モブ娘をどうするか悩んでいたのですが、アプリのモブウマ娘は創作が大半という事実を目にしたので創りました。今回のメイクデビューのウマ娘達はほとんど架空です。サクサク展開で行きますよー!
メイクデビューなので初の公式レース場でのレースです。
あと自分、史実馬の世代とか全く分からないので適当に出します。これはアウト!というものがありましたらコメントをくださいオネガイシマス。会長とテイオーを同時に出しちゃいけない程度の知識しかないので…
MISSION 6 「Make debut」
メイクデビュー。それは新バ戦とも表記されるレースで、その名の通りこれまで公式レースに出走したことのないウマ娘のデビュー戦である。
これに勝てない者は未勝利戦以外に挑むことはできない。つまり勝たねば奴…トウカイテイオーと同じ土俵に立つことすら許されないのだ。
「それで?そのメイクデビューとやらはいつ開催されるのだ?」
「六月後半に開催だから、今から一か月後かな。ただ、問題なのは中距離部門のメイクデビューに確実にトウカイテイオーが出てくることだね。基礎トレーニングのおかげで選抜レースの時より格段に身体能力は上がったけれど、向こうもそれは同じはずだ。真っ向からぶつかれば勝負は分からない」
「トレーナー、一つ聞きたいのだが、もしメイクデビューで奴に負けた場合、私は二度と同じ土俵には立てないのか?」
私がそう聞くと、トレーナーは軽く首を振った。
「メイクデビューは何回もあるんだ。来年の二月までに一回でも勝てばトウカイテイオーと同じ路線に進むことは可能だよ。だからアルカンジュにはトウカイテイオーを回避して、一個前のメイクデビューに出てもらおうかと思ってる。別にこれは逃げたとかそういう風にはとらえられないと思うから安心していいと思うよ」
私は胸をなでおろした。デビュー戦が最後の戦いになるのは避けられそうだ。そう安堵していると、トレーナーがそういえば、と言って付け足した。
「アルカンジュ、ウイニングライブって知ってる?」
…?アイドルでも見に行くのだろうか?この大事な時期にそんなことはしたくないのだが…
「…その顔は知らなそうだね。授業で教えられると思うんだけど」
悪いな。歴史の授業と実習以外は全て寝るか遊ぶかしているのだ。最近は消しゴムドミノにハマっている。
トレーナーはため息をつきながら私にウイニングライブの何たるかを説明し始める。なんでもそのレースの勝者はファンに感謝を込めてライブを執り行うのだとか…
「ちょっと待った。勝ったら踊らなければならないのか?」
「え?勝たなくてもバックダンサーとして踊るよ?ほら」
そう言ってトレーナーはスマートフォンで過去に行われたウイニングライブの映像を見せてくれた。
そこには、笑顔を観客に振りまきながらフリフリの衣装を着て踊るウマ娘達の姿があった。センターが一人、両サイドに二人、それ以外がバックダンサー…か…。
…私は…このフリフリの衣装を着て踊らなければ…ならないというのか…?しかも笑顔で…?
「冗談がきついぞ、トレーナー」
「残念ながら、これは現実だぞアルカンジュ。ウマ娘のレースはファンの皆様がいてこそのレースなんだ。感謝の気持ちを忘れてはいけないんだ」
だからと言って…!ライブはないだろう!私に(精神的に)死ねというのか!いくら外面が年相応の少女だからと言って…これはきついぞ…。
「ちなみにだけど明日からの体育の授業はメイクデビューのウイニングライブの練習になるからね。しっかり踊れるようにしておくんだよ」
「私が…ライブ…」
「大丈夫大丈夫。アルカンジュ、顔もいいし運動神経もいいんだから」
トレーナーが私を激励するものの依然としてやる気は出てこない。
ここで「外面かわいいんだからいいじゃん」という諸君は考えてみてほしい。私は前世は男でしかも精神が成熟しきった老人だった。それがいきなり十代に生まれ変わり笑顔で歌って踊れと言われるのだぞ?できるわけがない。
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と、言っていたのが昨日。あの後色々とゴネたものの私に拒否権などあるわけもなく、今日から練習が始まる。ジャージに着替えて体育館にクラス全員で集合し、指導が始まった。
「今日から皆さんに練習してもらう曲は「Make Debut!」。言わずと知れたメイクデビューのウイニングライブ曲ですね。最初にバックダンサー用、次はサブセンター用、その次にセンター用の振り付けを全員でやっていきます」
優しそうな指導担当のウマ娘が喋り終えると、その後ろに控えていた些か強面のウマ娘が一歩前に踏み出して喋り始めた。
「やるからには全力でやれ。中途半端にやっている姿は醜いからな」
その言葉に、私は目が覚めた気がした。
そうだ。精神が老人だからなんだ?そんな自分しか分からない理由でうじうじしているのが一番恥ずかしいではないか。あの教官の言う通り、やるからには全力でやらなければ。
「アルちゃん、センターポジションは譲らないからね」
隣にいたトウカイテイオーが小声で話しかけてくる。
「トウカイテイオー、悪いが私はアンタの一個前のメイクデビューに出る予定だ」
「えぇっ!?」
トウカイテイオーが決して小さくない声を上げたとき、ふと視界の端で例の強面教官がこっちを見ているのが分かった。なので、私は人差し指を立てて口の前に持ってくる。そしてアイコンタクトで教官の方を見るように伝えるとトウカイテイオーは「ピィッ!」と短く鳴いて慌てて姿勢を正した。実に面白い反応だ。
丁度説明が終わり、ダンスレッスンが始まる。
…覚悟を決めたとはいえ、(精神的に)辛かったとだけ言っておこう。
ーーー
時が経つのは早いもので、ダンスレッスン開始から約一か月が経過した。そして慣れとは怖いものだということも改めて実感した。ライブの練習が苦にならなくなり、寧ろ体を適度に動かせて楽しいと感じるまでになってしまったのだ。まぁ、それはとてもいい事なのだがね。
「アルカンジュ!応援してるからね。負けないでよ?」
控室に制服姿のトウカイテイオーが訪ねてきた。再三いうが今日のメイクデビューに彼女は出ない。彼女と戦いたかったというのが本心ではあるが、その楽しみはクラシック路線の大舞台まで取っておくことにしよう。
「見ておけ。全員叩き墜としてやる」
「あーあ、可哀想に。今回の出走メンバートラウマにならなきゃいいけど…」
トウカイテイオーは苦笑いで肩を竦めた。丁度その時、出走メンバーの紹介が始まる旨の放送が鳴った。
私は八枠八番。紹介は一番最後ではあるが、待機する地下道に移動するために体操服の埃を払って立ち上がる。
地下道へ着くと私以外の出走メンバーはもう到着していた。一枠一番を呼ぶ放送が鳴り、先頭の子が光の中に消えていった。
私はトレーナーと事前に確認していた出走メンバーの確認を心の中で始める。
『一枠一番、バレットライナー。5番人気です』
逃げが得意なウマ娘。だがスタミナはそこまでない。
『二枠二番、ブラックファルコン。4番人気です。』
これまでのレース全てで差し策を執って掲示板入りを果たしているウマ娘。実力はある。
『三枠三番、ハリラドン。8番人気です』
これまでのレースを何らかの理由ですべて欠席、データが何一つないウマ娘…こいつは注意しておこう。何かしでかしそうだ。
『四枠四番、ゲンエイユウシャ。3番人気です』
安定した先行策によるレース運びで模擬レースでは一位を一回、その他は掲示板入りを果たしているウマ娘。要警戒だ。
『五枠五番、マヤノトップガン。1番人気です』
問題はコイツだ。脚質が毎レースばらばらで、尚且つ必ず一位にいる脚質変幻自在とでもいうべきウマ娘。今回はどの策を執るのか、最も警戒すべきウマ娘だ。
『六枠六番、スペリオルドーラ。2番人気です』
先行脚質で、他人からの威圧などを一切ものともしないような走りを毎回しているウマ娘だ。マヤノトップガンよりは脅威度は下がるが…かなりの強敵ではある。
『七枠七番、ルインフォース。7番人気です』
差しが得意なウマ娘。パワーに物を言わせる豪快な走りが特徴だが、成績にムラがある。そこまで警戒しなくていいだろう。
『八枠八番、アルカンジュ。6番人気です』
私が呼ばれた。光あふれる地上へと出ていき、観客席に向かって右手を胸に添え、一礼する。他のウマ娘達は恐らく何かしらのポーズをとるのだろうが、生憎私には気の利いたものが思いつかなかったため、普通の礼にすることになったのだ。つまらないか?私もそう思う。だがいいのだよ。勝てばいいのだ。
当たり前ではあるが観客は少なく、まばらに起こった拍手を背に、私はゲートに入ることになった。
『それでは三番人気から振り返っていきましょう』
全員がゲートに入った後、アナウンスが流れる。
『3番人気はゲンエイユウシャ』
『前回レースより主にスピードを鍛えてきたみたいですね。好走を期待しましょう』
『2番人気はスペリオルドーラ』
『いつも通り落ち着いていますね。今回も我が道を往くと言ったレースは見られるのでしょうか』
『1番人気はマヤノトップガン』
『今日はどんな走り方で来るのでしょうか。変幻自在の脚質、楽しみですね』
いよいよ始まる。
『さあ準備が整ったようです。絶好の天気に恵まれた東京レース場、ジュニア級メイクデビュー芝2000/左…スタートです!各ウマ娘、そろって綺麗なスタートを切りました』
ガシャコン!
勢いよく開いた金属のゲートから前へと飛び出す。実況の様子からして私はうまくスタートを切れたようだ。1か月の間にスタート練習をしておいた甲斐があったというものだ。
『先頭はバレットライナー。快調に飛ばしていきます』
『予想通りのレース展開ですね』
私はスタート直後にちょっとだけ足を緩め、これまたいつも通りバ群の最後尾につく。前を走るのはブラックファルコンとルインフォース。その少し前にハリラドンか。データがなかったハリラドンだが、どうやら差しのようだな。
そろそろ第一コーナーに差し掛かる。ペースは早すぎず遅すぎずといった私にちょうどいい具合だ。では、そろそろ始めるとしよう。
どこまで耐えられるかな?
『おっと、ブラックファルコンが苦しそうに走っています』
『後続のアルカンジュの威圧でしょうか。メイクデビューでは珍しいですね』
足を強く踏み込み、大きな音を立てる。もちろん距離は一定を保ったままだ。
「ッ…ハァッ…カッ…」
『おっと、ブラックファルコン失速!?アルカンジュ、うまく躱して順位を上げた!』
まず
その後すぐ、予想通りルインフォースはペースを変えていない私に抜かされた。前にはハリラドン。実力は未知数だ。よって油断せずに慎重に威圧をかける必要が…
「ウッ…くぅ…」
…ないようだ。何なのだコイツらは?貧弱すぎやしないか?トウカイテイオーなら(多分)耐えるというのに。*1
『第二コーナーを回って向こう正面に入ります。順位を振り返っていきましょう。先頭は依然としてバレットライナー。2バ身離れてマヤノトップガン。そこに並ぶようにしてゲンエイユウシャ。1バ身離れてスペリオルドーラ。その後ろ3…いや、2バ身離れてアルカンジュ。前との距離を詰めていきます。その後ろ5バ身程離れてハリラドン、その後ろにルインフォースとブラックファルコンが走る縦長の展開となっています』
『アルカンジュの威圧によって差し組が壊滅しましたね。予想できなかった展開ですよ?』
私は前を走るスペリオルドーラをロックオン、先ほどまでと同じように威圧をかける。足音をやや大きく立てる。今までの奴らはこれだけで目に見えて動揺しペースを乱していたのだが、この前を走るスペリオルドーラ、どうやらそっち方面に耐性があるようだな。動揺は見て取れない。
だが私の手はこれだけではない。足音が聞かないのならば殺気をぶつければいいだけの話だ。年の功のおかげで殺気のコントロールは人よりもかなりうまくできる自信があるのだ。
殺気をぶつけた途端、それから逃げるように僅かではあるが彼女がスピードを上げたのが分かった。なぁ、アンタ。
ーーその速度で曲がれるのかい?
『第三コーナーに入ります。おっと、スペリオルドーラが大きく外に膨らんだ!』
『明らかなオーバースピードですね。掛かってしまったのかもしれません』
スペリオルドーラが外に膨らんだおかげで空いたインコースを突く。当の彼女はスピードを制御するのに忙しく、こちらに対処する暇はないだろう。ありがたく前に行かせてもらうとするよ。
『アルカンジュがスペリオルドーラを抜かして4番手に躍り出た!大ケヤキを通って4コーナーへ。間もなく最終直線です』
『ここからスパートです』
私は一つ気が付いた。今からマークで落とそうとしていてはどうやっても間に合わないという事に。スパートで勝負を仕掛けるしかないだろう。そうと決まれば後は簡単だ。
前傾姿勢を取り、威圧をかける時よりも力強く芝を踏み抜く。倒れそうになる身体を前へ前へと加速することで生まれる空気抵抗により支える。もし仮に今私が加速をやめたら顔面からコースにダイブする事だろう。
『ここにきてバレットライナー失速!スタミナが持たなかったようです!あぁっと、ゲンエイユウシャがそのあおりをくらって失速、マヤノトップガンが一位に躍り出ました』
垂れてきた二名を軽くいなし、一位のマヤノトップガンを捉える。
『これは決まったか…?いやまだだ!後方からアルカンジュが迫ってくる。すごい末脚だ!?』
『これは…かのオグリキャップを彷彿とさせるようなスパートですね』
『二名が並んでデッドヒート!両者譲らない!?』
最高速に到達した私の脚は快調に、まるでエンジンのように回り続けている。
そして、徐々にではあるがマヤノトップガンとの差が開いてくる。もちろん、私が前だ。彼女の苦しそうな表情を後目に、私はレースを制した。
『アルカンジュがわずかに先行しているか!?今ゴールです!』
上半身を起こし、息を整える。掲示板には「確定」の文字と、一位の場所には八番。私の番号が灯されていた。差は1/2バ身。ギリギリの戦いだったと言えよう。全員をマークで墜とすことは叶わなかったものの、一位を取れたので良しとしよう。
私は立ち止り、数少ない観客に向けて最初に出てきた時と同じように手を添えてお辞儀をした。小さいながらも歓声と拍手が沸く。なんとも嬉しいものだ。
『この後はウイニングライブです。レース出走者は準備をしてください。観客の皆さんは…』
流れるアナウンスを聞き流しながら地下道へ入る。
「ねぇ!アルちゃん!」
背後から呼び止められ、振り向くとそこにはマヤノトップガンがいた。にこやかな表情を貼り付けているが、目は全くと言っていいほど笑っておらず、闘志にあふれている。
「なんだ、マヤノトップガン」
「私ね、初めて負けたの。でも悔しいとかそう言うのじゃなくて、なんだかワクワクしたの」
「…ほう?訳を聞こうか」
聞かずともこの先紡がれる言葉は容易に想像できたが、一応聞き返す。彼女は若干溜めた後、笑っていない目でこっちを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「アルちゃんを負かすっていう目標ができたから!」
それはまさしく猛獣の目だった。こちらを射抜いて逃がすまいとする目。この感覚はいつぶりだろうか。若いころ同期にライバル視された時以来だろうか?
「フッ…やってみろ。いつでも挑戦は受けてやる」
「そうやって余裕でいられるのも今のうちだけだよ?」
背は私の方が高いため、彼女を見下ろすようにして見えない火花が散る。
このにらみ合いは怯え切ったレース場職員が噛みながらウイニングライブやるから早くしてという旨を伝えに来るまで続いた。*2全く、今後がとても楽しみだ。
控室前に来ると、トレーナーが壁に背を預けていた。こっちに気が付くとトレーナーは猛ダッシュでこっちに近づき、手を取った。
「メイクデビュー一着おめでとう!手に汗握る展開でとても楽しかったぞ!俺はウイニングライブ最前席で見るから!じゃ!」
そして嵐のように過ぎ去っていった。思わず笑みがこぼれる。小林…実に面白い奴だ。
その後、私は大急ぎで汎用衣装に着替え、ステージへと向かった。ヒラッヒラのこういった衣装は慣れないが、じきに慣れるだろう。慣れなければいけないのだ。
ファンファーレのような前奏が鳴り響き、曲が始まる。
…トレーナー。貴様なんちゅう格好をしているのだ?法被にサイリウム……大丈夫だろうか?
トウカイテイオーまで!?…いかん、どうにかなりそうだ。
ーー
私は私にできる最大限の笑顔と共に、「Make Debut!」を歌い、踊りきった。ミスは無し、理想的なウイニングライブだったことだろう。ただ、ものすごく疲れた。ダンスなどによる疲労よりも最前列でサイリウムをぶん回すトレーナーとトウカイテイオーを見続けたことによる心労の方が大きいかもしれない。
私…マヤノトップガンは今日は初めて負けた。でもとっても楽しいレースだった。もちろん、これまでのレースが楽しくなかったという訳ではないのだけれど、どこか物足りないと思う感じがあった。それが今日、埋まった気がした。
その日の夜、私は部屋で次のメイクデビューに出るメンバーを確認していた。見た感じ、皆にはちょっと悪い言い方だけど簡単に勝てる気がした。早くデビューして、アルちゃんに黒星をつけたい。今からそれが楽しみで仕方ない!
「マヤノ、どうしちゃったのさニヤニヤ笑っちゃって」
同室のテイオーが不思議そうな顔で私の顔を覗き込んできた。彼女もまた私が負かす(予定の)ウマ娘の一人だ。
「今日のメイクデビュー楽しかったなーって。ライバルが出来ちゃった」
「ボクは?」
「テイオーとはまだ走ったことないから分からないかなぁ」
私がそういうと、テイオーはニヤッと笑って言った。
「ボクはアルちゃんに勝ってるけどね」
「でもそれアルちゃんのフォームがガタガタの時のレースだよね?」
「か、勝ちは勝ちだもん!今やっても勝てるし!」
テイオーの言葉に嘘はないだろう。彼女のトレーニングを遠目に見る限りここ最近さらに実力を伸ばしてきている気がする。…私も頑張らなくちゃ。
「あ、もうこんな時間だ。マヤノ、電気消していい?」
「あ、いいよー」
パチン、と電気が消される。私はこれからの出来事に思いをはせながら眠りについた。
マヤノトップガン、参戦!
アルカンジュ、デビュー!
話としては書きませんがテイオーもマヤノも順当にデビューしてきます。
次のお話の内容を決めあぐねているので更新までしばらくお待ちください。ここにきて見切り発車のデメリットがぶっ刺さってます(泣)