Flamberg
重装:重盾衛士
特性:敵を3体までブロックする
素質1『激昂』:55%の確率でブロックしているすべての敵に攻撃する さらに体力が50%以上の敵に攻撃が当たった時、攻撃力が200%になる
素質2『陽炎の鉾』:55%の確率で通常攻撃が術攻撃に変わる さらに体力が50%以上の敵に攻撃が当たった時、敵の術耐性を無視して攻撃する
―仮称『エリア・ブランク』・PM2:16・曇り
ハックルベリーの日常において、この未開の地に進出した様々な陣営のトランスポーターと交流する事は、もはや朝に飲むミック・コーラと同じようにありふれたルーティンと化していた。
それでも、今目の前の席に座り、湯気の立つマグカップを両手に抱えてハックルベリーを正面から見つめるこのフェリーンの男性とだけは、未だに会話に困ってしまう事例の方が多かった。
「ええと……。」
「そこまで難しい質問はしていないように思えますが。」
「そっ……そうだよね~! へへ、やっぱりU-HIDが誇る敏腕トランスポーターを前にすると、ど~しても緊張しちゃうっぽい……かも!」
「……頻繁に言われます。どうも、僕の振る舞いは相対する人に対して威圧的に見えてしまうようで。」
「あはは……。」
喉は絶えず渇き、ミック・コーラの空ボトルがテーブルの上にひとつまたひとつと並べられていく。
「ハックルベリーさん、質問の内容は覚えていますか?」
「な、なんだっけ?」
フェリーンの男性は小さく溜息のような声を漏らし、再びハックルベリーへ問いかける。
「――ロドスの皆さんの姿は、貴方の目にどう映りましたか?」
大きな溜息が、トラックの荷台の中に響き渡る。
「ははは、あのハックが疲労困憊になってやがる。」
「笑わないでよ~! サンバクスだってあの人、苦手でしょ!」
「確かにな。U-HID研究所営業部門のエース……エルハクラビ。正直、一緒に酒を飲もうとは思えないな。」
疲れ果てて金属コンテナの上で大の字になって伸びるハックルベリーを揶揄う運転手へと、ハックルベリーは糾弾の声をあげる。
「……ロドスの人たちはどうだったか、だってさ。」
「なんて答えたんだ?」
「思ったまんまを答えたよ。――脅威にはならないけど、看過するわけにもいかなくなるだろうって。」
トラックはやがて荒野を抜け、森林地帯の未舗装路へと侵入していた。シートベルトも無い荷台で度々衝撃のまま跳ね飛んでしまうハックルベリーは貨物用の固定器具を掴み取ると、それを自身が装備していた運搬補助のためのベルトに繋ぐことで姿勢の安定を試みた。
「ロドスかぁ……。ロドス製薬って確か、本拠地が無いんでしょ?」
「移動都市用のレールに接続して運行する中規模艦艇を本部としているな。」
「……あたしたちの鉱石病も、そこに行ったら治るのかな?」
「治らんよ。」
「そっか~。」
そこから数十分、互いに口を開かない時間が続く。しかしその静寂も、唐突に停車したトラックの制動で荷台の壁に後頭部をしたたかに打ち付けたハックルベリーの悪態によって破られた。
「何やってんのサンバクス! 鹿でも撥ねた?」
「いや……あれ、ロドスの剣士だよな。」
「え?」
すぐに両脚に装着された義足の電源を入れ、荷台の扉を開けて壁面に足裏を吸着させながら荷台の屋根へと飛び乗ると、トラックの進行方向へと目を細める。
――見れば確かに、数十メートル先から金属と金属が打ち合う鋭い剣戟音と、時折超高温の物質によって金属が融解する重低音が聞こえてくる。腰に提げた双眼鏡を両目に押し当てれば、黒とシアンを基調とした制服を身に纏う青年が、多数の覆面の暴徒を相手に大立ち回りを繰り広げている様子が視認できた。
「ラセツおじいちゃんだ!」
「お前、提携先の社員をおじいちゃん呼ばわりしてんのか!?」
「助けに行ってくる!」
「おい、ハック!」
制止の声がその耳に届く時には既に、ハックルベリーはトラックの屋根を蹴って飛び出していた。
「おじいちゃん、手伝うよ~!」
「その元気な声はハックルベリーの嬢ちゃんか! ちょうどいい、結構大胆に攻め込まれちまってな。
ハックルベリーが現場に駆け付けた時、ロドス陣営に所属する熱刀の武人が造る屍山血河は周囲の樹木も巻き込んで拡大し、まるでその場にぽっかりと赤い大穴が空いたかのような様相を呈していた。
「えっ……この人数を、おじいちゃんひとりで倒してたの!?」
「母数はもっとでかい筈だぜ! もう片っぽ攻め込まれてるルートがあってな、そっちはフラムベルク嬢ちゃんとチゼル嬢ちゃんが対処してらぁ!」
その時に気が付いたが、戦闘の激音はその場からだけでは無く、西方遠くからも聞こえていた。ハックルベリーは視線を正面に戻し、自身がこれから立ち向かうべき敵へと意識を集中させる。
「ヴァルポのガキひとり増えたって変わらねぇ! 相手も疲れてるんだ、押せば勝てるぞ!」
「むしろお荷物抱えてんじゃ本気で戦えないだろ! 勝機だぜ!」
白い覆面に白い外套。術師と思しき戦闘員は反対に黒ずんだ姿をしている。身体各部には『X』の字を象ったオレンジ色のエンブレム。間違いようもなく、それはかつてウルサスの一都市を陥落し、感染者の解放を叫んだテロ組織――レユニオン・ムーブメントの戦闘員たちだった。
「どうしてエリア・ブランクにレユニオンが……!?」
「レユニオンを知ってんのか?」
「知ってるよ~! ロドスがチェルノボーグの事件を落ち着けた時にはもう、エリア・ブランクでトランスポーターやってたんだから!」
「そうかい、なら話が早い。……連中、この大地を逃げ場にしてた残党みたいでな。逃げたんならおとなしく過ごしてりゃ良いってのに、俺らロドスの名を聞いてご丁寧にカチ込んで来やがった。」
「どうして……。」
「どうもこうもあるもんかい。人の愛憎ってのは往々にしてそういうものなんだ。理屈じゃ語れない。――だからこそ、ドクターもアーミヤちゃんも……あそこまで思い悩む羽目になった。……この*極東スラング*な地に生きる以上、人と人の繋がりは強固になりやすい。救われる手段があったとて、一度握った誰かの手を放すのは、思う以上に勇気がいるのさ。」
最後には自分に言い聞かせるかのように、ラセツは独白する。だがすぐに、ラセツの瞳は再び錬鉄の炉のように焔を宿した。ラセツとハックルベリーの会話の隙を狙って飛び掛かってきたレユニオンの暴徒の上半身と下半身を一刀に切離すると、赤熱する宝剣を握り締めて前を向く。
「だが相手が悪かったな! お前さんらの中に、チェルノボーグで俺たち特殊親衛隊の大活劇を見た奴はいないのか? ……来いよ。斬りかかってくる以上、手前ぇの死は覚悟できてんだろが!? 嗚呼、逃げる奴は追わねぇが、刃ぁ向けるんなら皆殺しにしてやるよ!!」
「あたしは鎮圧用の武器しかないから、汚れ仕事はおじいちゃんに任せるよ~……。」
その気迫にレユニオン達同様に圧されながら、それでもハックルベリーは大型のサイドバッグの中から自衛用の折り畳み式電磁ライフルを二挺取り出すと、それをワンアクションで展開させ、両手に構える。
「俺ぁ機械はよくわからんが、それだって出力上げりゃ殺しの道具になるんじゃねぇか?」
「やらないからね!?」
返り血が彼女の顔面に付着しないよう、飛び散る血液を手の甲で防ぎながら提案するラセツの背中を、ハックルベリーは次々突進してくる白刃を高圧電流で気絶させることでカバーする。
遠距離からのアーツ攻撃はラセツが正面から受け止めて耐え、術師をハックルベリーが対処する。銃器やボウガンを持つ射手は、ラセツが用いる刀身にこびりついた血液を沸騰させて飛ばすアーツや、ハックルベリーの電磁ライフルによって鎮圧。
そうして、レユニオン残党の人数は見る見るうちに激減していった。
最後の数名がその場から尻尾を巻いて遁走していく背中をじっと眺めながら刃の返り血を蒸発させるラセツと、急な激しい運動に鉄製の膝に両手を置いて息を整えるハックルベリーの元へと、一台のトラックが近付いてくる。
「……終わったか?」
「サンバクス! 見てたなら手伝ってよ~!」
「おうサンバクスの坊主。元気してたか?」
「ご無沙汰してます、ラセツさん。ご助力は不要かと思いまして、見物に徹しておりました。」
「おうおう、ハックルベリーの嬢ちゃんがいるならお前さんも近くにおるだろうと思ってたぜ! おおかた、俺がいるから嬢ちゃんを無理に引き留めんでも良いと思ったんだろ?」
「お見通しのようですね。」
トラックの運転席から身を乗り出して挨拶してきたのは、ヴァルポ人であるハックルベリーの耳とその形状は似ているものの、ハックルベリーのそれよりもいくらかサイズの小さな耳介を持つループスの男性、サンバクスだった。
「……あちらさんもとっくに終わってるみたいだ。用事はライトニングかマラボレマだろ? 送ってくぜ。」
ラセツの発言にハックルベリーが意識を向けた西方からは、彼の言う通り何の音もせず、森の住民たちの鳴き声しか聞こえなくなっていた。
「そういえばおじいちゃん、ウェルキエルくんは元気にしてる?」
「健康優良、たまに帰りが遅い事に目を瞑れば素直な善い子にしてるぜ。」
「良かった~! ウェルキエルくん、フラガムキャリアの輸送拠点に来るといつも居心地悪そうにしてるもの! トランスポーターたちの間でも、『もしかして人と接しすぎると蕁麻疹でも出るんじゃないか』なんてウワサされてるんだよ!」
「……まぁ、あいつは気が置ける間柄の連中と打ち解けるまでにはかなりかかる性格だからな。特殊親衛隊に配属された当初なんて、龍門で絶賛指名手配中だった事もあって――。」
「えっ、ウェルキエルくんって指名手配犯だったの!?」
「おっと、今のは聞かなかった事にしてくれ。」
「ロドスって本当に経歴不問なんだね……。」
「聞かなかった事にしてくれ。」
「聞かなかった!」
「よし。」
―仮称『エリア・ブランク』ロドス占有地区・PM6:56・曇り
トラックの荷台から次々に重そうな金属製クレートを下ろしては、ロドスのオペレーターたちと共に仮設拠点の中へと運び込んでいくハックルベリーを後目に、サンバクスは手元の書類の束をテーブルに数回叩いて揃える。
「――サイン、確かに確認しました。輸送に不備不足があった際は、弊社のハックルベリーをこちらに二日ほど滞在させておきますので、彼女に申し付けて頂ければ次回の配達時に追加で運んで参ります。」
「いつもすまないな、フラガムキャリアさん。」
白衣の上からロドス制服のジャケットを羽織る女性オペレーターに礼を言われるが、サンバクスは静かに微笑んで「構いません」と首を振る。
「エリア・ブランクの名は、既にこの地に前々から現着していた各国陣営にも広く知れ渡り、それまで呼称が統一されていなかった大地に一体感を生み出したのです。……だからこそ、ロドスという組織に興味を示す陣営も増えてきたのですが。」
「なに、その方がこちらとしても好都合というものだ。我々の目的はこの地で源石が過剰採掘されるような事態や、源石による新たな災害を予見して対応する事にあるのだからね。……時に、ハックルベリーくんの義足の調子はどうだね? クルビア本国で製造されたアーツユニット内蔵の義足など、今までにメンテナンスした試しが無くてな。不調は起きていないだろうか。」
「ばっちり絶好調ですよ~!」
その質問には、ハックルベリー本人がやや離れた場所から鎧のような音を立てながら、その場で駆け足のふりをすることで問題無い事を証明して見せた。
「弊社の技術者でもあそこまで精度の高い調整ができた者はいなかったんですよ。本当にモンタルボ博士には感謝しています。」
「よせ、今はライトニングを名乗っているんだ。」
やがて荷台から全ての貨物を下ろし終え、額の汗を拭いながら共に作業をしたロドスの女性オペレーターたちと龍門やドッソレスのトレンドの話題で談笑するハックルベリーを見て、サンバクスは別れの挨拶を口にする。
「では、私はこれで。――毎度ご利用ありがとうございます。今後とも、我らフラガムキャリアをよろしくお願いします!」