エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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MISSION 42 「ワイバーン」

 「そういえばだけどさ、アルって領域の時戦闘機に乗るよね」

「そうだが…どうした?」

 

海外遠征用のトレーニングが様になってきたとある日のトレーニング開始前、少し暗い顔をしたトレーナーがふとそう言った。

 

「領域が個人の心象風景を反映させてそれを力に変える、ってのは知ってるよね?」

「そうだな」

 

今更何を当たり前のことを…。

 

「つまり小さい頃から親しんできたものが領域として出る場合が多いんだ」

「…そうだな」

「あんまり関係ない事や物が領域になる可能性もあるけど、それだと精度が低い、もしくは効果が薄いんだ」

「そうなのか」

 

最後のは初耳だが、大方聞いたことのある話だな。

 

「アルの領域、戦闘機の再現、精度高いし、周りの景色も曖昧じゃない」

 

………マズい!

 

「おまけに効果は超が付くほど濃い」

 

これは…バレたか?

 

「…アル、君はどういう幼少期を過ごしてきたんだい?」

 

 

…ほっ、セーフだ。これなら対処できる。

 

 

「…私の父は戦闘機乗りでな。小さい頃から私は戦闘機に触れてきたんだ。父の乗っていた戦闘機があれだったんだ」

「……なるほどね。大変だったんだね」

 

それ以降彼はこの件について追及しなかった。どうやら何とかなったようだ。

 

 


 

 

現在は夕方、俺は書類仕事の合間にぼーっと天井を見つめながら考え事をしていた。アルはトレーニングが終わって帰ったため不在だ。

 

 『…私の父は戦闘機乗りでな。小さい頃から私は戦闘機に触れてきたんだ。父の乗っていた戦闘機があれだったんだ』

 

昼間にアルが言っていた内容を思い出す。…どうやら彼女はまだ話すつもりはないらしい。

 俺だってバカじゃない。彼女が並みならぬ経歴の持ち主であることくらいは分かる。

だが不思議なんだ。身分証上の出身地には何もない、経歴を調べようとしても見つからない。俺と初めて接触したあの日以降の記録しか彼女についての記録は存在していない。まるで突然この世界に現れたかのように。

 

(ま、いっか。アルはアルだし。いつか話してくれるといいなぁ)

 

座り直し、目の前の書類に向き直る。

 

(あ~…仕事めんどい…)

 

今日中に眠れるだろうか?頑張らねば。

 

 

 


 

 

 

 限界。それは誰にでもあるものであり、絶対のものだ。私は今、それを感じている。

 

「今のは危なかったわ!」

 

膝に手をやり、肩で息をしている私の傍らでニコニコとしているのはマルゼンスキー。練習の併走で届かずに私が負けたところだ。

 

「楽しそうだな、マルゼンスキー…。はぁ、いつまでやっても勝てないな」

「そりゃそうよ。私の得意な距離でやっているんだから。長距離なら分からないわよ?」

「……そうか」

「それに領域使ってないじゃない。まぁ、狙って出せるモノではないから仕方ないとは思うけど…」

「あれは疲れるんだ。本番以外はあまり出したくはない。最初はなんともなかったが練度を高めていくうちに頭痛を伴うようになったんだ」

「狙って出せるような言い草ね…トレーナーさんには言った?」

「あぁ。領域の本番以外の使用禁止は彼の指示だ。…限界なのかもな」

 

私は空を見上げる。海外遠征を控えている奴の言葉としては弱すぎる気もするが、それだけ伸び悩んでいるのだ。

 

「んー、多分違うわよ?それ」

「……今、なんと?」

「ちょっと長くなるかもだけどいいかしら」

「構わない」

 

私たちはコースわきの斜面に腰を下ろし、一息つく。

 

「おそらくそれは領域の進化の前兆よ。アルちゃんが領域を習得したのはいつだったかしら?」

「去年の…皐月賞の後だな。確か」

「ならおかしくないわね。領域ってものはその時の実力を一時的に最大限発揮するための補助の役割を果たすのよ。その時の実力が50だとするじゃない?普通に走るとどうしてもロスが出て50に満たないんだけど、領域はそのロスを無視して50の力で走れるようにするものなの」

「なるほど、伝導率を100%にするものだと」

「そう。まぁちょっとしたブーストはかかるからホントは50以上でるんだけどね。ただそれを大きく超えた力は出せないの」

「…つまり、実力50の時に習得した領域は50前後の実力の時しか役に立たないと?」

「個人によって振れ幅は変わるわ。50の時に習得した領域が70とか80になっても使える子もいるし、50の時しか使えない子もいるの。まぁ、アルちゃんは多少振れ幅はあったもののそろそろ領域側の限界が来たってところじゃないかしら。皐月賞の後なんて本格化まだだったでしょ?」

「なるほどな。ところで、進化ってのはいつ起こるんだ?」

 

マルゼンスキーはニッコリ笑ってこう言った。

 

「分からないわ」

「分からないのか」

「だって全部これ私のトレーナーの受け売りだもの。細かい事なんて知らないわ。…でも、アルちゃんの最近の頭痛や伸び悩みはその兆候で間違いないわよ」

 

彼女はそう言って立ち上がり、私に手を差しのべた。

 

「さ、今日もあと少しよ。走りましょう?」

 

私はその手を取り立ち上がる。

 

「望むところだ。領域なしでも勝てるようになって見せる」

「その調子よ!」

 

ーーー

 

 その日の終わり、私は自室のベッドに横になり天井を見つめて領域について考えていた。

 

(結局領域の進化については詳しくわからずじまいだったな)

 

あの後マルゼンスキーと何回も走ったがやはり勝てなかった。少しだけトレーナーの言葉に背き、領域を使ってみたりもしたが速度がまるで伸びなかった。前まで感じられた加速が全くないのだ。やはり、マルゼンスキーの言う通りなのだろう。

 

「アル~、そんな難しい顔してないで楽しもうぜ~?せっかく生きてんだからよ」

「そうだな。…一つ聞きたいことがある」

 

ベッドから起き上がりゴルシに向き直る。

 

「ゴルシは、領域の進化を経験したことはあるのか?」

「アタシ?あるに決まってんじゃんかよ~。ゴルシ様だぞ?」

「本当か!どうやったんだ」

「寝て起きたら進化してたぞ」

 

さも当然というかのように彼女は言った。私は頭を抱えた。

 

「聞いた私が間違っていたのかもしれない…」

「いや、アタシは大真面目だぞ?領域の進化ってそういうもんらしいし」

 

なんと?

 

「しかし、マルゼンスキーは領域の進化の条件は不明、と」

「本人が寝てる間に勝手になるから不明なんだよ。明確な手段が分からないっつー意味の不明、だと思うぜそれは」

 

なるほどな。これまで領域の進化を経験してきたすべてのウマ娘が寝て起きたら進化していた、だから進化条件は不明という訳か。よし。

 

「ゴルシ、私はもう寝る」

「まだ風呂入ってねえだろ落ち着け」

 

そうだった。

 

ーーー

ーー

ー

 

ー

ーー

ーーー

 

 気が付いたら、私は格納庫にいた。ここは…エルジアの空軍基地か。はて…。何故、私はここにいるんだったか。

 あぁ、そうだ。王家を抜け出して空軍に入ったんだった。それもかなり前に。なぜこんな当たり前を忘れていた?

 

「ミハイ、どうしたんだ?ボーッとして…らしくないな。ほら、次の配属先が決まったぞ」

 

やけに久しぶりに聞いたような気がする彼の声に応え、手を差し出す。

 

「君はEASA直属の実験飛行隊。どうやらテストパイロットみたいだな」

 

なるほどな。テストパイロットか。

 

「悪くないな」

「羨ましいよ、新型機体を操縦できるんだろう?」

 

彼は肘で私をつつく。

 

「そういう君はどこに配属なんだ?」

「第156戦術航空団だ。しかも中隊長としての配属だぞ?」

「私よりよっぽど凄いじゃないか」

 

素直に驚く私に対して彼は言った。

 

「そのテストパイロットに選ばれるのも凄いんだぞ?この紙を渡されるときに言われたが、テストパイロットは私になるかミハイ、君になるかで意見が分かれていたんだとか。それで、君が選ばれた。立場は同じさ」

「なるほど…」

「それに、君を名指しで指名するほどだ、生易しいテストじゃあないんだろう。小惑星が降ってくるとかいうこの物騒なご時世だ、もしかしたらそれを阻止するための開発だったりしてな。まぁ、なんにしろ相当の難易度を覚悟していった方がいいんじゃないか?」

 

彼は茶化すように言った。

 

「たかがテストで壊れるほど柔な鍛え方はしていないさ。君こそ、初の中隊長だからって浮かれて墜ちるんじゃないぞ?」

「私が墜ちるのは私を超えるエースが現れた時だけさ。心配はいらない」

「なら安心だな。君を超えるのは私くらいのものだ」

「違いない」

 

それじゃ、と彼は片手を上げて彼の愛機(SU-37)の方へと歩いて行った。新しく配属された中隊の色であろう黄色が目立つ塗装がされており、私と一緒の隊にいたころの面影はない。

 

(私の戦闘機は没収か。まぁ、妥当だな)

 

実験基地へ配属となる私は機体を持たないパイロットなどという変な立場になっていた。

 

(すぐに実験機が私の機体となるだろうからな)

 

ーーー

 

 「私の乗る機体はどれになる?」

 

輸送機に揺られて到着した実験基地にて、私は開口一番そう聞いた。

 

「そう焦らずとも大丈夫ですよ。とんでもない機体です。お眼鏡にかなうことでしょう。ついてきてください」

 

そう言って歩き出す案内役の研究員の後を追う。

 一番端の格納庫まで歩き、研究員はドアを開いて中へ入った。人気が感じられず暗闇に閉ざされていたその格納庫の中、そ(・)れ(・)は異様な雰囲気を纏って鎮座していた。

 

「これは…!」

 

私は驚きのあまり声を失ってしまった。これまで見てきた戦闘機とは全く違う形のそれに、圧倒されてしまったのだ。

 

「高い格闘戦能力を持つ高機動形態、高いステルス性とスーパークルーズ能力を発揮できる高速飛行形態。その二つを併せ持つ大型ステルス戦闘機、X-02です」

 

新型機が開発されているとは風のうわさで聞いていたが、それがコイツか。

 

「この機体は所謂試作機です。まだまだ改良の余地はあります…が、今のこの段階でも既存の戦闘機とは一線を画する性能を有していると言っても過言ではないでしょう!」

 

研究員は自信満々にそう言い切った。

 

「ですがこの機体は初飛行すらしていません。今はまだ、全てが机上の空論なのです。なのでテストパイロットをお呼びしてデータをとる必要があった。でも平凡なパイロットでは完璧なデータをとることはできないでしょう。そこで貴方の登場という訳です。貴方には、これからこの基地で、この機体の最大限の力を引き出すために尽力していただきます」

 

興奮気味に話す研究員を後目に、私はX-02の近づき手で触れた。部隊章も、国籍章すらつけていないまっさらな明るいグレーの機体は、初(・)め(・)て(・)触(・)る(・)は(・)ず(・)な(・)の(・)に(・)何故かしっくりと来た。そして、私はこの機体が主人が帰ってきたことを喜んでいるように見えてしまった。

 

「この機体の名前はなんて言うんだ?」

 

私は振り返って彼に尋ねた。

 

「ワイバーン、です」

「いい名前だな」

 

機体に向き直り、周囲を歩く。

 

「データ収集は明日から始まりますので、よろしくお願いしますね」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

 

研究員は一礼して出ていった。

 この空間に残されたのは私と、ワイバーンだけだった。

 

「明日からよろしく頼むよ、ワイバーン」

 

返事はない。だが、私にはワイバーンが返事をしたように思えた。

 

ーーー

 

 次の日、朝早くからデータ収集のためのテストがスタートした。

 格納庫から出、その姿を日の元にさらしたワイバーンは初フライトのためにエンジンを始動させようとしていた。

 

〈こちら管制塔、エンジンの始動を許可する〉

「了解」

 

管制塔の指示に従い、エンジンを始動させる。

問題なく起動フェーズは終了し、背後で低い音が鳴り響いた。火が入ったのだ。

 

〈こちら管制塔、そのまま滑走路へ進んでくれ。地上走行能力もデータが足りないんだ〉

 

データの足りなさ加減に苦笑いしつつ、私は出力を引き上げて自走を開始する。

 

〈こちら管制塔、特に問題はないようで安心した。離陸を許可する〉

「了解」

 

離陸の動作自体はこれまで乗ってきた戦闘機たちと何ら変わりない。

 

〈初フライトだ、軽くで構わない〉

 

この管制塔は研究員がまねごとしているだけなのでやたらフレンドリーだ。たまにはこういうのも悪くない。

 配置に着き、スロットルを開けて加速を開始する。瞬間、私は驚くことになる。

 

(なんだ…この加速は!?)

 

あまりスロットルを開けていないにも関わらず既存機体の滑走と同レベルの推力を得られている。もしフルスロットルしようものなら…。楽しみになってきた。

 新機体の仕様に戸惑っているうちに機体はあっという間に空へと舞い上がる。私は慌てて思考を戻し、目の前の操縦に集中する。

 

〈よし!飛んだ!これなら艦上戦闘機として十分に使える性能だ!〉

「艦上戦闘機だったのか?」

〈艦上戦闘機としても使えるように、というのが要求性能でして。この滑走距離なら十分艦上運用できるでしょう!〉

 

なるほど、海軍にもこいつを配備するつもりなのか国は。

 

〈次はスーパークルーズモード…高速飛行形態を試していただきたい〉

「了解した」

 

私はスロットルをさらに開ける。ある一定の速度に達すると、主翼および尾翼が変形し、研究員の言うスーパークルーズモードになるのだ。この形態では速度が良く伸びる…らしい。

 

〈やはりすごい速度の伸びだ!データは間違っていなかった!〉

 

うるさいぐらいに興奮している研究員からの無線を聞き流しながら、なぜか感じている懐かしさに身を任せ、言葉を紡ぐ。

 

『これで、レースに勝てるな』

 

(レース?)

 

突然出てきたその単語に首をかしげる。レースなんぞ、この人生で一度も関わったことはなかったはずだが。

 

 

ズキン

 

 

頭が痛い。どうした、私。

 

『領域(ゾーン)で悩むことももうない』

 

(領域…?)

 

待て、なんだ、なんだこの感覚は。

 

 

ズキン

 

 

『トレーナーも喜んでくれるはずだ』

 

(トレーナー?)

 

誰だ、それは。

 

 

 

ズキン

 

 

 

頭が、痛い。割れそうだ。

 

 

 

あぁ、そうだ。私はーーーー

 

ーーー

ーー

ー

 

ー

ーー

ーーー

 

 「っはぁっ…はぁっ、はぁっ……夢…?」

 

飛び起きた。周りを見渡す。外はまだ暗い。

 

「っ、頭痛い…」

 

不意に襲ってきた頭痛に顔をしかめる。

 

(あれ…何故、起きたんだったか。あぁそうだ、夢を見ていた…)

 

うん?

 

(どんな、夢だっただろうか…?)

 

思い出せない。

 

(まぁいい。頭痛も収まったようだし、外は暗い。ゴルシも寝てるし)

 

私はそう自分に言い聞かせ、再度眠りに就くことにした。

 

(懐かしく、楽しい夢だったような気がする)

 

 

ーーー

 

 

 翌日、午後のトレーニングの前に夢のことをトレーナーに話した。

 

「…それは本当?」

「本当だとも。内容までは覚えていないが、なんだか懐かしい夢を見ていたような気がしたよ」

 

彼はちょっと考え込んだ後、こう言った。

 

「多分領域の進化だと思うよそれ。次領域が出たらわかると思う」

「領域を出してみればいいんだな?」

「領域は狙って出せないよ…?」

 

トレーナーの言葉を聞き流しつつ、走り出す。彼の話が本当だとすると、私の領域が夢のせいで変質し、頭痛を伴わなくなるはずだ。

 向こう正面に入り、領域の準備をする。今は前を走る子がいないため想像だが、前に居ると仮定して領域を展開する。

 

(これは…ッ!?)

 

これまで私が領域を展開すると、見慣れたコックピットに座っているはずだったのだが、今は別(・)の(・)見(・)慣(・)れ(・)た(・)コ(・)ッ(・)ク(・)ピ(・)ッ(・)ト(・)に座っている。そして私はこの座席を覚えている。

 

(ワイバーン!?)

 

なんと、トレーナーの言っていたことは本当だったか。しかしこうなってくると夢の内容が気になるな。この機体ということは彼も出てきたかもしれないからな。あぁ…今はこの世界にいるから、前世の彼、というべきか。

 興奮冷めやらぬまま、私はトレーナーの前まで帰ってきた。

 

「ど、どうだった?頭痛とか…」

 

不安そうに聞くトレーナーに対し、私は笑みをもって答える。

 

「大丈夫だ。これで、戦える」

 

それを聞いた彼は驚いた顔をした後、優しく笑った。

 

「それは良かった。今日の最後、トレーナー室で詳細を聞かせてほしい」

「もちろんだとも」

 

これで停滞していた私は先に進むことができる。そう意気込む私を見るトレーナーはうれしそうな顔をしている。

 

「それじゃあ、凱旋門賞の前に出る最後のG1、宝塚記念に向けて、頑張っていこうか!」




領域強化です。乗機がSU-30SMからX-02へと変化します。よっていろいろ効果が上がります。眠いので詳細な効果とかは次回書くつもりです。

独自設定モリモリにしてしまったため、矛盾点などありましたらご指摘の程お願いいたします。
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