惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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侵入

 王都上空……。

 

 狭い偵察ドローンの貨物室に画像が浮かび上がった。

 王家に長く仕えている上流貴族は王都の近郊に領地を所有している。王都内に邸宅が、領地に居城があるのが一般的だ。画像の一部が赤く着色された。バールケ侯爵の領地は王都の南だ。

「イーリス、バールケの居城を表示してくれ」

 

 画像が急拡大し、領地の中央にある川べりの豪壮な建物を表示した。高い城壁に加え、出入り口が北側の一か所しかない。王都からの道も意図的に屈曲して直進できないように道普請しているようだ。居城というより完全に外敵を想定した城塞だな。

 

「熱源探知モードで表示」

 画像が暗転し、正門、城壁の上に複数の番兵が熱源を表す黄色い輝点となって表れた。十人近くがこの時刻になっても定期的に巡回しているようだ。

 

「シャロン、ここからの財宝奪取を検討してみてくれ」

「はい。今回は秘密裏に目標物を奪取するため、城壁正門の突破を避け、飛行魔法をつかって上空から降下し、上階から財宝の探索に当たるべきかと」

「バールケのことだ。本人しか知らない場所に隠しているはずだ……地下かな」

 

[財産が金貨であれば地中探査機で発見できます。純粋な金は通常の土壌よりはるかに密度が高いうえ、特徴的なミューオン反射をするので判別可能です]

 

「念のため、麻痺性ガス弾を使用する。警備兵の巡回ルートに打ち込んで沈静化してから捜索に当たろう」

 

 バグスは侵略した人類惑星で地下に巣を作ることが多い。そのバグスに対抗するために使われるのが対バグス用神経ガスだ。バグスの巣にガス弾を投入し、入り口をふさいでしまえば比重の重いガスは地下道の奥深くまで浸透し、バグスを根絶する。対人用としては強すぎるので、今回使うガスはコンラート号のラボで対人用に化学修飾している。効果は短く、副作用も少ないうえに、俺たちはナノムで完全に無毒化できる。

 

「アラン、気になることがあるのですが」

「なんだ」

「宮廷内の力関係です。バールケの派閥が弱体化して、エクスラー公爵の派閥が勢いを増せばわが方のスターヴェーク奪還の支障となります」

「何もしなければ、どのみち政争に負けたバールケの資産は公爵のものになる。だから早いうちに俺たちのものにしておく方がいいんだ。それにやつの財産の一部はライスター卿から奪ったものだ。遠慮は無用だ」

 

 

 飛行魔法を展開して偵察ドローンのハッチから飛び降りた。地中探査機を背負っているせいで制御が難しい。着地目標は南側の庭園のある側だ。セリーナは西側の川沿いに降りている。地中探査機による解析には、バールケの城塞の南側と西側にそれぞれ一機ずつ設置して、ミューオンビームが交差するようにセットする必要がある。

 

 地面に置いた探査機が静かに地中にもぐりこんでいく。やがて頭を数センチ残して完全に埋没した。

『セリーナ、そっちはどうだ』

『設置完了。起動しました』

『イーリス、解析を開始しろ』

[了解。……しばらくお待ちください]

 

 仮想スクリーンに、上空からの赤外線映像を投影する。ぼんやりと光る複数の光点が浮かび上がった。横たわった警備兵たちは北側の正門周辺にいて、巡回兵も城壁の周辺で倒れている。

 麻痺性ガスに重い副作用はないはずだが、お宝が消えているのが発覚した時点で、バールケの怒りは警備兵に向く。当然、頭のいい奴は目が覚めたらすぐに逃げ出すはずだ。ご丁寧に自分の失態を報告する兵もいないだろうな。つまるところ謎の消失となりバールケが俺に思い至ることは絶対にない。想像の敵を探して疑心暗鬼になってくれればそれでいい。

 

 とはいえ、こんな襲撃はもう続けられない。冒険者時代のように盗賊のアジトから財宝を取り返したり、狩ってきた魔物を冒険者ギルドに買い取ってもらう、といった方法では財政に寄与する度合いが低すぎる。継続的な収入源を確保して国を富ましていかねばならないが……。

 

[解析が終了しました]

『セリーナ、地中探査機を回収してこちらに合流してくれ』

『了解』

 

 仮想スクリーンに城館の地下が立体画像となって表れた。城館の南側、地下五メートル付近に鮮やかな輝点がみえる。

 

『イーリス、あの輝点が金貨なのか』

[詳細な形状は不明ですが、金やその他の貴金属が集められているようです]

 

 城館のどの窓にも明かりはついていない。おそらくバールケの一族はほとんどは華やかな王都で暮らし、必要な時――つまり財貨を保管するとき――くらいしかここには来ないんだろう。

 護衛は全員、麻痺状態にある。最上階に降下する必要はなくなった。目標物の位置が確定しているからさほど探すのに時間はかからないな。

 

 

 予想通り、一階の食堂の裏に隠し通路があった。

 ここまで侵入されるとは考えてもいなかったのだろう。地下に降りる扉があったが、開錠するのは面倒だ。セリーナがハンドガンで錠前を弾き飛ばした。

 

「イーリスの解析結果によればこの地点です」

「なにもないぞ。書類の詰まった棚があるだけだ」

 暗視モードでくまなく見たが、棚には整然と書類つづりがならんでいるだけだ。なにか価値あるものなのだろうか。

 

「金属反応はたしかこの辺り……」

「この場所だけ床材の色が違うな」

 

 電磁ブレードナイフを突き立てると板材がはじけ飛んで蝶番が現れた。隠し金庫か。

 扉を開けると小袋が十個ある。袋の中は金貨がざっと百枚くらいか。合わせて一千枚。一千万ギニーだ。俺が王都で盗賊退治の報告後、王からもらった報奨金が五百万ギニーだった。上流貴族の財産にしては少ないな。

 

「アラン、底に敷き詰めてあるのはもしかして白金貨では?」

 全部でたてよこ八個ずつ、等間隔で並んでいる。つまり……六千四百万ギニー! 白金貨は相当珍しいはずだが、バールケはどうやって手に入れたのか。

 金貨と合わせて合計で七千四百万ギニーか。一国の宰相の全財産としては微妙な金額ではある。おそらくほかにも複数の隠し場所が王都の邸宅にもあるのだろう。

 

「最初からここを狙えばよかったな」

「いえ、銀鉱の採掘で返済可能ならば、ギルドからの借り入れはした方がいいですね。きちんと返済すれば信用もつくでしょう」

「そうだな。金はあるに越したことはない。スターヴェーク侵攻にも金はかかる。セリーナは貨幣を回収してくれ。俺はこの書類をできるだけ持っていく。地下に隠しているからには重要なものだろう」

 

 俺は書棚から一冊の書類つづりをとりだした。暗視モードではこまかい中身の細かい文字は見えないが、綴りの背表紙にはいくつか記憶にある有力な上流貴族の名前が書いてある。俺の叙爵式に参加した貴族家も散見される。これは、もしかして……。

 

 

 

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