茫漠地平 タブラ・ラーサ   作:和泉キョーカ

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・チゼル
【コードネーム】チゼル
【性別】女
【戦闘経験】五年
【出身地】カジミエーシュ
【誕生日】不明
【種族】不明
【身長】169cm
【鉱石病感染状況】
 メディカルチェックの結果、非感染者に認定。


ローゼス・ホームビデオ
特殊親衛隊RO.S.ES


 ――『テラで知られる文明には、その進化の過程で原始の姿を保ち続けるもの、そして衝突の末に混じり合いながらも、昔ながらの風貌を残し続けるものがある。』

 そんな高説をあのフェリーンの医師から受けたのも、随分と前なようでいて――その実、チェルノボーグの事件からまだ一年しか経っていないと、カレンダーは告げている。

「――それでね、ドクター。」

 記憶を喪った我が身において、窮屈な安眠装置に押し込まれる以前の()の性格や性質などといったパーソナリティは、気に病むほど欲するものでもない。むしろ、『悪魔』とまで呼ばれていた自分なんて、欲しがる者の方が稀有ではないだろうか。

「ボクら、来週からロドスを離れちゃうでしょ?」

 多くの出会いがあった。それ以上の、別離があった。泣き叫ぶ子供の声を聴いた。怒り狂う民衆の蜂起を見た。縋る者、手放す者、手を伸ばす者、その手を――諦めてしまった者。多くの出会いと別離の果てに、私たちは対価とも言える束の間の平穏を得た。

「だからさ、ホームビデオを撮ってきたんだよ! ドクターが寂しくならないように! ……え、ボクらがいなくても寂しくなんてない? えー、そういうこと言っちゃうかなぁ、フツー。」

 これからも我々は、このテラの大地に根差す怒りと憎しみのために奔走していくだろうが、しかし。

「……それに、ボクらのこと、よくわかってない新米オペレーターも最近、増えてきたでしょ? ボクらのこと、知ってもらうためにもさ!」

 しかし――今ひと時だけは、目の前の少女の無邪気さを、全霊で受け止めたいと思う。

「ボクら『特殊親衛隊RO.S.ES(ローゼス)』の事、ドクターも改めて見てってよ!」

 

 ぎゅんとカメラの視界が旋回し、青髪に二本の頭角を生やした少女が、満面のスマイルで映り込む。

「やっほー! 最初にカメラを持つのはこのボク、『チゼル』でーっす! えぇと、自己紹介とかすればいいのかな……ホームビデオとか撮ったことないよぉ、助けてジーラちゃん!」

『知らないよ、アリサが撮りたいって駄々こねるから撮ってるんだしさ。』

 画面外から、凛とした少女の声が聞こえてくる。チゼルは少しだけむくれたような表情を見せながら、自身が立つ鋼鉄の廊下――ロドス本艦の居住ブロックを歩み始めた。

「ボクことチゼルは、カジミエーシュの出身でー。種族分別は……うぅん、ボク自身よくわかってないんだよね。この角、ヴイーヴルにしては大きすぎるし。まぁいいや、そこはそんなに重要じゃないよ。覚えてないことなんて知らないのと同じだし!」

 ごうごうと鳴り響く艦艇の駆動音の中、チゼルはやがてオペレーターたちが交流の場として使用している食堂に到着した。

「昔はカジミエーシュで騎士をやってたんだけどねー。ジーラちゃんと一緒にカジミエーシュを飛び出してからは、人に向けて弓を撃った事は――。」

『あるよ。何回も。』

「そだっけ?」

 他のオペレーターたちで賑わう食堂の中を、チゼルはずんずんと進んでいく。やがて、数名の男女が集まるテーブルに接近すると、そこにいた種族も食事も大違いなオペレーターたちへと大きく手を振って挨拶をした。

「おはよー! 元気してるぅー?」

『おはようございます、皆さん。』

 画面外の少女も丁寧な語調でチゼルに続くと、その場にいた全員がそれぞれまた個性的に反応していく。

『よっ、おはようチゼル、フラム。』

『なァんだまたお寝坊かァ?』

『いい加減、自己管理意識を強く持ってほしいものだがね、チゼルくん?』

『おはよー、チゼル、フラム! 今日の朝ごはん何にする? 早くマッターホルンさん所に行かないと、また食いしん坊たちに先越されちゃうよ!』

『二人とも来たみたいだし、私は医務室に戻らせてもらうよ。』

『……おはよ。』

 その場にいた全員から声をかけられたのを確認すると、画面の中のチゼルはまたニッコリと笑って空いていた二席のうちの片方へ腰を下ろし、手にしていたカメラをテーブルの中央へ設置した。

「じゃ、みんなも一言ずつ自己紹介お願いっ! また今度ひとりひとりビデオは撮ってもらうけど、名前と役職だけでもね! じゃーまず、ボクから! コードネーム『チゼル』、破城射手に分類される狙撃オペレーターでーす!」

 

『コードネームは『ラセツ』、前衛オペレーターだ。RO.S.ESを知らないオペレーター向けのビデオなんだろ、これ? じゃあひとまずはこんなもんでいいのか?』

『ハイハーイ、ラテラーノ公証人役場法定執行人、現在はロドス所属の先鋒オペレーター『イノセント』でーす! オイタをしでかしたラテラーノ公民がいたら問答無用でしょっぴくから、このビデオを見たら素直に自首してねー!』

『グッモーニン、迷える新米諸君! 俺様の名はエリューカ……いや、『ゴールドラッシュ』と名乗っておこうか! クルビアで保安官をしていたナイスガイな前衛エリートオペレーターさ、よろしくなァ!!』

『『ライトニング』。召喚師の戦闘職務とは別に、源石エネルギーに関する各種研究を専門としている教務員でもあるな。』

「マラボレマも名乗るくらいはしてってよ!」

『医療オペレーターの『マラボレマ』だ、これでいいね? じゃ。』

「もう!」

『……どうも、ええと……龍門で掃除屋とか……してました。『ウェルキエル』……です。よろしく……。』

『では最後に拙生が。重盾衛士、『フラムベルク』。ジーラ・フラムベルクと申します。過去にはカジミエーシュにて騎士として活動しており、鉱石病に罹患してからは数か月の放浪生活の後にロドスにてオペレータ―契約を――。』

「ジーラちゃん長い長い! そんなもんでいいから! ね!」

 

 そんな光景が十数分流れた後、ビデオの場面は急変した。場所はどうやら、ロドスが所有している飛行船の格納庫のようだ。

「やっほーみんな! ボクたちは今、ドクターの外勤に同行する任務に出発しようとしてまーす!」

 源石エンジンの駆動音に負けじと声を張り上げるチゼルの背後には、食堂のシーンで映っていた他のメンバーの他、私や、私が信を置いているオペレーターたちの姿も散見された。

 というか、いつの間にこんな撮影をしていたんだ。まったく気付かなかった。

「ボクら特殊親衛隊RO.S.ESの主なお仕事は、ドクターの万が一に駆けつけること! もちろん、ドクターにはアーミヤちゃんやブレイズ姐さんみたいなエリートオペレーターがついてるんだから大丈夫……って、言いたいんだけどね!」

『残念ながら、やはり任務の都合上、人員をカバーしきれない場面というのは往々にして起こり得ます。そういった有事の際に出動するのが、我々RO.S.ESなのです。』

 またも画面外から、先程フラムベルクと名乗った少女の声が聞こえてくる。

「まぁー、国家のお偉いさんから直々に招待貰ったり、お忍びで国土に侵入するってなると、ボクらも手出しできなかったりするんだけどねー。」

『イェラグ動乱が良い例だね。あの時はオーロラさんやSharpさんには本当に苦労を掛けたよ。』

「あの時ってボクとジーラちゃんと……あと誰がいたっけ?」

『RO.S.ESのメンバーの事? かなり最初期だよね。ラセツさんとマラボレマさんがいたくらいじゃないかな。』

 そんな風にチゼルとフラムベルクが話し合っていると、飛行船の方から聞き慣れた催促の声が飛んできた。

『ほらチゼル、フラム! アーミヤちゃんと他のメンツももう乗ったよ! あと君たちしかいないからね!』

『申し訳ありません、ブレイズ上官ッ!!』

「ひゃあー! やっちゃったやっちゃった!」

 カメラの視界がガチャガチャと振動し、危うく酔いそうになったところで、視界が安定し、飛行船のカーゴ内部が映される。

『お前らって奴らはほんとに……。』

 白い肌に赤い目を持つ角なしサルカズ族の青年、ラセツの溜息に、画角内のチゼルはばつの悪そうな顔でその特徴的な青い髪を掻く仕草を見せた。

「えっへへ……でも、今回の任務はボクらが同行できるような任務なんでしょ? じゃあそこまで重要なモノじゃないんじゃないの?」

『そこまで重要じゃないなら、ブレイズもアーミヤも同行はせんだろうな。』

 厳粛な語調でそう口にするエーギル族の女性研究者、ライトニングに諭され、チゼルは呆けた表情を見せた。

『そもそもオレたちがいる意味は、ドクターに万が一が起こらないようにすることにある。即ち、ケルシー女史がオレたちに出撃命令を出した時点で、ケルシー女史ですら作戦の中に『万が一』を見出しているという事なのだよ、チゼルくん。』

『そういうこと。それで、早速だけど仕事が来たよ、チゼル!』

 ライトニングの説明に賛同しながら、体格の良いフェリーンの女性――私が特に信頼しているエリートオペレーター、『ブレイズ』がカーゴの中に移動してくる様子が映し出された。

「ボクに?」

『そう、チゼルに。今回追ってる私兵大隊の移動対空砲台がさっきからこっちを狙ってきててね。ちょっと無力化してほしいんだ!』

「……オッケー!」

 そう、軽率な応答を返したチゼルの口元は、残念ながらちょうどドローンカメラが向いている方向と同じ向きをチゼルが見ていたために、捉えることはできなかったが――。

「……。」

 ブレイズの複雑な面持ちを見るに、『移動砲台に人間が乗っていたら』などという可能性など微塵も考慮していない、ただ力を振るうことが嬉しいだけの子供のような、無邪気な笑顔だったのではないかと――。

 今、私の隣で一緒にビデオを見ている『チゼル』と同じような表情をしていたのではないかと、推測した。

 

「んー、目視1キロ弱って感じ?」

 飛行船の屋根に立ち、身体を固定器具でしっかりと接続された状態で、チゼルは持ち込んでいた自身の得物を持ち上げる。

 ああ、この先は知っている。この出撃時の出来事は、私の認識の範疇ならば、よく覚えている。

「移動都市用のレールに直接乗っけた移動砲台かぁ、ウルサス式の都市牽引バンカーに似た構造してるね。あれ、砲台って言うより、空中の物体にアンカーぶっ刺して引きずり落とす装置なんじゃないの?」

 ガツンと、音を立てて、チゼルの殺意が飛行船の主翼に打ち立てられる。それは、170cmあるとはいえ、細身のチゼルが持つには、あまりにも巨大すぎる大型の弓だった。

「それじゃ、お仕事しよっか!」

 そして、これもまた軽々とチゼルが持ち上げて見せたのは、本来よく鍛えられた兵士が両手で持つように設計されたと憶測できる、長大なスピアだった。それをさながら矢のように弓につがえると、チゼルはカメラに向かってウインクして見せた。

「みんな見ててね! こんなの、RO.S.ESじゃまだまだ常識の範囲内みたいなアーツなんだから!」

 すぅと息を吸い。彼女の髪と同じ蒼色に輝く穂先を持つスピアが眩く光を放つと、チゼルは目を細めて弓弦を引き絞った。

「――船上、狙撃オペレーター・チゼルより船内オペレーター各位へ通告! これより、個人級艦砲のアーツを使用します! 強烈な横揺れにご注意くださいッ――!!」

 カメラのマイクが破損する音を最後に、映像は一瞬で無音になる。それと同時に、チゼルが弓の弦から手を離した姿が見えた。と、ほぼ同時に、カメラの奥に小さく映っていた移動式の対空砲が鮮烈な蒼い閃光を発しながら、土煙と共に大破していく光景が続いた。

 その後、チゼルが満面のスマイルで口を動かす様子があったが、すぐにマイクが損傷していることに気付いたのか、固定器具を外しながらカメラを弄り回す映像を最後に、その場面は終了してしまった。 

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