惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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王都魔術ギルド

 

 狭い小路を歩きながら、王都魔術ギルドの遠くに見える尖塔を目印に進んでいく。

「本当にしつこい女でしたね」

「まあ、演技に入れ込みすぎたんだろう。彼女に悪気はないよ」

「そうでしょうか」

 セリーナは憤慨していることを隠そうともしていないが、これでランク落ちしなくて済んだし問題はないはず。

 

 しかしナノムを使った筋肉電位操作とは。もともと戦時における緊急脱出手段として考案されたと聞いている。強化されている兵士の耐久力を上回るような衝撃で意識を失った場合で、かつ緊急的な脱出が必要な場合などに使われる。

 体内のナノムは兵士の覚醒処理が間に合わないと判断した場合、兵士の神経系を一時的に乗っ取ることで簡単な動作は可能なのだ。

 

 つまりこの技術は兵士が意識を失ったまま、緊急退避をさせることが可能だ。通称ゾンビモードともいう。俺も惑星ミルトンの激戦地で何回か見たことがある。脱出に成功した兵士もそのまま意識が戻らないことがあり、絶対にこうはなりたくないと思ったものだ。まさかこんなことに使うとは……。

 

 

「アラン、これからどこに向かわれるのですか」

「王都魔術ギルドだ。以前、ガンツの魔術ギルドで図書を閲覧させてもらっただろ?」

「ええ、時間がなくて半分も読み込めませんでしたね」

「シーラギルド長の話だと、王都魔術ギルドの蔵書にはアトラス教会からは禁書とされる古文書なんかもあるらしい」

「なるほど」

「あまり時間もないし、今日は偵察がてら顔を出す、といったところだな」

 曲がりくねった薄暗い路地を抜けて、そのまま王都魔術ギルドに向かう。

 

 

四つの尖塔に囲まれた豪壮な城館は、いかにもこの国の魔術の頂点というおもむきがある。どの窓にも明かりがともっている。探知魔法を展開すると、すべての窓が魔素の光でいっそう輝いて見えた。相当な使い手がたくさんいるものと見える。

 

 立派な門構えの割には衛士の一人としていない。唐突に扉が開いて一人の少女が現れた。白いローブを頭からかぶっているせいで顔はよく見えない。

 

「ようこそアラン様。そろそろお越しになるころと思っておりました」

「来訪を事前に伝えた覚えはないが」

「ガンツのギルド長、シーラ様より連絡がありました」

「商業ギルドのアーティファクトを使わない独自の連絡手段があるようだな」

 

 少女は薄く笑ったようだが答えはない。

 

「念のためシーラ様の紹介状をお渡しください」

 俺がもってきた紹介状を手渡すと、少女は書状を開き確認した。

「こちらの方は?」

「俺の部下のセリーナだ」

「ではご案内いたします」

 

 天井の高い廊下に人影はないが、探知魔法のおかげで大勢の魔術士たちの存在を感じる。前を歩くこの少女にしても、探知魔法のスクリーン越しに見えるのは心臓を中心とした赤い輝きだ。近衛の中では最も魔法適性のあるエルナと同じくらいはある。

 

『この輝きはすごいですね』

 セリーナも探知魔法を展開していたようだ。

『メラニーがもう少し大きくなったらこれくらいになるかもな』

 

 メラニーとマルティナは、俺の不在の間だけという条件付きで父親のデニス氏の邸宅に戻ってもらっている。引きはがすのに相当苦労したが、またひと悶着ありそうだ。

 

 

 部屋に通されたが、豪華な装飾が施された机と椅子が一組、あとは何もない。応接室だとしたら、客は立って応対するらしい。座るのは主人だけか。とんだ塩対応だな。これでも魔術はAランクなんだが。俺のこれまでの貢献に具合にしても扱いがひどいな。

 

 しばらくして扉が開いて子供が入ってきた。いや、ちがう。小柄なだけだ。髪は肩から膝くらいまで伸ばしているせいか一層幼く見える。顔はしわ一つないが目つきは鋭い。

 ふと、航宙軍士官養成キャンプにいた教官を思い出した。戦傷で四肢は義体化していたが、全候補生から一目置かれていた。あとからバグスとの歴戦の猛者だったのを知った。あの感じに近い。

 

「ようこそ、王都魔術ギルドへ。アラン様。各支部からお噂は聞いております」

「ゴタニアやガンツではギルドに大変世話になった」

「こちらこそ、困窮していたゴタニアの魔術ギルドはいまや大変な利益を上げております。これもアラン様のご助力あってのこと。お礼の言葉もありません」

 と言ってから、言葉を切った。

 これで社交辞令は終わりだな。ここからが本題だ。

 

「ガンツ魔術ギルド長より報告を受けております。大樹海の開拓に成功し、銀鉱や輝礬石なども発見されたとか」

 シーラギルド長はただの声のでかいおばさんなんかではなく、仕事はきちんとしているようだ。

 

「そして三日前、アラン様は反逆の疑いで捕縛された」

 間違いない。王都魔術ギルドは王宮内に協力者がいる。だが、ここまで把握されているとは。

 

 先ほどのあいさつで見せた笑みはすでに消え、ギルド長は冷たく言った。

 

「アラン様。この状況がわが魔術ギルドにどれほど深刻な影響を与えているかお分かりにならないのですか」

「無知な点があれば改めましょう」

「アラン様はAランクの魔術師でもあります。魔術ギルドの有力な魔術師が罪に問われることは我々の望むところではありません」

 

 なるほど、そういうことか。

 かつて査察に来たエクスラー公爵が、もてなしの席でつぶやいたのを思い出した。魔術ギルドは一筋縄ではいかない、と。

 王宮と魔術ギルドは対立とはいかないまでも、ぎくしゃくとした関係だから、俺の存在は王国府が魔術ギルドを締め付ける十分な理由になってしまう。つまり、俺は今や魔術ギルドの汚点ということか。

 

「魔術ギルドにこれ以上ご迷惑をおかけするつもりはない。ですが今後のために、いくつかご助言をいただきたい」

「スターヴェークのクレリア王女のことですね」

 

 なぜそこまでわかる。俺の疑念を感じ取ったのか、ドーラギルド長は机の後ろの書棚に手をやった。分厚い帳簿のようなものを慣れた手つきで開く。

 

「昨年、アラン様はゴタニアのカーラギルド長により、魔道具制作講習の受講後にAランクに昇格しています。また、冒険者ギルドで数十名の冒険者と魔法戦闘を行ったことが目撃されています」

 

 ゴタニアの町でクレリアを探していたダルシムたちと遭遇し、エルナの提案で全員参加の模擬戦をやる羽目になった。加速魔法と治癒魔法で片を付けたが人数も多かったし、かなり派手にやったからな。誰かに見られた可能性はある。

 

「Aランク以上の魔術師の情報は、王都魔術ギルドへ報告することになっております。ゴタニアでアラン様に同行されていた方の一人がリアと名乗っておられました。カーラの但し書きによれば、その立ち振る舞いから貴族ではないかと。このかたがクレリア王女なのですね」

 

 恐るべき調査能力だ。そこまで魔術ギルドの影響力があるのか。思い起こせば、ゴタニアの魔術ギルドで魔導書の複製が可能か聞いたときに、窓口のリリーが言っていた。

 

“そんなことをしたらどこの国でも、たちまち死罪ですよ。複製しても、販売しても、購入しても同罪です。魔術ギルドは各国にすごいコネがあるんですから”

 

 つまり各国に広がる強力な連絡網と、それを使った監視が行われているということだろう。カーラさんも俺をAランク認定した時点で、すぐさま関連情報を報告したんだな。

 

 いや、気づかなかったが俺たちはゴタニアでかなり目立ちすぎた。食品をかき混ぜる魔道具を作っただけでAランク昇格というのも話がうますぎる。カーラさんが報告するための理由付けとして俺を昇格させた、という可能性の方が高いな。

 

 あれほどかき混ぜ機の出来を大絶賛していながら、裏では俺をしっかり観察していたとは。魔術ギルドは本当に油断がならない。

 

「優秀な魔術師は災いの元ともなりかねません。ですので各国の魔術ギルドは暴走防止のため連絡を取り合っています」

 

 ガンツのギルド長の話では、大樹海の魔力に取りつかれた魔術師は強大な魔力を得る代わりに人心を失うことがあるという。その場合は大陸を守るためにギルドの総力を挙げてその魔術師を討伐することになる。

 

 

 強力な魔術師とみなされていた俺が、大樹海に向かった時点で監視されていたのは当然だったのだ。

 

 

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