惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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新たな資産

「魔石鉱山?」

「はい。間違いありません」

 

 ベルタ王国から戻った俺たちは荷物は機内において、執務室に入るとすでにセリーナとARモードのイーリスまでが待っていた。

「シャロン、今回は私の勝ちね」

 セリーナは珍しく満面の笑みだ。

 

「こちらにサンプルがあります」

 セリーナがおもむろに取り出した布袋の口を開いた。こぼれ落ちた魔石がざらりとテーブルに広がった。何の魔物のものかはわからないが、オーガーのものより大きい一級品だ。

 

「詳しく話してくれないか」

「魔物は死を悟ると体内の魔素に導かれて移動するようです。採鉱地点が魔物たちの移動ルートと重複していたので発見につながりました」

[アラン艦長、私や偵察ドローンは魔素を探知する能力がないので、これまで発見できませんでした]

『規模はどのくらいだ?』

[大樹海の生成と同時にこの魔石の堆積が始まったと考え、魔物の生息数、世代交代年数、死期を迎えた魔物の現地到達率などを想定して、概算で二千トン以上と推定します。しかもセリーナが現地で調査したのは全体のごく一部です]

 

 俺も死んだ魔物が持っていた魔石がどうなるかは気になっていた。これまで自然死した魔物の姿を見かけたことはないし、魔石が樹海に転がっていることもない。魔物の墓場があるならば筋は通る。

 以前、樹液糖を探しに奥地に行ったときは一抱えもある大樹が森林を形成していた。魔物が魔石を運び始めてからは数百年ではきかないだろう。

 

「冒険者タスカ―が残した言葉、金銀を超える財宝とは魔石のことだったのかも」

「真相はわからないが、途方もない資源であることは間違いないな」

 

 魔石はこの大陸のあらゆる場所で使われている。いままでは魔物からしか得られなかったものが、鉱物として安定供給できるとなるとどれほどの市場が広がることか。

 

[アラン艦長、魔石の動作機構はまだ不明です。魔法の中にはエネルギー保存則を逸脱しているかのように見えるものもあり、依存するのは危険です]

 

 魔素は術式により光、火、風などあらゆるエネルギーに変換可能だ。魔物たちは消費された魔素を大気中から吸収し、体内で育てていく。完全にこの惑星アレスの生態系で完結して、そのサイクルに無駄がない。

 魔法のウォーターなど、質量保存の法則を無視しているかのように見えるものも、まだ人類の科学技術が追い付いていないだけで、魔素の知られざる動作原理があるのかもしれない。

 

 俺たちの目的は最終的にこの惑星アレスが科学技術文明に到達し、バグスへの対抗力を少しでもつけることだ。だが、魔法はあまりにも利便性が高いゆえに、この惑星の科学技術の発展を阻害しているのも事実だ。

 たとえ魔石供給に不自由しなくなっても、魔石から魔素を抽出して魔法にする能力はナノムが使える者だけだ。一般用としてはいまのところ調理や暖房などの熱源や冷房、防具の強化ぐらいしか思いつかない。

 

「魔石と魔法の機構解明が先だな。拠点で必要な分のほかは少しずつ採掘して財政の一助とする。セリーナ、銀鉱のサンプルは」

「かなり含有率の高い良鉱です」

 

 思わずため息が出る。バールケの秘密文書や七千万ギニーの大金すら魔石と銀の鉱山にはかすんでしまう。もっとはやく大樹海の探索を始めるべきだった。見方を変えればこれはクレリアのおかげと言えるかもしれない。

 

「アラン、魔石や銀鉱はすぐに換金できないです。だから、バールケの居城に侵入したのは間違っていません。それに持ち出した書類はきっと役に立ちます」

 シャロンが慰めてくれているようだが、セリーナに負けまいとする心情の吐露だろうな。

 

「二人ともご苦労だった。明日はクレリアがガンツを立ったのを確認してから、魔術ギルドと商業ギルドに交渉だ。すまないがセリーナも同行してくれ」

「では私は、アランが不在の間にバールケの書類を整理して、ライスター卿にも確認してもらいます」

「頼む」

 

 あの書類はもともとベルタ王国宰相に代々伝わる情報だろう。中身は貴族の個人情報、おそらく醜聞とかの悪い情報だな。貴族への影響力を行使できるという点では、これはこれで価値がある。ライスター卿の助言を期待しよう。

 せっかく書籍商から買った書物を処理し終えたと思えば、また入力作業か……。

 

 

 二人が自室に戻ったが、俺にはまだやることがある。

 今日は朝からのガンツ攻防戦の出陣に始まり、王都まで足を延ばしてしまったが、まだ眠るわけにはいかない。

 

『イーリス、本日の情報収集結果をダイジェストで頼む』

[王都に向かったエクスラー公爵一行は王都まで二週間の位置、早馬はあと十日で到達します]

『ずいぶん早いな。ここを出てからまだ八日だが』

[各宿場町で馬を買い替えて、ほとんど不眠不休で馬を走らせています]

 

 思ったより伝わるのが早そうだな。セシリオ侵攻の報が届いた時点で国軍は動く。だが敵はもういない。これでは虚報になってしまう。俺が撃退したという知らせはまだ武器の販売の関係で伝えるのはまだすこし早い。

 

[エクスラー公爵の使者が王都に到着した時点で、王宮内の情報収集を強化してくれ]

[了解]

 

[王都に派遣したエルヴィンはガンツまで三日の距離に到達しました]

 エルヴィンたちは酒販売の利益をサイラス商会に引き渡したのちに拠点戻る手はずになっている。隊商が襲われぬように偵察ドローンが直掩しているから、無事に戻れそうだな。もともとベルタ王国宰相の影の手として動いてきた組織だ。ビットではわからない情報もあることだろう。報告時にはライスター卿にも同席してもらうか。

 

『ガンツの様子を表示してくれ』

 仮想スクリーンにはガンツ上空の偵察ドローンから映像が送られてきた。

 正門前の広場はセシリオ軍が残した武器の回収作業で人が集まっている。ガンツの商業エリアのすべての店にランプがつるされて、主要な通りは道行く人々で昼間のように混雑していた。この時刻なら普段はすっかり町の灯が消えているはずなのだが。たぶん戦勝祝いだな。

 

 セシリオ軍の侵攻を許したら、略奪暴行は避けられないし、今頃はガンツ市街が炎上していたに違いない。それだけでなく潰走したセシリオ軍が残した物資は、ガンツにも富をもたらす。人々が助けに来た辺境伯軍や近衛を大歓迎するのはわかる気がする。

 

 商業エリアの南側には馬車が並んでいて、荷を積んでいる。あの区域は確か鍛冶屋や武具を売る店が並んでいたな。いまごろは武器の修復と梱包で大忙しのはずだ。

 サイラスさんも邸宅にはいないだろう。鍛冶職人たちにでかい声で陣頭指揮する姿が脳裏に浮かんだ。

 ガンツのホームを拡大すると、こちらも全室に明かりがともっている。ホーム裏の広場も天幕が張られているところ見ると、ガンツのすべての宿屋はすでに埋まり、泊まり切れなかった連中がいたんだな。今頃はサリーさんとロータル料理長は目の回るような忙しさに違いない。

 

 今のところうまくいっているようだ。今日は忙しかったが、それに見合った収穫があったな。明日は魔術ギルドでサンプルの鑑定を頼み、その足でサイラス商会にいく。武器売買の代金とこちらの手持ちですべてまるく収まるはずだが……。

 

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