A.そうかな……そうかも……
「良し、帰るか!」
「いや、ダメだが……」
「fuck」
解散から数時間後。もう終わりだろと帰ろうとしたら司波兄に捕まった俺は、そのまま生徒会室に連れてこられていた。なんか会長曰く公開討論会をするらしく、そのために俺と司波兄妹、風紀委員長の渡辺先輩と部活連会頭の十文字先輩が集められていた。いやなんで?
「さっき話したあの子達、一科生と二科生の平等な待遇を要求するのは良いけど……具体的に何をどうしろっていうのはよく考えてなかったみたいでね。むしろ生徒会の方で考えろってスタンスだったのよ。それで結局押し問答みたいになっちゃってね、最終的に明後日の放課後に講堂で公開討論会をすることで手を打ったの」
「明後日の放課後とは、これまた随分と急ですね……」
「労基駆け込むぞ」
グーパンで発言権が奪われた。
「それについては心配無いわ。こちらから討論会に参加するのは、私1人だけだから。打合せ不足で小さな食い違いを起こして、そこから印象操作で感情論に持ち込まれる方が厄介だものね」
「……つまり会長は、
「それもあるけど、もしあの子達が私を言い負かすだけのしっかりした根拠を持っているのなら、これからの学校運営にそれを取り入れればいいだけの話だしね」
なんか負けたがってる雰囲気あるな、とは
「ちなみにこの公開討論会は、基本的に生徒達には“全員参加”を呼び掛けるつもりよ。1ヶ所に集めておいた方が、万が一の時に対処がしやすいでしょう?」
その言葉を聞いた時、部屋にいる俺以外の人間の顔が強ばる。何かを覚悟するかのように。
「今までは水面下で工作員を増やしていた有志同盟が、放送室を占拠するという強引な手段を取ってまで自分達の存在を主張。私達との交渉の場を求めてきた。つまりここに来て、有志同盟───つまりその背後に潜む組織の中で方針が転換したということ。多分今後は、より過激な手段で攻めてくるでしょうね」
「そんなタイミングで公開討論会が開催されるとなれば、奴らだって黙っていないだろう。おそらくこの討論会を狙って何か仕掛けてくるに違いない、と考えておくべきだろうな。今回の討論会を2日後に設定したのは、討論そのものに対する準備だけでなく、そういった武力行使に対する準備期間を与えない、という意味も含まれている。──────そういうことだな、真由美?」
渡辺先輩のその言葉に、会長が頷く。……ふむ。このタイミングか。俺は手を挙げ、発言権を求める。許可を得たのでガムテープを……いって。とにかくガムテープを剥がし、口を開く。
「現状、俺らが取れる手段は2つですよね。先手を打ってその有志共の背後にいる連中をぶっ潰すか、討論会を開いて襲撃かけてきた連中を迎え撃つか。……
「……私としては、後者を取るつもりよ。本拠地が分からないっていうのもあるけど……どうあれ、二科生と一科生の間に溝があるのもまた事実。これで相手を先に潰して討論会の意味をなくしてしまえば、その溝が埋まることはない。今回は良くても、また何時かそのフラストレーションは爆発してしまう。生徒会長としては、それは見過ごせないわ」
……なるほど。理解した。
「じゃ、襲撃犯を返り討ちにしたら本拠地に乗り込んでぶっ潰す感じで行きましょうか」
「……その言い方だと、本拠地を知ってるように聞こえるけど」
「
その言葉に対しての反応は大小の差異こそあったものの、総じて疑問に思っているであろう素振りだった。
「あ、訂正。厳密には
俺はそう言って携帯端末を起動、ある人物に電話をかける。数コールの後、電話が繋がった。
「もしもし、潤さん?」
『ああ?どーした』
BGMにめっちゃ銃撃音聞こえるな。どんな状況だよ。
「や、この前した依頼の話なんすけど。取り込み中ならかけ直しますが」
『ちょっと待て』
その言葉の後、とてつもない爆発音と轟音が響き渡り乱雑なBGMが止んだ。
『で、なんだっけか。依頼?』
「はい。この前依頼したじゃないですか。"ブランシュ"の本拠地について」
『あー、そんなの受けたな。15分で終わったから忘れてた。トーク画面にでも内容送っとけばいいか?』
「それでお願いします。報酬はいつも通り口座に」
『おう。今回はクソしょぼい案件だったから一万で良いぞ』
「了解です。では」
そう言って電話を切る。すると、通話内容を聞いていた司波兄が質問してくる。
「……今の電話相手が、お前が言っていた知り合いか?」
「ん……知り合いの人類最強だよ」
「人類、最強……ですか?」
「ああ。魔法師じゃねぇが、魔法抜きに全人類で殺し合いしたら間違いなくアイツが勝つ。や、魔法ありでもアイツが勝つかもしれんが。《
「……そんな人間が、この世にいるのか」
「ま、気にしなくて良いだろ。関わったら間違いなく酷い目に遭うが、関わらなければいい話だ……この前車で轢かれたけど」
「大丈夫なんですか、それ……」
あのアマ、『お前なら大丈夫だろ』ってドリフトする形で滑り込んできて後ろからぶっ飛ばしやがって。俺じゃなきゃ大怪我だぞ。
「まあとにかく、俺からの懸念点は大体無くなりました。後は当日のことなんですが……
「こちら側の正当性を主張するために、殺しはなしで頼む」
「了解でーす」
めちゃくちゃ軽く終わった。
その日の夕方。俺は司波兄妹と共に帰路についていると、ふと司波兄が口を開く。
「比企谷、今日のことだが」
「ん?」
「……お前は言ったな。『殺しはありか』、と」
「……言ったねぇ」
「仮に先輩方が『あり』と答えていたら……お前は殺したのか?」
「え?うん。殺すよ」
1+1の答えを聞かれたかのようなその軽い言い草に、2人は戸惑う。
「そりゃ殺すに決まってんだろ。向こうが害しに来てんだからよ」
「……そうか」
「ま、ちょっと八つ当たりもあるけど」
「……八つ当たり、ですか?」
「ああ。ま、気にすんな。極めて個人的な内容だからな」
そうして俺たちは交差点で別れ、各々の家へと帰るのだった。
そして、討論会当日。生徒らがほぼ全員体育館に集められている中、俺は耳にインカムを付けて体育館の外、校舎入口前に居た。理由?決まってんだろ。外部からの襲撃に対しての迎撃要員だ。や、最初は俺も体育館の中にいようと思ったんだけどね。渡辺先輩にも十文字先輩にも「お前のCADは持ち運びが不便だから最初から外に置いておき迎撃までを早くした方が良い」って言われた。「
『私は当校の生徒会長として──────』
いやあ、インカム越しに聞こえてくる生徒会長の演説。正に圧倒的で独壇場だな。こりゃ相手に勝ち目はねぇ。
「──────っと。おいでなすったな」
俺はインカムのマイク機能をオンにして、渡辺先輩に通信を入れる。
「先輩、奴さんが真っ向から来ました。これより接敵します」
『了解。無理はするなよ、こちらも魔法師の端くれだ。多少取り逃してもこちらでカバー出来る』
「あいよ」
そう言ってインカムのマイクを切る。さて、それじゃあどこぞの戯言遣いが首吊り
「たとえ相手がテロリストだろうと、俺の名は比企谷八幡。俺の前では神も悪魔も、王であろうと全席指定、正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」
戦いの狼煙が上げられた。
ここで俺の魔法について、改めて説明しよう。今まで俺が使ってきたのは『音が攻撃の主体であり、魔法はあくまでその補助』であるパターンと『音を使わず魔法のみを使用するパターン』。今回使うのは今挙げた二つを含めた俺の
「作詞作曲、比企谷八幡」
「作品ナンバー……63番」
「『遷延』」
そう呟き、セブンスコード・ドルチェを吹き鳴らす。次の瞬間──────俺に向かってナイフ片手に突撃を敢行したテロリストたちが、次々と足を滑らせてそのまますっ転ぶ。
これが俺の第三の手法……簡単に言えば、『音を魔法の制御に使用する』というものだ。
ぶっちゃけると俺ってそんなに魔法に関して才能があるわけじゃないんだよね。想子の出力調整とかならまだしも、実際に魔法として出力して制御するとなると……せいぜい二科生のちょっと上、一科生の中でも多分結構下の方になる。
だからこそ、音楽を転用した。言ってしまえば演奏しながら魔法を行使することで、魔法の制御感覚と音楽の演奏感覚を無理やり同一化させて何とかこなしてるわけだ。そうやって自分の身体と感覚にしっかり覚え込ませたお陰でこうして魔法を自在に行使出来てるわけだ。
今回使用した『遷延』。こいつは放出系魔法『
「ッ、撃てェッ!」
作品ナンバー19、『停滞』。
「……っとと。危ねぇな」
放たれた弾丸は俺の目の前で停止。そのまま地面へと落下する。今度のは密度操作の魔法だな。空気を収束させ、局所的に空気の密度を100倍にまで引き上げた。幾ら速度を出すために空気抵抗の少ない形状にしているとはいえ、それが100倍になれば流石に弾丸も止まるからな。
「お返しだ。作品ナンバー49、『天地』」
本当ならぶっ殺しておきたいところなんだが、殺すなって言われてるからな。仕方ない。知覚に作用し、平衡感覚どころか上下感覚・左右の感覚すらも失わせる『天地』で軒並みダウンさせておく。周囲に敵影がないことを確認し一息ついたその時、爆発音が鳴り響いた。
「まあ、流石に別働隊いるよなぁ……」
仕方ないので、討論会に出席していない部活動中の生徒らの避難を手伝うとするか。
一方その頃。と言っても八幡が迎撃を終えて移動を開始して少し時間が経ったあたり。雫とほのかは所属しているSSボード・バイアスロン部の部活動に励もうとしていた時に外部からの襲撃を知ったところだった。部員たちが慌てる中、部長の声が響く。
「護身のために一時的に部活用CADの使用が許可されています。でもあくまで身を守るためだからね。……北山さん、危ない!」
「え?」という声が漏れたか漏れなかったか。そんなことは誰にも分からないが、少なくとも事実として。雫とほのか目掛けて、ナイフを振りかざし襲いかかるテロリストの姿があったのは事実だった。
「っ、雫!」
間に合わない。誰もがそう思った瞬間。
「『無間』」
テロリストの影が
「……あれ?」
恐怖に身をすくませ目を閉じた雫が目を開いたが、身体に傷などなく……それどころか、テロリストの姿も視界にはなかった。
「……危なかったな」
「……ひき、がや?」
「おう。俺だよ」
代わりに視界に入ってきたのは、クラスメイトであり初めてそこそこ親しくしている男子、比企谷八幡。
「っ、テロリストは?」
「ん」
その声と共に、上を指さす八幡。それに従い上を見上げると、先程のテロリストが宙に浮いている。
「加重系魔法でアレの重量を減少、移動系魔法で上にやってる。──────さて」
最後の声は、ゾッとするほどに低いものだった。
「
そう言って、魔法を行使。次の瞬間、凄まじい速度でテロリストが空へと打ち上げられる。
「硬化魔法を掛けといた。怪我はしないが……ま、成層圏からの紐なしバンジーを楽しみな」
そう言い捨てた後、部長へと風紀委員としての指示を出す。
「中庭に移動お願いします。十文字先輩が防衛の指揮取ってるんで、中庭に付いたら先輩の指示に従って避難してください」
「わかったわ、ありがとう。みんな、行くわよ!」
そう言って、部長が部員らを連れて移動を開始する。……が。
「……大丈夫か?北山」
雫は動けなかった。そして雫と共にいるほのかも、雫が動けない以上動く訳にはいかず必然的に部長について行けなかった。
「……あんまり。怖くて腰が抜けちゃって」
「……そうか。まあ仕方ねぇよ。これは訓練でも殺陣でも演舞でもない、正真正銘の戦闘なんだからな。多分初めてだろ?」
「……うん」
その雫の呟きを聞いた八幡は、少し考え込むように頭を搔くと口を開く。
「っし、なら中庭まで連れてくか」
「……良いの?」
「ああ。ま、これでなんか遅れても俺が渡辺先輩にドヤされるだけだし気にすんな。こういう時に他の生徒を守るのも仕事の一環だからな」
「じゃあ……お願い」
「おう。お姫様抱っこ、
「幾つか変な選択肢なかった?……じゃあ、おぶってもらっていいかな」
「任せろ。快適さはともかく安全性は保証してやるよ」
そう言って雫を背負うと、八幡はほのかと共に中庭へと走り出した。
……数分後、終端速度である時速約300kmという音速を超えた速度で地面に叩きつけられたテロリストがいたとかなんとか。口から泡を吹き、下半身は何かしらの液体で汚れていた。実質臨死体験なので仕方ないが汚ぇ。
「ここら辺まで来たら大丈夫か?」
「うん、大分楽になった。ありがとう」
「別にいいっての」
そう言って北山を地面に降ろす。すると、インカムに通信が。
「はいこちら葛飾区亀有公園前派出所ー」
『比企谷!お前今どこで何をしてる!?』
「うっせ……や、一回校門前の敵を掃討したんですけど余所で爆発音したんで、部活動中の生徒らの避難の手伝いしてました。今中庭っす」
『そうか……なら悪いが、至急校門前まで来てくれ。お前が倒したのとは別の奴らが来た。現在私たちで抑えてはいるが、数的不利もあって少々厳しい状況だ。応援頼む』
「了解」
俺はそう返答してインカムの通信を切断する。すると、それを見ていた北山が訊いてきた。
「……行くの?」
「ん?ああ。安心しろって、風紀委員の先輩方や生徒会長、司波兄妹だっているんだ。しかもこの布陣を抜いた先には十文字先輩だぞ?テロリスト如きが突破しようなんざ、二万年早いぜ」
俺はそう言って、裏ピースのハンドサインをする。さながら某ウルトラ六兄弟の息子のように。そして、俺は自己加速術式を行使。瞬時に校門前へと向かうのだった。
キツめの加速を施し校内を駆け抜けること10秒。──────あそこか!
「先輩方!」
俺がそう呼びかけると、俺に気付いたのだろう。会長と渡辺先輩がこちらに振り向く。
「比企谷!」
「比企谷君!」
振り返った隙を突こうとするテロリストだが、生憎それを黙って見過ごすような馬鹿はここにはいない。市原先輩、俺、中条先輩による三段構えの連撃が叩き込まれ、その意識を刈り取った。……今の完璧偶然なんだよな。
「手早く済ませたい、一網打尽に仕留めろ!」
「え、複数人同時にやるのって結構疲れるんですけど。普通に一人ずつ仕留めていけば良くないですか?」
「駅前のラーメン奢るから」
「もう一声」
「麺二玉の大盛り仕様、更に唐揚げと炒飯のセットもオプションで付けよう」
「内に秘めたる真の力が漲ってきた」
その言葉と共に、膨大……とまでは行かずとも、相当な量の想子が周囲に吹き荒れる。
「嘘だろコレで買収された挙句この働き方するのか?」
「そんなに高いものなの?駅前のラーメンって」
「今言ったオプション込で1230円(税込)だな」
「安上がりな後輩ね……」
聞こえてんぞ。まあいいや。
「作詞作曲比企谷八幡、作品ナンバー100!対象識別、除外対象:諸先輩方!」
「ぶっ飛びやがれ、『激衝』!」
『激衝』。それは、四系統八種の系統魔法を絶えず
この魔法の最大の強みは対応の難しさにある。なんせ完全ランダムに繰り出され、使ってる俺ですら次に何が叩き込まれるのか分からない代物だ。いやあ、この魔法を編み出すのは苦労したよ。正味この労力に見合ったスペックかと言われると首を横に振るしかないが。
……ま、それでも今回は威力を結構高めにしている。そんなもんが直撃すれば……
「があっ!?」
こんな風にまとめて仕留められるってわけだ。
「これで良し。ですよね、先輩」
「……あ、ああ。真由美、どうだ?」
「……うん、向こうも達也くんが終わらせたみたい」
そうして、俺たちの対ブランシュ一高防衛戦は幕を下ろしたのだった。
哀川潤
『戯言シリーズ』から登場。
作中最強であり、戯言シリーズ本編ではたった一度しか敗北しておらずその際の相手である『人類最終』にして『
というわけでブランシュ襲撃編でした。次回は反撃のブランシュ本部強襲回です。今回の内容を読めばわかると思いますが、雫はヒロイン候補です。作者の推しなので。ハーレムルートに行くかどうかは……まあ九校戦編になったら考えます。
九校戦……出場競技はモノリス・コードとどれ?
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