エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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ーMISSION STARTー

ーーー宝塚記念に勝利せよ


今回の被害者:メジロパーマー

パマちんめんご。許してちょ。(許されない)


MISSION43 「宝塚記念」

 宝塚記念。阪神レース場で行われるこのレースは、上半期のNo.1を決めるレースとして知られているG1レースだ。クラシック級から参戦が可能なレースではあるが、その実参戦するのはシニア級がほとんどであり、腕試しで挑んだクラシック級の子たちは大体綺麗に敗北している。

 もっとも、ダービー直後のレースなため参戦するクラシック級の子は少ないがね。無理なローテになり易い、そして難易度が高いためクラシック級では回避されるレースだ。

 

「さて、アル。緊張は…してないみたいだね」

 

 今はレース前、控室にて作戦会議を始めようといった頃合いだ。

 

「まさか。緊張はしているさ、適度にな」

「ははっ、なるほどね。一番いい状態ってことだね」

 

勝負服に着替え終わり、化粧も既に終えた私はイスに座ってトレーナーの作戦案を待っている。

 前までは瞑想などをしていた時間だったが、今日は必要なさそうな気がする。それほどまでに、自分の実力に自信を持てている。今日は、勝てる。

 

「それじゃ作戦だけど。今回のレースは逃げ作戦のウマ娘が多いから、ペースは勝手に作られると思う。おそらくハイペースだ。同じタイプの逃げが複数存在するからね」

「そうだな。私としてはありがたいな」

「アルがやることはいつもより早めに前に出ることだ。何なら今日は追い込みじゃなくて差しでいい。逃げウマ娘が実力者すぎるからね。さっさと詰めて、墜とす。と言っても墜とすのは最終コーナーから最終直線辺りでいい。序盤はペースをつくらせるんだ」

 

 今回は珍しくちゃんとした作戦があるようだ。…珍しくは失礼か?まぁいい。仕掛けるのを早めにしろ、ということだな。

 

「了解した。領域の使用は?」

「最低限で行こう。実力者を単体で墜とすくらいで」

「いいだろう。そして今回の実力者は?一応把握しているつもりだが、聞いておきたい」

「そうだね、メジロパーマーとダイタクヘリオスは確定で、スペリオルドーラとカミノクレッセもちょっと警戒した方がいいかも」

 

 今回はテイオーやマヤといったクラシック級で鎬を削った相手が参戦しない。スペリオルドーラは出てくるが。彼女はどこまで私についてくる気なのだろうか。

 

「基本逃げ連中を警戒、それでいいんだな?」

 

その言葉にトレーナーは頷いた。

 

『出走者はそろそろ地下道への移動をお願いします』

 

天井のスピーカーからの案内を受けて私は立ち上がる。扉の前のトレーナーがこちらに拳を突き出してきた。

 

「日本最後のレース、楽しんでね」

 

私はそれに拳を合わせることで応えた。

 

「あぁ、存分に楽しませてもらおう」

 

 

ーーー

 

 

 地下道、もはや見慣れた景色だがこれで見納めだと思うと感慨深い。

 

(数奇な運命の元、第2の人生を送り始めたが…。すっかりこちらに慣れてしまったな)

 

だが、私のゴールはこのレースではない。今日はあくまで踏み台だ。言い方は悪いがね。

 

 「ウェーイ!アルっち調子はどうよ~!」

 

この独特の喋り方は…ダイタクヘリオスか。

 

「有マ記念以来だな、ダイタクヘリオス。調子は万全、と言っておこうか」

「いいねいいね!ウチに追いつけるかな~?今日のウチは一味違うぜウェイ!」

 

確かに、この前の時よりは仕上がっているようだ。

 

「先頭で待っていたまえ、空の旅に招待しようじゃないか」

「もち!先頭で待ってるね!」

「先頭で待ってるとは言うねぇヘリオス。私を忘れてもらっちゃぁ困るな~?」

 

そう言ってダイタクヘリオスの肩のあたりからヌッと姿を現したのはメジロパーマー。同じく逃げの有力候補で、何気に初対面だ。

 

「パマちんウェイ!元気~?」

「うん、元気元気。アルちゃんにばっかご執心だと私が1着持ってっちゃうぞ?」

「え~~!?ウチはどっちを注意してみてればいいん?」

 

ダイタクヘリオスは頭を抱えた。

 

「ははっ…私としてはメジロパーマーを注視して削りあってくれると嬉しいのだがね」

 

その言葉にパーマーはふっ、と笑った。

 

「うわさに聞いていた通りの子みたいだね。年下なのに謎の貫録を感じるよ。…改めて、今日はよろしくね。負ける気はないから」

 

差し出されたメジロパーマーの手を取った。

 

「こちらも、全力で当たらせてもらおう。…いい目をしているな」

「…そりゃどーも」

「ウェイ!なんか蚊帳の外?で寂しいFo!」

「はっはっは…愉快だな、君は」

 

その時、場内放送が入った。

 

『まもなく出走時間となります。ゲートインの準備を…』

 

「時間みたいだね、それじゃ、また」

「またね~!」

 

そう言って彼女たちは去っていった。そんな私の後ろに気配が一つ、近づいてきた。この気配は知っている。

 

「お久しぶりです」

「ドーラか。菊花賞以来だな?」

 

スペリオルドーラだ。

 

「このレースの後はフランスでしょう?」

「そうだ。アンタも来るか?」

「残念ながら私の実績ではフランス渡航は適わなそうです。…ですので、勝ち逃げされないよう、頑張ります」

「そうか、全力で行かせてもらおう」

「……望む、ところです」

 

若干顔が引きつっているな、今回も大丈夫そうだ。もっと強くなれそうな気もするのだがね。耐性がまだ足りない。

 おっといかん、もう番号が呼ばれ始めている。急がねば。

 

『3枠3番、ダイタクヘリオス』

 

まだ番号までは時間があるが最初の二人は聞き逃したな。1番がムービースター、2番がオースミロッチか。

 そしてダイタクヘリオス。有マ記念の時は勝手に燃料切れを起こしていたが…。今回はどうだろうか。要注意だ。

 

『4枠4番、バンブージャンボ』

 

 初対戦、特筆すべき事項はない。マックイーンが走っていた春の天皇賞に居た。確か、6着だったか。

 

『4枠5番、ミスタースペイン』

 

 同じく初対戦。このレースは初対戦の面子が多い。上の世代もいるからだろうか?差し策だったはずだ。

 

『5枠6番、カミノクレッセ』

 

 初対戦。このレースの2番人気だ。トレーナーが危険視した2人の逃げよりも人気が高いのは安定性の問題からだろう。逃げは安定しない。その点先行策のカミノクレッセは安定しているから人気が高いのだろう。

 

『5枠7番、タニノボレロ』

 

 久しぶりだな、弥生賞以来か?どの程度成長したのか、見ものだな。確か、先行策だ。

 

『6枠8番、メジロパーマー』

 

 今回の実質的脅威ナンバー1だ。逃げは不安定だといったが、今日の彼女はそれを成功させそうな雰囲気を纏っている。

 

『6枠9番、ヤマニングローバル』

 

 有馬記念以来の対戦となる。先行策。

 

『7枠10番、スペリオルドーラ』

 

 なんだかんだ個人的な付き合いもある奴だ。先行策。

 

『7枠11番、ダイユウサク』

 

 有マ記念以来だな。先行策だ。

 

『8枠12番、アルカンジュ』

 

 私のやることは変わらない。出ていって、帽子をとって一礼。いつも通りの、なんてことはない動作。…歓声の多さも相変わらずだな。

 観客席に背を向け、ゲートへと歩いていく。

 

『まもなくゲートインが完了します。人気を振り返っていきましょう。3番人気は3番、ダイタクヘリオス』

『今回も爆発的な逃げに期待したいですね』

『2番人気は6番カミノクレッセ』

『安定した先行策が売りです。逃げに釣られずにペースを作れるかが大事ですね』

『1番人気は12番アルカンジュ』

『毎度1番人気ですね彼女。まぁあの走りを見れば納得ですが。今回も期待しましょう』

 

どうやら私は人気者のようだな。さて、集中だ。

 

『阪神レース場、芝、2200m。バ場状態は良と出ています。----年、宝塚記念。……今、スタートです!』

 

目の前の鉄板が消える。周りよりもワンテンポ遅れてスタートすることで周りとの干渉を避ける。私にとってはいつも通りのスタートだ。

 「一辺倒となってしまいつまらない」などのコメントをネットで見かけたとリットが言っていたが、いつも通りで勝てるのであれば変更する必要がないと考えている私としては気にならない言葉だ。いつも通りの何が悪いのだ。

 

『8番メジロパーマー、3番ダイタクヘリオスが先頭をかけて争っている!その後ろ6番カミノクレッセ、7番タニノボレロ、9番ヤマニングローバルが並んで壁になっている。11番ダイユウサクも並んだ!』

 

やはり逃げ二人組が先頭争いか。ペースは…普通だな。どちらかと言われれば遅いくらいだ。もう少し飛ばしてくれても構わんのだが。

 

『その後ろ、10番スペリオルドーラ、1番ムービースター』

『前の壁に阻まれて十分に加速できていませんね』

 

…うん?前が壁になっているのか。珍しい。

 

『その後ろ、いや、並んで2番オースミロッチ、4番、バンブージャンボ。5番、ミスタースペイン』

『見事な集団ですね。速度も遅めです先行と差しの判別がつきません』

 

まぁ、こういったスローペースのレースもたまにはいいだろう。

 

『最後方、12番アルカンジュ。5番ミスタースペインの後ろにピッタリとつけています』

『笑みを浮かべてますね。不気味です』

 

失礼だな。まぁ、スローペースで最終直線まで行くのなら最悪全体領域ですべて墜とせばいい。集団で固まっているのであれば抜かしやすいし、墜としやすいというものだろう。

 現に、ちらちらとミスタースペインの脇から見える集団は大規模なものだ。このレースは人数が少なめだ。それ故に視界はもっとクリアになるものだとばかり思っていたが前は先行、差しの子たちの背中しか見ることができない。

 前方を見たいのならば一旦張り付くのをやめて下がればいいのだが、それではせっかく得られているスリップストリームを手放すことになり、再度この位置に着くために余計な体力を消耗することとなる。やる必要性が感じられない。

 

『第1コーナーに入るところで壁が崩れます。一気に加速したのは10番スペリオルドーラ。間を縫うように順位を上げていきます』

『それを追うように周りの速度帯も変わり始めました。壁も崩れました』

 

 そうやらスローペースは終わりらしい。序盤に加速させずに中盤で無駄な体力を使わせる。良い作戦だが…。逃げの負担は大きそうだな。最終直線が楽しみだ。

 

『先頭は8番メジロパーマー。その後ろ3番ダイタクヘリオス』

 

先頭はメジロパーマーになったか。まぁ、予想通りだ。

 

()()()()1()0()()()()()()()()10番スペリオルドーラ』

 

 耳を疑った。今、実況はなんと言った?何バ身だと?10…。10と言ったか?

 

『大差ですね』

「大差だと…!?」

 

そこでそんなにも差が付いた!?さっきまで固まっていたのだろう?そこから…10バ身もの差をつけられたというのか?

 

ありえない。

 

こんなことはあってはいけない。

 

 私の現在地点としては第1コーナー途中というところ。それに対して逃げの二人組は…!

 

『…で、最後方は12番アルカンジュ。先頭との差は図れません!』

『序盤のの謎のスローペースに囚われた結果ですね。先頭は向正面を爆走中です。笑いあっていて楽しそうですね』

 

 もう、向正面を走っているのだ。それも、直線に入ったばかりではない。かなり先に行かれている。

 私の頭が一瞬真っ白になった。

 先ほどの10バ身というのは現状3位であるドーラが2位のダイタクヘリオスにそれだけ離されているということだ。私との差はもっとある。目測は…

 

約、20バ身。倍だ。

 

「なんということだ…!」

 

思わず悪態をつく。やらかした、油断していたのか。何故こんなにも離された。

 そんな時、いまだに現状を整理しきれていない私の頭の中にレース序盤の解説の言葉がフラッシュバックした。

 

””前の壁に阻まれて十分に加速できていませんね””

 

 あぁ、そうか。そういうことか。理解できた。

 

『序盤の集団スローペースに()()()()()()()()()逃げ二人組は快調に飛ばしています!追いつく子はいるのでしょうか!?』

 

これは私のミスだ。ペースは逃げが作っていると勝手に判断した、私の。

 

『先頭は未だ変わらず、8番メジロパーマー、その後ろピッタリと3番ダイタクヘリオス。そこから8バ身離れて10番スペリオルドーラ』

 

わずかなロスを嫌って状況確認を実況解説の声だけに頼った私の、ミスだ。

 

『…!おっと、ここで12番アルカンジュが…』

 

私のミスは、私が取り返す。……いや、

 

『加速を開始した!』

 

勝って、()()()()()()()()()

 

 脚を踏み込み、前傾姿勢へ。

 本来これは最終直線、ラストスパートでやるものだ。だが今はなりふり構ってはいられない。

 領域は最小限に、自分の視界に出るだけに留める。これならば領域単体でのスタミナの消費はない。ただ少量の強化となるだけだ。

 

「第一目標は、ドーラ」

 

第3コーナーまでに、アイツに追いつく。…私が焦って追いすがる側になろうとはな。

 

『12番アルカンジュが今、5番ミスタースペインを追い抜いた!』

『…間に合うのでしょうか』

 

 目の前はオースミロッチ。スッと身体を脇に振ればあとは簡単、速度差によって追い抜くことができる。

その前にいるバンブージャンボに関しても同じだ。進路を察知してブロックしてきたのなら反対に身体を振ればいい。慌ててブロックしようと進路を変えるなら同じことをやるが、さすがにそれをやる勇気はなかったようだ。そのまま前に出る。

 

ドーラまで、残り6バ身。

 

 次に前に来る集団はタニノボレロ、ヤマニングローバル、ダイユウサク、そしてムービースターだ。差し策ではなく先行策故、先ほどの連中よりも若干スピードが速い。もう少し速度を上げる必要がある。

 

視界のHUD表示が濃くなる。スタミナ消費が始まる領域の一歩手前だ。この調子であればスタミナ(燃料)はもつ。大丈夫だ。

 

小細工はいらない。速度差で追い抜く。

 

「ッ!」

 

誰かの息をのむ音が聞こえたが、気にしている余裕はない。そのまま3人を視界から消し、斜行にならないギリギリの角度で前に滑り込む。

 

ドーラまで、3バ身。第3コーナーまで、残り僅か。

 

 目の前にはカミノクレッセ。彼女は私の接近を察知して速度を上げた。

 対して、その一つ前を走っていたドーラは速度を落とす。

 

『6番カミノクレッセ加速!減速した10番スペリオルドーラに並びかける!その後ろ12番アルカンジュだ!』

 

加速が2人、減速が1人。これだけ見るとこの場で加速することが正しいように見えるかもしれないが、本来、正しいのはドーラの方。減速を選ぶべきだ。

 

「死ぬ気ですか…!」

 

私がドーラを抜かすその一瞬、交差したところで彼女は叫ぶ。その声でカミノクレッセは現状を理解したようだ。表情がこわばっている。

 

 

 

「下り坂ですよ!?」

 

 

 

 阪神レース場、ここは第3コーナーから最終直線途中まで、高低差2mの下り坂が続いている。

 ここの攻略方法で定石とされているのは、ドーラが執った減速戦法。どうあがいても速度がのってしまう下り坂のコーナーは、普段出すことのない速力に達するためバランスを崩しやすい。

 バランスを崩してしまえば、あとは一瞬だ。足がもつれ、最高速度に近い速度で吹き飛ぶ。もしそうなった場合、選手生命は途絶えることとなる。どれだけ良い転び方をしたとしても助からない。

 

 それ故、このコーナーは減速し、なるべく旋回半径を小さくすることが当たり前となっているのだ。

 

カミノクレッセは慌てて減速したな。だがあれでは間に合わず外に膨らむことになるだろう。転ぶことはなさそうだ。

 

「分かっているとも。だがやらねば勝てないのだよ」

「ッ!私だってッ!」

 

加速を選ぶか。大胆になったものだ。吹き飛ばないことを祈っているよ。

 

『12番アルカンジュ、10番スペリオルドーラが減速しないで第3コーナーへ突入した!?』

『これは…非常に危険です』

 

 

先頭まで、残り、7バ身。

 

 

 速いな。やはり下り坂というものは普段の走りのペースが乱れる。想定していた速度よりも速くなっている。これはうれしい誤算だ。スタミナを節約して距離を稼ぐことができる。

 

『先頭との差が徐々に詰まっていきます』

『一歩間違えば選手生命にかかわりますよこれ。見ているこっちがひやひやしますね』

 

 メジロパーマーおよびダイタクヘリオスは従来の減速戦法のようだ。おかげで差はどんどん詰まっていく。この調子でいけば最終直線頃には並ぶことができる。

 一つ予想外なのは…。

 

「ッ、ハァ…ッ!」

 

 私に速度で並びかけてきているコイツ(ドーラ)がいることだ。いくら私と言えど下り坂を全力で駆け降りる練習なんてしていない。なんなら普段は皆と同じ減速戦法をトレーナーから教え込まれていた。それ故にいくら下り坂で加速できても完璧なコーナリングなど土台無理な話なのだ。

 

つまり、イン側に隙間ができてしまっている。そこに、ドーラが居るのだ。

 

 若干アウト側を回らされている私の方が不利だ。そして、これ以上速度を上げることはできない。平地ではまだいけるが、この下り坂、そしてコーナーでは脚の回転が追いつかなくなる。ここで無理をすると、私が吹き飛ぶ。

 

(いったん、譲るしかないか…!)

 

 若干足を緩め、領域も緩める。途端に視界に干渉するHUD表示は薄くなり、ドーラが前に出る。

 

 

 もうすぐ最終直線だ。

 

 

 『さあ先頭が第4コーナーを回った!勝負は最後の直線に持ち越されました!』

『無事コーナーを抜けられましたね』

『先頭は依然として8番メジロパーマー、すぐ後ろ3番ダイタクヘリオス!4バ身離れて10番スペリオルドーラ、並んで12番アルカンジュだ!』

 

直線になると同時にドーラに並びかける。先ほども言ったがこのコースは直線の途中までは下りだ。そして今は直線である。

 

『12番アルカンジュ加速!10番スペリオルドーラの前に出るが10番も追いすがる!3番ダイタクヘリオスとの差は3バ身半ほどだ!』

『ここからは上り坂です。体力は持つのでしょうか』

 

 スタミナが予想よりも少ない。領域を使えるのは少しの間だけだ。領域を使い、攻撃を当てさえすれば私は楽に勝つことができる。やらない手は、ない。

 

 瞬間、私を中心として空の心象風景があたり一面に映し出される。ただ、これは周りを巻き込むだけの小さなものだ。観客からは私の機体を見ることは出来ない。この機体のお披露目は海外だ。

 身構えていたであろう彼女たちに威圧の効果はほとんどないだろうが、こちらのフィールドには引き込むことに成功した。後は、いつも通りだ。

 

 前方を飛ぶ戦闘機2機。メジロパーマーとダイタクヘリオスに照準が合う。

 

「FOX2、FOX2!」

 

1発ずつ、計2発のミサイルがまっすぐに飛んでいき、着弾した。黒煙が上がり、一瞬火の手が上がるがすぐに鎮火した。

 

(やはり、一発では仕留めきれないか。だが、十分!)

 

大幅な減速こそ見込めないものの、目に見えて速度が落ちている。このままいけば私が…!

 

 

「まだ…終わらせません!」

 

 

瞬間、機体後部から突き上げるような衝撃が伝わった。

 

(アラートがなかった…無誘導か!?)

 

慌てて後方を確認すると、衝撃の原因であろうEF-2000(スペリオルドーラ)が至近距離に迫っていた。この距離であれば無誘導でもあたる。そこまでの至近距離だ。

 衝撃で領域が解除された。ドーラは、真横にまで迫っていた。

 

(いつの間にミサイルを習得していたというのだ。これは、大きな誤算だ…!)

 

『12番アルカンジュが被弾し加速が止まった!…減速してきたトップが…並びます!』

『見事に横一列ですね、誰が勝ってもおかしくはありません!』

 

ゴールまではもうあと僅かだ。坂を上り切った今、数字にして数十メートルしか残っていない。

 

『12番アルカンジュわずかに前に抜け出した!他も追いすがる!』

 

 領域も何もない、地力だけの真っ向勝負。私は残りカスのようなスタミナを全て燃やす勢いで加速する。だが加速は弱い。

 だが諦めない。思考は回さない。ただ前へ、前へ、前へ!

 

 

 

 

『今、ゴォォォォルイン!ほとんど同時、ほとんど同時だっ!』

『写真判定ですね、これは。判別付きませんでしたよ』

 

 

 

 

ーーー

 

 私が冷静な思考を取り戻したのは、ゴール板を駆け抜けてからしばらくしてのことだった。頭にかかっていた靄のようなものがスッと晴れる感覚がして、顔を上げた。見渡すと、付近には1着を争った好敵手たちが私と同じように肩で息をしているのが見て取れた。

 掲示板には、”写真”の二文字。まだ5着以上の判定は出ていないようだ。

 

「まさかあそこから追いついてくるとはね~。正直途中までは余裕だと思ってたんだけど…」

 

メジロパーマーがそう言った。

 

「マジそれな!?アルっちヤバない?」

 

ダイタクヘリオスもそれに便乗する。

 

「私の全力だ。どうだったかね」

「何~?その勝ち誇ったような笑みは。まだ結果出てないからわからないぞ~?」

「そうだったな」

 

そう言えばレース結果がまだだった。まだ…出ないようだ。

 

「ッはぁ、はぁ…アルさん、貴女ぶっ飛んでますよ」

 

ワンテンポ遅れて会話に入ってきたのはドーラだ。まだ下り坂の恐怖が抜けきってないらしい。

 

「ひどいことを言ってくれるな、ドーラ。ああでもしなければ追いつけなかったのだぞ」

 

その返しに対してメジロパーマーたちが何か言おうとしたところに、放送が入った。

 

『結果が出ました。電光掲示板をご覧ください!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1着 12番 アルカンジュ 2:18.6

2着 8番 メジロパーマー クビ

3着 10番 スペリオルドーラ アタマ

4着 3番 ダイタクヘリオス クビ

5着 6番 カミノクレッセ 6

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あちゃ~…」

「うっそぉ!?負けたぁ!」

「………ッ、届かなかった…」

 

三者三様の反応を確認しつつ、私は静かに、小さくガッツポーズをした。それから、客席へと向き直り、その握った手を掲げた。

 

 会場から歓声が沸き起こる。そのまま私は手を下げ一礼する。さらに大きな歓声が沸き上がり耳に響いたため、私はちょっと耳を背けた。

 

ーーー

 

 「この次は海外なんだっけ?」

 

ウィナーズサークルを去り、控室に戻ろうと地下道を歩いていたら呼び止められた。

 

「メジロパーマーか。その通りだが」

「固いなぁ。パーマーでいいよ。…そっか。じゃ、絶対勝って来てよね」

「む?」

 

思いもしなかった一言に一瞬固まってしまう。

 

「アルちゃんが海外で勝てば惜しいとこまで行った私も評価されるかなーってね?」

 

そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。ただ、その顔は感情を押し殺して笑っているように見えた。

 

「…そうだな。じきに自慢できるようになるさ。それと、再戦はいつでも受けて立つぞ」

「!…ふふっ。分かった、楽しみにしてるよ。じゃあねっ!」

 

パーマーはそのまま彼女の控室の方に消えていった。

 さて、私もライブの準備があるし、さっさと控室に戻るとしようか。

 

ーーー

 

 控室の扉を開けると、心配そうな顔をしたトレーナーがそこにいた。

 

「…アル!おかえり、どこか痛むところはないかな?」

 

なるほどな。怪我の心配か。

 

「大丈夫だ、トレーナー。多少の無理はしたが、この程度で壊れるようなトレーニングはしていないだろう?」

「それは…そうだけども。万が一があったら困るから、少しでも異常があったら教えて欲しいんだ」

 

どうやら今回の走りは相当彼を心配させてしまったらしい。反省点だな。

 

「心配してくれているのはありがたいが、私は無傷だ」

「そうか…ならよかった…」

 

そう言って彼は椅子にへたり込んだ。

 

「海外遠征前に故障しようものなら大変だからさ、心配で。何よりアルの夢がかなわなくなっちゃうからね」

 

椅子に座った彼は絞り出すようにそう言った。この重苦しい雰囲気からしてどうやら過去一番心配させてしまったようだ。

 

「その…トレーナー。すまなかった。作戦を遂行できずに無理な走りをしてしまって…」

「あぁ。無傷ならいいんだ。でもそうだね…海外に行く前に下り坂の練習も入れようか」

 

顔を上げた彼はそう言って笑った。つられて私も笑ってしまった。

 

「いいだろう。頼むよ。それと、そろそろライブの準備が始まるから出ていってくれ」

「あぁごめん!」

 

慌てて出ていく彼を微笑ましいものを見る感覚で見送る。待たされていたメイク担当のお姉さんは菩薩のような顔をしていた。

 

 

 

 その後のライブは、いつものメンツに人数がさらに増えた応援の人たちが居たこと以外はいつも通りで、恙なく事を終えることができたことを、ここに報告しておこう。




ーMISSION ACOMPLISHEDー


 ミハイなんか偉そうにしてるけど自分の油断のせいでトレーナーのこと心配させているんだよな…。


投稿期間があいてしまって申し訳ございません。リアルが収束したのでちょこちょこ更新を続けていこうと思います。これからもよろしくお願いします。
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