Chisel
狙撃:破城射手
特性:重量が最も重い敵を優先して攻撃
素質『拍動センサー』:攻撃範囲内の敵のステルス効果を無効にする
素質『蒼き龍の瞳』:敵を攻撃時、敵の防御力を50%無視
特殊親衛隊、僻地へ
そもそも、特殊親衛隊
「だってのに――!」
だというのに。
「なーんで、ボクらこんな何も無いへんぴなド田舎にいるんだよーーっ!!」
特殊親衛隊RO.S.ES所属の狙撃オペレーター、チゼルの悲嘆の叫びが、大自然に覆われた草原の果てに見える、まっさらな地平線へと吸い込まれていった。
周囲には森と、平野と、少しばかりの山岳と、周囲を一望するに充分な高度の丘。その程度しかない。移動都市の基盤も無ければ、人が住むに足る文明の痕跡も存在しない。あるのは、遥か遠くから飛来してきた人工物に運搬されてきた機械類がいくつかと、唐突な僻地左遷にゲンナリと項垂れる数名の男女のみ。
「しょげるなよ。二か月前から言伝されていただろ。」
「あのねおじいちゃん、ボクらはおじいちゃんと違って都会っ子なの! 現代人なの! こんな近代的娯楽も皆無な原始風景見せられたらそりゃしょげもするよ!」
「おう喧嘩かよ。買うぜ。」
「いやいや、そうじゃなくてー!」
意地悪そうな笑顔を浮かべる前衛オペレーター、ラセツにその蒼い髪をグシャグシャと撫で回され、チゼルは不満そうに唇を尖らせる。
「おいアリサくん、駄々を捏ねる暇があるなら資材の搬送を手伝ってくれないかね。オレのようなひ弱な研究者に力仕事をさせておいて、恐らくRO.S.ESの中でもトップクラスの膂力を誇るキミがそこでうだうだとサボっているようでは、オレも定例報告にキミの所業について事細かに記載せざるを得ないが。」
「うわわ、それだけは勘弁して!」
その場に集まる面々の中でも目を引くほど身長の高い補助オペレーター、ライトニング女史に苦言を呈され、チゼルは森の入り口に停車している、巨大装甲車の方へと駆け寄っていく。
「だいじょーぶだってぇ、イルダ姐ぇ! アタシとジーラちゃんと、おじいちゃんにウェルキエルくんだっているんだし! 女の子は縛られるより自由に飛び回る方が立派に育つわよ!」
「あれっ、俺様は!?」
「ハナエル、キミはいささかジーラくんやアリサくんに甘すぎるきらいがあるぞ。快活は美徳というキミの言い分、充分に理解はできるが、オレとしては職務と私事は弁える大人になって貰いたいのだがね。」
「無視かよッ!」
「……兄貴は……力仕事より、書類整理の方が……向いてる。」
「嘘こけ! 俺様今でこそ一部隊のメンバーに過ぎねェがよ、昔は悪党相手に神話の英雄もかくやっつゥ斬った張ったの大立ち回りをなァ――!」
「兄貴……口より手、動かして。」
「理不尽だろッ!!」
明朗を通り越して能天気のきらいすらある先鋒オペレーター・イノセントや、それとは正反対に感情の起伏に乏しい語り口を見せる特殊オペレーター、ウェルキエルと、彼ら彼女らに振り回され憤慨する前衛オペレーター、ゴールドラッシュらも装甲車の周囲から姿を現し、続々とその場に特殊親衛隊RO.S.ESの面々が集結しつつあった。
「――さて、それでは臨時の隊長として、オレたちがこの辺境の大地に左遷……もとい派遣された理由について、今一度復習の時間と行こうじゃあないか。」
「俺たちもついに島流しか……。」
「おじいちゃん、ここ茶化すとこじゃないよ。」
簡易組み立て式のテーブルやチェアを並べ、数名の男女がそこへ腰かける。揃ったオペレーターたちの顔をひとりひとり見つめながら、ライトニングは手にした資料をテーブルに順次置きながら任務内容のお浚いを始めた。
「この地域は国土的に言えば、サルゴン以南イベリア西部……の、未だ人類の手によって調査が進められていないエリアのちょうど始点にあたる場所だ。既にいくつかの国家が極秘裏に派兵した開拓チームや研究組織の介入も確認されている。」
「いくつかって言うからには、相当に価値のあるエリアっつゥわけだな?」
「いかにも。人の手が加えられていない天然源石鉱脈の存在が大きな理由とされているが、ここにはもうひとつ大手を振って人を送り込める利点がある。わかるか、ジーラくん?」
ライトニングに名指しされ、背筋を伸ばしてスピーチに耳を傾けていた重装オペレーター、フラムベルクは、一層姿勢を正し、朗々溌剌と推論を述べてみせた。
「未踏エリアに属する地域ということは、いずれの国家の法令をも遵守する必要が無いという事でもあります。あらゆる刃傷沙汰、暴力行為を正当化し、より強硬的な手法を用いて自国の利益を奪取する行為に及べる事も、このエリアの競争性を高めていると推察します。」
「素晴らしい! ……なあ、やはりジーラくん……大学とか行かないか?」
「行きません。」
「そうか……。」
勧誘を即答で断られ、しょんぼりと肩を落としながら、ライトニングは話を続けた。
「……この仮称『エリア・ブランク』で仮に明確に特定国家所属の戦闘行為に巻き込まれ、それを当該行政機関に告訴したとて、襲撃してきた兵卒が当該国家に属する武力であるという証明はできない。故に、このエリア・ブランクは完全な無法地帯であると考えておいた方が良かろうな。」
「はいはい! しつもんしつもん、質問でーす!」
「うむ、何かねアリサくん。」
「他の武装組織と共謀して襲撃者の容疑を所属国家に訴えた場合はどうなりますか!」
「いやー、ないっしょ。」
チゼルの疑問に答えたのはライトニングでは無く、隣に座っていたイノセントだった。
「だって共謀者がそんなことするメリットがどこにあんのよ。国家間の火種を産むだけだよ? 少しでもエリア・ブランクの開拓にリソースを割きたいなら、無駄な摩擦に予算使うより、開拓チームにお金回して貰いたいはずだけどねー。」
「うぎぎ、高学歴エリートに煽られてます!」
「悔しかったらアリサちゃんも執行人になれるくらいお勉強しなー?」
「いやです!」
「ハハ、そう言うと思ったー。」
嫌味は一切無く、純粋に心から可笑しく思っている様子がはっきりとわかる朗らかな笑顔で呵々と笑って、イノセントはライトニングへと手を振ってみせる。ライトニングもその仕草に対して首肯すると、再びテーブルに並べた書類へとペン先を向けながらスピーチを再開した。
「――オレたち特殊親衛隊RO.S.ESがこのエリア・ブランクに派遣された理由は、主に二点ある。」
ひとつ、とライトニングは親指を曲げる。
「エリア・ブランクへの駐留を開始した組織による、過剰規模及び過度な危険性を帯びる源石関係の技術実験や構造物の建造の阻止。また、エリア・ブランク内で起きると予測される武力衝突の中立介入。要は、『エリア・ブランクで起きる源石絡みの面倒事への対処』、これが一つ目だ。」
そしてふたつ、とライトニングは人差し指を曲げる。
「そんな事ができるのはオレたちのようなエリートオペレーターくらいだ。しかしロドスとしてもヒューマンリソースを大きく割けるような余裕は無い。アーミヤくんやケルシー先生にも信頼されているブレイズくんやロスモンティスくんのような面々はロドス本艦に残しておくべきだろう。とあらば必然的に、この任務に出撃できるだけの実力を少数ながらも発揮できるのは――。」
ライトニングはそこでひと呼吸置き、細く開けた瞼から、そこに集う七人の男女の表情を伺う。笑顔から仏頂面まで、その面持ちは七者七様ではあったが、全員に共通して、その表情の奥には、溢れんばかりの自信が湛えられていた。
「――オレたち、RO.S.ESしかいないというわけだ。」
そしてライトニングもまた、自尊心に満ちた笑顔でそれに応えるのだった。
―仮称『エリア・ブランク』・PM4:17・晴れ
「赤眼のサルカズに、未成年のクランタと同年代風のドラコ……ヴイーヴルかな? それからフェリーンとエーギル、サンクタが二人とループスが一人……。年齢も専門分野もまるで違う一般人たちを登用してひとつの目的の為に最善を選び続ける企業、ね。」
ロドスから派遣された精鋭部隊の面々が集合し、今後の指針や現状整理を行っていたその森林と平原の中間部を視界の中に収められるだけの高さから、貨物輸送を主目的とする装甲車とそれに付随する数名の人員を見下ろす人影がひとつ。
「ロドス・アイランドかぁ~。これは早めに接触しておいた方が良いかな~、ビジネスチャンスを逃す手はないよね!」
長く尖った耳介と、大きく豊かな尾を特徴とするヴァルポ種の少女は、鼻歌を口ずさむように独り言を漏らしながら、手にした端末機器の画面上にタッチペンを滑らせる。
「エリア・ブランク……ね! イイ感じの名前じゃん、流行らせちゃおうかな~?」
森林区域を一望できる丘の上に立つその少女は、タッチペンを端末の側面へと収納すると、その端末自体も特殊素材が用いられていると一目見てわかるジャケットのポケットに放り込み、その場を離れていく。
「……じゃあ、また会おうねロドスのみんな! なんでもアリのエリア・ブランクの日常、どうか飽きないでね!」
少女が抱える大型のサイドバッグには、『Fragam Carrier』の文字が大きく刻まれていた。