惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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魔法剣

 王宮を出た俺たちは士爵の邸宅に向かった。

 

「リアを王都に連れていく期限が三週間とは短すぎます」

「連れていくつもりはない。王都の雑事がすんだらすぐに動く。だが、上空からの偵察だけでは情報不足だな」

「王都のギルドから情報を得たほうがいいですね」

 とりあえず課題を淡々と片付けていくほかはない。

 

「明日の戦いだけど、圧勝すると相手のプライドを傷つけるかもしれないな」

「そうですね。相手は貴族の子女ですし、親が有力貴族だといろいろと問題になりそうです」

「とはいえ、勝たないと愛人の可能性が……」

「アラン!」

「そう怒るな。セリーナが勝つにきまってるだろ。ただ勝ち方に工夫が必要かな」

「真剣では、相手に傷を負わせずに勝つのは難しいです」

 

 これも何かの罠かもしれない。万一、セリーナが負ければ公爵の望み通りになる。セリーナが相手に重傷を負わせたら、あの二人の身内の貴族が反発するだろう。そうなると俺の立場すら危うい。なんとか相手を極力傷つけずに勝たねばならない。

 

「相手が長剣だと電磁ブレードナイフでは尺が足りないな。長剣で戦うしかないか」

「ええ。でも今使っている剣は少し扱いづらくて」

「ゴタニアの町で購入した魔法剣か。王都の盗賊の首領を叩き切った時は見事だったが」

「もう少し軽いのがいいです。それと魔力伝導率がもっと高ければいうことはないんですけど」

 

「エルナの影響だな」

「はい。エルナが剣を依り代にしてウィンドカッターの射程を伸ばしたのをみて、私も何かやってみたくなったんです」

「だったら重い剣は不向きだな。魔力伝導率さえ高ければ短くてもいいんだし」

「いまの魔法剣は伝導率が低くて少し重いので」

 

 セリーナが悩んでいるのは理解できる。模擬戦で披露したエルナの技は木剣を使っていた。もし伝導率の高い真剣であれをやれば射程も威力も強力になる上に、魔法だとコントロールもしやすいだろう。

 

「王都で良い剣がないか買い物に行かないか」

「え、いいんですか」

「無罪放免の身となったことだし、せっかく王都まで来たんだから、繁栄ぶりも見てみて歩こう」

 

 

 王宮から戻ってヘリング士爵から冒険者時代の皮鎧を貸してもらった。大市場の人ごみの中では貴族の衣服は目立ちすぎる。へリング士爵の装備は俺の使っていたものよりもかなり上等な品で、少々腹回りに余裕があるが問題はない。

 

 シャロンも航宙軍の黒一色の戦闘服だと目立つので、リーナさんの召使の衣装を借りた。もちろんセリーナは服にハンドガンと電磁ブレードナイフを隠しこんでいる。

 

 俺は冒険者だから士爵のを帯剣しているが、やはり頼みの綱は魔石で、これは手首に布で結び付けている。万全の準備だ。

 

 セリーナと王都の大市場に向かって歩いていく。以前王都に来たときは、国王から盗賊退治の功績により護国卿の地位を授けられたあと、セリーナとシャロンを宝石店に連れて行ったんだっけ。その直後にエルヴィンたちの罠にはまって大市場までは足を延ばせなかった。

 

 今は俺たちの上空にはフル装備の偵察ドローンが三機も周回している。不用意に近づいたり襲撃しようとした者には、灼熱のパルスレーザーが待っている。

 

 大市場の道は広く、馬車が二台でも余裕で並走できるだけの幅がある。通りの左右はすべて店舗が並んでいた。通りの終端には王都闘技場や劇場が見える。ここは王都で一番栄えている場所らしい。

 

「ガンツの市場も大きかったですが、さすが王都ですね」

「あの武器店がいいんじゃないか。店構えも大きいし、きっと上物があるに違いない」

「魔法剣は高いですよ」

「商業ギルドの俺の口座には一億一千万ギニーあるからな」

「それは拠点の公費です」

「ま、少しはへそくりもある」

「では遠慮なく」

 

 セリーナも久しぶりの買い物が嬉しいのか、足早に武器店に足を踏み入れた。

 店は刀剣専門店らしく、右の壁にはずらりと長剣が、左側は短剣がケースに並べられている。店の中央には槍なども展示してある。

 

 俺も試みに展示されている魔法剣を手に取って、魔素を流してしてみる。うっすらと剣が輝いたが、あまり伝導率はよくない。ゴタニアの町で買った長剣のほうがまだましなくらいだ。

 

「お客様、魔法剣をお探しで?」

 声に振り替えると、中年の店主らしき男が立っていた。ごつい体つきに作業用の皮つなぎを着ているところを見ると鍛冶もやるらしい。俺とセリーナを値踏みするかのように見つめている。

 

「値段は問わない。できるだけよい剣が欲しい」

「おや、ギルドの大きな依頼でもこなしたんでしょうか」

「そんなところだ」

 

 とたんに店主は満面の笑みを見せた。

「ではこちらへ。一般のお客様にはみせない特別な品がございます」

 ヘリング士爵から上物の服を借りて正解だったな。さらに見栄えの良いセリーナを引き連れているのを見て上客と判断したらしい。

 

 売り場から奥まった部屋に通された。一歩足を踏み入れると、部屋の雰囲気ががらりと変わった。壁に魔法剣が固定されているのは同じだが、部屋の中の調度品が格段に上物に代わっている。部屋の中央にぶあつい皮鎧をまとった木人形があるほかは、間違いなく賓客向けの商品を展示しているようだ。

 

「では、こちらのイリリカ製の短剣などはいかがでしょう。かの国の鍛冶製法は門外不出とされておりまして、ベルタ王国の鍛冶方にも謎とされており、その切れ味は……」

「それならすでに持っている」

「えっ」

「俺の配下も全員、所持しているから今回は結構だ。魔法剣は長剣がいい」

 

 エルヴィンからもらったイリリカ剣を配ったら、辺境伯軍の連中もたいそう感激していたからな。所持しているだけでステータスシンボルになるのだろう。

 

「で、では当店最高のこの長剣はいかがでしょう」

 店主は壁の一番上に陳列していた長剣を俺に手渡した。陳列されているものの中では一番古めかしいデザインだ。柄の部分に精緻な彫金がされている。相当な上物らしい。

 

「この品はかつての古代統一王朝で制作されたものと伝わっております。当時は今とは比べ物にならないほど金属加工の技術が優れていたとか。きっとお気に召すかと」

 

 俺は鞘を払って、曇り一つない刀身をみた。切っ先にそっと指をあててみる。

 

『ナノム、成分分析だ』

 

指先がナノムの発するマイクロレーザー光で一瞬光った。

[鉄以外の構成成分は炭素1.5パーセント、珪素0.3パーセント、マンガン0.5パーセント、リンと硫黄は0.04パーセント以下の良質な鉄鋼です。レーザー探査の結果、鉄成分の粒度も刀剣として整っており良好です。そのほか未知の成分が含まれます]

 

 それはおそらく魔石の成分だろう。剣の鍛造中に魔石を砕いたものを混ぜると切れ味が増す。刀剣としての技術レベルも相当高いが、古代の技術の方が今よりはるかに優れているというもおかしな話だ。この点はあとで魔術ギルドに聞いてみよう。

 

 ためしに魔力を込めてみる。刀身が薄青く輝き始めた。さっきの魔法剣よりはずっと強い輝きだ。使用している魔石の量が多いのかな。俺はセリーナに渡した。

 

「これがいいんじゃないか」

 

 セリーナが手に取って使を握りしめたとたん、今度は赤い光が持ち手側からさーっと刀身を覆っていく。使い手によって色が違うとは興味深い。俺のよりちょっと危ない感じがする。セリーナは笑みを見せた。感触がよかったらしい。

 

 魔力を込めたままセリーナは大上段に振りかぶった。む、これはジャスティス・ジャッジメントだな。小恥ずかしい名前とは裏腹に”コリント流”で唯一の一撃必殺を行う技だ。セリーナの得意技だったな。構えも俺なんかよりずっと様になっている。

 

 振り下ろすと同時に、刀身にまつわりついた赤い光が流れるように追従していく。

 

「試し切りをしたいんですが」

「こちらでご自由に」

 店主が示したのは中央にある木人形だ。上客はすぐに試し切りできるらしい。

 

 セリーナが振り下ろすとあっさり皮鎧ごと木人形の腕が落ちた。

「すばらしい! この刀をそこまで使いこなせるとは!」

 一瞬固まっていた店主が感嘆の声を上げた。

 

「魔力伝導率も高いですね。刀身が私のより少し短いせいか、軽くて扱いやすいです」

「ではこれになさいますか」

「俺も少しやってみよう」

 俺はセリーナから刀剣を受け取ってちょっと振ってみる。刀身がたちまち薄青い輝きに包まれていく。

「ちょっとお待ちください」

 店主は木人形に駆け寄るとポケットから出した魔石を皮鎧の胸元にあるくぼみに入れた。

 

「ワイバーンの皮鎧か」

「はい。魔石を入れるとワイバーンの皮は石のように固くなります」

 

 試し切り専用とはいえ、これ以上切り刻まれたくないらしい。では俺も気合を入れないとな。

 

 刀の柄を握り、さらに魔力を込める。実際どれくらいまで耐えられるんだろうか。実戦で急に魔力がなくなって摩耗されても困るしな。ためしてみるか。

 

『ナノム、魔素をファイヤーボール一個分ずつ投入しろ』

 

[了解。ファイヤーボール一個に相当する魔素を注入]

 お、いきなり輝きが増したな。

 

[二個分を投入]

 剣が震えたのは気のせいか。かすかに金属音がする。しだいに剣の柄に温かみが広がってきた。心なしか魔素を注入する前腕までが火照ってきているようだ。

 

[三個分を投入]

 なんだろうこの音は……。巨大な蜂が耳元をかすめたらこのような音がするのではないだろうか。輝きは青からすでに青紫色にかわっている。ファイヤーボール三個だと、ファイヤーグレネードと同じになってしまう。これくらいでやめておこう。

 

『投入を停止しろ』

[了解]

 

 軽く振ってみる。ヴ―ンという響きの音圧がすごい。これは当然だ。素材により蓄積できる魔素には限界があり、力を加えると蓄積限界を超えた魔素が音や光に変換されて放出されるのだ。

 

 俺は木人形に向き合い、刀を大振りに上から下まですっと動かしてみた。ほとんど抵抗を感じない。

 

「ああっ!」

 店主の悲鳴にも近い声が店内にこだまする。

 木人形はワイバーンの皮革ごと縦に一刀両断されていた。刀はなおも輝きをやめない。ちょっと危ないかもしれないな。俺は木人形をさらに切り刻んでいった。お、サクサク切れるぞ。相当細かくした頃になってようやく輝きが収まってきた。

 

「強化したワイバーンの皮鎧を薄紙のように切り刻むなんて!」

「これをもらおうか」

「…………」

 驚愕顔の店主は、今や残骸と化した木人形から目だけを動かして俺を見た。

 

「この魔法剣をここまで使いこなすとは。まさか、あなたは……。いや、あなた様はひょっとして」

「いくらだ」

「えっ、は、はい。四十万ギニーとなります」

「…………」

 

 所持金オーバー。全然足りない。ゴタニアのザルツ武器店では十万ギニーだったから、それくらいかと思ってたのに。

 

『セリーナ、すまない。所持金が』

『大丈夫です。軍資金としていくらかもってきています』

『二十万ギニーしか払えない。残り半分を頼む』

『わかりました』

 

 ……めちゃくちゃかっこわるいぞ。これでは部下に示しがつかないな。今度から多めの所持金を用意しよう。なんかあとで話のネタにされそうだ。

 

 俺とセリーナはそれぞれギニー金貨を数えて机に並べた。所持金のほとんどを払う羽目になったがそれだけの価値はある。

 

「女性が持ち歩くのは目立つので梱包してもらえないか」

「よ、喜んで!」

 店主がわたわたと箱を取り出して、梱包の準備をし始めた。これは結構な掘り出し物だったかもな。

 

 店主の深々としたお辞儀を背に俺たちは武器店を出た。明日が楽しみだ。

 

 

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