「冒険者ギルドに行ってみないか。王都ならではの結構変わった依頼があるかもしれないぞ」
「そうですね。そろそろギルドに貢献しないとランク落ちになります」
大樹海の拠点に移ってからは、サイラス商会が冒険者ギルドに依頼を出して、大樹海の魔物を俺がギルドに卸す、という形で依頼達成の実績を作っていた。だが、それすらもこの頃はご無沙汰だった。
「日帰りくらいでできそうな依頼があるといいですね」
依頼の多い王都だから何とかなりそうだ。セリーナも、たまには簡単な依頼が息抜きになるだろう。ギルド証は二人とも持っているし。
王都の冒険者ギルドは王立劇場にほど近い広場に面していた。ここは王都でも一等地のはず。さすがに地方のギルドとは規模が大違いだ。
中に入ると、ガンツの冒険者ギルドよりずっと広いフロアは依頼探しの人々でごった返していた。窓口では収穫品の査定や、依頼書を掲げて声高に契約をせまる声などで沸き立っている。巨大な依頼掲示も左右の壁にそれぞれ二つもあって、人だかりがしていた。
俺とセリーナが近寄っていくと、人だかりが二つに割れた。周囲の衣装のレベルから判断すると、まだなりたての冒険者だな。大きな依頼は手ごわすぎるが依頼料は欲しい、そんな連中だ。
掲示板にはこれと言って特筆すべきものはない。探し物とか王都近郊の魔物討伐(畑に悪さをするゴブリンとかそのレベル)くらいだ。だが、膨大な人口を擁する王都だけあって依頼の数はガンツの十倍以上はあるだろう。
「王都地下水道にはびこる巨大ラット討伐、なんてのもあるぞ」
「えっ、嫌です! ……命令なら仕方ありませんが」
「冗談だよ。なんかもっとましなのがないかな。次へいこう」
隣の掲示板は依頼の数が少なめだが、まわりの連中を見るとおそろいの鎧で固めたグループなどもいて、結構やり手の連中らしい。依頼も難易度が高そうだ。
「日帰りはあまりないですね。北稜山脈への遠征討伐で二週間とか」
「もう一日ぐらいで稼げるのがいいな」
「おい。そこの兄ちゃん、仕事をお探しかい?」
振り向くと冒険者ギルドには似つかわしくない派手な衣装をした男がいた。貴族の服を模しているようだが、背が低いうえに小太りで滑稽でしかない。市民が最新流行の貴族服を精いっぱいまねたとでもいうか。ああそうか。これは道化師の衣装だ。……あからさまに怪しいな。
セリーナが腰の電磁ブレードナイフに手をかけたのが見えた。
『セリーナ、よせ。害意はなさそうだ』
『とてもそうは見えませんが』
セリーナも警戒しすぎだよな。とはいえ以前王都で騙されたこともあるし、最低限の警戒は必要か。
「短期で稼げて面白そうな依頼がないか探している」
「それならあるぜ! ここで出会えたのを女神ルミナス様に感謝だな!」
男は俺の頭のてっぺんから靴先までをじろじろ見ながら言った。
「俺はマルッキオ。あんたみたいな冒険者を探してたんだ。ここじゃ詳しい話はできねぇ。契約室はとってるから来てくれ」
重大な契約は別室を借りることもできると聞いていたが、何の依頼だろう。
『アラン、罠かもしれません。バールケの残党とか』
『いや、それはないだろう。あのヘルマン軍団長に手抜かりはない。怪しかったら途中で切ればいい』
『では容赦なく切り捨てます』
『……契約をしないということだよ』
などとナノム通信で話しながら、契約室に入った。
「親方、連れてきましたぜ」
中にいたでっぷりと肥えた男がいきなり叫んだ。
「座長と呼べ! いつも言っているだろうがっ!」
「す、すみません。でも見てくださいよ。よく似てるでしょう」
誰に似てるんだ? 容姿が似ているだけの依頼とは意味が分からない。
「おお、これは!」
衣装がはち切れそうな肥満体にしては異様に素早く席を立ち、座長が近づいてくる。
「お名前をうかがっても?」
「ア……アンヘルだ」
「そこの娘さんは」
「セリーヌ。俺の部下だ」
「ほう、部下持ちの冒険者とは。かなり稼いでいるご様子ですな。ギルドに来られたのは依頼さがしですかな?」
「そうだ。短期で稼げる仕事を探している。王都には長くいるつもりはない」
「ならば、いい話がありますよ! おいマルッキオ! 茶でも出さんか! 気のきかんやつだな」
俺とセリーナが席に着くと、テーブルにあわただしく茶器がならんだ。
「ああ、まだ名も名乗っておりませんでしたな。わたしはこの一座の座長アブラーモと申します。かつては旅から旅の巡業だったゆえ、街道の魔物討伐をしてくれる冒険者様にはたいへん感謝しておりますよ」
といいつつ、おもむろに間をとって茶を飲んでいる。話の内容から言って魔物退治ではないような気がする。なんだろう。
『いったい何の依頼だろうな』
『さあ。冒険者に魔物狩り以外の依頼は珍しいのではないでしょうか』
マルッキオはせわしなくからになった座長のティーカップに茶を注いでいる。衣装から見る印象通り、落ち着かない男だ。
「わが一座は王都にて演劇を上演しておりましてな。ここ二か月ほどは大入り満員で、ついに最終興行となり、このほど貴族様の観劇をお迎えすることになったのです」
「なるほど」
「ところが主演のジョフリーが度重なる公演ですっかり体調を崩しまして。どうにも舞台に上がれない」
いや、ちょっとまて。俺に代役をさせようというのか。アブラーモ座長は俺の表情を読み取ったのかニヤリとした。
「短期の稼ぎが欲しいというところでピンときました。容姿もジョフリーによく似ております。原作者であるハンスに言ったらびっくりすることでしょう」
ハンス? 誰だ? どこかで聞いたな。
「俺に代役をやれと」
「貴族様も来場される大事な舞台。下手な代役は建てられません。アンヘル様は育ちの良さがにじみ出ております。このアブラーモ、人を見る目に狂いはございません」
「セリフを覚える必要があると思うが」
「舞台の背景に人を立たせて小声でお教えすることもできます」
『どうするセリーナ』
『アランがお芝居というのはちょっと』
『じゃ、巨大ラット討伐か』
『それは嫌です』
『貴族のふりをするのもかなりうまくなったし。いいんじゃないか』
『そこまでおっしゃるなら……。一回だけですしあとは料金だけですね』
「代役料金は」
「三万ギニーではいかがでしょう」
たった一回の出演で三万ギニーは平民としては破格だ。それだけ座長が追い詰められているということなんだろうな。
「いいだろう。正式に冒険者ギルドを通じた依頼にしてくれ。俺の署名は劇が終わってからだ」
「それはもう!!」
金額は正直どうでもいい。期限を守らなかったばかりにランクが落ちたらクレリアもたぶん残念がる……いや、キレるかもしれない。
「マルッキオ、台本をもってこんか! 早く!」
手渡された台本はそんなに厚くない。一通り目を通しておくか。表紙に書かれた文字は……。
“暴れん坊男爵・アラン・コリント評判記”
……なんか、いろいろとやばい。