魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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どうも、少し投稿まで時間がかかりました。
理由?作者は浪人生です。つまりはそういうことです。


第十二話

8月1日の朝。俺達九校戦参加生徒は、会場である富士演習場に向かうためのバスに……乗っていなかった。

ああいや、乗ってないわけじゃない。大半は乗ってる。深雪も北山も光井も乗ってる。ただ、1人だけ……具体的に言うと生徒会長だけがまだ来ていない。

そして雑用(二科生にでもやらせておけと判断されたこと)を押し付けられた達也、そしてその付き添いの渡辺先輩と俺がバスの外で待っていた。……厳密に言うと俺は付き添いじゃないんだけどな。

 

「八幡、バスに入らなくていいのか?冷房が効いてるから涼しいだろうに」

 

「お前への無体にマジギレしてる奴がいるからバスに入ると冷房の効いたどころか効きすぎちまうんだよな」

 

「……なるほど」

 

競技参加者の乗っているバス、具体的に言うと妙に不穏なオーラの漂っている辺りを見て達也が呟く。俺もそちらの方向に視線を向ける。……うん、北山がめっちゃこっち睨んでる。ありゃ『お前だけ逃げやがって』って感情と『早く助けて』って感情が綯い交ぜになった顔だ。俺たちはそっと見なかった事にして渡辺先輩含めて3人で雑談に興じることにした。

 

「……それにしても、何やら鬼気迫る様子で端末を弄っているが。比企谷、何をしているんだ?」

 

渡辺先輩が俺の方を見て呟く。俺は端末であるサイトを開いて、半分瞳孔の開いた目で画面を睨みながら色々と操作していた。

 

「あー……予約っすよ予約」

 

「予約?」

 

「はい。俺ァ特撮の鑑賞……日曜朝のライダーとか戦隊とか、土曜朝のウルトラマンとかが趣味なんですけどね。特撮玩具の大人版とかが予約制でネット販売されるんですよ。今ちょうどそういうやつ、しかも数量限定のやつの予約が出来るようになったんで早いもん勝ちの勢いで予約してるとこです」

 

俺はそう言って、『ほら、今予約したのとは違いますがこんなのっす』と言って『CSMオーズドライバー コンプリートセットver.10th』のページを見せる。値段はなんと税込59950円。約6万円である。

 

「……凄い値段だな」

 

「玩具で6万か……」

 

「ぶっちゃけ音楽家としての仕事で貯金あるから出来る贅沢っすね」

 

そう言って再び端末を操作、いくつかのグッズをカートにぶち込む。あ、CSMサンドライバーの予約始まってる。予約予約と。2つ買お。保存・遊び用と実用で。……え、実用は遊び用じゃないのかって?……ま、それは置いといて。

そんな感じで雑談に花を咲かせていると、俺の耳に足音が届いてくる。この音程の軽さ、間隔……大体身長150cmから160cmの間、体重は50kgないくらいか。これに当てはまるのは……ま、一人しかいないな。俺が音の方向に目をやると、2人も同じ方向に視線を向ける。視線の先には白い……何だこの服。えっと、サマードレスだっけ?とにかく白い服を着た涼し気な格好の生徒会長がこちらへと駆け寄ってくる。

 

「ごめんなさーい!」

 

「……真由美、遅いぞ」

 

「っ、ごめんごめん。2人も、この暑い中待たせちゃってごめんなさいね」

 

「いえ、お気遣いなく」

 

「正味真夏に凍死するよりはマシだったんで」

 

その言葉と共に俺たち4人全員がバスを見る。達也が外で長いこと待たされた原因がようやく来て更に気が立っているのか、不穏なオーラが先程より酷くなっている。

 

「「「「……」」」」

 

「……いや、本当にごめんなさいね」

 

「……八幡、俺からも謝っておく。すまん」

 

「達也が謝ることじゃねぇだろ」

 

「いや、この後バス内に戻ったらお前が相手をすることになるだろうからな」

 

「…………………………なあ達也、エンジニア側の作業車に間借りさせて貰ったり」

 

「無理だな」

 

「クソが……」

 

そう言って頭を抱える俺。原因なので申し訳なさそうな顔をするしかない生徒会長。苦笑いをする渡辺先輩。何だここは地獄か?

 

「ま、まあこれ以上待たせるのも忍びないわ。早く出発しましょう?」

 

その言葉に賛成以外なかった俺たちは、バスに乗り込み演習場へと向かうのだった。

 

 

 

富士演習場へと向かうバス内。……いやマジで寒いな。俺や俺の隣の席の北山は物理的な距離が若干あるからいいが、隣の席になった光井なんて凄いことになってる。冷気直撃だ。ほら見てみろよ。歯の根が合ってねぇ。シバリング*1起きてるぞ。

 

「比企谷、どうにかして」

 

「無茶なこと言ってる自覚ある?」

 

……せっつかれてしまったので仕方ない。

 

「深雪、クソ寒いから落ち着け」

 

「……ですが」

 

「そもそもお前がブラコンなようにあいつも大概シスコンだからテレビ電話でもして雑談に興じればいいだろ。その端末は飾りか」

 

「天才ですか?」

 

「よせやい」

 

 

 

 

 

一方その頃、バスの前側の座席に座っていた三巨頭……真由美、克人、摩利の3人は今回の九校戦で脅威になるであろう生徒の洗い出しを改めて行っていた。

 

「……一条家の御曹司、一条将輝か」

 

「参加競技は『アイス・ピラーズ・ブレイク』と『モノリス・コード』……八幡君とダダ被りね」

 

「下手をすれば『クリムゾン・プリンス』との全面戦争か……」

 

そんな話の最中──────突如、轟音が響いた。

その音を耳にして、3人が咄嗟にその方向を見ると、燃え盛る一台の車両があった。

 

「ッ、危ない!」

 

 

 

 

 

テレビ電話で作業車内の達也に繋ぎ、5人で雑談に興じていた俺たち。

そんな中、俺の耳に奇妙な音が聞こえてきた。

このバスは富士への長距離移動のために現在高速道路を走っている。そして高速道路の速度上限は時速100km。だが、異音に気付いた俺が窓の外……対向車線の方を見ると、他の車と比べて明らかにスピードを出しているオフロード車が。するとそのオフロード車が突如ブレーキを掛けながらバランスを崩し蛇行を始め、続けて路面に火花を散らしながら中央分離帯のガード壁に激突すると、オフロード車はフワリと宙に浮き上がり……宙返りをしながらこちらの車線に飛び込んできた。そしてオフロード車は狙い澄ましたかのようにバスの前方に落ち、火の手が上がる。咄嗟に運転手が急ブレーキをかけ、慣性の法則により内部が激しく揺れる。だがバスが即座に停止できる訳もなく、燃え盛るオフロード車へと突き進んでいく。

 

「吹っ飛べ!」

 

「消えろ!」

 

「止まって!」

 

千代田先輩と森なんとか、北山が魔法を行使しようとする。その瞬間、脳裏にこの前達也から教わったことが過ぎる。俺は咄嗟に北山のCADを叩き落とし、魔法が行使される前に強制中断させる。複数の魔法が同一の対象に無秩序に行使された時、魔法同士が競合を起こして正しく処理されなくなる。とりあえず北山の方はどうにかなったが、残り2人の魔法により事象改変力が弱まってしまう。……こりゃ相当な干渉力が必要になる。……しょうがない!

俺は懐からあるものを取り出す。

それは俺の持つ7つの楽器型CAD『セブンスコード』の一つ……を、九校戦の規格に合わせて達也にチューンして貰った代物。

ドルチェ(コントラファゴット)』が単純な出力の高さを誇るCADならば、このCADは万能性を突き詰めた一品!

 

マイクロフォン型CAD──────

 

「『セブンスコード:レクイエム』ッ!」

 

CADを起動、淡い輝きを帯びると同時にある魔法を行使する。

それは蹂躙の波動。あらゆる魔法を打ち崩し、吹き飛ばす音。

 

「──────Rrrrah(ゥルルルァ)ッ!!!」

 

その叫びが響いた瞬間、無秩序に発動していた魔法の残骸、行き場をなくした想子の奔流が()()()()()

 

「……今のは」

 

勿論俺の魔法が原因なのだが……いや、俺が魔法を行使したからこそ解る。

 

今、魔法に対して俺以外の誰かが干渉し掻き消した。このバスに乗ってたやつじゃない。それ以外の誰かによるものだ。そこまで思考を巡らせたが、ぶつかる寸前という脅威が差し迫っていることには変わりない。現実に思考を戻すと、魔法が掻き消えたのにタイミングを合わせた深雪の魔法によってオフロード車の炎が一瞬で鎮められる。更に十文字先輩が物理遮断の防壁を展開し防御。オフロード車は防壁に激突し大破するも、バス内部は幸いダメージなく危機を脱するのだった。

 

 

 

 

 

事故……いや、ほぼほぼ事件だが。その対処も一先ず終わり、再び富士演習場へと向かうバスの中。先程までの車内とは違い、やや重苦しいものになっていた。雑談などの声も小さくなり、火が消えたような静けさが車内を押し潰す。そんな中、生徒会長から相談が持ちかけられる。

 

「八幡君、ちょっと良いかしら?」

 

「へい」

 

生徒会長からお呼びがかかったので生徒会長の元に向かう。

 

「なんでございやしょうか」

 

「その口調やめてくれないかしら」

 

「七草の姐御!」

 

「誰がヤクザよ」

 

閑話休題。

 

「で、なんですか。さっさと話してくださいよ」

 

「この後輩一回ぶっ飛ばそうかしら」

 

「落ち着け真由美。比企谷も余り揶揄うな」

 

「三年生の中だと一番尊敬度低い方になるんでそれ相応の態度になっちゃうんです」

 

「……一応聞くが、順位はどうなってる?」

 

「一位十文字先輩、二位市原先輩、三位渡辺先輩、四位生徒会長っすね」

 

「まあ、四位ならギリギリ……」

 

「交流あるの4人だけですけど」

 

「実質ビリ!?」

 

いやだから早く話せって。十文字先輩の咳払いによって話を戻すことになり、改めて相談を持ちかけられる。

 

「……音使いとしての技術、どこまで使える?」

 

「というと?」

 

「さっきの一件で皆沈み気味だからな。ここらで一つ一曲演奏して盛り上げてくれないかと」

 

「……楽器ないんスけど。マイクくらいですが」

 

「……曲は流せないのか?」

 

「流せますが」

 

「良し、一曲頼んだ。ある程度前向きになれる曲を頼む」

 

「クソっ、無理解故の無茶振りが俺を責め立てる……ま、悪くない」

 

中条先輩も精神干渉は出来るらしいが……精神などに干渉する系統外魔法は厳しい制限が設けられてるからな。魔法なしで干渉出来る俺はこういう時に強い。ちなみに中条先輩の魔法に関しては前に「精神干渉だけだと弱いんだよなー……もうちょっと火力が欲しいな」って生徒会室で呟いた結果中条先輩がガチ凹みして、その際に知った。俺という精神干渉を自分にある制約なしで使える奴が入ってきてアイデンティティが最近死にかけてるらしい。なんかごめん。

 

というわけで三巨頭からの無茶振りを受けた俺は『セブンスコード:レクイエム』を起動、ただそれだけでは物足りないので端末を起動してインストールしているピアノのアプリを開く。正直音とかが若干変わってくるが……。軽く弾いてみて音を確認。うん、これなら問題なく使えるな。

 

「えー、生徒会長からのご依頼で気分を落ち着けるために一曲演奏させて頂くことになりました。4分と少し、暫しご清聴下さい」

 

俺がそう言うと、先程の一件で漣立って落ち着かない心を向ける先が出来たのだろう。次第に微かなざわめきも薄れていき、周囲にはバスの走行に際して発生する音だけが響く。

 

「それでは、作詞作曲・比企谷八幡。演奏開始──────」

 

群青世界(コバルトワールド)

 

鍵盤を叩き、音を紡ぐ。穏やかで落ち着く、碧い蒼い、真っ青なボーイミーツガール。俺の80000個ある音関連の特技のうちの2つ、声帯模写と自由に任意の音を出せる技術を複合して女性のソプラノボイスを出し、歌い始める。

 

「ぼくにたりないものは きみが全部もってる」

 

「ぼくがなりたいものは きみが望むすべて」

 

何処ぞの戯言遣いと青色サヴァンと知り合って、その2人の結婚の際に作曲して贈った一曲だ。出来は保証するぜ。

 

「出逢った瞬間に きっともうわかってた」

 

「はじまりよりもはやく ことばの裏側に」

 

「いつだってかくしてる 想いはのみこんだまま」

 

「今 ぼくらを閉じ込めている世界なんて 意外とあっけなく変わっちゃうよ───」

 

さて、サビだ。盛り上げていくぜ。

 

「たったひとつの色に染まった ぼくの心の(こたえ)はもう決まってる」

 

「運命なんてわからないけど 手をのばすから」

 

「ことばなんてきっと要らないね きみのメロディぼくのリズムで」

 

「つぐむきもち つむぐゆびさき」

 

「いつもここにいる きみのそばにいる」

 

……曲、終了。音使いの技術で気分が高揚し、明るく前向きになれるようなバイアスを掛けておいた。これで一先ず大丈夫だろう。最前部の座席から立ち上がり、観客である他の生徒らに一礼。お、拍手貰えた。やっぱ拍手喝采は嬉しいね。……ところで、渡辺先輩や千代田先輩の拍手が一際激しいのは何故だろうか。後に生徒会長に聞いてみたところ、2人は彼氏持ちらしい。そりゃ刺さるわなー。

 

そうして気分も持ち直したところで、富士演習場にようやく到着するのだった。

バスを降りて荷物を持ち、宿泊先であるホテルのエントランスに出る。長旅……いや、言ってもそんなに長くないが。まあとにかく長旅の末の開放感でググッと伸びをする。その開放感に暫し打ち震えていると、突如声が響く。

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

「あ?ごっふぁあ!?」

 

背後からの飛び付きタックルで吹っ飛んだ。完全不意打ちである。

 

「っつつ……あー、小町か。久し振りだな。高校進学以来だから……4ヶ月くらいか?とりあえず退いてくれ。ギャグ漫画みたいな吹っ飛び方してエントランス床に突っ伏してるから。視界に大理石しかねぇ」

 

「あ、ごめんね。今退くから」

 

その言葉と共に重さが無くなったのでようやく起き上がり、埃を払って立ち上がる。クソっ、背中と腹と顎とその他諸々が痛ぇ。

 

「ったく、今度からはやるなよ」

 

「はーい!」

 

ため息をついて小町にアイアンクロー。悲鳴をあげているがガン無視である。

 

「八幡、その子は?」

 

その声に振り返ると……何故かいるエリカ。

 

「何でお前がいんだよ……」

 

「家のコネよ」

 

「なるほどな」

 

黙るしかねぇ。エリカが話しかけてきたことでエリカと話していた北山と光井の視線も俺に向いてきた。

 

「……もしかして恋人?」

 

「「いや、ねぇわ(ないですよ)」」

 

「妹だよ。俺が九校戦に出るって聞いて観に来た」

 

「愚兄がお世話になってます!」

 

そう言って頭を下げる小町。愚は余計だ愚は。すると、小町が俺の腕を掴んで少し離れた場所に引っ張ってくる。

 

「美少女ばっかりじゃん!いつの間にテニスサークルに入ったの!?」

 

「言いたいことがめちゃくちゃあるがまずそのテニスサークルへの超弩級の風評被害やめろよ。テニスサークルはヤリサーじゃねぇんだよ」

 

「でも実際どうやったらあんな顔のいい女の人と知り合うの!?」

 

「いや、魔法師って魔法の才がない人間に比べて骨格が左右対称になる傾向があるから。必然的に魔法師は美男美女が多い」

 

「まあお兄ちゃんも目さえ度外視すれば中々のイケメンだもんね……」

 

「お前ほんと余計な単語が多過ぎるんだよな……んで、あの3人のうち赤いの以外は同じクラスだ。赤いのは別クラスだが」

 

そう言ってから、『そういう話は別の時にしろ』という意味も込めて軽くデコピンして北山たちの元に戻る。その後少し話した後、俺たちはチェックインして割り当てられた部屋へと向かうのだった。

ちなみに同室は達也だった。森崎とかだったら地獄だったので安心である。

*1
体温が下がった時に筋肉を動かすことで熱を発生させ、体温を保とうとする生理現象。簡単に言うと寒いところでめっちゃ体が震えるアレ。




比企谷八幡の秘密①
実は、音楽家としてのSNSアカウントを所持している。フォロワー数は6桁。

比企谷八幡の秘密②
実は、朝にネットサーフィンするのが趣味。転売ヤーが大損こく様子を見ると一日中機嫌が良くなる。

比企谷小町
年齢:13歳(中学2年生)
生年月日:2082年3月3日
身長:153cm
体重:41kg
得意科目:国語
好きな物:お肉
比企谷八幡の妹。
兄と違って魔法師としての才能はない、ごく普通の人間。両親も魔法師の適性はない。
兄である八幡のことは普通に家族・兄妹として好きではあるが、八幡に関わると両親が嫌な顔をするので余り大っぴらに関われないのが最近の悩み。
九校戦には友達との数日間にわたってのお泊まり会と称してこっそり来ている。八幡の音楽の師がいることは知っているが、その師が殺人鬼であることは知らない。財力の世界にも政治力の世界にも暴力の世界にも関わりのない、正真正銘の一般人。

というわけで九校戦会場までの話でした。
今回歌詞が登場した曲「群青世界」ですが、本来は「OVA クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」のOP曲です。作中世界には存在しない曲なので八幡の作曲したものとして出していますが、実際は三月のパンタシア様の楽曲です。ちなみに三月のパンタシア様はアニメ「魔法科高校の優等生」OP曲の「101」も歌っているので暇なら聴いてみてください。
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