魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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どうも、関西圏在住の作者です。
電撃文庫30周年記念で日本橋のアニメイトでやってたイベントに行って色々と買ってきました。魔法科仕様のデスクマットとかアクリルキーホルダーとかノートとか。後はまた別の店でフィギュア買ったり。
それはそうとしてSEED FREEDOM面白かったので映画でのシンの無双シーンのアレがめちゃくちゃやりたいです。いつかやるか。


第三十話

夕飯を食べ終え、部屋へと向かう俺。そんな時、俺へと声が掛けられた。

 

「比企谷、少しいいか」

 

「ん……どうしました、十文字先輩」

 

呼び止めた声の主は十文字先輩。先輩は複雑そうな顔をしながら、俺を時間帯も相まって人気のない一高天幕へと先導する。そして促されるままに天幕に入ると、そこには会長と渡辺先輩がいた。これは──────なるほど。

 

「──────一高優勝確定おめでとう会ですね?」

 

「な訳あるか」

 

「この雰囲気でやる宴会があるか」

 

「仮にやるとしても八幡君だけ呼んでやるわけないでしょ」

 

「すごい勢いで叩くじゃん……」

 

ふざけたのは事実だけどさ。

 

「……まず、八幡君。『アイス・ピラーズ・ブレイク』と『モノリス・コード』新人戦の優勝おめでとう」

 

有難(アザ)っス。で、本当に何で呼んだんです?それくらい大会が終わってから選手らでバカ騒ぎする時にでも言えるでしょ」

 

「……本題がお前の成績に関わっているが、その本題を宴の場では言い出しづらい内容だからだな」

 

内容?成績?……あ、そういう事ね。

 

「葉山と将輝か」

 

「……そうだ。一応十師族に連なる者や師補十八家の人間を倒した者ならば他にもいる。一高ならば司波深雪や里美スバルが当てはまるな*1

 

「……だけど、()()()()()()()()()は八幡君だけ」

 

「あー……で、話の内容は『忠告』ですか?それとも『警告』ですか?」

 

俺がそう言うと、渡辺先輩が重々しく告げた。

 

「……一応、『忠告』になるな。お前の能力は間違いなく目をつけられる」

 

「っていうか何ならうちの狸親父が早速目をつけたわ」

 

マジかよふざけんな。

 

「……一応聞きますけど、会長の親父さんって」

 

「厄介な奴よ。『七草家(うち)』が結構外部との交流を持つ家だっていうのもあるけど……直接的な戦闘能力に関しては十師族の中では中の下程度の代わりに、コネクションを使った圧力が面倒な奴ね」

 

「本当に厄介で笑う」

 

いや笑えんけど。

 

「生憎俺にはそういうちゃんとした後ろ盾(やつ)ないっすからね*2……」

 

「あいつのことだから、私か私の妹あたりと婚約させて囲い込もうとする可能性があるわ。気をつけて」

 

「俺恋愛結婚至上主義なんで100%断りますけどね。それ以前に会長は好み(タイプ)じゃないんで……」

 

「はっ倒すわよ」

 

余りの言い草に秒でキレて殴りかかろうとする会長。いや、先輩としては良い人だし尊敬してないわけじゃないんだけどさ。それはそうとして恋愛対象にはならん。

 

「どうどう……実際問題、後ろ盾くらいは持っておいた方がいい。本来ならば『十師族になれ』まで言いたいが……お前にそれ強制するとあちこち荒らすだけ荒らして逃げかねない」

 

「俺のこと何だと思ってるんですか」

 

「スーパーリアル狂人」

 

「永続的狂気を発症してるタイプの人間」

 

「生まれた時からSAN値が0」

 

「アンタら全員俺のことクトゥルフ神話TRPGの探索者だと思ってます?ってかTRPGやってんのかよ」

 

「3年生でたまにやるわよ。リンちゃんなんて前にマーシャルアーツと蹴りだけでダゴン信仰の邪教、しかも深きものも相当数混じってる大規模のやつを一人で壊滅させてたわ」

 

「マジかよやべぇな」

 

今度セッションしましょ。ルルブもダイスも家にあるんで。

 

「……まあ、こんなところかしら。正直私たちも八幡くんが言ってどうにかなるタイプだとは全く思ってないから、対外的に『私たちは一応やる事やっておきましたよ』ってアピールのために呼んだだけなのよ」

 

「というかお前を手中に収めようとしても絶対手に余る」

 

「適度な距離感で交流を持っておいてたまに厄介事が起きたら声をかけて力を借りるくらいが一番いい」

 

やっぱこの人たち俺のこと破壊兵器か何かと思ってる節あるな。

 

「……あ、そうだ」

 

「なんスか会長」

 

「一応狸親父に『好みの女の人』を聞いておくように言われたんだけど何て伝えておけばいい?」

 

色仕掛け(ハニトラ)が露骨過ぎんよ~~……じゃあその親父さんの伝手でも無さそうなのを適当にでっち上げといてください」

 

「オッケー、身長2m以上小太り露出狂超サディスト中年女性って言っとくわね」

 

「『無さそう』にも限度があんだよ殺すぞ」

 

なんだそのこの世に存在してはならないタイプの化け物。怖すぎるだろ。それで仮に見つけ出されて引き合わされたら恐ろしいから絶対やめろ。さすがの俺でも多分そんなのと出くわしたら泣き叫んで逃げるから。……いや脳直で殺しに行きそうだな?

 

「……仕方ないわね。既に好きな子がいるからそういうのはあんまり意味なさそうとか言っとくわ」

 

「そうしてください……さっきの化け物を伝えてたら本気でタダじゃ置かないですからね」

 

なんか変な疲れ方したわ。……さっさと戻って寝よ。

 

 

 

次の日。なんか満足した様子の達也*3をよそ目に、俺はあることを考え込んでいた。

 

「……どうした、八幡。何やら深刻そうな顔だが」

 

「いやさ、昨日九島烈と会ったじゃん」

 

「……そうだな」

 

「その時に頼まれ事されちゃってさ。今晩の後夜祭っつーの?アレで演奏頼まれたんだよな」

 

「それはまた凄いな。となると……悩んでいるのは演奏する曲か?」

 

俺は達也の言葉に頷くと、軽く頭を掻きながら言葉を続ける。

 

「そ。歌詞の有無、他にもポップだのEDMだの色々ジャンルがあるからな。そういうとこぶん投げられたからマジで何しようかと」

 

「……後夜祭ではダンスパーティがあったはずだ。その時の演奏をしてもいいんじゃないか?演奏ではあるだろう」

 

「はいお前IQ9000億」

 

「バカの数字やめろ。俺までバカに見えてくるから」

 

「へーい」

 

……待って今ナチュラルに俺のことバカだと断定したなこいつ。キレそう。だがいい案出してくれたから許しちゃう。

 

 

 

次の日。この日はモノリス・コード本戦が行われて全行程終了、なのだが……うわすっご。

 

「十文字先輩無双じゃん」

 

そう、十文字先輩が単騎突撃かまして全てをぶちのめすという作戦もへったくれもないクソムーブをかましていたのだ。

 

「昨日はちゃんと戦っていたのに……どうしてでしょう?」

 

「……八幡(コイツ)のせいだな。ある種俺たちのせいでもあるが」

 

「は?訴訟」

 

光井の疑問に達也が答え、その言い草に俺が不満を漏らした。

 

「恐らくだが……十文字先輩は、十師族としての実力を示せといったことを言われたんだろうな。だからあのように自分の力を見せつけるような戦いをしているのだろう」

 

「十師族としての実力……何でそんなことを?」

 

「モノリス・コードやアイス・ピラーズ・ブレイクで八幡が十師族である一条将輝に勝利したからな。今や十師族という名は称号であると同時に示威、威権でもある。それが崩れてしまうのを避けるためだろうな」

 

……後に将輝に聞いたところ、将輝も『モノリス・コードでは比企谷八幡を叩き潰せ』だの何だの言われたらしい。『知るか』『俺と彼奴の戦いに水を差すな』で突っ返したらしいが。それでこそ我が友。

 

「で、本当に訴訟する気か?」

 

「えーっと……訴訟取り下げ」

 

「良し」

 

こればっかりは俺は何も言えねえや。

そして、その日の夜。他校の強者を跳ね除けて過去最高クラスのスコアを叩き出すという快挙*4*5を成し遂げた一高(俺たち)は、他校の生徒らから怨嗟の目で……ほんの少しだけ見られていた。

というのも、数ヶ月前の『ブランシュ』の一件で首謀者が使用していた『邪眼(イビル・アイ)』をちゃっかり模倣(コピ)っておいた俺が独自にアレンジした光波振動系干渉魔法『邪視(イビル・サイト)』を一瞬だけ行使して怨嗟の目で見てきた相手を見返すことで片っ端から体調不良に追い込んでるんだよね。ちなみに『邪視』のシステムは『邪眼』とほぼ同じなんだが、光波振動の波長を調整することで催眠効果ではなく相手に癲癇のような光過敏性発作、頭痛や吐き気などを引き起こさせる……要は魔法で再現したポリゴンショックだな。と言ってもごく短時間だからせいぜい乗り物酔い程度の体調不良にしかならないし、規模自体も小規模だから意外とバレにくい。まあそれはそうとしてそういうの無視して魔法を見れる達也にはモロバレしてるけど。めっちゃガン見してる。後でシバかれるなこれ。

 

「八幡」

 

「ん?……ああ、スバルか」

 

睨んでくるカスどもに片っ端から邪視を叩き込んでいると、ふと声をかけられる。振り返ると、目元からは炎症による赤みがすっかり引いたスバルの姿が。

 

「どうしたよ」

 

「せっかくの後夜祭だからね。一曲踊らないかい?」

 

「んー……」

 

辺りを見回すと、曲に合わせて同じ高校の生徒だったり、はたまた別の学校の生徒と踊る生徒らの姿。……時間もあるし、別にいいか。

 

「そんな長くは無理だが、少しだけならいいぞ」

 

「良かった。それじゃあ……Shall we dance?」

 

「スバルお前、ほんとそういうの似合うよな……」

 

そんなことを呟きながら、曲に乗って踊る俺とスバル。……ふむ。結構良い演奏者を雇ってんな。師匠は勿論俺にも劣るが、この分だとそれなりに著名なのを呼んだらしい。まあどうでもいいか。

スバルのダンスは……なんというか、割と動く。恐らく『認識阻害』の影響で芝居がかった大仰な素振りに慣れているからだろう。動きがリードする側のソレである。なのに性差により俺の方が身長と体重があるので、ターンなどが微妙に覚束無い。仕方ないのでさりげなく重心を移動させるなどして、やりやすいようにしていく。そして暫く踊ったところで満足したのか、離れていくスバル。軽く手を振っていると、今度は四十九院が話しかけてきた。

 

「ちょっといいかの」

 

「うげ」

 

「もうちょい隠したらどうなんじゃ?」

 

正直者なので。

 

「まったく……九校戦の試合はもう終わったのじゃから、少しくらい気を抜いても良かろう」

 

「お前相手に気ィ抜くと言いくるめられて変なこと漏らしそうだからな……」

 

「せんわ。一曲どうかと誘いに来たんじゃ」

 

「……?」

 

頭の天辺からつま先まで無遠慮にじろじろと見る。

 

「怪しみ過ぎじゃろ」

 

「怪しまない方が無理では?」

 

ダルい舌戦させられたんだぞこちとら。

 

「ったく、いいから相手をせよ」

 

そう言いながら、四十九院は強引に俺の手を取る。四十九院の踊りは正統派そのもの……いやちょっと違うな。よく見るとステップが摺り足のそれだ。洋楽に和風のステップを合わせてんじゃねぇ。俺じゃなきゃバグるぞ。

そんなことを考えていると、四十九院がふと口を開いた。

 

「……そういえば、この前言ったじゃろ。『婿入りしてみないか』と」

 

「あー……んな事言ってたな」

 

「言っとくがアレ結構本気で言ってるからの。何処も有望株の奪い合いで必死なんじゃ。お主や、あの司波達也という男。どちらか片方だけでも引き込めれば情報戦では負け無し……とまでは行かずとも、充分有利に立ち回れる」

 

……達也はエンジニアとしての技量、俺は魔法の模倣による手数の増加か。まあ一昨日も『爆裂』パクったことに関して将輝にマジギレされたからな。逃げ切ったけど如何せん夏休みに将輝の妹へのファンサとして将輝ん家行くのが確定してる。終わったかもしれん。

 

「……というか、知らんのか?今十師族から百家本流・支流に至るまで、お主ら二人のことで持ち切りじゃからの」

 

待ってそこまでの領域なの?それはちょっと想定してなかった。

 

「『十師族とそれ以外の魔法師には絶対的な差がある』。それはある種魔法師の世界の不問律にして絶対定理じゃ。まあ、まだ未熟な十師族と成熟した魔法師のような極端な例であれば話は別じゃが……とにかく。本人らがどう思っていようと、お主らは魔法師の家系からすれば『世界を、法則(ルール)を壊せる存在』よ。そんなもの、手元に置いておきたいに決まっておろう。……手に余るかどうかなど、手に入れてから考えればいいからの」

 

なるほどねぇ。十師族からすれば示威を強められるし、師補十八家からすれば十師族に成り上がるチャンス。他の百家から見ても、手中に収めれば大きく進歩出来る……って算段なんだろうな。

 

「九校戦が終われば夏休みじゃからしばらくはマシじゃろうがの、新学期からは心しておけよ。本家に命令された関係者がコンタクトを取ってくるじゃろ」

 

「うへぇ……」

 

ダルすぎんだろ。

 

「……何人か見せしめで半殺しにすれば止まるかな」

 

「秒で血腥くするな」

 

ジト目でそう制止される。いやでもさ、俺って結局のところ何処にでもいる一般人(パンピー)生まれだぜ?ちょっとバグってんのは認めるけど。

 

「……まあ、伝えたかったことは以上じゃ。さすがに何もせずに話しとるだけでは目立つからの。こうやってダンスの合間に伝えさせてもらった」

 

「そうか。ありがとな」

 

「良い。じゃが恩を感じてくれるというのなら、四十九院(うち)に来てくれてもいいんじゃぞ」

 

「考えといてやるよ。下手に清廉潔白気取るよか目的も明らかな状態で分かりやすく狙ってくれる方がずっと好感が持てる。俺としちゃそっちの方が好きだぜ?」

 

「むっ……そうか」

 

俺がそう言うと、途端に動きのキレが悪くなる四十九院。

 

「……大丈夫か?」

 

「い、いや……とにかく。伝えることは伝えたからな、それじゃ」

 

そう言って足早に立ち去る四十九院。……なんだったんだろ*6

ようやく周りから人もいな……いやヤバい普通に人沢山来た。多分さっき四十九院が言ってた『良いとこの家柄』の奴らだ。目が露骨すぎる。確かに『下手に清廉潔白気取るよかわかりやすい方がいい』とは言ったがこれはベクトルが違ェだろ。

 

「……仕方ないか」

 

俺は周囲に音を撒き散らし、辺りの奴らが俺を認識出来ないようにする。まあやってることはスバルの『認識阻害』と似たようなもんだ。そうして何とか抜け出した俺は、ここまで散々食い損ねたのを取り返すかのように料理をよそって壁際へ移動。そこで落ち着いて食べ始める。あー……疲れた。

 

「懇親会の時もそうだが、やっぱ美味いな」

 

「そうだね。あ、このぶどうも上質なやつだ」

 

「マジで?後で取りに行こ」

 

「一粒あげるよ」

 

「良いの?サンキュ」

 

そう言って隣にいた雫からぶどうを一粒貰い、口に放り込む。……わ、マジで美味い。これ高いやつだ。……さて。

 

「ところで雫」

 

「どうしたの?」

 

「俺今『認識阻害』の音出してて周りから気付かれないはずなんだけど何で分かったんだよ」

 

「うーん……八幡を探してみても見つからなかったから音で姿消してるなって思ってさ」

 

うん。

 

「食欲旺盛な八幡ならどこかでご飯食べてるだろうし、それで八幡ならどの辺に居そうかなって考えてたら見つけた」

 

「怖」

 

え、怖。俺の思考トレースして居場所見つけ出したってこと?怖すぎるだろ。

 

「……折角だし踊ってくか?」

 

「……良いの?」

 

「時間ねぇからそう長くは無理だけどな」

 

そう言うと、俺たちはそれ以上の言葉を交わすことなく互いの手を取る。雫の踊りは先程の二人とは異なり正統派も正統派。教科書通りのような代物だった。……うわ、なんか変なの見えた。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、アレ……」

 

俺の視線の先に雫が目を向ける。そこにはペアで踊る達也と会長の姿が。

 

「……普通に踊ってるだけじゃないの?」

 

「一見そう見えるが、実際のところ会長のテンポが微妙にイカれてる。結構疎らなズレがあるんだよ」

 

「あるとどうなるの?」

 

「普通なら曲に合わない不恰好な踊りになるんだが……達也が何とか曲のリズムと会長のリズムの仲達に必死こいてんな。疎らな会長のリズムに合わせてズレを中和してるからシンプルに動きの緩急が激し過ぎる。本来『1』のペースで動けばいいのに『0.7~1.3』で動く相手に気を配り、それに合わせて『0.5』と『1.5』のペースを即座に切り替えなきゃいけなくなってる……って言えば大変さがわかるか」

 

「……今度労ってあげようか」

 

「だな」

 

さすがに同情を禁じ得ない。俺も出来なくはないけど嫌だもん会長の相手するの。

 

「……そういえば、八幡ってこういうの踊れるんだね」

 

「運動音痴って思われてる?」

 

心外だぞ。

 

「いや、そうじゃなくて。なんて言うか……こういう場に来たことなさそうだなって」

 

「まあ踊ったことはないが……社交パーティーとかに行ったことはあるぞ。踊ったことがないだけで」

 

「何で?」

 

「演奏する側だったから」

 

ただそれだけの話だよ。まあそういうイベントでお偉いさんとかと知り合ったり出来たから別に『俺も踊りたかったな』とかそういうのを考えたことはないけど。相手もいねぇし。

 

「……あれ、九島老師?」

 

……なるほどな、そろそろってことか。

 

俺は雫の手を離すと、壇へと歩き出した。

 

 

 

「歓談の中、失礼する」

 

九島烈が現れてから、少しずつ止んでいく声。そしてそれがおよそ大半が消え去ったあたりで老いてなお歪みのない立ち姿から言葉が紡がれる。

 

「此度の試合、素晴らしいものばかりだった。年甲斐もなく興奮させてもらったよ」

 

「これは、時代に取り残されるが定めの老骨からの……せめてもの礼だ」

 

そう言い終わると、先程までとはまた異なる音が流れ始める。

社交ダンスの落ち着いた曲調とは違う、若人のあり方を指し示すかのように明るさと力強さを併せ持った自由の音楽。約200年前、19世紀末に生まれた即興音楽『ジャズ』。

その音の主は、いつの間にか先程までの音楽を演奏していたピアニストの座を乗っ取っていた八幡。更に鍵盤を叩きながら指を鳴らすと、照明の大部分が落とされる。

 

「即席ダンスフロアだ。好きなだけ楽しみな」

 

そう言いながらも魔法が行使され、灯されているいくつかの照明の光がそれによりねじ曲げられることで様々な『演出(エフェクト)』が紡ぎ出される。幾ら格式のある場とはいえ、こうしてGOサインが出たならば話は別。数多の参加者は場の空気と八幡がこっそり仕込んだ高揚の精神干渉に浮かされ、思い思いに場を楽しみ始めた。

EDM(エレクトロダンスミュージック)、ポップ、メタル、ロック、ディスコ、テクノ、ユーロビート。車窓の景色のように目まぐるしく変わっていく曲調を、卓越した演奏技術で違和感なく繋げていく。それに合わせて魔法による演出も複雑化・単調化を切り替え、ある時はミラーボールのような乱反射を、ある時はプリズムのように光を分散させ赤や緑などの様々な色の光でライトアップを施し、またある時は踊っている生徒らのステップに合わせて床に波紋のエフェクトを付けるなど。そんな多種多様の祭がしばらく続き、ようやく終わりを迎える。……しかし、そこである二人が動いた。

 

「八幡」

 

「……将輝に葉山か。どした?」

 

「いや、これで終わりなのかと思って」

 

「終わりだけど」

 

普通にネタないし、とそのまま立ち上がりその場を後にしようとする八幡。しかしその肩を将輝と隼人が掴む。

 

「物足りないと思わないか?」

 

「思わん」

 

「そっか。俺らはもっと欲しいなーって思ってんだよな」

 

「嫌です」

 

「まあまあそう言わずに」

 

「でも本当にもう何もねえんだよ」

 

傍から見れば完全にカツアゲである。

 

「……仕方ない。その場でジャンプしてみろ。何もなかったら足音だけのはずだ」

 

「ああ本当にカツアゲなんだこれ」

 

「オラッ、跳べ!」

 

「ガッショガッショガランゴロンカランチリンチリンチリーン!!!」

 

「めちゃくちゃ持ってんじゃねぇかテメェ!」

 

「何も無いっつってたの何だったんだよ」

 

二人がかりでガン詰めされる八幡。その圧についに屈したのか、八幡は両手を挙げるのだった。

 

「仕方ねぇな……一曲だけだぞ」

 

八幡はそう言うと、事前に予測はしていたのだろう。会場のスタッフからエレキギターを受け取ると、壇上へと上がりそのよく通る声でその場の生徒らに声をかけ始めた。

 

「馬鹿どもがしつこいんでな「「は?」」ナンデモナイヨ!!……まあ特別にもう一曲だけ演奏してやらあ。……ああ、そうだ。その代わり、端末とかで撮影・録音は絶対すんなよ。少なくとも外部に漏れたのが発覚したら訴訟するからな。──────今月末公開の新曲、特別生演奏やってやんよ!」

 

その言葉に、生徒らの中から歓声が沸き立つ。伊達に世界有数の音楽家はしていない。同年代だろうとしっかりファンは抱えているのである。余談だが、師のイメージもありクラシック系を主にしているように思われるが実際のところ音楽全般を得手としているのでロックやメタルなども嗜むどころではなく、放送中のアニメの主題歌やキャラソンなども製作しているためファン層の広さは相当である。

 

「それじゃあ行くぜ────『Rising Hope』

 

そして、響き渡るは──────『魔法』を指し示すかのような音楽。

 

握ったメッセージ That's Rising Hope

 

昂るテンションのままにステージを動き回る。本来エレキギターはアンプとギターをシールドケーブルという配線で繋ぎ、エレキギターで出した音を電気信号に変換してアンプに受信させ増幅する仕組みになっているのだが……魔法ありの場合、シールドケーブルは必要ない。いや必要なんだけど、俺はエレキギター演奏してても飛んだり跳ねたり走り回ったりと暴れられるように態々『エレキギターの電気信号をアンプに無線送信する魔法』を作った。馬鹿だろって?俺もそう思う。

 

揺るがない世界 非常な現状

続く壁は何重層?

 

イメージ通りなんかじゃない 静かに騒ぎ出した本能

 

足元を硬化魔法で固定し、身体の各部にバランスを取るための慣性を与えた状態で地面スレスレまで倒れ込み、硬化魔法解除と共にステージを蹴り上げ慣性を増幅。『ゼロ・グラヴィティ』*7のように重力に囚われていないと思わせる動きで自分の、そしてこれを観る生徒らのボルテージを際限なく上げていく。

 

迷路みたい 行き止まりなんだ

もう思考はディストーション

 

容赦ないね いつの間に

見失ったルート、暴れ出す

 

緻密に精巧を重ね繊細を掛け合わせたかのような演奏技術。一分の狂いもなく、『ただ完璧な演奏である』という技術だけで観衆の心を奪い去り、音楽が紡ぐ『俺の世界』に引きずり込む。

 

Pay attention!!! Hey what is it? Watch your step now!!! 常識なんかいらない!

 

Are you serious!? No,No,No, Don't worry, 1(One) 2(Two) 3(Three)!!! 吹き返す心臓のリズム!

 

煽るように叫ぶ。それにより跳ね上がった熱気は下がることを忘れ、物理的に身を焼くのではと錯覚させる。

 

視界まだ 眩んでる それでも行かなくちゃ

 

キミが信じてる 僕を裏切る──────

 

輝く何かの光から瞳を守るかのように腕を掲げ、振り払うかのように薙ぐ。そんな動作をしながら片腕だけでギターをかき鳴らし続ける。

 

──────わけに、いかない

強くクラクションが鳴る──────!

 

サビ入り行くぞ!俺は硬化魔法を応用して不可視の足場を作り出し、その上を歩く、跳び移るなどして空中移動を行う魔法『虚空歩行(ヴォイド・ウォーカー)』で部屋中を動き回りながら歌い続ける!

 

孤独なまま 時が経ったって

逃げること 覚えたって

 

新しい今日が 来ちゃうけど

 

I'm feeling magical!!!

 

この願い 例え 魔法がなくたって

叶えなきゃ、誓った

 

僕は君と まだ見たい未来あるんだよ

 

I seen my hope

 

……そう。これは俺が魔法科高校で得た、()()()()

達也と。深雪と。雫と。光井と。レオと。エリカと。柴田と。幹比古と。会長と。渡辺先輩と。十文字先輩と。たった数ヶ月ながら替え難い思い出。それを込めて紡ぎ出した、『魔法師の魔法師による魔法師のための魔法師に贈る歌』だ。

 

泣きそうでも 悔しくても

止まっていられない

 

握ったメッセージ That's Rising Hope!!!

 

『虚空歩行』を解除、更に昂る気分のままに飛行魔法*8で部屋中を飛び回り──────曲の終幕と共に着地。うーん、やっば盛大に演奏すると気持ちがいいな。

 

「曲の続きが聴きたきゃ月末のアルバム買うかサブスクで聴くかしてくれや。それじゃ、see you!」

 

その言葉と共に閃光魔法による簡易『閃光手榴弾(フラッシュバン)』で部屋中を光で埋め尽くすと、すぐさま後夜祭の大部屋を飛び出す。……良く考えたら演奏後に退場するのが基本だったから癖ついてるだけで今の俺って普通に参加者でもあるから出なくても良かったじゃん。馬鹿か俺は。

 

「……出ちまったから戻りづらいな」

 

変なとこで面の皮が厚く変なところでそういうのを怯んでしまうタイプの人間である俺は、そのまま自室に戻るのだった。

──────なお。余談だが、部屋に戻ってきた達也に曲の賛美の言葉と共に魔法使いまくってたことへの怒りの説教が飛んできた。褒めるのと叱るのを同時に熟すななんだお前。

*1
深雪は『氷倒し』三回戦で二木家分家出身の雪ノ下雪乃に、スバルは『クラウド・ボール』決勝戦で一色愛梨に勝利している

*2
積雪はそういう案件に出張るタイプではないし哀川潤に至ってはぶん殴って解決しようとして致命的に話をややこしくするタイプである。

*3
時系列的には八幡が爆睡こいている昨夜に無頭竜東日本総支部を壊滅させた

*4
全行程のうち7割の優勝を独占している。

*5
内訳:『スピード・シューティング』本戦男子の部・女子の部、『クラウド・ボール』本戦女子の部、『アイス・ピラーズ・ブレイク』本戦男子の部・女子の部、『スピード・シューティング』新人戦女子の部、『クラウド・ボール』新人戦女子の部、『バトル・ボード』新人戦女子の部、『アイス・ピラーズ・ブレイク』新人戦男子の部・女子の部、『ミラージ・バット』新人戦、『モノリス・コード』新人戦、『ミラージ・バット』本戦、『モノリス・コード』本戦

*6
鈍感バカ

*7
『キング・オブ・ポップ』と謳われたアメリカの伝説のダンサー、マイケル・ジャクソンのダンスパフォーマンス。踵を支点に斜め45度まで体全体を傾け、そこから直立に戻るパフォーマンス。

*8
深雪のミラージ・バット本戦の映像を見て覚えた。




というわけで半年待たせた最新話です。本当にごめんなさい。
次回で九校戦編は終了、夏休み編に入ります。
夏休み編では一条家イベントに海イベント、その他諸々でしっかり密度が発生すると思います。
では、また次回。
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