エース娘コンバットダービー   作:Jeep53

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とても忙しいですが、私が書きたいものを書いていきます。

前回までのあらすじ。フランスに着き、トレーニングが始まったころに怪しい模擬レースのお誘いが届きました。


MISSION 47 「模擬レース」

「模擬レース?早くないかね?」

 

フランスでのトレーニング2日目、アップをしているときにトレーナーから告げられた言葉に驚く。アリアスさんが管理しているチームから模擬レースの誘いがあったというのだ。

 

「やっぱアルもそう思うよね…」

 

どうやらトレーナーも少し不思議に感じているようだ。

 

「それで、出走メンバーは知っている奴なのかね?」

「いや、それが…レーストラック番号と時間の指定しかなくて。分からないんだよね」

 

模擬レースに誘っておいて出走メンバーを公表しないだと?妙だな。これまで感じた彼女の印象からして、そんなことをするような人には見えない。

 

「まぁ、大丈夫だろう。公式レースの情報が伏せられているとかいう状況ではないのだからな」

「それも、そっか。思い過ごしならいいんだけど…アリアスさん、なんか連絡つかないし、ちょっと心配だな」

 

トレーナーは何かを懸念しているようだった。

 


 

 翌日、指定された時間に指定されたレーストラックへと到着した。だが、そこには提案者のアリアスさんはおろか、だれも居なかった。

 

「誰も…いない?」

「もう少し待ってみようか?」

「そうしよう。準備運動やアップ等も済ませておけばいい」

 

トレーナーの言葉にうなずき、準備を始める。

 この時点で考えられることは2つ、1つは単純に相手が遅れていること。外国人は時間に緩いと言われている節があるからな。そしてもう1つは…考えたくないがあり得るのがからかわれた、ということだ。ヨーロッパに根付くアジア差別は深いと聞いたことがある。トレーナーもおそらく同じことを考えているだろう。杞憂であればいいのだが…。

 

『アレ?本当に来たんだ』

 

後ろから声をかけられ、振り向く。そこにはウマ娘数人がこちらを見下すような態度で立っていた。中にはここへ着いた初日に絡んできたウマ娘もいる。

 

『こんにちは、君たちがメールにあった模擬レースの相手かな?アリアスさんと話したいんだけど、彼女は今どこに?』

『アリアストレーナーは今いない。なぜなら出張中だからな』

『……どういうことかな?』

 

なるほどな、読めたぞ。

 

『これは私たちの独断だ。気に入らんアジアンを模擬レースで分からせてやろうと思ってな?』

『トレーナーは優しすぎる。碌に走れもしないやつにここ(フランス)は相応しくない』

 

走れるかどうかなんて分からないだろうに…。とんだ言い分だ。だが、予想通りだ。もしフギン達を連れてきていたら乱闘に発展していたかもな。連れてこなくてよかった。

 

『要するに、君たちは遠国から来た私が気に食わないわけだ』

『違うな、過去何回も挑戦しに来ては無様な結果しか残せなかったような弱小国に、公式戦で敗北して恥をさらさないよう私たちは気遣っているのだよ』

 

リーダー格と思しきウマ娘がそう言い放つ。

 

『ここ最近来ないから立場を弁えたのかと思えばまた無謀にも挑戦に現れたからね、叩き潰しとこうと思って』

『そしていつも最後はこう言うんだ。”国では負けなしだったんだ”って。私達に秒で負けてるくせにね。どうせそこのそいつもその口だろ?』

 

 それ以降も飛び出す彼女らの言い分をトレーナーは静かに聞いていた。口元に小さな笑みを浮かべながら。私は彼のあのような表情を見たことがない。

 

『それじゃ、レースしようか』

 

トレーナーの大人しい声が響く。落ち着いているが、どこか怒気をはらんでいるようにも聞こえる。

 

『は?』

『そこまで言うってことは、相当自分の実力に自信があるんだろ?”アジアンなんかには負けない”っていう自信が』

『当たり前だ。走る距離はそちらが決めていいぞ。そのくらいのハンデがないと可哀想だ』

『そうか、そりゃこちらが決めた方がいいだろうな。こちらの得意距離ならば負けてもまだいい訳できるもんな?”私の得意距離じゃありませんでした”ってな』

 

…どうしようか、トレーナーが多分キレている。優しい言い方もとれてしまっている。周りで自分よりも怒っている人がいると冷静になれるというのは本当らしいな。

 

『ッ、テメェ!』

『なんだよ、自信があるんじゃなかったのか?』

 

激昂した1人のウマ娘がトレーナーに掴みかかる。流石にマズい、トレーナーは人間だ。

 

『言われて頭にきたのならばレースで示して見せろ』

 

だがトレーナーは詰め寄られながらも落ち着いて言葉を返す。

 

『仮にも一国の代表としてきている俺たちに喧嘩売ったんだ、覚悟はできているんだろうな』

『ッ…』

『追加で俺の担当も貶したんだ。やったことは取り消せないぞ』

 

トレーナーの言葉にビビったのか、奴らは少し大人しくなった。私も怒っていないわけではなかったが、今はそれよりも彼がしっかりと怒ってくれたことに少しの驚きと、うれしさを感じていた。

 彼は深呼吸をした後、私に話しかける。

 

「アル、実力の7割以下で走れるかな」

「…何故だ?叩き潰すのであれば全力の方が」

 

トレーナーは首を横に振った。

 

「トモの成長具合や俺程度の挑発に揺さぶられる精神性からしてこいつらはこの距離では強くない。それに精神性も格下を相手にして遊ぶタイプだ。十分にやれるはずだと思うよ。もし、万が一無理な時はそれ以上を使ってもいいから」

「了解した」

「…全員墜としてこい」

 

…どうやら、今回のことは彼にとって深呼吸1つで抑えられる事案ではないようだな。まぁ、当たり前と言えば当たり前だが。

 

『ゲート操作はこちらで行う』

 

 フランスのウマ娘のうち1人はゲート操作を行うようだ。それ以外に参加する人数は5人。少ない人数だが、公式戦でありえない人数ではない。洋芝レースの参考にさせてもらおう。

 

『お前、あんま喋らないんだな』

 

連中がゲートの用意をしている間、その中にいた1人が話しかけてきた。先ほどまでの会話でこいつは一言も発していない。

 

『これまで私達に絡まれた日本の連中はみんなこぞってやかましく食って掛かってきてたんだけど。お前、悔しくないの?』

 

 悔しくないの、と来たか。

 

『悔しくないわけではないさ。ただ、普段ずっと笑っているだけの彼がここまで感情をあらわにすることに対する驚きの方が強くてな』

 

それを聞いた彼女は少し考えてから言った。

 

『もしかして私達、怒らせたらヤバい人怒らせた?やらかした?』

『今更か?まぁ安心するといい。私が勝つことでこの件が国際問題へと発展することはなくなる』

『ははっ…そうなれば助かるかも。…1つ教えておくよ。テネーブル…えっと、リーダー格のあいつ、平気で転倒するレベルのラフプレーするからそこだけ気を付けてね』

『急に従順になるじゃないか。まぁ、情報には感謝しよう』

 

 ちょうどその時ゲートが用意できたようだ。差別発言が見られるとはいえ姑息な手段で潰そうとしない所や、しっかりと現地側でゲートを準備してくれる当たり根っからの悪い奴らではなさそうなところは救いでもあり悲しい所でもあるな。

 用意されたゲートに入る。当たり前のように大外に入らされた。まぁ、これまでのレースで大外ではなかったことがないから全く問題ない。むしろ6人レース故いつもより内枠と捉えられるくらいだ。

 距離は2000m。私が獲った東京優駿よりも短い距離だ。もっと長くても良かったのだが、いまだレースをしたことの無い洋芝で走るのは無理があると判断した。

 

(おや、さっきの…名前を聞くのを忘れたな。その子がトレーナーと話している。トレーナーはどこかへ電話…?)

 

『始めるぞ』

 

(いかんな、集中せねば。)

 

 視線を前方に戻し、ゲートが開くのを待つ。ゲートは日本のものと変わらない。スタートの要領は変わらないだろう。

 呼吸を整える。出すのは7割、作戦はいつも通り。

 

 ゲートが開く。

 

 いつも通り、少し遅いくらいで飛び出す。だが、私は他5人と並走していた。

 

(並走!?こいつら全員追い込みか?それともこの速度が普通の出方なのか?)

 

これまでになかった事態に戸惑う。だが、テネーブルをはじめとする連中はその後加速して前に出てくれた。一安心だ。

 

(このことから考えるにここではあのスタート速度が普通なのだろう。日本が早すぎるのか…?いやそんなことが…。よく分からない)

 

思考を回しつつ、私は彼女らにぴったりとついて行く。ついて行けてしまう。それも6割…いや、それにも満たない力で。

 

(遅い)

 

手を抜かれているのか、はたまたこの程度がこいつらの全力なのか。なんにせよ領域を使うまでもない。

 第1コーナーで、外側から下位2人を抜かす。威圧する必要も何もなかった。*1連中は驚いたような顔をしているが、そこまで驚くほどのことではないはずだ。レベル的にはトウカイテイオーに遠く及ばないだろう。日本のクラシック級にて何回かまみえた相手の走りに似ている。このレベルで私に喧嘩を売ってきたのか…?

 足元に絡みつく洋芝はやはり走りにくいが、トレーナーと行った練習のおかげでそこまで苦労せずに走ることができている。本来の実力とまではいかないが十分だ。

 第2コーナーも終えて向正面に入るころにはもう既に上位3人のすぐ後ろに着くことができていた。

 

(前に出ることも可能だが…下手に抜かして不意打ちでラフプレーされても困るからな…)

 

『前の3人、速度を上げることは可能か?』

『ッ、ハァ?お前、何で喋って…』

 

3位の奴が驚いたような声を出し、速度帯が逆に落ちる。

 

(あぁ…これはただ単にレベルが低いのだな。私に気をとられてペース管理ができていない。今のでペースを崩さなかったのはトップ…テネーブルだったか?そいつだけだ)

 

『もういい、分かった。行かせてもらう』

 

身体を大外に振って加速する。6割ほどの力だが、まぁ、普通に抜かすことができている。テネーブルも少し粘っていたようだったが、向正面が終わるころには私はトップに立っていた。

 

(もうトップ…公式戦ではありえなかった展開だな)

 

 その後、特に面白い展開はなく、私は新鮮味と、ある種の失望のような感覚を抱えながらそのまま難なくゴール板を通過した。

 

ーーー

 

『ッ、ハァ…ハァ…クソッ』

『……』

 

 ゴール後、連中は肩で息をしながら立っていた。分かってはいたが改めてレベルの低さを感じる。

 

『こんなに強いなんて…聞いてねぇぞ!』

『言ってないし、もう少し上のレベルだと思っていたからな。正直拍子抜けだ』

 

未だに膝に手を突いたままこちらを見ようとしない彼女にそう語りかける。まぁ、今私を見たくない気持ちは分かる。恥ずかしいだろうからな。

 

 『ラフプレーかます余裕すらなかったようね?…テネーブル?』

 

そんな彼女らが突如響いた声で一斉に顔を上げた。私の背後から聞こえてきたその声は聞き覚えのある声だ。

 

『ト…トレーナー…!?』

『私言ったわよね?余計なことをするなって。大人しくしててねって。その大きな耳は飾りなのかしら?』

 

周りが斜面になっているレーストラック。その斜面の上からこちらを見ているのは彼女らのトレーナー、アリアスさんだ。ニッコニコではあるが、ある種の凄みを感じさせる表情だ。テネーブルたちは目に見えてうろたえ始める。

 

『大事なお客様に喧嘩売って、アルカンジュさんたちが寛容じゃなかったらとっくのとうに国際問題なのよ?』

 

近づいてくるアリアスさんの顔を見る限り、相当怒っているらしい。

 

『トレーナーは出張中のはずじゃ…?』

『仕事が終わって一休みしてから帰ろうと思ってたらアルカンジュさんのトレーナーさんから電話があったのよ。アンターミディアの携帯からね』

 

アリアスさんは先ほどゲートインの前に話していたウマ娘を見やってそう言った。なるほど、彼女はそう言う名前か。

 

『あなたたちにはみっちり”お話し”する必要がありそうね?』

『うっ…それは…』

『言い訳しない!!さっさと準備してトレーナー室で待ってなさい!!』

『イ、イエスマム!!』

 

テネーブルたちはアリアスさんの声に反応してバタバタとレーストラックから出ていった。

 

『アンターミディア、あなたもよ』

『エッ』

『分かってて止めなかったでしょう、あなた』

『うっ…いやでも…』

 

彼女は縋るような目でこちらを見る。

 

『アリアスさん、彼女は…』

『いいえ、アルカンジュさん。情けは無用です』

 

介入する余地は与えられなかった。すまないアンターミディア。無力な私を許してくれ。

 とぼとぼとレーストラックを去る彼女を見届けたアリアスさんはこちらに振り返って、勢いよく頭を下げた。

 

『今日の事、本ッ当に申し訳ありませんでした…!あの子たちには私の方から厳しく言って聞かせておきますので、ここはどうか留飲を下げていただけるとありがたいのですが…』

 

トレーナーは私に”どうする?”と言った意味ととれるアイコンタクトを送ってきた。”問題ない”の意味を込めて軽く首を振る。彼は理解したようだった。

 

『顔を上げてください、アリアスさん。最初は少し驚きましたが、これもいいトレーニングになりましたので大丈夫です。そこまで怒ってもいませんし、アルも問題ないと言ってくれましたので。今回のことは水に流すということでどうでしょうか?』

 

アリアスさんはその言葉に顔を上げてほほ笑んだ。

 

『そう言っていただけて本当にありがたいです。本当あの子たちは目を離すとすぐこれで…困ってしまいます。本格的なお詫びはまた後日、改めてお伺いさせていただきますので今日のところはこれで。あの子たちにキッッッチリ言って聞かせないといけないので…。あ、ここのトラックはあの子たちが終日予約にしてしまったみたいなのでそちらで使っていただいて結構です。他のチームもいますが、広いので問題はないかと。何か言われたら私の名前を出してくださいね』

『ハハハ…大変ですね。じゃあ、ありがたく使わせてもらいます』

 

 アリアスさんはこちらに頭を下げながらレーストラックから去った。テネーブルたちともう少し話して居たかった、具体的にはもう少し煽りたかったが仕方ない。そこまで大事にならなかったことに喜ぶべきか。

 

「アル、今日はこのままトレーニングにしようか?」

「…それもアリだな。フギンとムニン……ゴルシも呼ぶか。繋がればだが」

「ハハ…彼女は自由人だね」

 

トレーナーは苦笑いでそう言った。電話は……おや、繋がった。

 

「ゴルシか?今から第4トラックでトレーニングをするんだが一緒に」

「”行くに決まってんだろ!少し待ってろ~?今飛んでいくから”」

「そ、そうか…。トレーナー、来るらしいぞ」

「了解。フギンとムニンは呼んだからもうすぐ来ると思うよ。彼女たちが到着するまで……休むか」

 

トレーナーと二人でトラックの斜面に腰を下ろしてしばしの休憩である。

 

 「アル、あれ見える?向こうで走ってる子」

 

トレーナーが指さす先には何人かがレーストラック対岸でスタートダッシュの練習をしているのが見えた。

 

「多分あれ、ドイツ代表チームの一角だよ。おそらく凱旋門賞でぶつかる相手だから観察しておいて損はないかも」

「了解した。それと、トレーナー」

「何?」

 

彼がこちらを向く。

 

「さっきのレース前のことだ。あいつらに対してトレーナーが怒ってくれたこと、私は嬉しかった」

 

彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まる。

 

「…なんだ、そんなに意外かね」

「い、いや。まぁ…うん。アルがそうやって自分の気持ちをストレートで言うことってなかなかないから…」

「私だっていうときは言うさ。ありがとう」

「どういたしまして…」

 

彼が目を逸らした。心なしか顔が赤いように見える。

 

「おやおやおや…トレーニング聞いて来てみたらなんかいい雰囲気?ゴルシちゃんはお邪魔だったかな~?」

「……いや、そんなことはないよ。さ、トレーニングを始めようか」

 

 突然背後からゴルシが現れた。トレーナーは立ち上がって斜面を下っていく。

 

「来たか。待ってたんだ」

「オメーはもうちょっとからかい甲斐のある反応をしろよな~」

 

私もそれに続いてトラックへ降りる。フギンとムニンもちょうど来たようだ。

 

 

 フォワ賞も近い。気合を入れていこう。

 

 

ーーー

 

 後日聞いた話だが、アリアスさんのトレーナー室からはこの日、凄まじい怒号が聞こえてきていたらしい。怖いな。

 


 

 

 

『あの子たちじゃダメだったようね…。凱旋門賞出走は止められない、か』

*1
無意識に威圧はしている




更新が遅れ申し訳ないです。今見てくれているすべての方々に感謝を。

tips!! トレーナーは喧嘩売ってきたテネーブルたちを普通に許していない。
tips!! アリアスさんは怒らせると怖い。
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