魔法科高校の音使い   作:オルタナティブ

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第五話

次の日。司波兄妹は、ある寺にいた。

目的はその寺の住職である忍術使い──────九重八雲。俗世から離れながらも俗世をよく知るという、謎に矛盾した古式魔法の使い手である。それとも、俗世を俯瞰するからこそ様々なものが見えるのだろうか。余談だが八幡は存在を知らなかったし『八雲』というフレーズだけで『幽霊見えたりすんのかな……』とか思っていた。それは心霊探偵八雲だ。

 

「──────師匠。彼について、何かわかりましたか」

 

「まあね。と言っても聞かれたのは一昨日のことだから、完全には調べ切れてないけど……それでもいいかな?」

 

「はい。無理を言ったのはこちらですから、それくらいは」

 

八雲はその言葉に頷くと、自らが調べ上げたその『彼』……比企谷八幡について知り得た情報について話し始めた。

 

「比企谷八幡。誕生日は2079年の8月8日。未成年に限定すれば世界で最も有名な音楽家の一人。2年前から様々なコンクールなどの大会に出場しては優勝をかっさらった。無名でありながらもその実力から音楽の世界では『超新星』とまで呼ばれている──────と言っても、達也君が知りたいのは『こういうの』じゃないよね」

 

八雲はそう言って少し口を噤むが、意を決したかのように再び口を開いた。

 

「──────()()()()()()

 

「……っ!?」

 

「何も無かったのさ。不審な点が、何一つも。強いて言えば彼が通っていた中学校で魔法による事故が起きていたくらいだが、これも彼が何かしたという訳でもない。正真正銘の一般人と言える。……ここから考えられることは一つ」

 

「比企谷八幡には、僕の情報収集すらもすり抜けられる何かがある。もしくは、本当に何も無い一般人」

 

その言葉に、達也は改めて警戒心を抱くのだった。

……なお、悪魔の証明となるのもあって断定は極めて難しいのだが、比企谷八幡はガチの一般人である。少なくとも達也や深雪のような出生の秘密などは持っていない。

 

「……まあ、さほど不安に思う必要はないと思うよ?仮に僕でも突き止められなかった秘密があったとしたら、裏を返せばそれは()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。そんな特大の爆弾を抱えている以上、下手に周囲を突っつき回すようなことはないさ。本当にただの一般人だったなら……まあ、言わずもがなだね」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

その後、達也と深雪が一高に向かっていたところ。

 

「おう、司波。おはようさん」

 

「ああ、比企谷。おはよう」

 

「比企谷さん、おはようございます」

 

八幡と出くわした。行先が同じなので必然的に同行することに。

 

「今日から風紀委員として働かなきゃなんねぇのか……ダルいな」

 

「サボったら駄目ですよ?」

 

「サボる度胸もねぇから余計めんどくせぇんですよ……」

 

この男、変なところで度胸がなかった。殺人鬼の英才教育により人を殺すことは出来ても割り当てられた仕事をサボることは出来ない。なんだこいつ。まあ殺害経験は未だないが。

 

「しかも初日から……何だったか、部活勧誘期間だっけか?だろ。初日からクソハードな仕事とかブラック過ぎんだろ」

 

「だが受けてしまったものは仕方がないだろう。やるしかない」

 

「有史以来正論が人を傷つけることはあっても人を救ったことはねえんだよ」

 

この男、最悪である。

 

「それに、部活にもよるが物によっては九校戦が関わってくるからな。どこもかしこも本気になるさ」

 

「……九校戦って何?」

 

「……知らないのか?」

 

「知らない」

 

「お前何しに魔法科高校に来たんだ……」

 

「え、なんか才能あったから」

 

事実実技一位を取っている以上才能自体はあるのだろう。だがそんな理由で魔法科高校に合格している以上……

 

「お前、やっぱり異常だよ」

 

「へ?」

 

比企谷八幡もまた、異常側の人間だということだろう。

 

 

 

「うえー……行きたくねー……働きたくねー……」

 

「校則違反とかを大義名分にして合法的に人ぶちのめすの大好きでしょ、早く行ってよ」

 

「辛辣過ぎんか北山さんよ」

 

教室にて。行かなきゃなあとは思うけどそれはそうとして行きたくないなぁと思い机に伏せていると、北山からまた辛辣な一言が。実際大義名分を得て他人を害するのは大好きなんだけどさ。人を正論で殴るのは大好きだけど正論で殴られるのは大嫌いなんだよね。

 

「うわぁ……噂には聞いてたけど、ウチの学校って本当に凄いんだなぁ」

 

A組の教室の窓から外を見下ろしていた光井が、恐怖を伴った感嘆と共にそんな言葉を漏らしている。俺はその言葉を聞いて冬眠明けの熊のようにのそのそと立ち上がり窓の外を見ると、そこには簡易テントを通路の両端にズラリと並べて道行く新入生に片っ端から声を掛けたり、ド派手なパフォーマンスで人目を惹こうとしている上級生達の姿が見て取れ、さながらそこは何かのお祭りかと見紛うほどに盛り上がっている。治安カスじゃん。

 

「ところで、深雪はクラブには入らないの? 生徒会だけ?」

 

「そうね、他に手が回りそうにないもの。勧誘期間だけでも、追加予算の見積もりとか、壊れた備品の修理の手配とか、勧誘とかでの苦情の受付とか、やることが色々あるみたいで……」

 

「あぁ、それじゃクラブを見る余裕なんて無いかぁ……」

 

同情するような光井。だがその言葉に、司波妹は小さく首を横に振った。

 

「私なんて別に大したことないわ。本当に大変なのは、風紀委員のお兄様や比企谷君だもの」

 

「そっか。何かあった時に生徒達を取り締まるのが風紀委員の役目だもんね」

 

納得したように手を叩く光井に、司波妹が首肯した。

ある程度黙認されているとはいえ、魔法を使った暴力行為など、さすがに度を過ぎて騒ぎが大きくなった場合に介入するのが俺たち風紀委員の仕事だ。しかもそれだけではなく、生徒を逮捕して懲罰委員会に掛ける必要が生じたときは風紀委員自身の発言も立派な証言となったり……まぁとにかく、かなり大きな責任を伴う役目を担っている。

勧誘期間は、向こう一週間。つまりその間、風紀委員は校内中を駆けずり回ることになる。

 

「……はぁ。しょうがねぇからそろそろ行ってくるわ」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってらっしゃい」

 

三人のその言葉を背に受け、軽く手を振りながら教室を出た。するとそこに、丁度俺を呼びに来たのであろう司波兄が。

 

「おう、行くか」

 

「ああ」

 

そうして風紀委員本部へと向かっていると、ふと思い出したかのように司波兄が口を開いた。

 

「ああ、そうだ。少しいいか?」

 

「ん?どうした」

 

「いや、見回りの際にエリカも一緒に連れて行ってもいいか?美月もレオも入るクラブはもう決めているらしくてな。一人で回るのは寂しいらしい」

 

「ほーん……あいつそういう柄だったのか。まあいい、俺は別に構わんぞ」

 

「よし。それじゃ30分後に教室前で待ち合わせになってるから、早いところ本部でのミーティングを片付けることにしよう。時間に遅れでもしたら、エリカに何を言われるか分からん」

 

「『知るか』で済んだりしねえかな」

 

「しないだろ」

 

「デスヨネー」

 

その言葉と共に、俺たちは心做し本部へと向かう足を早めた。

 

風紀委員本部へと到着した俺たちは、学生証でもあるICカードを扉横のパネルに翳してスキャン。既に俺たちのデータは登録されているらしく、ロックが解除されたのを確認した司波兄がドアを開けて部屋の中へ。俺もその後について入る。

どうやら俺たちは一番最後だったらしく部屋には何人もの生徒がおり、扉の開く音を聞いてこちらに注目していた。

すると、俺たちが入ってきたのとはまた別の入口から渡辺先輩が入ってきた。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます、姐さん!」

 

それを見て、俺たち二人を除いた先輩方が一斉に立ち上がり頭を下げた。軍隊のようなその有様に、司波兄は無表情だった。後に聞いたら内心少し面食らってたらしい。え、俺?「体育会系かよお……めんどくせぇ……」って思ってたよ。

 

「鋼太郎、姐さんはやめろ!……さて、二人とも。席についてくれ」

 

その言葉に従って俺たちが席につくと、バンッ!と机に両手を叩きつけて話を切り出した。

 

「さて、今年もあの馬鹿騒ぎの一週間が始まった。───クラブ活動の新入部員勧誘期間だ。いや、“新入生獲得合戦”というべきかな? この無法地帯を鎮められるのは、我々風紀委員だけだ!今日から一週間フル稼働してもらう! 幸い今年は、新人の補充も間に合ったからな」

 

先輩はそう言って、俺たち二人をちらりと見た。自分達を紹介するのだと読み取った司波兄が素早い動きで立ち上がり……数瞬遅れて俺も立ち上がった。

 

「1-Aの比企谷八幡──────そして、1-Eの司波達也だ」

 

すると案の定、司波兄が紹介されたところで部屋の中がざわついた。「二科生が取り締まるのか?」といった声が、あちらこちらから聞こえてくる。

 

「委員長、この二科生は戦力になるんですか?」

 

「腕前は確認済みだ。───私の目が不安だというなら、自分で確かめてみるか?」

 

「い、いえ、結構です……」

 

先輩の睨みが効いたのか、口を挟んできたその生徒はすごすごと引き下がる。

 

「他に質問は無いか? ───無いなら、ただちに出動!」

 

その言葉と共に、部屋にいた先輩の風紀委員が一斉に立ち上がり、そのまま駆け抜けるように部屋を出ていった。

 

「……軍隊かよ」

 

「言い得て妙だな」

 

俺がその様子にげんなりしていると、渡辺先輩がこちらに近付いてくる。

 

「司波、比企谷。お前達にはこれを渡しておく」

 

先輩がそう言って差し出したのは、掌サイズのビデオレコーダーと腕章。そこには『風紀委員』の文字が。

 

「巡回のときには、常にその腕章を身につけておけ。レコーダーは胸ポケットにしまい、何か起こったら直ぐにスイッチを入れろ。また風紀委員は常にCADを携帯する許可が与えられているが、不正使用は厳罰対象だから注意するように」

 

「質問があります」

 

先輩の説明が終わるタイミングを見計らい司波兄が手を挙げた。

先輩が「許可する」と言うと、部屋にある机の上に無造作に置かれているCADを指差す。

 

「CADは委員会の備品を使用しても良いのでしょうか?」

 

「構わないが、理由は?」

 

「あれは旧式ですが、エキスパート仕様の高級品ですよ」

 

司波兄の言葉に、先輩は「そうなのか!」と驚きの声をあげる。昨日の模擬戦でも中条先輩CADについて尋ねてたし、あんまCADには詳しくないっぽいな。

司波兄は先輩からの許可も得たことで、幾つもあるCADの中から()()選び、それぞれの手首に装着した。

 

「それでは、こちらをお借りします」

 

「2機だと……?ふふ、本当に面白いな。君は」

 

「比企谷、お前も借りていくか?」

 

「いい。俺はこいつ一本ありゃ十全だ」

 

俺はそう言って断りながら、背負っているセブンスコード・ドルチェの入った楽器ケースをポンと軽く叩くのだった。

 

 

 

「さて、エリカと合流しないとな。……しまった、10分ほど遅れている。急ぐぞ」

 

了解(oui)

 

……つっても、緊急事態でもないのに走ったらまずいわけで。早歩きで1-Eに向かうことに。到着して教室の中を見てみるが……特徴的な赤い髪は見当たらない。どこいった?

 

「待ちくたびれて先に行ったのかもな。仕方ない、巡回ついでに探しに行くか」

 

その言葉に頷き、俺たちは外に出て──────俺は、顔を顰めた。

 

外は、まさに『熱狂』という単語が良く似合う有様だった。

それぞれのクラブが指定された場所にテントを建て、そこでCADを使ったデモンストレーションを行ったり、体験コーナーを設けていた。呼び込みの声もあちこちで入り乱れており、勧誘も相手の腕を引っ張ったりとかなり強引に行われている。特に一科生ともなると、やはり成績が優秀ということもあってか様々なクラブから文字通り引っ張りだことなっている。

 

「……大丈夫か?比企谷」

 

「……ああ。こういう無秩序な喧しさは苦手でな。さっさとアイツ見つけ出して移動しよう」

 

「そうだな」

 

いやマジでうるせぇなほんとに。

そうして歩き出そうとしたところ、耳に聞き覚えのある声が届いた。

 

「彼女に先に声を掛けたのは、我々テニス部だぞ!」

 

「いい加減に手を離しなさい! 私達バレー部が先よ!」

 

「あ、あの、もう離して……」

 

その方向に目を向けると、様々なコスチュームに身を包んだ複数の生徒が千葉を取り囲んで言い争いをしていた。会話の内容からして、見た目のいいあいつに目を付けた上級生が自分達のクラブに勧誘しようと一斉に集まってきたんだろう。力任せに色んな方向から腕を引っ張られ、少々参っているようだ。

 

「比企谷」

 

「オーケー。あっちだろ?」

 

どうやら司波兄も気付いたようで、俺たちが千葉のいる方向に向かおうとした時。

 

「あの、他に行く所があるので───ちょ、どこ触って、きゃっ!」

 

「まずい、ヒートアップしてきた。比企谷!」

 

「おう。とりあえず全員がビビって硬直するレベルの大音量鳴らすから耳塞いで突っ込め」

 

「頼む!」

 

司波兄が駆け出すと同時に、俺はコントラファゴット(セブンスコード・ドルチェ)を構える。今回は技術など必要ない。ただひたすらに、単純に。可能な限りデカい音を響かせる!

 

「────────────!」

 

次の瞬間。耳をつんざく大音量が鳴り響き、生徒らが耳を塞ぐようにして蹲る。そりゃそうだ。楽器を介した俺の最大音量はなんと105デシベル。大体『至近距離で聞いた車のクラクション』くらいの音量だからな。そりゃクソうるせえよ。千葉も蹲った所を、予め耳を塞いでいた上俺から離れるように走っていたことでドップラー効果により少し低い音になったおかげでダメージが少なかった司波兄が回収。俺の音により大ダメージを受けながらも司波兄を止めようとしてくる奴らこそいたものの、多少ダメージこそ受けているものの基本ピンピンしてる司波兄を耳がやられかけた状態で止められる訳もなく。あっさり躱され、俺と司波兄、千葉の三人は人気のない建物裏へと逃げ込めたのだった。

 

「いつつ……助かったのは感謝するけど、何よあの音!?」

 

「クソうるさかったろ?」

 

「うるさかったどころじゃないわよ……」

 

「耳は塞いでいたがその上で耳がやられるかと思ったぞ……」

 

しばらくしてようやく耳の違和感がなくなったのか、気を取り直した千葉が口を開く。

 

「それにしても、二人がもう少し早く来れば、あんなことにはならなかったのに」

 

「それは悪かったな、エリカ」

 

「あれ、謝っちゃうんだ?」

 

「遅れたのは事実だからな。……まぁ、勝手に待ち合わせ場所からいなくなるのは、また別問題だけどな」

 

「……達也くんってさ、性格悪いって言われない?」

 

「心外だな。性格について文句をつけられたことは無い。人が悪いって言われたことはあるが」

 

「同じじゃん!てか、そっちの方が悪いよ!」

 

「ああ、人が悪いじゃなくて悪い人だったか」

 

「もっと酷い!」

 

「悪魔と呼ばれたこともあるぞ」

 

「もういいって!」

 

ツッコミ疲れで息切れする千葉を横目に、俺は口を開いた。

 

「で、結局性格悪いって言われたことあんの?」

 

「あるぞ」

 

「今までの流れ全否定!?」

 

これがトドメになり、今度こそ千葉はがっくりと項垂れた。




比企谷八幡
自由人。他人を縛るのも他人に縛られるのも嫌い。

司波達也
実は八幡が大音量をぶちかますのが3秒早かったら耳に大ダメージを受けて再成魔法が自動発動していた。

渡辺摩利
見回りしてたら外からバカでかい音が聞こえて死ぬほどビビっていた。犯人は考えるまでもないので後で説教しようと考えている。

千葉エリカ
この後『苗字で呼ばれると"千葉家の娘"という色眼鏡で見られている気がして嫌』という理由で八幡に名前呼びを強制した。

次回は新入生勧誘期間の後半戦。
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九校戦……出場競技はモノリス・コードとどれ?

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