魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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夏休み編、開始です。


夏休み編 デイ・ホーリー・デイの日常
第三十二話


2095年8月14日。朝8時という微妙に待ち合わせ時間と距離を考えると焦りが出る時間に目覚めてしまった俺は、慌てて着替えて近所のコンビニで惣菜パンを購入、食べながら個型リニア車両(キャビネット)に乗り込む。……にしても、またどうしてこんなとこを待ち合わせ場所に指定したんだろうか。

 

「っと……ここか」

 

待ち合わせ場所の最寄り駅に到着、駅を出てその場所へと向かう。待ち合わせ時間の15分ほど前に到着したんだが……そこにはもう達也と深雪がいた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはようございます、八幡さん」

 

挨拶もそこそこに、その『贈り物』があるらしい場所へと向かう。二人の後ろを追って暫く歩いていると、ある場所に到着した。

 

「ここは……何かの研究室か?」

 

そこは中々の規模の施設だった。あ、なんか看板ある。えっと……『FOUR LEAVES TECHNOLOGY Cast Assistance Device Development Division 3』か。要は『フォア・リーブス・テクノロジー CAD開発第三課』ってことだな。……え、FLT?

 

「……俺たちの父親がここの株主をやっていてな。そのツテで、昔から出入りさせて貰っていたんだ」

 

「あー……なるほど。道理でエンジニアの技術が一般人(パンピー)の領域を大きく外れてるわけだ。教科書で習う画一的な範囲を越えて、実際にその技術で飯食ってるエキスパートの元で習えばそりゃそこらの高校生(コーボー)なんて目じゃねえわ」

 

納得したよ。他が学ぶ課程よりも遥かに濃密で速い勉強をしてたわけだ。俺が腑に落ちたことで頷いていると、達也が口を開いた。

 

「八幡、お前に渡すものなんだが……ここで簡単に言ってしまうと、『バイク』なんだ」

 

「は、バイク?んな高価なもんダチから貰えねーよ」

 

そんなん自分で買うわ。俺がそう言うと、達也が言葉を続けた。

 

「まあ、お前ならそう言うとは思っていた。まあそれに関しては安心してくれ。『最終的にお前の元に渡る』だけで『お前自身もそれ相応の対価を支払う』形になる。だから正確には『バイクを入手するための話』そのものが俺からの誕生日プレゼントってわけだ」

 

「あー……それならまあいいか。つっても今俺手持ちねーよ?」

 

財布には……まあクレカはあるけども。

 

「いや、金銭的な対価じゃない。……まあ細かいことは、研究室の中で話す」

 

そう話しながら、俺たちは目的地となる一室に到着したのだった。

 

 

 

……扉が開くと、そこは随分と騒がしい様相を晒していた。……しかし。

 

「あっ、御曹司じゃないですか!」

 

その声と共に、忙しなく研究室中を駆け回り仕事をこなしていた研究員らが手を止めて集まってきた。──────そこに、学内で達也に向けられる『劣等生への侮蔑』や『やっかみ』の視線などない。純粋な経緯と親しみが込められていることは、八幡にも……感情のエキスパートである『二代目少女趣味(比企谷八幡)』だからこそ、容易に見て取れた。

 

「お邪魔します。……牛山主任はどちらに?」

 

達也のその言葉が届いたのかは分からないものの、研究員らの壁を掻き分けて一人の男性が達也たちの元へとやってきた。

 

「お呼びですかい、坊ちゃん」

 

「すみません、主任。お忙しい中」

 

本来ならば主任と呼ばれた男……牛山欣治は達也のことを『ミスター』と呼ぶのだが、今この場には『二人の正体(トーラス・シルバー)』を知らない八幡がいる。そのため、事前に達也は第三課の研究員らに話を通しておき『前から出入りしていて交流のある株主の息子』として扱ってもらうように言っておいたのである。八幡も『御曹司』『坊ちゃん』という達也への呼び名に違和感はなかったのかスルーである。

 

「いえいえ、朝から働き詰めでしたから。腹拵えも兼ねてそろそろ昼休憩にでも入ろうと思っていた所なんで。……で、そちらの方が?」

 

その言葉と共に、欣治の目が八幡に向けられる。僅かに値踏みをするような、品定めをするような目。八幡はそういう目にも慣れているのでスルーであった。

 

「はい。学友の比企谷八幡です」

 

「どうも、比企谷八幡です。達也にはいつも世話ンなってます」

 

そう言って頭を下げる八幡。それを見て挨拶を忘れていたことを思い出したのか、欣治もまた慌てて頭を下げた。

 

「ああ、ご丁寧にどうも。俺ァ牛山欣治。ここで働いてるしがない技術屋でさあ」

 

「『アレ』を使うなら、彼が一番使いこなせる……そう判断したため、連れて来ました」

 

「……『アレ』ですかい。ですが大丈夫なんですかい、『アレ』は結構なじゃじゃ馬ですが」

 

達也の言葉にも、やや不安な様子を見せる欣治。その言葉に頷くと、達也はある提案をした。

 

「……ならば、一つ確かめてみましょう。『魔法科高校新人最強』と謳われる、俺の友人の実力を」

 

八幡にナチュラルに期待の重さがのしかかった瞬間であった。

 

 

 

俺は達也の謎の安請け合いにより、何も分からないままに魔法を試験行使する実験室に連れてこられた俺。CADを一つ渡され、披露することになった。

 

「……魔法の内容は?」

 

『トーラス・シルバーが発表した飛行魔法だ。……九校戦で深雪が使っていた魔法だよ』

 

ああ、アレね。なら全然問題ねえや。

 

「何分くらい飛んでればいい?」

 

『そう長時間は飛ばなくていい。そうだな、5分ほどで頼む』

 

「了解」

 

そう返答した後、俺はCADを起動。想子を流し魔法を行使する。すると俺の身体は飛行魔法……重力の指向(ベクトル)大きさ(サイズ)の改変により、宙に浮く。飛行魔法はこの重力制御魔法を『短時間の行使』に収め、『ループ・キャスト』によりそれを断続的に繰り返すことで自由な軌道での飛行を可能とする魔法だ。俺が飛び回るのを見る研究員らの目が少し痛いが……別に気にするほどでもない。そのうち、実験室のスピーカーから声が漏れ聞こえてきた。

 

『……魔法行使自体は普通みたいだな』

 

『嬢ちゃんみたいな干渉力がある訳でもない、普通の仕上がりだ』

 

そう漏らした研究員。だが、その言葉を聞いたらしい牛山さんはそれを一喝した。

 

『馬鹿野郎、何処に目ェ付けてんだ!今すぐ精密計測始めろ、俺の目が正しけりゃ坊ちゃんのご友人はマジの怪物だぞ!』

 

……怪物呼ばわりか。まあいいけど。

 

『……八幡。悪いが研究員の方々が精密計測を始めた。済まんが飛行時間を3分だけ延長して貰えるか』

 

「良いぜ~~~」

 

そんな気の抜けた返答をしながら、俺は空中でバレルロール。更にプールの端で行うようなキックターンを壁を蹴ることで再現し、天井スレスレや床スレスレを這うように、滑るように。泳ぐように飛び回る。そうして暫く飛んでいると、達也から終了のアナウンスが届いた。

 

『八幡、それくらいでいい。戻ってきてくれ』

 

「あいよ」

 

そう言いながら床に着地し、魔法を解除。久方ぶりの重力に一瞬だけふらつくも、問題なく立って達也たちへの元に戻るのだった。

研究室に戻ると、研究員の方々はモニターと空間投影式キーボードに齧り付いて計測データを睨みつけている。しかし俺が戻ってきたことに気付くと、正気に戻ったのかデータについて話し合い始めた。

 

「今のデータを見て分かったでしょうが……八幡の魔法には、()()()()()()()()()()()()()。それは、飛び回る八幡に()が見えなかったことから分かるでしょう」

 

……簡単に説明すると、普通の魔法師ってのは魔法を使う時に想子を消費する。

ただこれは……例えるなら、魔法毎に決まっている容量の器に想子という水を流し込むようなものでな。CADから送られる信号に反応して想子を流すんだが、どうしても『魔法の行使に必要な量が充填された』という信号がCADから送られてから『それを受けて肉体が想子の流出を停止させる』までにタイムラグが発生する。

そのタイムラグの間に流し込むも、容量オーバーで溢れ返って器の外にこぼれてしまう水。それが魔法の際に発生する想子のロスになる。

だが俺は『悪霊の聴覚』によって想子と魔法式を音として正確に知覚出来る。その応用により、魔法式を行使するのに必要な想子量をこれまた正しく認識し、丁度必要な分だけ流し込むようにすることで過剰な消費をゼロに抑えているわけだ。

で、達也が言ってる『光』ってのも、普通の魔法師が魔法を行使する際に零れた余剰想子の光だ。俺はその『余剰想子』ってのがないから、魔法をいくら使ってもその光が発生しない。

 

「八幡、一応聞くがあのまま飛行魔法を使っていた場合……どれだけ保つ?」

 

「5時間くらいは行けるんじゃねえかな。俺の体質上」

 

達也の問いかけに即答する。俺のその言葉に違和感を持ったのか、今度は牛山さんが質問をしてきた。

 

「比企谷さん、その『体質』って?」

 

「あー……まあ『体質』って言うほど大したもんじゃねえっすよ。まず一般的に『スタミナがある』って表現がありますけど、生物学とかそういう方面だとこの『スタミナがある』っていうのは二種類に分かれるんですね」

 

部屋中の人間の視線を向けられてさすがに少々たじろぎながらも、説明を行う。

 

「一般的に言われる『スタミナがある』ってのは、純粋に体力が沢山あるタイプです。実例で言うと想子を馬鹿喰いする『術式解体(グラム・デモリッション)』を連射出来る達也みたいなのです」

 

「だけど、『スタミナがある』ってのにはもう一つあるんですよ。これが『()()()()()()()()()()()()()』。俺はこっちのタイプなんですね」

 

だから葉山と本気でドンパチした後に将輝と真紅郎とかいう魔法科高校最強タッグ相手にして想子が枯渇せずに済んだわけだし。そう言うと、達也が合点がいったかのように頷いた。

 

「なるほどな。……ちなみに、体感でいいんだがその回復速度は?」

 

「結構早い方だぜ。使い切っても30分も寝れば6割か7割くらいまで回復する」

 

その優れた回復速度と、『聴覚』を利用して極限まで抑えた消費の合わせ技による並外れた継戦能力が俺の武器だからな。その点では、実は俺がそんなに才能ある方じゃないからってことで持久戦に持ち込むとまず俺が勝てる。……達也くらいの想子があったら話は別だけどな。

そこまで言ったところで、ふと気付くと視線の質が変わっていた。なんか……研究対象を見る目だった。

 

「えっ、何?」

 

「大丈夫大丈夫」

 

「会話になってねえぞ」

 

「健康診断みたいなもんですから」

 

「話聞いてる?」

 

バッ!と達也の方を見る。……しかし。

 

「……」

 

「おい目ェ逸らしてんじゃねえぞ達也ァ!」

 

抵抗虚しく身体測定させられた。

 

 




八幡のパラメータ

八幡の能力値(&参考用として達也の能力値)
比企谷八幡司波達也
想子保有量(一般魔法師:10)81000
魔法演算領域通常仮想
魔法の発動速度工程数を問わず0.2秒前後5工程以内なら0.5秒未満
演算規模(一科生平均:30)80『分解』なら150
干渉力(一科生平均:70):40『分解』なら200
想子回復速度(一般魔法師:5)207
想子操作能力(一般魔法師:10)100『分解』『再成』であれば100、他は5
魔法行使の余剰想子(一般魔法師:5)0『分解』『再成』であれば0に出来る。他は5


このとおり、八幡の魔法の才能はそう高いわけではありません。一科生の平均よりはあるかもってくらいの程度であり、何ならステータス的には実は同じ一科生である深雪や雫、ほのかよりはずっと低いですし、何ならものによってはエリカやレオより低いです。あの二人は得意分野の偏りによって総合的な能力を求められる一科生になれなかっただけなので、専門分野を使えばいい実戦になれば普通に学年最上層に食い込めますし。ちなみにこのパラメータは『悪霊の聴覚』補正込なので素のスペックになるともっと低いです。
一高のネームドキャラクターではそもそも魔法師になるのではなく霊子放射光過敏症(見えすぎ病)の制御のために魔法科高校に入学した美月くらいですかね、八幡より魔法の才能がないの。つまり大真面目に魔法師を目指してるネームドキャラクターの中だと割と底辺です。干渉力も、実は試験の際には『一点に集中・凝縮して』魔法を行使することで他の生徒が70の干渉力を10の範囲につぎ込んでいるのに対して1や0.1の範囲に40の干渉力を使って擬似的に400とかに誤認させているだけだったりします。ほぼ詐欺師。演算規模に関しても、生まれつきの『想子の知覚』によって常人なら発狂しかねない情報量に晒されていたことで情報処理能力が発達しているので優れているだけです。
なので実は、『悪霊の聴覚』がないと

余剰想子→人並み、何なら才能があるわけではないので人より効率が悪い
干渉力→一科生平均の半分よりちょっとマシ程度
演算規模→一般人程度
発動速度→愚鈍

という最弱クソザコナメクジに成り果てます。依存度高過ぎて笑う。
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