今回は前半が深雪回、後半が八幡の体質だとか能力だとかに触れてからのバイク回です。
「酷い目にあった……」
「お疲れ様です、八幡さん」
「深雪……ありがとな。ところで君のお兄さん俺の救いを求める目を無視した挙句ちゃっかり俺の身体データ見て色々考え込んでるんだけどどうなってんの?」
「物思いにふけるお兄様もお綺麗ですよね」
「客人ほっぽり出して何してんだよってとこに突っ込んで欲しかったかな俺は」
達也のことになったら盲目すぎんだよな。
「……で、こっからどうすんの?アレ終わるまで俺ら待ちぼうけ?」
俺がそう言うと、一人の研究員がやって来た。
「こうなったら暫く戻ってこないんで、うちの食堂でお昼ご飯でも食べてきてください。美味しいですよ」
「その前に客放置なのホント終わってるんでそれどうにかした方がいいっすよ」
「腕は確かなんです。腕だけは」
……そういうタイプかあ。俺もそういう
「……では、お昼ご飯でも食べに行きましょうか」
「……そうするか」
「あ、この社員証使ってください。外部からの人用のやつなので料金は経費で落ちます」
研究員から社員証を受け取り、俺と深雪は昼飯を食べに行くのだった。
食堂にやって来て、メニューを見て昼食を選ぶ。
「……では、私は焼き魚定食を」
「俺は……盛りそばで」
会社の社員食堂に盛りそばあるのびっくりしたけど。ひとまず注文した食事を受け取り、適当な空いているテーブルに。
「……そば、好きなんですか?」
「麺類全般大好きだからな。ただ最近は特にそばがマイブーム」
勿論うどんもラーメンも好きだけどな。
師匠にマナーとかを徹底的に叩き込まれた俺と、礼儀作法も完璧な深雪。そんな二人が飯を食ってたらそりゃまあ喋ることもなく、そのまま普通に完食した。
「……蕎麦湯まで付いてんのめちゃくちゃ本格的だったな。しかもそばは二八蕎麦だったし」
厨房にガチ勢いたのかもしれん。
「……さすがに飯食い終わるくらいの時間が経ったら一段落ついてるか」
「皆さん大変優秀な方々ですからね」
「……ワンチャンヒートアップしてたりしない?大丈夫?俺もう一回検査コース入ったりしない?」
「……………」
何か言ってくれませんかね深雪さん。目を逸らさないでください。
「ま、まあお昼ご飯を食べてすぐに歩き回るのもなんですし、しばらくお話しましょうか」
「露骨に話そらすなぁ……まあいいや」
で、話か。……うーん……うーん……?
「……こうして改めて考えると、俺と深雪って一対一で話したことって無かったな」
「そう……ですね。クラスでは雫やほのかがいますし、生徒会や風紀委員会の方では会長やお兄様がいますから」
「割と新鮮な気分」
……うーん、気まずい。人との話し方がやっぱり上手くわからんな。
「……八幡さん」
そんなことを考えていると、ふと何かを思い詰めたような顔で深雪が口を開いた。
「……どうした?そんな顔して」
「……お兄様について、どう思ってますか?」
どう思って、って言われても……。
「恋愛対象にはならんな」
「殺しますよ」
ねえそれどっち?達也を恋愛対象として見たら殺すのか達也のこと無碍にしたら殺すのかどっち?
「こほん。……そうではなく、
「為人、ねえ……」
……まあ、一言でまとめるなら。
「デカいやつ、かな」
「……と言うと?」
「俺が自分でもよく分かんねえ……霧だとか煙だとかの『不確かなもの』だとするなら、アイツの場合は『存在の規模が違う』。普通に見ようとしたら、本当のアイツのごく一部しか見えない。東京スカイツリーを至近距離で見ても、一部分しか視界に入らないようにな」
だからこそ、アイツと対等でいるにはアイツを正確に見なきゃいけない。……いや、むしろ必要なのは視野か。もっと広く、もっと大きなものを見極められる眼。……アイツに必要なのは、多分そういう眼を持ってる奴だろう。
「……ふふっ」
「ん?」
「いえ……お兄様をそう言っていただけたことが嬉しくて」
「……そっか。そりゃ良かった」
……あ、そうだ。これは言っとくか。
「……俺はさ、達也のことは
「……はい」
「達也が何か隠し事してんのは何となくわかるし、俺だって隠し事はしてる」
──────だからこそ、その上で俺は達也の味方だ。
「……っ!」
「何を隠していようが、どんな奴だろうが。友達は助ける。友達の力になる。友達の為に何かを成す。それはそんなに難しいことじゃないし、きっと俺たちが想像するよりも大変なだけで……俺たちが想像するよりも、ずっと簡単なことだ」
「まあ長々と言っちまったが……面倒事ン時は力貸すぜ。それは達也だけじゃない。深雪のことだって友達だと思ってるからな。俺は何時だって友達の味方だ」
「……ありがとう、ございます。きっと、お兄様に八幡さんの力が必要な時が来るでしょう」
「おう、その時は俺を呼べ。地球の裏にだって直ぐに向かうさ」
その後も深雪と暫し談笑し、前よりも更に仲良くなった……よね?仲良くなったと言っていいよね?最終的に前まで『八幡さん』呼びで敬語だったのが呼び捨てで敬語も抜けたんだけど。これで『そう思ってたのは八幡さんだけですよ』とか言われたら俺泣くよ?……まあとにかく。ある程度時間も経ったし、俺たちは研究室に戻ってきた。来たんだが……。
「……大丈夫かこれ」
俺たちが昼前にここに来た時よりも心做しか全体的にテンションが高い。なんか暑さまで感じてきた。
「ああ、八幡。なに、お前の運用データが興味深かったらしくてな。全員そっちに意識が取られっぱなしなんだ」
「進捗いかがですか先生案件ってことか」
「お前それ言う相手には気をつけろよ」
「正直自分でも言っててダメージ受けた」
これ言われると「殺すぞ」で返したくなるからな。
「……ああ、そうだ。さっきの身体測定のデータでお前について色々解ったことがあるぞ」
「何?俺のBMI値?」
「知ってどうするんだそれ」
知らね。
「……折角だし聞いてくか」
「ああ。まず、お前の『
そうなの?俺てっきり耳版のそれかと思ってた。
「俺のは能動的に割とオンオフが効くからな。恐らくだが、お前の耳は『共感覚』の一種だ」
「共感覚……っつーと、人のオーラが色で見えるみたいなやつか?」
「ああ。美月の見えすぎ病も性質だけは似ているが、実際のところアレは霊子に対しての過剰反応だからな。共感覚はどちらかと言うと『根本的な五感の受容システムが特殊』といったような代物だ」
「……要は、柴田のは『常人の視覚システムの異常』なのに対して俺の耳は『常人の聴覚システムと比較した場合は異常だが、そもそも俺の聴覚システムはこれが平常運転』ってことか」
「そうなるな。だから治療とかでどうにかなるものでもない。電卓でインターネットに接続出来たらそれは異常だが、パソコンでインターネットに接続するのは異常でもなんでもないだろう?」
なるほどねえ。昔っから『どう折り合いをつけるか』しか考えてなかったから『それがどういったものなのか』は考えたことなかったな。
「後は……そうだな、やはりデータでは情報処理能力が極めて高い。……耳の影響か?」
「ああ。師匠と出会うまでは制御が効かずに想子とか魔法の音を無差別に聞き取ってたからな。必然的に膨大な情報の処理を無意識でこなす技術が身についちまった」
「難儀だな……まあいい。では、そろそろ本題に入ろう」
達也がそう言ったところで、牛山さんがやってきた。
「坊ちゃん、ここからは俺が。比企谷さんには、第三課が開発したある特殊な──────『バイク型CAD』のテスターをして欲しいんでさあ」
「バイク型CAD……何スかそれ」
「ああ、今持ってこさせます。……おい、アレ持ってきてくれ!」
牛山さんが研究員らにそう伝えると、何名かの研究員が研究室を出ていった。そしてしばらくすると、自動運転式の台車に乗せられた大きなコンテナが運ばれてきたのだった。
「これが俺達が開発した最新式CAD『
その言葉と共にコンテナが開け放たれる。そして、その中には──────狼がいた。
いや、その表現は正確ではない。正確にはバイクだ。だが……まるですぐ目の前に獣がいるかのような、そんな威圧感を確かに感じた。
「……ケルベ、フェンリル……」
その機体は、確かにバイクではあった。
しかし、バイクと一言で形容するにはあまりにも生物的だった。
バイクの前面……カウルに相当する部分と、ハンドルを覆うカバーには精緻な黒、金、銀の狼の頭部。車体も黒をベースに金と銀のラインが引かれて装飾されており、車体後部には獣の尾のような銀の気筒が8本……いやちょっと待て。
「おい達也何だこれ気筒どうなってんだ」
「8気筒だが」
「馬鹿か?????」
バイクに8気筒とか何考えてんだおいコラ。
「いや、めちゃくちゃカッケェよ?マジで尖りに尖ったデザインでめちゃくちゃ好みだよ?」
「「「あざーっす!」」」
「達也あの人ら誰?」
「三課のデザイン担当の職員さんたちだ。この『三つ首の神喰狼』の外装デザインをしたのもあの人たちだな」
犯人あの人らかよ。
「二輪車が搭載してていい気筒じゃねえんよ」
「いや、安心してくれ」
「現時点での情報に何も安心できる要素がないから取り乱してんだけど」
これ乗ったら俺の命の危機なのよ。
「これはあくまでCADだからな。ガソリンじゃなくて魔法で動く」
「ああそれなら安心とはならねえんだよ馬鹿」
ツッコミで疲れ始めてきた。
「もういいや、後で突っ込みどころ纏めて突っ込むんで。牛山さん、説明の続きお願いします」
「はい。この機体は『
「それだけ聞くとちゃんといい発明だと思いますけど……俺に託されるくらいだから絶対なんかあるでしょ」
「盛り込みすぎたんで最低でも『マルチキャスト』が使えるくらいの魔法の操作技術がないと通常の運転すら出来なくなりました」
「馬鹿じゃねえの!?!?!?」
こういうのって譲れない部分の構築と妥協を繰り返すもんだろ!?何でドカ盛りにしたの!?お前らデスティニーインパルスガンダム*1知らない!?このバイク大体デスパルスだぞ!?
「ついでに言うとフルスペックは『マルチキャスト』どころか『パラレル・キャスト』、しかも別種の魔法を並行して使える前提の代物だな」
「悪いこと言わんからアンタら一回上司に死ぬほど怒られた方がいいと思うよ」
『パラレル・キャスト』ってのは簡単に言うと2つ以上のCADを同時に使う技だ。達也が使ってた『キャスト・ジャミング』は異なる魔法の干渉を意図的にぶつけ混信させ、それにより魔法を無効化させるわけだが……一応達也以外にも雫も九校戦で使ってたし、俺も一応出来なくはない。魔法をそもそも超速で使えるから2つ持って使うよりも一台を高速で使い回した方が早いし楽なだけで。
「……で、八幡。別種の魔法を同時に使う『パラレル・キャスト』は使えるか?」
「何でそこの確認取れてねえ状態で俺を連れてきてんだよ。出来るけど」
「いや出来るの?」
堪らず深雪の突っ込みが入った。
「ってか深雪くらいの魔法の腕ならこれ使えると思うけど。何で深雪に話持ちかけなかったの?」
「……それには、3つの理由がある」
俺がそう聞くと神妙な顔をする達也。何か深雪が昔事故に遭ったとかそういう触れづらい理由があるのかと身構える俺。
「まず第一に、深雪は想子の精密操作がそこまで得意じゃないから操縦には厳しいものがある。それは一高で俺が陰口を叩かれる度に深雪が無差別に周囲を凍らせていることからわかると思う」
「最近それ止めた回数が3桁手前にまで来たな」
「ごめんなさい……」
申し訳なさそうな顔をする深雪。俺はそれに対して『気にしなくていい』という意味を込めて手を振っておく。
「2つ目は、お前の腕を見込んでのことだ。俺が今まで見た中でも、魔法の精密操作技術は群を抜いている。……そんなお前なら、数多の魔法師ですら手が付けられず……未だ日の目を見ることの出来ない『
「達也……」
……ちょっと感動してしまった。
「最後の理由としてはこんな失敗したらどうなるかわからないバカの考えたような代物に可愛い妹を乗せるわけにはいかなかったからだな」
「お前マジで殺すぞ!?」
堪らず叫んだ。
「妹を手放しで乗せられない失敗したらどうなるかわからないバカの考えたような代物に
「お前の腕を信頼してのことだ」
「それ言えば許してもらえると思ってる?」
「許してくれる程度には馬鹿だと思ってる」
飛び蹴りが炸裂した。
比企谷八幡
いいもの貰えると思ってホイホイ着いてきたらとんでもない化け物を押し付けられそうになっている。飛び蹴りの際にギリギリ理性が働いて咄嗟に足裏と達也自身に硬化魔法を施したことにより、飛び蹴りで達也の服が汚れたり怪我したりはなんとか回避した。
司波達也
八幡の影響で性格がかなり悪くなっている。ほぼほぼ汚染である。
司波深雪
『達也は友達だから何かあった時は助ける』宣言により八幡への好感度がぶち上がった結果敬称と敬語が消えた。なお深雪ヒロインルートは現時点で発生条件が完全に消滅しているので存在しない。
『
FLT CAD開発第三課が設計・開発したバイク型CAD。本来は通常のバイクより少し上のスペックになる予定だったが、研究員の一人が『この際だし大型のCADにどれくらいシステムを搭載出来るか試してみよう』と言い出した挙句、八幡の影響によっておふざけ適性を獲得してしまった達也のGOサインによってギミックドカ盛りになってしまったモンスターマシン。
まず『マルチキャスト』が使えないとまともに運転すら出来ない時点でワンアウト、『パラレル・キャスト』を使ってようやく他の機能を使える時点でツーアウト、更に『パラレル・キャスト』の中でも特に難易度が高い別系統の魔法の並行行使が出来ないとフルスペックを発揮できない時点でスリーアウト攻守交替である。
外見は黒、金、銀の狼の意匠が施されたクールでスタイリッシュなバイク。余談だが、デザイン担当の会議の際に『ドラゴンにしたい』派と『狼にしたい』派が激突するもそこを通りがかった牛山欣治の『金の三つ首竜は普通にキングギドラでは?』の一声で狼派の勝ちとなったという裏話がある。
第三課の面々
パネェうちの