また、今回ある魔法に対して独自解釈を含みます。ご注意ください。
あ、お気に入りが1000件超えました。ありがとうございます。これからものんびりと更新していきますがどうぞよろしくお願いします。
九校戦二日目の朝。どうやら達也は早起きして日課のランニングに行ったらしく、俺は一人で朝食を食べに食堂へとやってきていた。
「やっぱ良いとこのホテルだから飯もすげぇな……いーちゃんの結婚式とかでしか食ったことねぇような食材使ってら」
苺が輝いてんのとかなかなか見ねぇぞ。
そんなことを考えながら飯を食っていると、視界の端に見知った顔が入ってくる。視界に入ってきた3人は俺を見つけると、朝食を載せたトレーを持ってこちらに向かってきた。
「相席、大丈夫?」
「むしろ複数人座れるテーブルに一人でついてるのも中々の居心地だったから歓迎」
悪い意味での居心地だがな。
見知った3人……まあ隠すことでもないから言うが、深雪と北山と光井の3人だ。
「……懇親会の時もそうでしたが、沢山食べるのですね」
俺の朝食を見て、深雪がそう呟く。実際パン3つに味噌汁、米、ベーコンに目玉焼きにサラダにフルーツと中々の盛り沢山である。
「食える時に食っとけが信条でね。逆にお前らは……今日は出場しねぇからいいのか。だけど競技出る日はちゃんと飯は食っとけよ?」
「ご心配ありがとうございます」
そんな雑談をしながらも朝食を食べていると、奇妙な感覚が。まるで、全体が色塗られたキャンバスの中で一点だけ何も塗らずに真っ白のままのような。そんな違和感。……ふむ、これはあいつか。
「おはようさん、里美、エイミィ」
背後にいる2人に、振り返って挨拶をする。俺のその言葉に驚いたのは、深雪達3人。おい、俺が自分から挨拶することがそんなに変か。……まあいい。そして、誰よりも挨拶をされた一科生『里美スバル』と『英美=アメリア=ゴールディ=明智』が驚いていた。この2人は九校戦にも出場する生徒であり、俺はこの2人とは「同じ九校戦に出場する1年女子として深雪達が知り合う」→「仲良くなる」→「談笑してる時に偶然俺が鉢合わせる」という形で知り合った。しかし、エリカや深雪に続いて名前・愛称呼び3人目か。俺もリア充陽キャの仲間入りということなのだろうか。……無理だな。
「……まさか、僕の『認識阻害』が効かないとはね。自分でも制御出来ないものなんだけど」
「別に効いてないわけじゃねぇよ。単純にお前の『認識阻害』ではどうにもならない形で周囲を知覚しているだけだ」
「……詳しく聞いても?」
「別にいいが、朝飯くらいは取ってきな。食堂で飯も食わずに談笑はいくら何でも邪魔すぎる」
「そうだね」
そう言って、2人は朝食のビュッフェを取りに向かっていった。
そしてしばらくして、欲しい分を取り終えたのだろう2人が戻ってきた。そして席につくと、食事に手をつけながら話を切り出した。
「……それで、僕の『認識阻害』をどうやってくぐり抜けたんだい?この芝居がかったのもその影響でね、癖になっているから今更どうということはないが……それはそうとして、比企谷君がどうやったのかは気になるのさ」
「私も気になるわ。スバルの『ソレ』は常に発動してるもの、私……というより、ここにいる皆は初見では気付けなかったし。たまに鉢合わせた時も基本的に私たちが話してる時だったし、そういうの無しで会うのは今回が初めてでしょ?それをどうやって察知したのかしら」
「二種類の音を使った探知だよ。やってることはどちらかっつーと魚群探知機のソレに近いな」
「魚群探知機……」
なんか複雑そうな顔してんな。そりゃ魚扱いされたらそうなるか。
「まず『認識阻害』がどういうものか、とりあえず答えてみようか。はい光井さん早かった」
「大喜利みたいにするのやめて!?しかも手挙げてないよ!?」
「はい光井さんどうぞ」
「ゴリ押しが過ぎる……えっと、使用者を認識、つまり知覚出来なくなる?」
「100点満点中40点。赤点だな」
「勝手に答えさせられた挙句勝手に赤点にされた……」
「いいか、使用者を知覚できなくなるのはあくまで結果に過ぎない。知覚出来なくするだけなら相手の認識に干渉する必要なんかねぇんだよ。適当に光の波長に干渉して自身を透明にしたっていいんだ。ではなぜ、『認識阻害』が『認識阻害』として定義・成立するに至ったか。そこが対処法の鍵になる」
「……相手の知覚機能に干渉して、『使用者が存在する』という結果に届かなくした?」
「そう。それが認識阻害の正体だ。だがこれにも二つあってな。『そもそもそこに居るということを表す情報を受容出来ない』のか、はたまた『確かに目に映ってるし脳に"いる"という情報は送られてるんだが、脳がその情報を"いる"という形で処理できない』のか。要は『五感に作用してるのか』『五感で得た情報を処理する脳に作用してるのか』だ」
魔法っつっても、無から有を生み出すこともなければ奇跡を起こすこともない。ただ、理論上有り得ることを確実に起こすだけの代物だ。理解不能な現象を無理やり科学して体系化したものと言ってもいいな。だからこそ、無条件の現象などありえない。
「生憎俺では後者はどうしようもない。だから前者になるんだが……ここで最初に戻る。音による探知だ」
「……でも、それでは何も変わりませんよ?『認識阻害』が『五感に作用している』以上、いくら八幡さんの耳が良くてもスバルの出す音は知覚出来ないはず。それなら、スバルの存在を知覚することはできないのでは?」
「ああ、知覚出来ない。
苺のへたを取って口に放り込み、咀嚼して嚥下すると再び口を開く。
「言ったろ?二種類の音って。これは
「認識しないもの……かい?」
「例えば無機物だ。人間や動物に見られてたら『認識されてる』ってなるかもしれんが、そこら辺に落ちてる石ころや雑草に『認識されてる』なんて考えねぇだろ?でも、石や草は音を発するんだよ。風に吹かれてざわめいたり、転がって別の石とぶつかったりな。世界はそんな無数を通り越した無限の音に溢れている。そして、音には『和音』がある。音同士が混ざり、組み合わさることで別の音になるものがな。『認識阻害』が適用されるのはあくまで『使用者から発生、もしくは使用者によって変化した事象』だけ。使用者から発生しても、別の要素によって変化した事象には対応してない」
「っ、ということは……!」
「そう。雑音と混ざりあった音は、問題なく聞こえるんだよ。そして、魚群探知機の超音波で分かるのは二つ。『音波を跳ね返すものがそこにある』という事実と、『音波を跳ね返すものがそこにない』という事実だ。深雪には前に言ったろ?『
「あ、そういうことなんですね!音を使って、『普通の音を歪める発生源がある』ということと『音が発生せず、跳ね返ってこない何かがある』ということを知覚してるんです。『ある』ということを知覚出来ないなら必然的に『ない』ということを知覚することになるのに、八幡さんの感覚からすれば溢れ返ってて当然……極彩色に塗りつぶされた中で、一箇所だけ何も塗られず真っ白な場所があれば逆に違和感を持つ。そうやって『認識阻害』を無効化して知覚してるんですね?」
「そゆこと」
長々と語っちまったから喉が渇いた。味噌汁飲も。
「そんなことまで分かるのね……実際の所、どこまで分かるの?」
「物理的なものなら大抵。あくまで広域探知だから細かいものまでは分からんが……身長体重、体格や所持してる物品はわかる。範囲を狭めて一人に集中すれば表情とかも分かるが……ま、正確な数値ではないな」
「……もう
言い得て妙だな。
「さて。飯も食い終わったし、俺はお先に失礼するよ。今日は何回演奏すんのかわかんねぇくらいやることになるしな……」
そう言ってトレーを持って食堂の回収場所に運ぶと、その場を後にするのだった。
「お、達也」
「……八幡か」
二日目のプログラムが始まり、俺は生徒会長がいる天幕に向かっていた。そんな中技術スタッフ用の服を着た達也と鉢合わせたので、目的地が同じということで共に天幕へと向かう。
「……八幡。バスでの移動の際の事故だが……お前はどう思う?」
「どう思うって?」
「
「んー……十中八九どころか十中十意図的なもんだろ」
「だろうな。車体に魔法の痕跡があった」
「分かってんなら俺に態々聞かなくていいだろ……」
俺がそうボヤくと、達也は続けて口を開いた。
「いや、深雪なら躊躇うがお前ならばこういう厄介事の気配に遠慮なく巻き込んでも罪悪感がないからな」
「よーし、そこ座れ。ぶん殴ってやるからよ」
俺をなんだと思ってんだ。
「……ま、お前にも色々背負い込んでるもんがあんだろ。生憎俺はなーんにも背負ってないクソ自由人だ、俺のことなら遠慮なく巻き込みやがれ」
「……どういうことだ?」
「え?いや、俺のことなら巻き込んでも別にいいって……」
「そこじゃない。……
「いや、別に知ってるわけじゃねぇよ。人間は色んな音を出すが、強い奴は強い奴なりの、弱い奴は弱い奴なりの音が出るんだよ。お前から聞こえる音は明らかに強い奴だ。そんな奴が態々雑魚のフリしてんだ、何かしらの理由だか事情だかはあるんだろうよ」
「……」
「俺はたまたま才能があったから魔法師になっただけで、別に魔法師の世界の事情なんて全然知らん。十師族も半分くらい覚えてないし師補十八家や百家なんて9割近く知らねぇ」
「いや、それは知っておけ」
「気が向いたら覚えてやるよ。まあとにかくだ。俺には家だの何だののスポンサーやバックに付いてるもんなんざ何一つない。渡辺先輩や十文字先輩、生徒会長は家柄や家の繋がりだとかに少なからず縛られてるだろうし、お前だって何かしらに縛られてるんだろうよ。でも、俺にはそれが全くない。お前らが何かしらの理由でしなければならないことも俺は『うるせぇ知るか殺すぞ』で突っぱねられるし、お前らが何かしらの理由で出来ないことも『引っ込んでろカス』で無関係だろうと首を突っ込める。俺は
「……そうか。八幡」
「ん」
「確かに俺には、お前たちに明かしていないものがある。それでも、お前は関わると言うのか?」
「おうよ。俺だって隠し事くらいある」
師匠が殺人鬼なこととか。
「俺のことは俺が決めらあ。そして、俺は『ダチが困ってたら力を貸す』と決めたし、『司波達也は比企谷八幡の友人である』と決めた。そうなったんなら、お前が理由なく世界を滅ぼすラスボスにでもなんねぇ限りは手ェ貸すさ」
そう話しているうちに、会長の天幕に到着。俺が入ろうとしたその時──────
「八幡」
「ん?」
「……感謝する」
「……何の話だよ。俺まだ何もしてねぇぜ?」
「……ああ、そうだな」
俺は、無表情な
「チチチチーッス」
「失礼します」
「あら、達也くん。八幡くんも」
天幕に入った俺は、なんとなく周囲を見渡す。うーん、空調ないのか。まあ体冷やしすぎてもパフォーマンスに影響出るしな。俺がきょろきょろしていると、達也が会長の手に持っているCADを見て呟く。
「特化型ですか。普段は汎用型でしたよね?」
「まあね。一種類しか使わないし」
「移動……いや、逆加速ですか?」
「正解。『ダブル・バウンド』よ」
「運動ベクトルの倍速反転……低反発のボールでは相手コートまで届かないことがあるのでは?」
「去年はそう思って他の魔法も入れてたんだけど、結局使わずじまいで終わっちゃって」
中々に規格外なこと言ってんぞこの人。達也が最終調整をするのを横目に、端末のピアノアプリを起動する。今回演奏する曲の効果は感情と思考の鎮静化。まあ要は落ち着かせる曲だ。そして、一種の高揚感と全能感を体感させる。結果的に『俺最強!!!!!他の有象無象ども全員ぶっ潰して優勝してやんよガハハ!!!!!』って感じになる。しかも鎮静効果により思考はちゃんとするので油断なく持てる力全てを発揮するようになる。前にやって見た結果、桐原先輩や服部先輩でも十文字先輩とある程度拮抗出来るようになった。これを十師族クラスの実力持ちにやるともう手がつけられなくなる。まあそれを寄りにもよって十師族にやろうとしてんだけど。草。
「八幡、お前なら『ダブル・バウンド』のみでどうにかできるか?」
「んー……出来なくはないが、会長の使ってる照準補助捨てたCADだとちょっちキツいな。お前の『シルバー・ホーン』みたいな照準補助もちゃんとついたCADなら出来るが」
「お前も大概異常だったか……ちなみにどうする?」
「序盤は普通に点を取って、ある程度点差が着いたら照準補助機能を使って
「……お前それ絶対にやるなよ。相手が哀れすぎる」
「いやそも俺はクラウド・ボール出ねぇって」
「来年の九校戦もだ」
「あーちゃんに話通しておくわね」
「クソがよ」
さて、音の調整も終わったしやるか。
「それじゃ行きますね。作詞作曲比企谷八幡、作品ナンバー19。
「『脈動』」
時間がないので2分弱のショートバージョンの代わりに、瞬間出力は低いが半日は持つパーシステンスバージョンだ。……ま、そもそもこれ無しでも普通に勝てそうな会長に使ってんのが異常なんだが。
「……さて、そろそろ時間ね。八幡くん、演奏ありがとね。それじゃあ行きましょうか」
そうして達也と会長は試合会場であるコートに、俺は次の一高からの出場選手の元へと向かうのだった。
「それにしても、何か新鮮ね」
「はい?」
真由美の相手をしていた達也へ、脈絡のない発言が飛び出した。反射的に聞き返した達也に、真由美はニコニコと笑顔を返した。
「私、兄と妹はいるけど弟はいないのよ」
「はぁ……」
達也の実家である四葉は秘密主義な一面があるが、真由美の家である七草家は十師族の中でも社交的な家柄である。事実、達也は真由美に2人の兄と中学三年生の双子の妹がいることを知っていた。
「ほら、達也くんって私のこと特別扱いとかしないじゃない?」
「別に馴れ馴れしくしているつもりもないんですが……」
達也のその言葉に、クスリと笑う真由美。
「そういう意味じゃなくて。変に構えたりとかオドオドソワソワしないでしょ?一応敬語とかは使うけど遠慮してるわけじゃないし。弟ってこんな感じなのかな~って」
「……その理論だと八幡も弟になりますが」
「八幡くんはちょっと悪ガキ過ぎて……彼の場合特別扱いしないっていうか普通に私のこと舐めてるじゃない」
「……」
友人のために弁護してやりたかったが、真由美に対して敬語も使わずボケ呼ばわり、頻繁に揶揄う様子を生で見ていた達也は何も言えなかった。なんなら八幡が四葉に生まれていたらというのもなんとなく考えてみたところ、生意気な親戚のガキを泣かし胡散臭い分家のおっさんのヅラを剥ぎ取り嫌味を言った日には部屋にネズミ花火をカートンで放り込む様子が容易に想像できた。
結論として、達也の一流メンテナンスと真由美の才能、挙句八幡の特大バフ*1により今年の九校戦のクラウド・ボール本戦は真由美が全試合を通して
その日の夜。俺は達也に頼まれて屋外格闘戦用訓練場に来ていた。余談だがエリカのコネで手配したらしい。なんか達也が色々言って説き伏せたらしいが……まあ俺の知るところでは無いのでどうでもいいか。
「どしたよ、こんなとこに呼び出して。同室だし普通に部屋で話せば良かったろ」
「何、お前に頼もうと思っていたことがあってな。部屋だと狭い」
「……何させる気だよ」
俺がそう聞くと、達也は懐からあるものを取り出して俺に渡してきた。
「……剣?」
「ああ。CADだがな」
それは、ナックルガードがついたミドルソード*2だった。しかし刃は潰されており、どちらかと言うと……ほとんど棍棒だった。
「武装一体型のCADだ。使い方を説明するぞ」
「おう」
「柄のスイッチを捻れ」
言われた通りに、柄の端についているスイッチを捻る。カチッと小気味良い感覚と共に、スイッチがはまり込む。
「上端のトリガーを押し込み、想子を流してくれ」
えっと、トリガーを押し込んで……想子を流す。
CADそのものが個人用の調整がされていないために術式構築のアシストが働かず、600msの時間をかけて魔法式が構築される。その魔法式により起きたCADの変化を見て、俺はこのCADがどういうものなのかを理解するのだった。
「……硬化魔法?確か硬化魔法は……ああ、なるほど」
刀身が
「硬化魔法で相対位置を固定したのか。重量は変化せずに間合いだけが伸びる。こりゃあいいな」
「ああ。作ったのは知り合いなんだが、本人からしても自信作らしい」
「ほーん……これ発売することになったら教えてくれよ、普通に欲しい」
割と面白くて気に入ったぞ。
「伝えておくよ。良し、戻してみてくれ」
「りょ」
達也の言葉に従い、刀身を戻す。接続時の今の音は……電流か。ってことは今主流の電流反応型形状記憶合金使ってんのか。基本システムも簡単だし、応用性も高くて良いな。
「次は実際に
「んー……リアルタイムでの間隔変更は出来ないのか?」
「決して不可能ではないが……発動中の魔法の上書きになるからな。難しいぞ?」
「そうか……ほいっ」
俺の裏技を使って試してみる。すると、50cmほど離れた場所にあった刀身が一気に伸びて1m近くにまで離れ、次の瞬間には30cmほどにまで縮んだ。……正直費用対効果は最悪だな。マジでやる度に1回切った方が楽だ。
「……なんだよ」
「……はぁ。まあいい、お前がおかしいのはとうに理解している。それじゃ、ダミーを出すぞ」
「おう」
達也がノートより少し大きいくらいのサイズの端末……要はリモコンだな。リモコンを操作すると、地面から実物大の藁人形が。
「……古いな」
「……ロートル過ぎんだろ。ここだけ1世紀前なんか?」
まあいいか。んじゃ、試し斬りだ。刀身を伸ばし、勢いよくCADを振るう。刀身の速度は俺の腕の速度の(刀身から肩までの距離/腕の長さ)^2倍になり、目にも止まらぬ速さで藁人形を打ち抜き吹き飛ばす。
「……っつ、相対位置固定だから刀身がぶつかった衝撃もちゃんと手に伝わってくんのか。腕力か刀身の質量が必要になるな」
「そうだな。で、どうする?これならモノリス・コードでも問題なく使えるが」
「んー……ほぼ使うの確定。もうちょっと試してもいいか?」
「ああ、構わない」
……良し。そうだな……応用的に行ってみるか。
剣を振るい、超高速で刀身を飛ばす。もろにぶち当てたら反作用で俺の腕もイカれちまうが……こうすれば!
「……なるほど、そういう手もあるか」
俺が試したのは、『相手の表面を掠めるような』斬撃。人で例えるなら体表面の皮膚と僅かな肉を抉りとるような位置を狙い振るう。これなら手にかかる負荷も少ないからな。レオぐらいのパワーなら問題なく使えるんだろうが……俺はあそこまでゴリラしてねぇ。そして何度か振るい、肩口や関節部分を抉るかのように叩き込んだ後、更に僅かに伸ばして振り下ろす!
当然伸ばした分により刀身は藁人形に当たることはないが、ここは──────
慣性の法則によりこちらへと突っ込んで来た藁人形に対し、手首のスナップを効かせて刀身を上に飛ばした状態で回し蹴りを叩き込む!そして、トドメの──────
「俺の必殺技、パート2!」
吹き飛ばされた藁人形に、上空から振り下ろされた刀身が叩きつけられた!
「……っ~~~~~!」
やっぱ刀身飛ばすとなったらこれだよなぁ!!!
「……八幡、今のは?」
「え?見ての通りだけど」
「今言っていた『俺の必殺技』とやらの話だが」
「あー……これ見て」
俺はそう言って、端末を起動。動画サイトのアプリを開き、仮面ライダー電王 ソードフォームの必殺技『
「……ふむ。そっくりだな」
「だろ?真似したくなっちまって」
その後、何度かのテストを終えて本格的にモノリス・コードでの使用を確約したのだった。
そして、九校戦三日目……事件は起こった。
渡辺先輩が出場するバトル・ボード準決勝を見に来ていた俺たちは、観客席から試合を見ていた。
競技が始まり、渡辺先輩がスタートダッシュを決めて先頭を奪い取った。
「渡辺先輩が先頭ですね」
「ああ。だが七高の選手が二番手でピッタリとついている。流石は『海の七高』だ」
そう話しているのを聞きながら、俺は
「……八幡、どうした?」
「いや……さっきから変な音がするんだよ。耳鳴りみてぇな、それでいて別物の気色悪い音が」
「変な音……魔法の音じゃないのか?お前は確か魔法を音として知覚出来るんだろう?」
「いや、その音が……
「……何?」
俺のその言葉を聞いて、達也がしばし考え込む。そして数秒後、俺に再び聞いてきた。
「八幡、その音はどこから鳴っているかわかるか?」
「ちょっと待て。少しキツいが、耳すまして知覚範囲を広げて探ってみる」
俺はそう言うと目を閉じて耳をすませる。
風の音。……違う。
波の音。……違う。
歓声。……違う。全部まとめて
渡辺先輩の魔法の音。……違う。
他の選手の魔法の音。……違う。
「達也!」
「どうした、何か分かったか?」
「まずいことになる、着いて──────」
そう言いながらモニターを見た時、俺は目を見開いた。丁度渡辺先輩らが客席からは見えないエリアに差し掛かり、備え付けのモニターに映像が映される。それを見た俺は、
「達也、着いてこい!渡辺先輩がヤバい!」
そう言って駆け出す。達也は俺の行動に困惑したのか一瞬だけ遅れたが、すぐさま俺の後を追って駆け出し……普通に俺より足が早く、追いついて並走する。
「何があった!?」
「『変な音』は魔法の音だった。他の時期ならいざ知らず、九校戦に向かう最中に襲撃された今年にコースに仕込まれた魔法なんざ厄ネタ以外の何物でもねェ!」
「コースだと?っ、八幡!」
達也の言葉に反応し、モニターを見る。そこには明らかに異常な行動、
「オーバースピード!?」
「いや、先輩ならまだこの程度はどうにか出来るだろう……コースの魔法の内容は!?」
「無茶言うんじゃねぇ!俺が分かるのはあくまで魔法式を音に変換した内容だけだ!他の魔法式の音との類似点である程度予想は出来るが、魔法式そのものの効果は
「なら予想でいい!内容は!?」
「ちと妙な感じではあったが、恐らく水面干渉!自己加速使うから気をつけろ!」
そう叫びながら、俺自身と達也に自己加速術式を行使。一気に加速し、観客席の縁にある手すりに飛び乗りそれを足場に一気に駆け抜ける。
一方モニターでは先輩が突っ込んでくる七高の選手を受け止めようとして──────
先輩の足元の水面が、大きく沈んだ。
「八幡!」
「応!」
先輩が行使しようとしていた慣性中和魔法が失敗し、そのまま先輩に突っ込んできた七高の選手の身体とボードがノーガードで叩きつけられる。その衝撃により先輩の身体は大きく吹き飛ばされ、受身を取ることも出来ずにフェンスに叩きつけられた。
手すりから飛び降り、フェンスへと降り立つ。横たわる渡辺先輩に駆け寄り、『痛覚を麻痺させる音』『眠らせる音』『ごく軽度の筋弛緩を引き起こす音』を組み合わせた音を聴かせて眠らせる。筋弛緩により身体の強ばりが消え、痛覚の麻痺により感覚が楽になったのだろう。先輩の呼吸が穏やかになる。
「八幡、治療経験は?」
「免許の有無に目を瞑れば脳だろうと心臓だろうと」
「麻酔はどうにかなるか?」
「任せろ、音使いにとって眠らせたり気絶させたりは呼吸よりも容易だ。なんなら麻酔薬にアレルギーがある患者に音で麻酔をかけるバイトだってしたことがある」
「良し、一先ず応急処置だ」
俺たちは揺らさないように先輩を担ぎ水路から出すと、応急処置を始める。俺は自分の上着を脱いで引き裂き固定などに使うための布を確保、達也は怪我の状態などを確認する。どうせUNIQL○で買った安物だ、換えは効く!
「……つっかれたァ」
達也がディスプレイを睨み、事故の瞬間の映像を精査する中。俺はベッドに寝転んで睡魔に抗っていた。何分三重の音程操作で先輩の意識を落とした状態を維持しながらの応急処置だったからな。神経すり減らしたよ。ちなみに部屋には達也に呼ばれた深雪と幹比古、そして先程アイス・ピラーズ・ブレイク女子本戦を優勝してきた千代田先輩とその婚約者でありエンジニアの五十里先輩がいる。
「それでは、今回の一件について説明を──────その前に」
( ˘ω˘ ) スヤァ…………ごっべぇ!?達也のやつ蹴り入れてきやがった!
「なんだよ急に」
「寝るなとは言わんがせめて話を終えてから寝ろ。今回ばかりはお前も殆ど当事者だ」
「へーい……」
音を使い、自身の意識を無理やり覚醒させる。奥の手の応用だ。
「っし、起きた。んじゃ頼む」
「──────結論から言うと、第三者の介入によるもので間違いないでしょう。誤差の一言で片付けられない力が
「……水中?」
達也のその言葉に驚いたのは、千代田先輩だった。その困惑の声に、達也が返答する。
「はい。俺も当初は外部から高圧の空気塊を叩きつけたのだと推測しましたが……まあ、もしそうであれば渡辺先輩が気付かないわけががないので。そしてこの映像を見る限り、水面を陥没させた力は水中に発生しています。八幡にも確認しましたが、水面干渉系の魔法で間違いないでしょう」
「……司波くんと比企谷くんの解析が間違っている可能性は?」
あ、深雪の機嫌が悪くなってきた。やべぇ身体が冷えてきた。俺渡辺先輩運ぶのに水路入ったから身体濡れて体温下がってんだよ落ち着けって、あっ─────────
「いや、二人の解析は完璧だ。少なくとも僕じゃここまでの解析は出来ないし、仮に出来てももっと時間がかかる」
「そっか……啓が言うんならそうなんだろうね。ごめんね」
「いえ……気にしないでください」
あ、機嫌が治ったみたい。身体の冷えが和らいできた。セブンスコード・レクイエムを取り出し、登録してある分子運動の増幅魔法で身体を温める。マジで死ぬかと思った。
「で、二人の解析が正しいとして……問題は方法よね。外部からかけたら間違いなく監視装置にひっかかるわ」
「予め仕掛けられていたという線も薄そうだ。魔法式の情報自体はコースに存在する以上、点検のスタッフが気付かないとは思えない」
「そうなると水中に下手人が潜んでて、タイミングを狙って仕掛けたことになりますが……人間業ではありません。何せ、いくらモニター越しと言っても何十、何百万の人が見ていたんですよ?」
「ああ、人間には無理だ。……
達也のその言葉に、真っ先にその真意を理解したのは幹比古だった。そして数瞬遅れて、五十里先輩が達也の言いたいことを察した。
「……司波くんは、精霊魔法である可能性を考えているのかい?」
「考えている……と言うよりは、ほぼ確信ですね。八幡が『妙な感じの水面干渉』と言っていましたから。なので、精霊魔法を専門にしている吉田に意見を聞こうかと。……というわけだ、幹比古。改めて尋ねるが、数時間単位で特定条件に従って水面を陥没させる遅延発動魔法は、精霊魔法によって可能か?」
「可能だよ」
断言された。
「今の条件なら……そうだね、第1の条件にレースの開始時間を。第2の条件に所定の位置の水面に誰かが接近してくることを定義すれば……後は術者が任意のタイミングで精霊に命令するだけで出来るだろうね。なんなら精霊でなくても、式神でだって可能だろう」
「幹比古も出来るか?」
「出来なくはないけど……準備期間にもよるね。少なくとも今すぐは無理だし、せめて半月くらいかけて会場に忍び込めれば」
「なるほどな……」
それを聞いて達也が考え込む中、幹比古が悩ましげな顔をしていた。
「どうした?」
「いや、自分で言っといてなんだけど……こういう術式は、術者の思念の強さが大きく反映されるんだ。半月も時間をかけていたら、せいぜい選手を驚かせる程度にしかならないだろうね」
「いや、その『驚かせる程度』で充分だったんだろうな」
「……と言うと?」
「確かに単体では猫騙しにしかならないが……そもそも猫騙しとはタイミングを見て使うものだ。例えば──────予期せぬアクシデントで焦っている時とか、な」
その一言に、その場にいる面々は察した。察してしまった。七高のオーバースピードすらも、仕組まれたものであったということを。そして達也から説明と共に見せられたのは、当時の七高の選手の様子。本来減速するタイミングで逆に加速するという、『海の』という枕詞が付く七高にしては明らかに初歩的で異常なミス。説明の末に達也が推理したのは、一年に一回の大イベントである九校戦の大会委員に内通者……工作員がいるという許されざる代物だった。
そして九校戦は、陰謀錯綜する新人戦へと突入するのだった……。
本作における独自解釈
里美スバルの『認識阻害』
魔法により『一定以下の里美スバル自身と、スバルが引き起こした現象』を知覚出来なくなる。正確には『里美スバルに関する事象を五感が知覚出来なくなる』というもの。
八幡の場合は「里美スバルそのものについての事象」ではなく「里美スバルが発生させたが、周囲の影響により変質したことで認識阻害の範囲外になった事象」を知覚するという裏技じみた手法で成立させている。
やり口はどこぞのSCP-055のそれに近い。里美スバルを直接的に知覚することが出来ないので周囲に及ぼした、周囲に及ぼされた影響を通して間接的に知覚する感じ。なので、実は音までも偽装する『纏衣の逃げ水』こそ看破出来ないが、音までは偽装しない九島家の『
そういえば、作者がイケメン女子大好きなんでスバルちゃんの外見がどストライクなんですよね。あんなかっこいい女の子に抱かれたい人生だった。なお作者は身長186cmのゴリゴリの男であるものとする。地獄かな?
如何せん作中でのスバルちゃんの情報が少なすぎるんですよね。殆どモブのチョイ役なので仕方ないっちゃ仕方ないけど。もう少しパーソナルデータがあればヒロインになってたかもしれない個人的逸材です。
……………いっそオリジナル設定生やしまくって今作のレギュラーキャラ化、ヒロイン昇格までやってやろうか?