鬱蒼と木々が茂る森の中を石畳の道路がのびていく。
城塞都市ガンツから一日の行程で忽然と現れた道路は、アランの「支援者」が作ったものらしい。真新しい石畳はついさっきまで石組人夫や熟練の魔法士が土魔法で仕上げていたといっても信じてしまいそうだ。
私の前をクレリア様とアランが、シラーとタースにまたがって進んでいく。そのさらに先にはダルシム副官を先頭にサテライト一班が隊列を組んでいた。後ろにはサテライト二班が続いている。のこりの各班は長い隊列に一定の間隔で配置され、警護にあたっていた。
この先にはアランの言う新拠点が用意されているという。
アランはクレリア様の期待を裏切ったことは一度としてなかった。魔法だけでなく、その才知はギルド長からガンツの拠点を難なく手に入れた点を見ても明らかだ。そのうえ、行いに嘘がない。クレリア様のお気持ちが、アラン様に傾いているのもわかる気がする。けれど……。
平坦な道を馬の背にゆられていると、心はとめどもなく広がっていく。
◇◇◇◇
ガンツ出発の前日。
ガンツのホームに現れた少年――あとでユリアンと名乗った――がダルシム副官に見つかってしまったのが事の発端だった。
ホームには商人から職人まで、男爵になったアランの知見をえようと訪問が絶えず、サテライトの各班が立ち入りを制限していた。当然、アラン様に会いたいという子供が来たところでとりつぐはずもない。しかりつけたダルシム副官に少年は平身低頭し、お詫びをしたいといった。
怯えきった少年の口から出たのは……アラン暗殺未遂事件。
その場にいた近衛の者たちが一斉に抜刀する中、ひたすらアラン様にあわせてくださいと繰り返す少年をアランの前にひきだした。
アランはユリアン少年の持ってきた書状を改め、仕方ないやつだといったきり、ユリアンを迎え入れるつもりだと言った。
直言を許されているダルシム副官としては全く我慢ならなかったらしい。
「アラン様! なぜこのような重大事を我々に黙っておられたのですか!」
「もう済んだことだし、イリリカ製の魔法剣もただで入手できたし良かったじゃないか」
「あのときセリーナ様とシャロン様が同行されるときいて、警護を緩めたのは私の責任です。今後は必ずサテライトの一班はかならず同行いたします!」
「わかったよ。たしかに俺も油断していたのは事実だ。当面、警護を頼む」
その結果、すでに決まっていたはずの護衛計画は白紙になり、ホームの食堂で大激論へと発展してしまった。
食堂で何時間も意見を戦わせた最大の理由が、アランとクレリア様の配置だ。
「道を知っているのは俺一人なんだから当然先頭に立つよ」
「なら私も」
「クレリア様!」
「そこは先導隊にお任せください。アラン様とクレリア様は我らの護衛の中心におられるべきです」
「私はアランの用意した町をこの目でみて判断しなければならないのだ。先頭を切るのは当然ではないか。ダルシム、そなたが私を案ずる気持ちはありがたいが」
「ノリアン卿はどうなんだ」
「先導隊にアランが道を教えておけばよいのでは?」
「実は道なりにトラップがあってね。俺しか解除できない仕組みなんだ。魔物もいるし、俺たちをよく思っていない貴族の手先が隠れているかもしれないだろ? だから俺が先導する」
「しかし!」
珍しく、ダルシム副官の声が大きくなった。アランとシャロンたちだけで街を歩かせたことに責任を感じているのだろう。
アランも困った顔をしている。護衛を下がらせたアランにも非があるのだ。
セリーナとシャロンにまかせておけば大丈夫だとは思っていたが、四十人もの暗殺者が現れたというから穏やかではない。
結局、アランとクレリア様が折れて今の隊列になった。
ダルシム副官は道のりを進むにつれて警戒を強化している。街道にゴブリンが現れただけで防御円陣を部下に指示するくらいだ。さすがにこれは大げさかもしれない。けれどアランとクレリア様こそがスターヴェーク再興の鍵なのだ。
出発直後はアランに街の様子などを聞いたりしていたクレリア様だが、真新しい道にはいったころからは急に口数が少なくなった。
これから行く場所がとても住めないような場所だったらどうしようかと一瞬でも考えない者はいないに違いない。
アラン、そしてセリーナとシャロンの三人がこれまで人間離れした活躍をしてきたことを知っているはずの私でさえ不安がよぎる。
叙爵でおおいに士気が上がった今、いきなりはしごを外されたら、私達のあとをつづく元辺境伯軍の兵士たち、ガンツでの暮らしを捨てて入植にかけている職人とその家族はどうなるのか。
……結局みんな不安なのだ。