させる性質があるから、この走法は有効だ。まぁ、これは体力消費が多いし、集中力も使うから非効率だと捨てられてきた戦法だ。でももしこれをできるようになれば海外でも十分に通用するよ。…何、その意外そうな顔は」

「いや、何でもない。だが、なんでそれを最初から言わなかったんだ?」

「洋芝とか、泥濘地での基礎ができてなかったからね。…それに、和芝では気にならない程度だったから何も言わなかったんだけど、アルは踏み込みの熟練度がそこまで高くなかったんだ」

 

その時、私の中に一つの疑問が生まれた。

 

「何故クラシックの時にそれを言わなかった!その技術を磨いていれば…」

 

若干の怒気をはらんだ私の言葉は遮られる。

 

「勝てたかもしれないって?」

 

思わず押し黙る。彼の表情がいつもより少し険しい。

 

「残念ながらそれは違うね。その時までに治しておくべき他の癖が多すぎたんだ。優先順位が低かったんだよ」

「……そうか」

 

一転して重い空気が二人の間に漂う。が、それを払拭するように彼は表情を緩め、明るく発言した。

 

「でも大丈夫!和芝では本当に気にならないくらいだったんだ。それにもしクラシック級で習得したとしても通常走行、この走法、それに領域のせいで引き起こされるスタミナ不足で沈んでたと思うよ。十分にスタミナが付いた今だから提案したんだ」

「ッ、そうか!今ならできるというのだな?」

「アルならきっとね!」

 

私は顔についた泥を袖で拭って彼に向き直る。

 

「これらは本来なら今日の夕方、トレーナー室でゆっくり話そうと思ってたことだったんだけどね…。まぁ、いいや。とにかく本格化による能力向上だけに頼る段階は終わったってことだよ。これからはこういった無駄を削ぎ落すことを目標にしたトレーニングをやっていくつもりだ。リギルの精鋭を見てきた俺にとってはまだまだ治せるところは多いからね」

「望むところだ。出される注文全てに適応して見せる」

「まずはさっき言った走法だ!もう一周!」

 

走り出す。初めは優しく、次に強く。先ほどまでは感じられなかった確かな感触が足の裏から伝わってきた。体も前へと進んでいく。

 

(なるほど、これは、確かに、気力と体力を使う!)

 

一歩一歩意識しながら踏み込むため意識をそこに割きつつ、これまでやってきた走りと同じことをしなくてはならない。異質な負荷に私は苦しんでいた。

 

(だが、問題なし!)

 

そして私はその負荷を楽しんでいた。この負荷はここしばらく感じることのできないでいた、()()()()()()()()()()()()だからだ。

 

(私はまだ、強くなれる。飛び立てる!)

 

コーナーに差し掛かる。体を倒し、重力と遠心力が釣り合う角度を保つ。コーナーは直線より一層集中力を使う。だがそこは私の得意分野だ。今、私はここ一か月の記録を大幅に更新する速度で駆け抜けている自信がある。

 

 いつの間にか、私はコースを一周し終えていた。膝に手をつき、肩で息をする私の肩にトレーナーが手を置いた。何事かと思い顔を上げると、そこには笑顔でサムアップする彼がいた。口角を上げることでそれに応える。

 

「概形を一発でモノにするなんてね。やっぱりアルは凄いよ」

「…トレーナーの指示が分かり易かったからだ」

 

日が傾いて茜色に染められた泥だらけのコースで笑いあった。一つ、大きな壁を超えたような気がした。

 

ーーー

 

 その十数分後、私はトレーナー室に来ていた。勿論シャワーなどを済ませて、だ。

 

「さて、今回の走法だけど気をつけなきゃいけない点があるんだ」

「それはなんだ?」

「脚への負荷だね。力をより一層一気にかけるようになるから負荷が増えるんだよ。だから無理はしないこと。日本でのレースは今まで通りでいい」

「手を抜けというのか?」

「違うよ。程度を抑えるんだ。…なんか今日はやけに噛みつくね?…嫌じゃないけど。ん゛ん、それと和芝であの走法は洋芝でやるよりも負荷が大きいんだ。最悪の場合1レースで選手生命を失うことになるかもしれない。それに、あの走法を理解した時点で普通の踏み込みもマシになってると思うよ。海外に渡る前に宝塚記念に出る予定だからそこで試してみるのがいいかもね」

「次のレースは宝塚記念なのか?」

「そのつもりだよ。そこまでは可能な限りロスを無くすトレーニングをひたすらにやってもらう予定だね」

「了解した。明日からもよろしく頼む」

 

そう言ってソファに身を預ける。それにしても新しい走法は画期的だ。泥をかき分け確かな大地を踏みしめている感じがとても良い。

 

(…ふっ、かつて空を飛ぶことに固執した私とは思えない考えだな)

 

随分と私も変わったものだ。前世であの年齢まで生きて、私という生き物の生き方は固定されたとばかり思っていたのにな。

 ふと気になったことを彼に質問する。

 

「そういえばトレーナー。あの走法はなんという名前だ?」

「名前?あー…ないね。俺が考えたやつだから」

 

うん?

 

「だが捨てられてきた戦法だと…」

「俺がリギルを見てた時に無理だと判断して、捨ててきた戦法だね」

「…アンタという奴は…全く、すごいな」

「リギルの精鋭でもできなかったことを一発でやってのけた奴に言われるとは光栄だね」

 

 そう言って彼は笑った。

 もしかしたら、私のトレーナーは私が思っていた以上にすごい人物なのかもしれない。彼の才能の一端を垣間見た気がした。




小さい頃から色んなレースを見て自分なりの戦法をいくつか思いつくけどそれができるウマ娘に出会えなくて諦めかけてたところにそれができる子が現れたら入れ込むよねって話(早口)(ここまで一息)



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