茫漠地平 タブラ・ラーサ   作:和泉キョーカ

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・ゴールドラッシュ
【コードネーム】ゴールドラッシュ
【性別】男
【戦闘経験】五年
【出身地】クルビア
【誕生日】7月12日
【種族】フェリーン
【身長】185cm
【鉱石病感染状況】
 メディカルチェックの結果、非感染者に認定。


ゴールデンナイト・フィーバーフロア

 そのフィルムは、異様な光景から始まった。

「オーケィ、それじゃ自己紹介から始めるとしようぜ?」

 声の主は、街の交差点の中心にモニュメントのように積み重ねられたドラム缶や自動車のタワーの頂点にどっかりと腰を下ろし、紫煙を燻らせている。

 その青年を狙い撃つようにボウガンや銃器を構える戦闘員たちが、その銃口を青年に向けている。

「俺様はロドスアイランド特殊親衛隊RO.S.ES所属前衛オペレーターのゴールドラッシュ様だ! どこぞのいけ好かねぇスカした『若君』と間違えんじゃねぇぞ?」

 ――その一瞬が、まるで切り抜かれた写真のように。朗々と語るオペレーター・ゴールドラッシュの周囲一帯の時間が停止していた。否、『時間を停止させる』という行為は科学的に考察しても信憑性が薄いため、これは相応のアーツで『時間が停止している』ように見せているだけなのだろう。

「出身はクルビアのイリンウェの方なんだが――前職の都合で五年近く西部の開拓地域に身を置いていた。なに、左遷とかそういうんじゃないぜ? ――保安官さ!」

 そう言って、ゴールドラッシュはモニュメントの上から飛び降り、モニュメントの頂上へと狙いを定める狙撃手たちを背にドローンカメラと共に交差点を歩き続ける。

「ニュー・マンファストの方もそうだが、まァとにかく開拓者っつのは気性が荒いわ気は短ェわで治安維持が面倒なのさ!」

 そして、ある地点でピタリと足を止める。

「そういうゴロツキどもを金バッジの輝きの下に牢獄にブチ込むのが、俺様ら保安官のお仕事ってワケよォ!」

 口元には不敵な微笑。親指と中指同士を押し付け、天高く掲げる。

 

 ――バチン、と。

 

 空気を破裂させるフィンガースナップの音が周囲へと伝播するのと同時に、世界が時間を取り戻す。

 明確に言えば、ゴールドラッシュの背後に立っていた戦闘員たちの硬直が解除され、事態も把握できずに狼狽している。その中で、ゴールドラッシュは尚も笑顔をカメラに向け、語り続ける。

「それはロドスの戦闘オペレーターとして正規契約を完了した今だって変わらねェさ。俺様の胸にこの――金色の! バッジが!! 輝く限り!!! ――おてんとうさまの下で、悪事は働かせねェ!!」

 ゴールドラッシュの声に気が付いた戦闘員たちが一斉にその銃器を彼に向けるも、戦闘員たちが腕を動かすより早く、ゴールドラッシュの腰に提げられたホルスターから抜き放たれた回転式拳銃のファニング・ショットが前方六人を一瞬で行動不能にして見せた。

「……このビデオを見た拳銃ライセンスを持ってるガキども! ファニングの一発目以降を命中させられるのは俺様くらいの腕が無けりゃ無理だからな! 絶対にファニングを実用しようとか考えんじゃねェぞ!」

 シリンダーから空の薬莢を放り捨て、向かってくる銃弾や鉄矢に向かってノールックでフィンガースナップをすることで、それらを即時に地へと叩きつけながら、ゴールドラッシュはカメラに向かって警告する。

「俺様のファニングは鮮やかだろうが、それでお前らが肩の骨砕くと俺様がジュナー姐さんに怒られンだ、勘弁してくれ! ……フロストリーフ、オメーに言ってんだぞ、俺様は!」

 ――沈着然とした彼女がそんな事をするものだろうか、と首を傾げる私の前で、画面の中のゴールドラッシュは戦闘員の迎撃を続ける。たった一挺の、最大装填数六発の回転式拳銃で、自動装填式のボウガンを担いだ戦闘員たちを次々に無力化していく姿は、正しく銀幕の中に見た決斗者のそれだった。

「クソ、物理攻撃じゃラチが明かねぇ! 誰か術師呼んで来い!」

「オリヴィエさんだ! あの人がすぐそこの派出所にいるはずだ!」

「……聞き捨てなんねェな。」

 逃げていく戦闘員たちの背中をじっと見つめながら、ゴールドラッシュは装備した防護チョッキのホルダーから通信機を取り出す。

「RO.S.ESオペレーター・ゴールドラッシュより戦略エリアCからD中継点付近に展開中の戦闘オペレーター各員へ。近辺に『盟社(カンパニー)』の戦闘人員が複数名、同じポイントを目指していると思われる。目撃次第接触はせず、ゴールドラッシュまで報告をしてほしい。」

 ――伏兵がいると判明している限り、その規模が測り切れない間は深入りしすぎれば無為に物的及び人的資源の損耗に直結しやすい。その判断を即座に下し、そして行動を違えていた他のオペレーターたちへ瞬時に情報の伝播を行う。こと多対多の作戦において、ゴールドラッシュはエキスパートなのだろうと推測できた。

 ――性格はあんなにふざけているのに。

「開拓地にはギャング組織なんかも手を出そうとするからなァ。そういうとこの本拠地に仕事仲間たちとカチ込みに入ることもちょいちょいあってか、こういう時のテンプレ的な動きは身についてんだよ。」

 フフン、と得意満面で拳銃をホルスターにしまいながら、ゴールドラッシュはカメラに向かってウインクを披露して見せた。

「……RO.S.ESにはこういう時、伏兵への通信を待たずにとにかく手あたり次第ブチのめすヤツらが多すぎるからなァ……。俺様くらいはちゃんとクレバーにオペレーションしなきゃ、クルビア男の名折れってモンだろうよ。」

 

「ぎくり!」

 隣に座っていたチゼルの口から、身に覚えがありそうな悲鳴が聞こえてくる。

 

 ゴールドラッシュが他のロドスオペレーターに通信を行ってから十数分後、ゴールドラッシュの通信機が甲高い音を立てた。

『こちらRO.S.ESオペレーター・ウェルキエルだよ。ラッシュ兄ぃ、聞こえてる?』

「お、ウェルキエル! 何かあったかァ?」

『ん。ダウンタウンのスラム街入口の方に、五人の『盟社(カンパニー)』暴徒が走っていくのを見たよ。』

「さんきゅーウェル坊! お前はまた自分の任務に戻ってくれよな!」

『ん。』

 通信機の電源を切り、ゴールドラッシュは通信相手から報告を受けた繁華街の裏路地を目指して駆け出していく。

 ――彼の走り方も、軍人のそれやロドスのエリートオペレーターたちのそれとは違う、障害物や悪路を走破する事に適した筋肉の動かし方をしていると感じた。恐らくは、そういった地形を駆け抜ける機会が多々あったのだろう。

 この時点、私やアーミヤたちが攻略していたボリビアの商業移動都市ロカプラナでは、ロドスの侵入が周囲一帯に感知されており、至る所に自家用車や家具家電を用いたバリケードや障壁が構築されていた。そういった類の障害を微笑みすら浮かべながら、ゴールドラッシュは次々に乗り越えていく。

 

 果たして、そこにはひとりの覆面を被った女性が立ちはだかっていた。

 あちこちで頻発していた火災が呼んだ黒雲の下、それでなくても高層ビルの路地裏がゆえに薄暗い貧民街の、住人のほとんどが安住の地を奪われた猫の子一匹いない泥だらけの道の上に、一振りの直剣を握り、その女性は黙然と立っていた。

「……私兵たちが口にしていたオリヴィエ嬢とお見受けするが、どうだい?」

「故あって素顔を隠している非礼を詫びよう。……いかにも、私が術剣士オリヴィエ。その金のバッジ……貴殿、クルビアの開拓者治安維持組織の保安官か?」

 語調も態度も悪質な他の戦闘員たちと幾度も接してきただけに、オリヴィエと名乗ったその女流剣士の真摯な話し方には、ゴールドラッシュの唇からヒュウと口笛が飛び出すに足る違和感があった。

「アンタ、他の連中と比べると随分とお行儀が良いモンだなァ?」

「あの者たちは他者を尊重する心を知らない。商業とは信頼の上に成立するというのに、部下があれでは社長の品性も疑われて然るべきと常思っている。」

「……ところでよ、正直なお嬢さんに聞きてェんだが。『盟社(カンパニー)』の戦闘力、今どこまで減ってる?」

「二割。」

「ホント真面目だな、アンタ。」

「……昔から、真面目に生きろと育てられたものでな。だというのに……。」

「アンタ、なんで『盟社(カンパニー)』の駒で甘んじてんの?」

「……義理がある。恩も返していない。」

「命があってこそじゃねェのかよ?」

「命で返せるなら、この命も惜しくないさ。」

「……。」

 ――ゴールドラッシュの表情は、彼の後頭部しか映していないドローンカメラのせいでわかりにくかったが。少なくとも、いつものあの笑顔を浮かべていることは無いと確信できた。

 直後、両者の間に緊張が走る。オリヴィエの右足に重心が移ったことが、カメラ越しでも察知できる。そのまま跳躍すれば、一刀の下にゴールドラッシュの脳天を両断できる距離。しかしそれはまた、ホルスターにゆっくりと手を伸ばすゴールドラッシュにとっても何ら変わりなく。すぐさまに拳銃を抜けば、オリヴィエの漆黒の覆面の向こうにある眉間を狙撃でき得る事は間違いなかった。

 

 五分と経っていなかった。否、もしやもすれば、一分と経過していなかった可能性すらある。だが、それはあまりにも長く、遠い時間の末の一幕だった。

 ゴールドラッシュが素早く拳銃を抜くのとまったく同時、オリヴィエの握る直剣に蒼い電撃が発生し、オリヴィエ自身も電流のような速度でゴールドラッシュに肉薄する。ゴールドラッシュの親指が撃鉄に届き、そのハンマーコックが「ガチン」と音を立てた瞬間。

「フィーバータイムだぜェ!!」

 ――その瞬間は、永遠となる。

 目を細めるゴールドラッシュの鼻先に、オリヴィエの覆面が近付いていた。その剣は彼の首筋にあと数ミリで触れているほどに接近している。

「……フゥ。」

 短く息を吐き、ゴールドラッシュはその場から一歩二歩と後退する。ホルスターに拳銃を落とし込み、フェリーンの保安官はおもむろにオリヴィエの覆面を取り外した。

「やっぱりか……。」

 フードの下、覆面の先に隠されていたオリヴィエの素顔を見て一言、確信を得たと言わんばかりのつぶやきを漏らすゴールドラッシュ。その手元には、畳まれた折り目が残る一枚の紙が握られていた。

「エリファー・ミカエラ・クロンズ。『盟社(カンパニー)』社長の一人娘……か。お嬢さん、アンタはここにいちゃいけねェよ。親父さんに情があるったって、その思想には気付いてたんだろ? ……止めてやれなかった後悔があるなら、アンタがその先を担ってやんな。」

 その手から直剣を抜き取り、武装を解除した状態で、チョッキから取り出した金属製の手錠を背面で両手首に装着させる。

「わ……たし、は。」

「無理に喋んな。俺様の拳銃は神経系に直接作用するアーツユニットだ。下手に抵抗すりゃ、脳に後遺症が残るぜ。」

「わたし、は……だれ、も……しなせ、たく、なくて。」

「剣を握る理由なんて星の数ほどあるってのは、ラセツ爺さんの金言だがよ。……その剣の握り方は、アンタに合ってなかったんじゃあないか?」

「でも……で、も……!」

 時の止まった身体のまま、大粒の涙を零すオリヴィエを前に、ゴールドラッシュはその雫を優しく指で拭い取る。

「縁があったら、俺様たちロドスの事を思い出してくれよ。きっと、アンタらの役に立つぜェ。」

 そう言ってニカッと笑って見せるゴールドラッシュの姿に、オリヴィエの目尻からは再び止め処ない涙が溢れ落ちていた。

 

「さて、と。」

 ロカプラナのダウンタウンに存在する広場で、ロドスの医療オペレーターたちに治療を受けるゴールドラッシュの視線の先にあったのは、ロカプラナの実権を握っていた今回のロドスの介入対象、『盟社(カンパニー)』と通称される企業の本社ビルだった。

「そろそろ、アーミヤちゃんやドクターたちの方も片付く頃かねェ。頼むぜェ、ウェルキエル!」

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