【コードネーム】ラセツ
【性別】男
【戦闘経験】二十五年
【出身地】極東
【誕生日】不明
【種族】サルカズ
【身長】182cm
【鉱石病感染状況】
体表に源石結晶の分布を確認。メディカルチェックの結果、感染者に認定。
ガタガタとカメラが揺れ、その青年の顔が大きく映し出される。
「あ? これでいいのか? 最近の電子機器はわからんなぁ……。」
青年は手元の端末を両手で操作し、ドローンカメラを一定距離まで離して浮遊させることに成功すると、「コホン」とひとつ咳払いをして、自己紹介を始めた。
「あー、俺はラセツ。ロドスで編成された特殊親衛隊RO.S.ESの前衛オペレーターで……あー、職分は剣豪って言われたか? まぁなんだ、最前線で悪者をシバくのがお役目よ。」
それはロドスが未だロドスと呼ばれるより以前から、艦の中で戦闘専門職として刀剣を振るっていたというエリートオペレーター、『ラセツ』だった。彼が立っているのは、木漏れ日だけが光源として辺りを薄明るく照らしている、未開の原生林。
前回、チゼルが録画していた作戦と同日に撮られたもののようだ。画面の右上には、先程チゼルが映っていたフィルムと同じ日付が記録されていた。
「しっかしまぁ――なんだ。こんなところで何をしてるかっつーとだな。」
そんなことをラセツが語っていると、タイミング良く、彼の後方遠くから、数人の男たちの声が聞こえてきた。
「おい、これで本当に追いつくのかよ!?」
「当たり前だ、連中はよそ者だぞ! この森の行商ルートはここいらの村と町に住んでる連中しか知らない。そして、あいつらが向かっているロカプラナまではこの道を走った方が早い!」
「追いついてどうするんだよ! 見ただろお前も! あのフェリーンの女が持ってたデカブツ!」
「言ってる場合か! そんなことを迷ってる暇があるなら――あ?」
徐々に近付いてくるその声は、やがてラセツのすぐ近くで止まった。声の主は、総勢七人の男たち。それぞれ手には片手用の刀剣を有しており、目的地に到着すればすぐに戦闘を始めようという意思が見て取れた。先頭に立っていたリーベリの男性が、ラセツに向かって誰何を問う。
「……
「なぁに、ただの通りすがりの流浪人よ。」
「バカ言え、聞かなくたってわかる。その制服……
「おいおい、聞かなくてもわかるってんなら、最初から聞くもんじゃねぇだろ。」
呵々と笑うラセツに対し、七人の男たちは合図もなくラセツを囲み始める。手にした刃を常にラセツへと向け、さらにリーベリの男はラセツへ問うた。
「こっちは七人だ。見たところその腰にぶら下げてる極東式の直剣しか得物はねぇみたいだが……まさか、それひとつでオレたち全員を相手取ろうだなんて、馬鹿げたことは考えてないよな?」
「ハハ、たった七人で俺を突破できると過信する方が、よっぽど馬鹿げていると俺は思うがね?」
「……随分と達者な事を言うもんだな。」
「俺のコードネームを教えてやろうか? ――俺の名は『羅刹』。戦神の眷属にして、欲深き咎人に付け入り、惑わし、喰らう……大地の悪魔の名を持つ男だ。」
「御大層な大見得を切ったところ悪いがよ――ちっとばっかしお喋りに夢中になりすぎてねぇか!?」
リーベリの男と正面から対峙するラセツの背後、完全に彼の視界の外へとカメラがぐるんと振り向いたかと思うと、その瞬間には既に、ラセツの後頭部めがけ、ペッローの男が振りかぶった刀剣が一切の躊躇なく迫っていた。
――が。
その音は、金属の音にしては異質だった。まるで焼け石に水を打ったかのような。そう、ロドスの物資製造プラントで、似たような音を聞いた。それは、超高熱のレーザーで金属板を溶断した時の音に酷似していた。
「人を襲うには、ちょいと練度が足りてねぇな。お前さん新兵か? 肩の力抜けよ、筋肉が強張ってんぞ。」
ペッローの男が恐怖で腰を抜かして地に座り込んだ横に、ラセツが容易く切断して見せた片手剣の剣先がカラリと転がり落ちる。
「殺気を出さなきゃ人を殺せねぇのは、人を殺したことがない奴だけだ。もしくは随分と下手くそな殺し手だな。そう――お前さんみたいな!」
続け様に飛びかかってきた別の男の得物も、ラセツは手にした片刃の直剣で両断し、さらにその男の側頭部を切っ先で浅く斬りつけてみせた。
「熱ッ――!!?」
そこに血は流れ落ちない。しかし髪は焼け焦げ、耳朶は鮮やかに宙を舞い、皮膚はドロドロに爛れていた。斬られた男はしばらく絶叫しながら悶えていたが、やがてぱたりと動きを止めてその場に倒れ伏してしまう。
「俺の家宝は『ソハヤマル』つってな。俺がガキの頃から数十年……あいや、数百年か? まぁ、長いこと使ってても、手入れするだけで新品みたいにピッカピカになってくれる逸品なのさ。その能力は見ての通りよ。コイツに斬られた場所はお天道様に睨まれたみたいに焦げついちまう。」
時折ちらちらとカメラのレンズに向かって目くばせしながら、自らの手に握る宝剣の名を朗々と語るラセツ。
「来いよ若造共。げに恐ろしきブラッドブルードの妖魔が皆殺しにしちゃるってんだ。行っても帰っても結局は同じことだぜ? それとも、ここで俺を引き留めてなきゃあ困る事でもあんのかい?」
「コイツ……!」
確か、ラセツがこの作戦状況下でこの秘匿された通商ルートに派遣された理由は、アーミヤの判断によるものだったはずだ。曰く、この時私やアーミヤが接触した、妨害の為に道を阻んだ私兵隊の数が、目標の商業連合の規模と照らし合わせても異常に少なかったこと。
即ち、商業連合の本拠地に大部分の戦力を回すよう、その時点で伝令が走っているはずだった。ロドスの技術班によって付近一帯の電波がジャミングされていたこの時、それを伝えるには、人の足しかなかったことだろう。
「
「クソッ、こいつを殺せ!」
一斉に、三人の刺客がラセツへと飛びかかる。それをたった二回刀を振るうだけで斬り伏せ、ラセツは残った二人の男へと踵を返した。
「ほら、しゃんとしろや。」
「……オーレ! お前は『あっち』へ回れ! 今からならまだ間に合う!」
「で、でも兄ぃ――!」
「ごちゃごちゃ言うな! 行けェ!!」
最初に指示を飛ばしていたリーベリの男にオーレと呼ばれた、若いリーベリの青年は、それでも何かを口にしようとしたが、今にも泪を零しそうな顔で歯を食いしばり、元来た道を全速力で引き返していった。ラセツはそれを、何をするでもなくじっと見守っていた。
「良いのかい?」
「……あいつはここにいたって邪魔になる。」
ぎゅっと、リーベリの男の手に握られた片手剣の柄に力が籠められるのが、見ただけで伝わってくる。ぐっと腰を落とし、リーベリの男はラセツを正面から睨んだ。
「好い兄貴じゃないか。」
「……もう、あいつにはオレしか家族がいねぇからな。兄として、最後まであいつを守ってやらなきゃ……
「もう一度問うぞ、若造。お前も今なら逃げられる。ここで俺を足止めするってことは、
サルカズ族の中でも、凄まじく長命な血魔、ブラッドブルードに生まれ、自身でも憶え切れない年月を生き抜いてきたラセツだからこそ紡がれるその言葉は、リーベリの男に二の足を踏ませるに充分であった。
が。
「いつか――いつか、あいつも独り立ちしなきゃなんねぇ時が来るんだ。それが後か、今かの話だ。オレだって、いつかは親父やお袋みてぇに石になって破裂して死ぬ。きっとそう遅くねぇ話なんだ。オーレは……オーレは、乗り越えられる。もう子供じゃねぇさ、あいつだって。だから――!」
「……あんた、ロドスに来ないか?」
「は?」
不意に、ラセツが突拍子もない提案をリーベリの男に持ち掛ける。
「――悪ィが、遠慮する。昔ッからロカプラナで黒い仕事するのに慣れてんだ。だから、オレの死因はクソッタレな病気か殺されて死ぬ、そのどちらかだって思って生きてきた。今更――今更、それ以外の死に方なんて選べねぇ。それに。」
そこで、リーベリの男の言葉が一瞬詰まる。
「それに、商会の社長には恩義がある。オレとオーレを拾ってくれて、学校に通わせてくれて、食い扶持をくれた恩義だ。それを果たさないで、社長は裏切れねぇ。」
「その社長は、お前さんらの知らない裏で鉱石病患者を被験体にして特殊薬物の製造に精を出してたわけだがな。」
「それでもッ!!」
リーベリの男は再度、ラセツの事を強く睨み据えた。フゥと細く短く息を吐き、前へ出した右足に体重をかける。刀剣の柄をしっかりと握り締め、次の瞬間には襲い掛かれる体勢を作る。
「それでも……今ここで死ぬことに、オレは後悔しない。それを憐れむな。それは今までのオレを――オレたちの人生を、無碍にすることだ!」
「……すまなかった。」
――刹那の出来事だった。低頭姿勢で駆け出したリーベリの男の切っ先が、あわやラセツの顎を捉えんと肉薄する。それを首を少し傾けるだけで躱し、ラセツは彼の前に出た右足を躊躇なく斬り飛ばした。
「ぐ――ッ!!」
だが、リーベリの男は止まらない。バランスを崩すのを左手で地面を押し出すことで緩和し再びラセツへと切りかかる。だがラセツはまたも無表情のままその場から動かず、剣を握る男の右腕をすっぱりと斬り落とす。
「ま、だだァ――!!」
筋肉が弛緩し、宙を舞う右手から滑り落ちた剣を左手で受け止め、握り直し、ラセツへと凶刃を向ける。左脚だけで全体重をコントロールし、振るわれたその刃は、直後ラセツの頬を浅く撫ぜ、白い肌から鮮血を飛び散らせるに至った。
「……御見事。」
だが、その瞬間には、リーベリの男の首は持ち主の元を離れ、湿気てぬかるんだ轍のなかへとボスンと転がり落ちていた。
『こっちの道じゃなかったみたいだ。そっちはどうだい?』
「ああ、道理で。いやー報告遅いよおじいちゃん! もう囲まれちゃってるって!」
そこで、ビデオが別のカメラへと移り変わる。ロドスの通信専用に繋がれた特殊電波による通信によってラセツと通話していたのは、黒いヘイローを持つサンクタ族の執行官であった。
「ま、こっちでも探ってみますかねー。」
その周囲には、先程のラセツと同様に、刀剣やクロスボウを装備した私兵が三十名ほど、彼女を取り囲んでいた。