エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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『日本のウマ娘では海外で活躍できない。なぜなら日本の戦いは”個”だがフランスは”チーム”だからだ。個人ではすり潰される』
『もし日本が勝つとしたら…だって?そうだな…連携が取れて、全員がエースのチームが出来た時だろう。まぁないだろうが』

ーーー過去URA海外遠征強化中の月間トゥインクル「海外遠征インタビュー」より抜粋


MISSION 46 「新生飛行隊」

 フランスに到着してから一夜が明けた。トレーナーには時差ボケは問題ないと言ったが、正直なところ万全ではない。多少の気怠さは存在する。だが問題はない。無理にでも慣らす必要がある。

 現在はトレーニング開始時間である朝10時。借りられたコースの端っこにて準備運動をしている最中だ。フギンとムニンは一緒だが、ゴルシは一緒ではない。彼女はモロに時差ボケの影響を受けてまだ部屋で寝ているのだ。

 

「ふぁ…ねっむ…準備運動できたら基礎確認から行こうか」

 

この通り、ストレッチで私の背中を押すトレーナーも眠そうである。

 

「質問、何故基礎確認から行うのでしょうか?レースまでまだあるとはいえのんびりやっている時間はないのでは?」

 

ムニンが不思議そうな顔でトレーナーに尋ねた。彼女の背中を押しているフギンも同じく理解不能といった顔をしている。

 

「んぁ…えっとね、長距離移動って自分では気づけないけど結構深刻な不調をきたしていることがあるんだ。それを見つけるための基礎確認だね。これをやらないでいきなり実践に入っちゃうと取り返しがつかないことになるかもしれないんだよ」

「…例えば?」

 

フギンが続きを促す。

 

「そうだね…まず自分の本来の実力が出せないのは大前提として、実力が出せないことに焦って無理な体の使い方をして屈腱炎の発症とか、転倒して最悪死亡なんてこともある。だから必要なことなんだ。理解できたかな?」

 

トレーナーのその言葉に二人とも頷き、ストレッチに戻った。私も右に伸ばしていた身体を左に切り替える。

 そうしてしばらくストレッチを続け、トレーニングの準備が完了した。

 

「よし、じゃあ基礎確認の前にフランスでのレース戦略についておさらいしておこうか。アル、日本とフランスの違いにはどんなものがある?」

 

トレーナーは眠そうな目をこすりながらそう言った。

 

「簡単だ、芝の性質が違うこと、そしてウマ娘たちの走り方もだいぶ違う」

「正解!芝に関しては日本でも対策してきたから深く触れないけど、走り方についてはあまりやってなかったから説明するよ。まずフランスではチーム戦が基本だ。そして多少の接触も許される…というか普通にアタックしても極端に悪質で無い場合は咎められない」

 

知ってはいたが、改めて聞くと日本との違いに驚かされる。この中で私はソロか。逆に考えれば好き放題できるという訳だ。良いじゃないか。

 

「そしてチームの中でラビットという役割のウマ娘が必ずいる。自分のチームのエースが走り易いペースを作り出すペースメーカーだ。本当は先行が得意なリットを連れてきてその役をやってもらおうかとも思ったけど、それだけのために彼女のクラシック級を潰すのは良くないと思って連れてこなかった。つまり……」

 

トレーナーはそこで言葉を区切って一呼吸置いた。

 

「俺たちのチームには()()()()()()()()。これはかなり不利になることだ。だけど…」

「相手のペースに溶け込んで、内部から破壊すればいい。だろう?」

 

ニヤリと笑みを浮かべてトレーナーにそう問いかけると、同じような笑みが帰ってきた。

 

「そう言ってくれると思っていたよ。でもアルだけがそれをできるという状態では100%勝てない。フギン、ムニン。君たちがアルに合わせる必要があるんだ」

 

そう言われた二人は良く分からないといった表情だ。私もそうだ。なんだ、走るのは私だけでは…?

 

「…私たちが、合わせる?」

「どういうことです?私たちはただトレーニングに付き合えばよかっただけでは…?」

 

そうことばを発する2人に、トレーナーは爆弾を落とす。

 

「え?いや、フギンとムニンも走るよ?」

 

「はっ?」

「嘘…ですよね?」

「ま、待てトレーナー!フギンとムニンは…この二人は…」

 

 

「未デビューだぞ!?」

 

 

夏の風が吹き抜けるコースの一角で私の大声がやけに響いた。周りのフランスの子たちが一瞬こっちを見るが、すぐに興味を失ってトレーニングに戻っていく。

 私はトレーナーに詰め寄る。

 

「一体どういうことだトレーナー、未デビューのレース慣れしていないこいつらを日本よりも過酷なフランスのレース、しかも前哨戦ですらG2の重賞である凱旋門賞に出すというのか!?」

「そうです、トレーナー。私達は未デビュー。メイクデビューすら走っておらず、トレーニングの中で誰にも勝てたことがないじゃないですか。そんな私たちがフォワ賞及び凱旋門賞を走れるわけがありません」

 

後ろからのフギンの言葉を受けてトレーナーは困った顔をした。

 

「もちろん、こんなことをするのにはそれ相応の理由があるんだ。聞いてくれるかな?」

 

異一転して真面目な顔になったトレーナーの言葉に私たちは押し黙る。私達が黙ったのを確認し彼は話し始めた。

 

「まず、凱旋門賞の前哨戦を最初のレースにする理由だけど、それは()()()()()()()()()()()()だからなんだ。別に使い潰すためとかではなく普通に上位を狙うことが可能であると判断した結果なんだ」

 

トレーナーの言葉に驚く。私やリットの実力を見誤らなかった人にこうも言わせるとはな。私は他のチームメンバーとは別メニューが多かったため最近の実力は見れていないのだが…、そんなに成長しているのか?

 

…だが…

 

「トレーニング中誰にも勝てていないと言っていたが、同世代に勝てないのならば厳しいんじゃないのか?トレーナー」

 

私は疑問を口にした。先ほどフギンが言っていたことが本当なら出せるはずがないのだが…。

 

「え?あぁ、アルは見てないもんね。同世代でトレーニングしてるのはリットだけだね。フギンとムニンは同世代とトレーニングしてないんだ。二人のトレーニング相手は()()()()()()()()()()()()()()()。勝てなくて当然だよ」

「なん…だと…」

 

シニア級、もしくはそれ以上のレジェンドたちが在籍しているチーム、一番弱くてもクラシック一線級の実力者しかいないところだ。勝てなくて当然だ。いや、待て。

 

「トレーナー、二人は実際に活躍することが可能といったな?まさかとは思うが着差は…」

「ご明察、一桁バ身だ。だんだん縮んできている」

 

私は目頭を押さえた。

 考えてみればあり得ないことではない。もともとフギンとムニンは晩期の私とは言え私のコピーだ。実力が低い訳がない。

 

「そしてそれを見た理事長からメイクデビューに出させるなというお達しを受けている」

「それは横暴では?」

「理事長とて不本意ではあるみたいだよ。ただ本当に実力が高すぎるんだ。俺が調子に乗ってトレーニングさせすぎたことも原因だ。だが言い訳させてほしい。ここまで伸びるとは思ってなかったんだ」

 

トレーナーは苦笑いでそう言った。フギンとムニンは複雑な表情だったが…

 

「アルと同じ軌跡をたどれないのは残念ですが、一緒に飛べ…いえ、走れると考えれば儲けものです」

「お役に立てるよう、頑張りますね」

 

どうやら割り切ったようだ。

 

「納得してくれたようで何よりだよ。理事長から、海外レースで走ったらそれをメイクデビュー扱いとして来年からクラシック級に挑戦していいって許可は貰っているから、そこまで心配はしなくて大丈夫だ。最初のレースがちょっとレベル高いだけだよ」

「ちょっとで表すにはレースの肩書が重すぎるな」

 

チームに少し笑いが起こった。

 

「じゃあ、どのくらい併せられるのかを確かめてみようか!このコースは今日、海外から来たチーム用に開放されてて、他のチームもいるから全力は無理だ。だから60%くらいの力で行ってみようか。あ、準備体操を忘れずにね」

 

ーーー

 

 しっかりと準備体操を終え、レーストラックに立つ。

 

「それじゃ行ってみよう。まずは様子見、少しでもおかしいなと思ったら止まること。いいね?」

 

 その言葉に首肯で返し、走り出す。

 足に芝が絡みつく感覚に、違和感を覚えた。やはり、対策をしていたとはいえ本物を感じるのは初めてだ。拭えない違和感が付きまとう。別に苦にはならず、極端に走りにくいということもない。慣れれば余裕だろう。

 フギンとムニンは私の後方、左右に展開して逆V字型編成を保っている。全力とは程遠い速力とはいえ私はもうシニア級、本来であれば未デビューのウマ娘にはキツイ速度帯であるはずなのだが、二人は息一つ乱さず着いてきている。

 すこし、遊びたくなった。

 

「SOL1から僚機2機へ通達。そちらのコールサインをここ(今世)ではSOL3、及び4とする。異論は?」

「こちらフギン、コールサインSOL3了解した」

「こちらムニン、コールサインSOL4確認」

 

この感覚は久しぶりだな。領域外だが空にいるように思える。

 

「SOL1から各機へ、コーナーを抜け次第フォーメーションチェンジを行う。SOL3は私の前へ。SOL4は後ろへ。単縦陣を組む」

「「了解」」

 

 コーナーを立ち上がって速度を若干緩める。フギンが加速し私の前に出る。そのまま加速を開始し、一体となって走る。やはり私が元となっていたAIだったからだろうか。合わせやすい。

 無線でもあれば離れていても意思疎通ができるのだがな。現状は声が届く距離のみだ。

 

 そしてやはりこの二人は強い。本来のこの時期のウマ娘の実力をはるかに凌駕している。メイクデビューに出すなと言いたくなる気持ちもわかるというものだ。

 

 あっという間に1周を終え、トレーナーの元へと帰還する。

 

「…すごかったな。息ピッタリじゃないか」

 

しまった、初めての併せにしては完璧に併せすぎたか…?

 

「フギンとムニンは特に合わせるのが上手いのだろう。私以外でもある程度走るやつ相手ならあのくらいは併せられるはずだ」

「確かに日本の練習の時から併せるのが上手いとは思ってたけど、もっと上手くなったみたいだね。この調子なら実際にレースで走らせても大丈夫そうだ。心配事が一つ減ったよ」

 

どうやらトレーナーは疑ってはいない…というか、日に日に私の周りのことに関して疑うことを諦めている気がするが…。まぁ、変に疑われ続けるよりかはいいか。

 

「それじゃあ、今度は速度帯を少し引き上げてみよう。アル、リードは任せたよ」

「了解、任された」

 

そう言って私は駆けだす。さっきよりも速く、でも少し抑えて。

 


 

 「フォワ賞まで2か月と少し…調整は間に合うだろうか…?」

 

フランスでの初トレーニングを終えたその日の夜、俺はシャンティイトレセン学園にて割り当てられた部屋で呟いた。眼前のパソコンにはチームソル遠征組の今日のデータが表示されている。

 フギンとムニンがあそこまで洋芝で走ることができたのはうれしい誤算であったのだが、問題なのはアルの方だ。

 

「いくら訓練したとはいえやはり…か」

 

タイムが落ちているのだ。勿論、全力でないためレースタイムは使えないが、日本にいたころのトレーニング時のタイムより落ちているのだ。

 アルは60%の力でと言ったらいかなる時も60%の出力を維持することができる子だ。そんな彼女のタイムが落ちている、このことは洋芝および慣れないコーストラックに翻弄されている証左に他ならない。あと2か月少々でこの問題を解決しなければいけない。

 そして、彼女は巧妙に隠している…もしくは、気が付いていないのかもしれないが、私の眼には調子を落としているように見える。トレーニング時に普段より多いため息の回数、休憩の回数など、分かる人が見たら見違えるほどに変わってしまっている。

 幸い、食事や水が合わないということはあまりなさそうだった。というか、まるで食べなれているかのように食事をしていたことに驚いた。水に関しては日本人あるあるの水道水直飲みをやらかすことなく、ミネラルウォーターを購入していたことも少し驚いたことだった。まぁ、もともと出身がこのあたりというのであれば納得できることではあるけど。

 つまり、現状最悪の事態は回避しているけれど、あまり良い状態とは言いにくいというのが結論だ。しばらくは控えめのトレーニングで本当の意味で洋芝に慣れてもらうところから始めるべきかな…。

 

<ピロン

 

 「うん?…あぁ、メールか」

 

不意に携帯に一軒の通知が届いた。差出人はアリアスさんで、中身は…

 

「模擬レースの誘い、だと?」

 

どういうつもりだ…?模擬レース…あり得ない話ではないけれど、相手の出走者の情報がなく、模擬レースをするかどうかを問う文面のみ。あの丁寧な人にしては珍しい…いや、こちらではこのくらい軽いのが常識なのだろうか…?

 わからない。相手方の真意が読み取れない。洋芝に慣れていないこちらを気遣ったのであれば普通、合同トレーニングになるはずだ。いきなりレースをやるという流れにはつながらない。…なにか、妙だな。

 模擬レースを受けたとして、勝利したときのメリットはアルの自信が着くこと、貴重なレース経験が積めることが主か。負けた時のデメリットはモチベーションの低下…いや、アルなら大丈夫か?

 それに、アルがもし、もし負けてしまったとしてもレースへの参加権が奪われるわけではないし、参加するに越したことはないのではないだろうか。

 もちろん領域の存在は伏せて戦うことになるだろうが、アルの実力は健在だ。多少調子を落としている今でもきっと、大丈夫だろう。

 

 俺は、メールに対して「ぜひご一緒させてください」と返した。すると、秒で日にちとコース番号が送られてきた。早すぎないか…?

 

 まぁ細かいことを気にしていても始まらない。日時は明後日、レーストラックは…あそこか。最初に説明を受けた場所の近くだな。明日、アルと相談して決めよう。




投稿期間がとても長くなってしまったこと、申し訳ありません。リアルの方がとても忙しく、これからもその忙しさは続く見込みでございます。私としましても頑張ってこの小説は完結まで持っていきたいと考えているため、空いた時間を見つけてちょこちょこ書き進めていこうと思いますので、これからも弊作品を楽しんでいただけると幸いです。
次回投稿はなるべく早く行いたいと思います。気長にお待ちください。


エスコン7スイッチ版発売されましたね。皆さんは買いましたか?筆者はスイッチを持っていないので買いませんでした。運営さん。エスコン8はまだですか…?
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