俺と真紅郎が将輝と共に一条家の広間に来ると、沈痛な面持ちで腕を組み何かを考え込んでいる剛毅さん*1と、気丈に振る舞いながらも動揺を隠せない美登里さん*2がいた。そして剛毅さんへ将輝が口を開いた。
「茜は?」
「さっき電話を掛けた。友達と遊んでいたらしく無事だったが、念の為事情を伝えて友達の家なりの部外者が入ってきにくい場所か、ここに戻るように言っておいた」
「……せめてもの救いか」
将輝のもう一人の妹は無事だったらしい。となれば、後は瑠璃ちゃんを助ければオールオッケーだな。……しかし、参ったな。
「将輝」
「お前は客人だ、関わる必要はない……と言っても、聞かないか」
「ったりめーよ。今回の一件、俺が一条家に来なかったら起こりえなかった案件だ。いくら俺がカスの外道っつったって、明らかに俺にも原因の一端がある案件で部外者気取れる性格してねーよ」
「当然僕も手を貸しますよ。こんな舐めた真似をする輩は叩き潰すに限ります」
「八幡、真紅郎……悪いな。感謝する」
……現状を整理するか。
誘拐犯の目当ては今のところシンプルに金。手垢のついたような話だな。要求金額も億単位。そんなん出せると思ってんのだろうか……え、何?表向きは海底資源の採掘業営んでるからそれくらいは出せなくはない?……すっげぇね。いやまあ俺も音楽家として億単位の金は持ってはいるけどさ。
「警察への通報も禁止、発覚次第命の保証は無くなる、ねぇ」
「……命の危機もそうだが、32年前の四葉家の二の舞は何としても避けねばなるまい」
……32年前?
「なあ真紅郎、32年前の四葉家って何?」
「……知らないんですか?」
「うん」
俺がそう言うと、真紅郎はため息を一つついて説明を始めた。
「32年前……正確には33年前、2062年4月。当時12歳だった現四葉家当主、四葉真夜が
はえー……何としても救い出すしかなくなったな。元々そのつもりではあるが。
「親父、誘拐犯からの電話の録音はあるか?」
「ああ。……再生するぞ」
その言葉と共に、誘拐犯共の身代金要求の録音が流される。……使い古されて手垢まみれなほどの内容だな。今日日恥ずかしくねえのかと思ってしまうくらいだ。……ん?
「一通り近辺で、誘拐した子供を監禁出来るような場所はリストアップしてあるが……虱潰しに行くには時間が足りなすぎる」
「……すみません、この録音もう一回流していいっすか?」
「……何か気がついたのか?」
「気が付きそうっつーか……何か違和感あって」
剛毅さんの許可を取り、もう一度流してみる。……ん、また違和感。少し戻してまた流す。……あ、分かったわこれ。
「剛毅さん、この中で
「……解体、工事?」
「はい。ブレス音とかで紛れて聞こえづらいっすけど、よく聞くと重機の音が入ってます。一緒に破砕音とかも聞こえるんで、近所で解体工事やってるっぽいっすね」
「重機の音とか分かるのか?」
「車体用途とか重量で意外と音って変わるんだよ」
俺がそう言うと、剛毅さんは端末を起動して操作。そしてしばらくすると、いくつかの赤い点が記された地図を出してきた。
「この近辺で、工事が行われているのは4箇所。そしてそのうちの1つは建設作業をしているそうだ。そして解体工事をしている3箇所のうち、1つは既に工事を終えて後は撤収作業のみとのことだ」
「となると……残り2つのどちらかか!」
「そうなる……そこで、だ。この場にいる人間で二手に分ける。将輝、お前は母さんと共にこっちを頼む」
剛毅さんは残った2箇所のうちの1つを指しながらそう言う。……実力を考えれば、俺は暫定将輝たちと同格。それなら他の組み合わせでも問題ない訳だが……まあ俺と真紅郎はあくまで客人。当主である剛毅さんと同行させて安全性を高めておくのが一条家としてのせめてもの対応か。
「瑠璃が居ることが判明すれば即座に連絡。多少の魔法の行使もどうとでもなるが、もし本格戦闘を行うなら三高の方に誘導しろ」
……なあ将輝、真紅郎。これってさ。
「ああ、誘拐犯どもをボコボコにするなら魔法の使用が合法な三高敷地内にぶち込んでから好きなだけやれってゴーサインだ」
「将輝の父さんもかなりキレてますからね」
「さっき
「聞こえてるぞ」
「「「ギクッ」」」
そんなこんなで、瑠璃ちゃんがいると予想される2箇所のうちの一つに着いた俺たち。
「八幡、何か分かりますか?」
「シンプルに工事の音うるせえね」
グーパンが飛んできた。それを躱した後、気を取り直して耳をすませる。……男のものと思われる低い呼吸音が複数、そして安定したやや高い呼吸音。微かに浅いのを考えると、意識がない状態……恐らく寝てるんだろうな。まあつまり。
「ビンゴだ。真紅郎、将輝に三高で合流するように連絡頼む」
「分かりました。……八幡はどうするつもりです?」
「んー……ま、ご挨拶だよな」
俺はここまで来るのに使った『リル』に跨ると、魔法を起動し急加速する。そして『ファランクス』を装甲として展開し、その状態で更に右手で九字切りの刀印を結ぶ。右手を奴らのいる廃ビルへと向け──────
それは斬撃。
あるジャンブ漫画に登場する、『呪いの王』の代名詞たる一撃。
それと共に魔法の並行行使。『ファランクス』のスロープによりジャンプ台を即席で作り、ビルの3階程度まで飛び上がる。贅沢な使い方してるよな、と独りごちながら、それを叩き込む。
正面、俺が『リル』で突っ込む場所に『解』が叩き込まれる。結局のところ再現つってもただの『
「っ、何だテメェッ!」
前ぶれなき闖入者である俺の存在に誘拐犯らが気を取られた瞬間、ビル1階玄関から轟音が響く。……こりゃ剛毅さんが『偏倚解放』撃ち込んだっぽいな。まあそんなことはどうでもいい。『ファランクス』を維持した状態で更に加速、誘拐犯の1人を轢く。
ゴシャバキグシャアッ!なんて音を出して吹き飛ぶ誘拐犯その1。更に円を描くように走行、後輪を上げる逆ウィリーで誘拐犯その2を殴打しビルの外へ叩き出す。それを待ち構えるは加重魔法の応用で鉄骨を軽くし、何処ぞの国民栄誉賞所持者みたいな『
「フルスイング死ねやァッ!!!」
大丈夫真紅郎?キャラ消し飛んでない?それ言って許されるの多分俺とかだよ?
「っ、何だテメ──────」
「はいはーいだァってろ」
空気弾を撃ち込み黙らせる。そしてその間に瑠璃ちゃんを回収し、同乗者用シートに載せて2ケツ*3する。
「じゃあ運びますねー……お前を」
「へ?おわあっ!?」
しっかり瑠璃ちゃんを載せたのを確認した後誘拐犯に突撃。衝突と同時に微かに上に打ち上げ、『リル』のフロントカウルに乗り上げさせた状態で目的地である三高へと移動を開始する。さながら『仮面ライダークウガ』の『ゴ・ジャラジ・ダ*4』みたいだ。
「この、ガキが──────!」
「うっせ」
ナイフを振るう誘拐犯。だが俺とコイツの間に隔てるように構築した『ファランクス』により阻まれた挙句、ナイフがへし折れる。
「俺のファンに手ェ出したんだ、タダで死ねると思うなよ」
そう言いながら到着した三高。『ファランクス』で吹き飛ばしたところで誘拐犯全三名を移送完了。瑠璃ちゃんをシートに寝かせておき、俺は『リル』を降りて既に三高に移動していた将輝、真紅郎と合流する。
「っし、後はこいつら殺すだけか」
「さすがに殺すと親父でも庇いきれないからやめてくれ」
「なら99殺しにしとくか」
「パーセントだよな?それ一応聞くけどパーセントだよな?」
「割」
「こっわ」
なんて軽口を叩きながらも、俺たち3人は誘拐犯らに襲いかかった。
まず最初に誘拐犯に肉薄し、その顔面に怒りのグーパン*5を叩き込んだのは将輝。伊達に一条家の次期当主最有力候補をしてなかったのが我らが
「ガッ──────この、クソガキがぁっ!」
「『爆裂』」
次の瞬間、誘拐犯の右膝が爆発。激痛と共に姿勢が崩れることで振り翳したナイフが行き場を見失う。そう、広範囲に即死攻撃をぶちかませる『爆裂』を見つめ直した結果「範囲攻撃は確かに強いけど正味広いほど演算キツいし、場合によっては殺さず無力化する局面とかあるの考えると過剰火力でむしろ邪魔じゃね?」という答えに行き着き、最終的に「じゃあ身体の一部分だけを『爆裂』で吹き飛ばせばその部位は使い物にならなくなるし、末端部位なら命に別状もないだろうからいいじゃん」と思いついてしまった結果がこれである。誘拐犯の体内、膝のリンパ液を
「──────『
一条家夫人、一条美登里は師補十八家の一つ『一色家』の血を引く。そのため将輝の妹である一条茜は一色家の秘匿魔法『電光石火』を使えるのだが、将輝もまたその一色家の血を引いている。一条家の次期当主であるために使わないようにしていたのだが、これまた魔法なら何でもパクって我が物顔で使うバカのせいで使うようになってしまった。一色家はキレていい。そしてそれによる反応速度と高い身体能力、更に魔法での身体強化を合わせて行使する我流の近接総合格闘術を身につけた今の将輝は、
そしてその強化された肉体を使い『眉間』『人中』『喉元』という控えめに言って殺意しか感じられない人体の急所に肘鉄を僅か一秒で叩き込む奥義『三惨華』を誘拐犯に叩き込み、その意識を消し飛ばした。余談だが、後で八幡にお披露目したところ結局のところ使ってる魔法は特殊な才能を必要としないものばかりな上に音使いとしての能力により技や体運び、呼吸などの必要要素を読み取られ一目で完コピされたことで将輝はキレた。
続いて誘拐犯に飛び蹴りをぶちかましたのは真紅郎。これまた自らを鍛え直し始めた将輝に触発され筋トレによるフィジカルアップを目指……すも、一条茜に『筋肉ダルマの真紅郎さんは嫌』と泣きつかれたことで線の崩れないインナーマッスル*6を鍛えることにシフト。その代わりに魔法の範囲定義と照準指定能力を伸ばし、更に動体視力も成長させたことで『不可視の弾丸』が強化通り越して凶化。一発目で吹き飛ばした空き缶に二発目、三発目を撃ち込むという『映画ドラえもん のび太と銀河
「右足左くるぶし、左肩、顎、右前腕部──────手加減してこの程度ですか」
真紅郎が部位を呟くたびに、誘拐犯のその場所が『不可視の弾丸』で撃ち抜かれる。
なお『この程度』と言っているが、誘拐犯らが手を出したのは一条瑠璃。将輝の親友である真紅郎からすれば親友の妹であると同時に自らの妹分、後ついでに茜に外堀を埋められつつあるので10年以内に名実ともに妹になるであろう少女である。なお真紅郎は必死に目を逸らしている。逃げ場はほぼないので大人しく諦めて欲しい限りだ。
とにかく、そんな瑠璃に手を出されたことで真紅郎もまた怒髪天。手加減してなお『不可視の弾丸』の一発一発が金槌全力フルスイングくらいの、余裕で人骨をへし折れる火力である。
頽れる誘拐犯を冷めた目で見下ろしながら、ダメ押しの追撃。その結果、内臓に一切傷をつけることなく頭蓋骨と耳内部のツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨などを始めとするさすがに干渉出来るサイズではない以外の全ての骨を単純骨折させるというちょっとよく分からない芸当を披露し終え、真紅郎は一息つくのだった。
さて、残った最後の一人はヘラヘラ笑いながら歩いて誘拐犯に近付く我らがスーパーリアル狂人こと比企谷八幡。先程ナイフを阻まれた魔法『ファランクス』の展開に気をつけながら、ナイフを翳し駆け出す。……しかし。
「『位相』『黄昏』『智慧の瞳』……術式順転『蒼』ってなァ!」
その言葉と共に、誘拐犯の身体が一気に引き寄せられる。急な引き寄せに体勢を崩したその腹に、渾身の回し蹴りが叩き込まれる。半ばカウンター気味に突き刺さったその蹴りは、その衝撃を誘拐犯の全身に行き渡らせその意識を朦朧とさせる。引き寄せてるからむしろカウンター気味に仕立て上げているが。割と
「『位相』『波羅蜜』『光の柱』──────術式反転『赫』ッ!!!」
この蹴り技は、最初の相手を引き寄せる際に空気をも引き寄せ、それを圧縮。それを繰り返すことで高密度高圧力の『空気の凝集体』を作り出すことに本質がある。そしてその技は、蹴り飛ばす際に『偏倚解放』と同じ要領で指向性を与え放出することで完成する!
「そォら、ぶっ飛べやァッ!!!」
足を振り抜くと同時に、解放される圧縮空気。それに曝されることで誘拐犯の身体はサッカーボールでも蹴るかのような動作からは想像もつかない速度で吹き飛ばされる。三高のグラウンドを丸々縦断するほど吹き飛んだところで地面にグシャ、と墜落。しかし一人だけ付けていたプロテクターが功を奏したのか、トラックに撥ねられた子猫みたいな吹き飛び方をしておいて何とか立ち上がっている。不運なものである。ここでダウンしておけば──────
「じゃ、残り一人は3人でシメるか」
「採用」
「ぶちかますぜベイベー」
「八幡お前そんなキャラだったっけ」
「てけとーこいとるわボケが」
3人にボコられるという最悪を回避出来たというのに。
「やっちまえ一条ー!ところで何で一高の奴がいんの?」
「誘拐犯なんざぶっ殺せー!気のせいか比企谷八幡いるよね?」
「生かして返すなー!俺の目の錯覚じゃないよな?絶対いるよな?」
大分愉快な野次も飛んできている。
「三高結構面白おかしいな。
「良いだろ別に。……さっさと決めるぞ」
その言葉と共に、3人がCADを残った最後の誘拐犯に向ける。命乞いも弁明も聞かない、確殺の一撃。
「『不可視の弾丸』ッ!」
「『偏倚解放』ッ!」
「『解』ッ!」
雑に放たれ、その癖無駄に威力のある三発の攻撃が誘拐犯を討ち取った。殺してないけど。
瑠璃ちゃんも助け出し、誘拐犯全員半殺しにして大満足の大団円を迎えた俺たち3人。時間も夕方から夜に差し掛かる頃合となったため帰路につく中、ふと将輝が口を開いた。
「2人とも、今日はありがとな。さっき親父から連絡が来た。今夜はうちで高級焼肉だ」
「やりぃ!!!!!」
「お言葉に甘えて。あ、そうだ八幡。賭けしませんか?」
「内容は?」
「八幡が瑠璃ちゃんに手ずから食べさせたら完食までに何回気絶するか。予想回数が実値により近い方が勝ちです。勝てば明日駅前のラーメントッピング全乗せでどうでしょう」
「採用」
「ふざけんなよ瑠璃を何だと思ってんだ」
いや俺からすれば目が合っただけでぶっ倒れる面白おかしい子にしか思えんけど。他にどう解釈しろと?
「余興とはいえ勝負は勝負、本気でやってくださいよ」
「さて、と。夢女殺しの比企谷八幡と謳われた実力を見せますか……」
「マジでどこで言われてんだよそれ」
「っていうか夢女の知識あるんです?」
「大丈夫大丈夫。この作品の作者夢女だからそこから知識引っ張ってくる」
「身長180後半で肉体性別も性自認も男なのに!?!?!?」
「控えめに言ってバケモンだよ」
最終的に瑠璃ちゃんは2桁後半回ほど気絶したし、俺は真紅郎との賭けに負けるのだった。
比企谷八幡
ファンは大切にするタイプ。ファンからの異名の中に『夢女殺し』『夢女に優しい男』がある。なお本人は『これやるとファンが尊死しておもろいんよな』程度に考えている。最悪か?
一条将輝
実は一番キレてた。知ってた。
吉祥寺真紅郎
妹分に手を出されブチギレ。
一条瑠璃
今日一日だけでファンサ摂取量が致死量一歩手前に突入した。誘拐そのものは「まあ十師族ですしたまにはそういうことありますよね」でそんなに気にしてない。自己申告で一番ヤバかったのは『八幡が隣に座る+「あーん」をされる+緊張と興奮で味も分からない中耳元で小声でイケボ作られて「美味しい?」と囁かれる+必死に頷くと「そりゃ良かった」と言って頭を撫でられる』の凶悪コンボとのこと。
おまけ
一年男子近接戦闘強さランキング
魔法なしの場合
達也>レオ>隼人>将輝>>>幹比古>真紅郎>>>>>>>>>>八幡
魔法ありの場合
達也>レオ≧将輝≧隼人≧八幡>>>>>幹比古>真紅郎
魔法なしだと別に筋トレもしてない八幡はガチの雑魚です。その代わり魔法込みなら発動速度が最速全一なので手数で大体は押し切り殺せます。