【コードネーム】ライトニング
【性別】女
【戦闘経験】四年
【出身地】イベリア
【誕生日】6月28日
【種族】エーギル
【身長】171cm
【鉱石病感染状況】
体表に源石結晶の分布を確認。メディカルチェックの結果、感染者に認定。
事実として、このビデオが撮影された作戦から現在に至るまで、実に数か月の時が経っている。同様に、彼女が歩いているロカプラナの街並みも、日付は作戦当日から数か月後のものとなっていた。
「とは言っても、未だにここら一帯の大気中源石粒子濃度は人体に悪影響を及ぼす危険域の最中だ。……今ここで、大規模なアーツ実験を行ったら、それはもう多大な成果が得られることは間違いないが……。」
一瞬、ライトニングはカメラに背を向け、ブルリと身震いをする。
「コホン。――オレも、常識は弁えているとも?」
そう言ってカメラの方へと向き直り、数ブロック先の簡易テントを指差して見せると、ライトニングはそこへ向かって歩き始めた。
「さぁそれでは始めようか。特殊親衛隊RO.S.ES研究分析担当、ライトニングの仕事風景をね。」
ロボットアームによって拾い上げられた源石結晶をまじまじと眺めながら、その造形についてライトニング女史が思うままに言葉を連ねていく光景が、先程から十数分ほど続いている。
「――人工的に成分を組み替えられた源石にしては出来が良すぎる、というのはさっきも言ったと思うがね。より強力な……。ふむ、オペレーター諸兄の中には身に覚えのある者も少なからずいようが、鉱石病罹患者の中にはその諸症状や副反応の一部として筋力の増加……もとい、膂力の大幅な拡張を獲得し得るケースが存在する。ロカプラナの『
その講釈を、私の隣に座るフラムベルクは神妙な面持ちで凝視し、チゼルは明らかにわかっていないような笑顔を浮かべてポップコーンを貪り漁っていた。
「『
ロカプラナの中心部、巨大な交差点跡地に仮設された臨時基地のテントの中で、ライトニングはコーヒーを片手に、もう片方の手でペンをくるくると弄り回しながら、次々に各種装置から送信されてくる人工源石結晶の測定データを参考に自論を述べていく。
「だが、それはオレの奇特な性格上の判断だ。……この世界に、自ら望んで感染者になろうとする者なんぞ、オレを含めてもそう多くはあるまいよ。『
その時、ロドスの制服を着た青年が、ライトニングの元へと駆け寄ってくる。その手には、複数枚の書類が抱えられていた。
「ライトニング先生、『
「重畳。有機エネルギー開発プラントの方も順調か?」
「そちらは問題ありません。あと一時間も頂ければ、各事項のリストアップが終わります。ですが……。」
「懸念が?」
青年はこくりと頷き、それについて口にする。
「人事部の方が。」
「……予測はしていたとも。こんな暗黒企業、入社を希望する方が狂っていると評価せざるを得まい。」
「いえ、各種データの欠落……と言うより、そもそもとしてデータが存在していない入社記録の方が多いんです。」
「ほう? ……オレも気になる。精密機器専門のオペレーターにロボットアームと人工源石の管理権限を委譲してくれ。人事セクションの方へはオレが出向こう。」
ライトニングは席を立つと、ペンをその場に放り捨て、青年の先導でテントを後にする。
その二分後、テントに駐在していたと思しきオペレーターの女性が慌てた様子でドローンカメラに駆け寄り、何やら操作した後、次のシーンへと切り替わった。
シーンが切り替わると、崩壊したオフィスの室内で、比較的解読が容易そうな書類やデータ類を捜索するオペレーターたちが慌ただしく走り回る中で、唯一機能が損なわれていない椅子に腰かけ、オペレーターたちが集めた資料に目を通しているライトニングが映っていた。
「ふむ。アガピコ・ロジョラ……社員名簿に記載はあるが入社記録は無し。セレスティノ・メンヒバル、同上。カルヴィン・ウィンズレット、同上……。はぁ、何だこの企業。ふむ……確か、この企業の幹部並びに、武力介入を行っていた戦闘員と接触したRO.S.ESオペレーターの記録が残っていたな。」
そう言って、ライトニングは手元の端末で、私たちが先程まで見ていたビデオを、倍速で視聴し始める。その途中、『
――『今ここで死ぬことに、オレは後悔しない。』
――『誇らしげに、「改善しました」なんて綺麗事を吐く連中に!』
――『私は……誰も、死なせたくなくて。』
――『俺らは今を生きたいんだよ!』
――『俺たちの「親父」は、お前らなんかとは……!』
「……。」
何を感じ取っているのか、それとも無感動に黙視しているだけなのか。ライトニングは一言も発さないまま、すべてのビデオを視聴し終えると、短く深く、溜息を吐いた。
「一種の縁故採用のようなものか。社長であるアルフォンソ・クロンズに一定の恩義や『借り』を背負っているからこそ、彼の信奉者として部下が集っていた。……教祖のカリスマが、派閥内の人間の視野を著しく狭める。カルト宗教の典型例だな。」
「ライトニング先生、他のセクションの概要レポート、大方は用意できました。こちらはいつでも撤収できます。」
「ああ、オレもじきに向かうとも。……その前に少し、やるべき事がある。」
「お手伝いしましょうか。」
ロドスのオペレーターの提案を笑顔で拒み、ライトニングは先に戻るよう促す。
「それには及ばんさ。そら、ここいら一帯の源石粉塵濃度も軽視して良い物じゃない。早く機材を片付けて、飛行機に帰ってなさい。オレもそう長くは待たせんよ。」
オペレーターの青年はライトニングの返答に素直に頷き、バッグに書類や電子機器を詰め込んでオフィスを後にする。
その場に取り残されたライトニングは、やる事があると口にしていたにも拘わらず、生物の気配ひとつない灰色に崩壊した文明の亡骸の中で、何をするでもなくぼんやりと、窓枠から暗く曇った外界の大空をじっと眺めていた。
そうして十分後、ライトニングが再び声を発する。
「――……随分と愛されていたのだな、君は。」
カメラが振り向いたそこに在ったのは、源石の結晶で構築された剣山。否、茶褐色の水晶を大量に背負った、人ならざるモノだった。身体中に人体のパーツが無造作に接合され、融合し、固着している。中央部に唯一残った頭部は、『
――私の隣で、チゼルとフラムベルクが同時に息を吞む音が聞こえる。年端も行かない少女たちに、その光景はあまりにも刺激的だっただろう。
「口は利けるか? ……いいや、自我も残ってはおらんだろうな。だが……どうしてそうまでして、生き延びようとした?」
クロンズだったモノは、何を言うでもなく、ライトニングの顔をじっと睨み、微動だにしない。
「託されたんだな。幾度もの『今日』を共に生きて来た家族たちに、せめて命はと。……アーツは心の機微に大きく影響される。社会的ミーム……それもまた、アーツの結果を左右する要素のひとつ。あの大規模粉塵爆発の刹那、何があったかはオレにもわからない。ただ……。」
ライトニングは推論を述べながら、白衣の下に格納されたアーツユニットを騒々しい音を響かせながら展開させていく。
「……あの瞬間、調律された源石によって感染した人造のアーツ適合者たちによる、無意識の大規模アーツが発動したと推測しても、そう遠からず的中しているのではないか? ……自意識も存在せず、生きる意図も見失い、『今日』を辿り『明日』を見つめるその情熱さえ喪った君のその姿は、果たして……天国、ないし地獄にいる君の家族たちが見たら、どう感じるだろうね。」
アーツユニットが、やがて大型の杖の形状へと完成すると、ライトニングは足下を杖で数回、叩打する。直後、クロンズだったモノの周囲に、青緑色の電流が奔り始めた。
「――だが、それでも。」
科学者にしては、あまりにも感動的なスピーチだっただろう。学術的にも根拠は無く、論理的にも破綻した、陳腐な感情論。それをまるで尊い物かのように謳いながら、ライトニングは電流の激しさを強く大きく調整していく。
「多くの者たちが、君の事を心から尊敬し、愛していた。たとえ歩んだ道のりが、世界にとって邪悪なものだったとしても……君が、君たちが共に刻んできた轍は、確かな景色を創り上げたはずだ。――どうか、魂の還る場所で、君たちの本当の理想郷を皆でその目に焼き付けられる事を願っている。」
なんて、と。ライトニングは薄く微笑む。
「――オレらしくもないな。」
瞬間、映像のすべてを、青緑色の眩い閃光が支配した。フラムベルクの時と同じく、その後のビデオは断絶されてしまっていた。
「うーん、ビデオ終わっちゃった。」
ビデオデッキの前で、チゼルは困ったように眉を寄せる。
「もうひとりいただろう、マラボレマだったか?」
私の問いに、チゼルは「そうなんだよねー」と間の抜けた返答をする。
「マラボレマってさ、すっごく愛想が悪いんだよ! 悪い人じゃないんだけど、こういう『みんなでなんかしよー!』みたいなノリには絶対に付き合わない人なんだ。」
「秘匿性の高い情報を扱う特殊親衛隊RO.S.ESの医務担当ですから、その寡黙な姿勢は本来妥当なのですが。」
「そーじゃないじゃん! みんなにもマラボレマの事、知って貰いたいんだけどなー。」
「本人はきっとそれを一番嫌がるわよ。」
「むむぅ、確かに。」
はあ、と大きな諦観の溜息を吐き出し、チゼルはその場にあったビデオをひとつひとつ片付けていく。
「しょーがない、次の任務の支度もあるし、ビデオパーティはここでお開きかな!」
チゼルが部屋を出ていき、彼女が放ったまま散らかして行った菓子の袋やポップコーンの紙箱をてきぱきと纏めると、フラムベルクも私に一礼をして廊下の奥へと去って行ってしまった。
――私も、まだ執務が残っている。アーミヤを怒らせても怖いので、僅かな余韻に浸りながらもその場から立ち去ろうと踵を返した。
「どくたー。」
――その時だった。
まったくもって不可思議な――。
「まだ、クレオのビデオを。みて、おりませんわ?」
ビデオデッキの電源は、チゼルが消した。ディスプレイの電源は、フラムベルクが消した。電源コードは、その場でコンパクトに巻かれて置かれている。
なのに。
「さぁ。ごらんに、なっていって? クレオの、ホームビデオを――。」