Gold Rush
前衛:領主
特性:80%の攻撃力で遠距離攻撃も行える
素質1『独善的裁判』:バインド、スタン、凍結、足止め、睡眠状態の敵に攻撃可能。該当する状態の敵に対し、攻撃力+30%
素質2『上級ハイライト』:配置された自分以外の上級エリートオペレーターの攻撃力+15%、一秒ごとsp+2
「よし――進路確認、完了。発車時刻の確認、完了。各種機器の正常動作確認、完了。わたしの心の準備、完了……!」
すぅーっと大きく、息を吸い込む。冷たい空気が肺いっぱいに充満し、緊張で火照った体内と、茹るようにのぼせる頭をゆっくりと冷却していく。
はぁーっと大きく、息を吐き出す。生ぬるい吐息と共に不安感を放出するイメージで、肺の中身がからっぽになるまで、身体の中に溜まった古くて強張った自分を外へと逃がす。
「じっ――じょ、乗員……放送。マイクテスト……です。」
『大丈夫。聞こえているわよ、アーシャ。』
『サンダーレインちゃん、うちらが全力でサポートするっすよ! ファイトっす!』
有線式のマイクに向かって声を出すも、やはりまだ緊張が歯を鳴らしてしまう。
「ありがとう……ございます。こ、こんなわたしですが……一生懸命、やらせていただきます!」
落ち着け、落ち着けと自身の胸を撫でながら心の中で何度も繰り返す。瞼を閉じれば、あの日騎士競技の大歓声の中に立っていた自分の甲冑姿が暗闇の中に浮かび上がる。並み居る強敵を前に怯まず、挫けず、果敢に立ち向かった電雨騎士の後ろ姿が、こちらへと振り向き、何かを呟く。
「……わかってる。わかってるよ、ジョアンナ。でも今はここが、わたしの闘魂の在処なの。このマイクが、わたしの剣なの。だから――。」
すぅ、と短く息を吸う。はぁ、と短く息を吐く。そして、前面に大きく張られたガラス窓の向こう、カンフルタウン最大のターミナル駅のホームを見つめながら、サンダーレインは手元のスイッチを弾き、放送エリアを乗員用チャンネルから列車内全体に切り替える。
「――皆様、この度はフロンティア旅客鉄道をご利用いただき、まことにありがとうございます。この列車は、午前9時ちょうどにカンフルタウンセントラル駅を発車し、数日の道程を経てサルゴン南部地方の線路へと接続されます。カンフルタウンからロドス製薬管轄地域までの車掌は、わたくしジョアンナ・ゾーヴァが務めさせていただきます。目的地までのフロンティア鉄道の旅路を、心行くまでお楽しみください!」
エリア・ブランクに足を踏み入れている時点で、カンフルタウンの駅舎からこの車両へ乗り込んだ人々が一般人なわけがない。果たして、目の前でにこやかに切符を手渡してくれるこの男性が、サンダーレインの単細胞な脳で理解し得る範疇の地位に居るような人物だろうか。
先輩たちが見守ってくれているとはいえ、初めての単独車掌という晴れ舞台というプレッシャーも相まって、サンダーレインの手は緊張に震えてしまう。
「……失礼します。」
最後の切符を切り終え、車両の自動ドアが背後で閉まるのを音で判断すると、サンダーレインは膝に両手を載せるように屈み、床に向かって大きな溜息を吐き出してしまった。
「じょーでき、じょーできっすよサンダーレインちゃん! うちの初仕事に比べたら、百万倍じょーできっす!」
「ここまでは及第点どころか、満点合格よ、アーシャ。」
そんなサンダーレインの脳天を、幼い少女と淑やかな女性の声が出迎える。
「ジュウシャ先輩、レントゲンさん……。うぅ、わたし……ほんとにちゃんとできていましたか? お世辞だったり、しません……?」
「あーっ、サンダーレインちゃんはうちらが思っても無い事を笑顔で嘘つく人間だと思ってるんすかー?」
「シアユンはともかく、僕は人にお世辞を言ったりはしないわ。」
「うちはまぁ、おべっかは言うっすね。伊達にこの歳で区間車掌やってないっす。」
――フロンティア鉄道は、本社をカジミエーシュに構える民営鉄道企業の子会社に相当する鉄道輸送組織である。エリア・ブランクにその路線網を延伸するにあたり、フロンティア鉄道の経営陣はより多岐にわたる実績を持つ訳ありの人材をテラ各地から集め、専門知識や技術実習の教育と引き換えの充実した福利厚生を約束する事でその事業を確立させることに成功した。
ここに集った年齢も出身もバラバラな三人の少女たちもまた、フロンティア鉄道に拾われた特殊な経歴の持ち主たちだった。
「ここからはカンフルタウンの管制センターから送られてくる定期通信に対応しながら、車両の各種機器の正常作動を逐一確認する時間よ。僕たちも最終確認はするけれど、最大限ひとりの力で成し遂げるようにね。」
「はい、全力で取り組ませていただきます。」
「サンダーレインちゃん~、言ったそばから肩に余計な力が入ってるっすよ! リラックスが最優先っす! 大丈夫っすよ、次の停車駅まで時間はあるっす。まずはやるべきことのリストアップとかしてみたらどうっすか?」
「それは……もう終わっています。」
「ありゃ。」
「アーシャはあなたよりもずっと天才肌みたいね、シアユン?」
三人の中で最も身長が高く、より年長者の風を吹かせるのが、カンフルタウンの建設にも立ち会ったフロンティア鉄道の古参乗務員、レントゲン。その名が本名なのか、他のフロンティア鉄道社員同様にコードネームなのかは、レントゲン以降に入社した社員の間で度々持ち上がる噂話である。
「うちもそういう話題なら、よく天才って言われるんすけどねー。」
三人の中で最も身長が低く、顔立ちも幼さが残るコータスの少女が、五年以上も飛び級して龍門の名門大学に在籍しながら、その『天才』ゆえの孤立を危険視した顧問相談員によってフロンティア鉄道へ推薦入社を果たした幼き乗務員、ジュウシャ。
「ジュウシャ先輩はわたしに無いものをたくさんお持ちです。……わたしも、もう少し勉学に励んでいれば、もっと別の道もあったと……度々思います。」
レントゲンとジュウシャに挟まれ、未だ緊張の残る指の震えをなんとか抑えようと全身に力を張りながら、雑談によって自身の力みを緩めようとしてくれている先輩たちの気遣いを無碍にしないようにと強張った微笑みを浮かべる少女が、サンダーレイン――この度長きにわたる研修期間を終え、区間車掌としての業務を任された新任の乗務員であった。
「あら、アーシャは僕たちと出会わない未来に進みたかったの?」
「そっ、そんな事は……!」
「ふふっ、わかってるわよアーシャ。あなたは本当に真面目ね。それがあなたの美点だけれど……ほんとう、騎士ってあなたみたいな人たちばかり。」
「騎士……わたしは、もう騎士ではありませんので……。」
落とされたサンダーレインの目線の先を遮るように手を広げ、ジュウシャは彼女の背を叩く。
「切り替えが早いのもある種、サンダーレインちゃんの長所っすけど。……もうちょっと諦めが悪くなっても良いんじゃないっすか? うちはそういう体育会系的なノリ、苦手っすけど。」
「良いんですよ。……結局、憧れていた騎士も、わたしと同じ理由でカジミエーシュを追われたんです。今どこで何をしているのかもわかりません。……だから、わたしも――。」
その時、乗員室の壁に据えられていた無線機が甲高い着信音を鳴らす。バネで弾き飛ばされたように無線に飛びついたサンダーレインが聞いたのは、運転室にて走行中の列車の制御を執り行う操縦士からの緊迫した一言だった。
「――燃料狙いのハイジャック?」
「サンダーレインちゃん、まずは現在地の確認!」
「……付近の信号機にロドスのビーコンが取り付けられています、ロドスの管理区域内です!」
「パニックにもならずに素早い判断、上出来よアーシャ。次、車内放送。」
「はいっ!」
レントゲンの指示に無線機のチャンネルを車内放送へとスイッチし、サンダーレインは列車に搭乗する全乗客へと、現状起きている事実を簡潔に、かつ聞き取りやすい活舌で伝える。
武装した所属不明の集団が列車前方にて対列車用の妨害装置を用いて列車の進行を止めた事。集団の目的は列車に搭載された源石エンジンと燃料であること。
「――ご乗車いただいた皆様には不安な思いをさせてしまう事、深く陳謝いたします。ですがどうか、どのまま座席にて待機ください。必ずや、フロンティア鉄道社員が運行を再開させてみせます……!」
無線機のチャンネルを乗員用のそれへと再び切り替え、サンダーレインは大きく息を吐く。
「カッコよかったっすよ、サンダーレインちゃん!」
「僕はシアユンを保護してるから、外の事は任せたわよ。
「ロドスのオペレーター試験に楽々合格できるアーツ適性を持ってる御仁が何を言ってるんすかね……。」
「……はい、荒事はわたしにお任せを。でん――サンダーレイン、いってきます!」
背中を押してくれる先輩たちの声援を双肩に受け、サンダーレインは制帽を壁に掛けると、きつく締めたネクタイを右手で緩めながら、左手で外界へ通じる扉を押し開けるのだった。
そこには、一様に覆面で顔立ちを隠した武装集団が、刀剣やクロスボウを手に車両下方に搭載された機関部を乱雑に叩いたり開閉したりと好き勝手を働いていた。勢力にして三十人以上。とてもではないが、徒手のサンダーレインが鎮圧できる人数では無かった。
「お、責任者が降りて来たぜ。」
「せ……責任者ではありませんが、わたしがお話しましょう。」
「ははは、こりゃ可愛い乗務員さんが出てきたもんだ。それで? お前さんはエンジンの取り外し方を知ってるのか?」
「……一通り、理論と構造は叩き込んであります。」
「そうかい、そりゃ――。」
「でも。」
ぐっと、サンダーレインは白手袋の中指先をもう片方の手で力を込めて摘まむ。その力に、先程までの緊張や、自らを鼓舞しようという無理な力は入っていなかった。
「わたしがスカウトされた理由は、こういった事態をより的確に、確実に鎮圧できる実力を買われての事です。わかりますか? ……ろくに訓練も受けていない雑兵を相手に後れを取るわたしでは……ない!」
サンダーレインが勢いよく手袋を脱ぎ捨てると、彼女の素肌から青白い電光が大気を切り裂いて爆ぜる。
「おいおい……正気か?」
「わたしが妄言を吐く時は、病に悪夢を見せられている時だけよ! 全身粉砕骨折が覚悟できているヤツからかかってこいっ……!」
もはや呆れすら滲む笑い声をあげながら、遠巻きにサンダーレインの臨戦態勢を眺めているだけの武装集団だったが、やがてそのうちのひとり、大ぶりの鉈を手にした男が前へと飛び出し、サンダーレインへと襲い掛かった。
「――っ!」
だが、振りかぶったその刃がサンダーレインの首筋に届くよりも素早く、彼女の雷光とも見紛うほど超高速の手刀が男の肋骨へと滑り込む。皮膚を切り裂き、筋肉をちぎり、骨を砕くその一撃は、瞬きをする間もなく男の右の橈骨と骨盤を粉砕させて見せた。
「……終わりか? 立てよ駄犬、戦士の風上にも置けない愚図め。」
それまでのサンダーレインとは大きくかけ離れたその冷たい眼差しが、苦痛に悲鳴を上げる男へと注がれる。
「あいつ、ただの女じゃないぞ! 黙らせろっ!」
「……さっきから、そう言ってる。」
次々に襲い来る剣士たちを、それぞれ支点と力点に相当する部位の骨を高速の格闘技を用いて砕き割る事でノックダウンさせていく。彼女が纏う濃紺の制服は、見る見る間に返り血で真っ赤に染まっていった。
しかしついに、彼女自身の血によって制服が汚れる瞬間が訪れる。
「……っ!?」
気が付くと、サンダーレインの二の腕には鋭い鏃が深く突き刺さっていた。咄嗟にサンダーレインの手が腰へと伸びるが、そこにある
「そ……う、だった……! わたしっ……もう……!」
唐突に思い出す、自分自身の立場。盾は無い。剣は無い。ふと目を上げれば、弩を構える射手たちに混じってその向こうに、サンダーレインの背中が見えた。今はもう故郷に置いてきた、煌めく甲冑に身を包んだ騎士の幻影がゆっくりとこちらへ振り向き、言葉を紡ごうと唇を震わす。
「ちがう……違う、わたしは……!」
幻影がサンダーレインへと告げようとする侮蔑を遮るように伸ばした手に、射手たちが放った矢が刺さる。
「うっ……ぐ、ぅ……! わ、わたし……っ!」
聞きたくない、聞こえたくない、気付きたくない、気付かされたくない――。その真実が、幻聴となってサンダーレインの脳を揺さぶる直前に、その裂帛の気迫は野火のようにその場に轟いた。
「――そうだっ!!」
射手のひとりの装備を穿ち、地へと突き刺さった槍は、明らかに高空から落下してきていた。その場にいた誰もが、その槍が飛来した方向――直上の空を見上げていた。
「貴方の心にはまだ誇りが燃えている、電雨騎士! 槍を握れ、諦めるにはまだ――早いぞ!」
大地を揺らし、装着した超重量の甲冑を質量武器にして、武器を失った射手を圧し潰しながら着地した小柄な少女はオレンジ色の髪と尾を陽炎のように揺らしながら、クローとアンカーが装備された大盾で隣にいた別の射手を殴り飛ばしてサンダーレインへと槍を投げ渡す。
「あなたは……陽炎、騎士……? どうしてここに……?」
「そうだっ! 当官こそが陽炎騎士、ジーラ・フランベルジュ! ずっと言いたかった……ジョアンナ・ゾーヴァ! あなたは昔から、勘違いが激しい上に頑固な人だった! 当官がカジミエーシュを去ったからって、あなたはきっと当官が騎士道を捨てたんだと勘違いすると……どうやら、的中していたようですね!」
「わたし……、わたしは……!」
ロドス所属の重装オペレーターにして、かつてサンダーレインと同時期にカジミエーシュで競技騎士として一定の人気を獲得していた新進気鋭の突撃騎士、フラムベルクの登場により、事態は急変する。
「さぁ立て、電雨騎士! 貴方にまだ心残りがあるのなら! 騎士として立ち、騎士として新たな戦場で、新たな武器を手に騎士の道を全うしろ! それが我らカジミエーシュの騎士の在り方だ!!」
全身から焔のように体表結晶を露出・肥大化させ、その表面上から超高温の熱波を放ちながら、フラムベルクは反抗の意思を見せる戦闘員たちを次々に薙ぎ倒していった。
「……!」
握り締めた槍の柄から、自分の血液と共に、心の奥底で淀み沈んでいた濁りが弾け飛ぶような、澄み渡る清涼感が心臓を早打つ。
「本当に……あなたは、どこまでも真っ直ぐだね。だから憧れちゃうんだ。……そう、あなたはきっと謙遜するし、すぐに心を閉ざして否定してしまうだろうけど……。そんなあなたに焦がれて、あなたと同じ生き方をなぞろうとする見習い騎士が……わたしを含めて何人いたことか。」
ばちんと、槍の矛先から青い稲妻が弾ける。
「大丈夫、大丈夫よ……ジョアンナ。」
未だに目の前にかつての自分が幻影として立ち尽くしていたが、その顔は既にサンダーレインと同じ方向を向いていた。
「今はここが、わたしの闘魂の在処。ここが、わたしの戦場――だから! わたしは
そして、サンダーレインの脚は、前へと一歩を踏み出すのだった。
ロドスが管理するエリアに設置されたフロンティア鉄道の駅舎で、ゴールドラッシュは駅員から遅延の連絡を受けていた。
「さっきジーラの嬢ちゃんが飛び出してったのはコレかよ……。ちぇっ、弱ったな。先方との約束の時間過ぎちまうぞ。マフィアとの約束に遅れるなんざ……ひえっ、おっかねぇや。」
その手には、狼頭を象った封蝋が押された封筒が握られていた。