惑星アレスの魔女   作:虹峰 礼

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開示条件

 

 ドアが開いて、俺を出迎えてくれた少女が茶器をのせたカートを押してきた。フードを外した姿はブロンドのショートカットで正面の髪は左右に分けている。

「姪のエミーリェです。年若いながらなかなかの使い手ですよ」

「わかります。素晴らしい。この若さでギルド長につぐ魔力を持っているとは」

「ありがとうございます」

 

 はにかみながら言う彼女のこの輝きは隠しようもない。光量こそやや劣るが、魔素の脈動パターンはギルド長によく似ている。魔力は遺伝するのだろうか。

 

「アラン様。いつかお時間のある時にでも直接ご教授いただけたらうれしいです」

「機会があれば」

 エミーリェは茶をギルド長の器にそそぐと、深く一礼して部屋を去った。

 

 このレベルの魔術師が多数いるとなると、魔術ギルドを敵に回すようなことがあれば、その情報収集能力も含めて手を焼きそうだ。

 

 

「先ほどのお話ですと、今もクレリア王女はアラン様とご一緒なのですね?」

「大樹海の拠点にいる」

「クレリア王女をアロイス王国が奪還しにくる可能性があるということで、断罪された?」

「その通りだ」

 

 ドーラギルド長は軽いため息をついてティーカップに口をつけた。何かまずいことを言ったかな。

 

「魔術ギルドと王宮とはあまりうまくいっていないと聞いたが」

「王国府とは良好な関係を保っております。ただアトラス教会とは教義の違いから多少の波風は立つことがございます。その際には王国府はアトラス教会を支持するということぐらいでしょうか」

 

 ドーラギルド長は薄い笑みで答えたが、大問題だろう。魔術ギルドはベルタ王国の国教たるアトラス教会と陰ながら対立していることになる。

 

「アトラス教会との教義の違いについてききたい。もしかして違いはイザーク様のことでは」

 

 アトラス教会の教義では、使徒イザークは女神ルミナスからの導きを告げる眷属であり、イザークの姿は巨大な鳥の姿とされている。だが魔術にかかわる者はイザークの姿はドラゴンだという。

 

「そのとおりです」

「女神ルミナス様の存在は魔術ギルドも認めている。であればイザーク様が大鳥であろうがドラゴンであろうが問題ないはず」

 

 ギルド長は手にティーカップを持ったまましばらく黙った。なんとなくわずかな迷いを感じる。明かしてはいけない秘密の一端をどこまで伝えるかを計りかねているかのようだ。

 

 呼び水として俺の知っている知識を小出しにしてみよう。グローリアとグレゴリーから聞いた情報だ。

 

「かつてドラゴンと人間は共存していたが、その後両者の間で大きな争いがあったと聞いている。その災厄をもたらしたドラゴンが女神ルミナスの御言葉を伝えるのは不自然では」

 

 話しているうちにドーラギルド長の顔から笑みが消えていく。

 

「誰がアラン様にそれを伝えたのですか。まさかゴタニアのカーラが」

「カーラギルド長からではない。もっとドラゴンに詳しい存在だ」

 

 ドラゴン以上にドラゴンに詳しい存在はないからな。特に最古参のグレゴリーは俺の知らない知識をたくさん知っているはずだ。自分から話し出さないのが残念だが……。

 

「真の歴史はドラゴンこそがイザーク様であり、ドラゴンとの戦いに敗れた人間側はその忌まわしい記憶から、イザーク様のお姿を鳥の姿に変えて教義を伝えたのです。もちろんアトラス教会はこれを絶対に認めませんが」

「その戦いはいつ頃のことだろうか」

「およそ二千年前、この大陸は一つの帝国が支配していました。統一帝国は強大な勢力を誇ったのですが、女神ルミナス様の神意に背いたため、ドラゴンにより滅ぼされたと伝えられています」

「その帝国の後継を名乗る国こそ、アラム聖国?」

「そのとおりです」

 

 いろいろと話がつながってきたな。やはりここにきて正解だったか。

 

「一つ疑問がある。ドラゴンによって一時は瓦解したものの、アラム聖国にはそれなりの残存勢力があったはず」

「ええ、歴史上何度も再度統一を企ててはいますが、周辺国はそれを許していません」

「国力から言って、軍事的にはアラム聖国が優位にみえるが」

 

 退魔香の件で俺がアラム聖国に向かった際、現地の農業事情や軍の練度がわかったが、かなりの強国であることは間違いない。それなのに大陸の再統一ができない理由とはなんだ?

 

「彼らはドラゴンやその魔法に負けて以来、魔法研究を禁忌としています。魔法は女神ルミナス様の思し召しゆえ、教義を認めぬアラム聖国は魔法を軍事転用しないのではないかと推測しております」

 

 つまり現状で弓やバリスタなどの投擲兵器が精いっぱいではフレイムアローやファイヤーボールの敵ではない。とくにブレーズのような王宮魔術師が一人でもいれば通常兵器に優位性はない。

 

 もしアラム聖国が次の侵攻で勝つとしたら数で押してくるか。現にアラム聖国には大規模な人口とそれを支える強力な農業基盤がある。

 

 

「つまり、諸国は魔法戦で対抗している、と」

「はい。そのアラム聖国の侵略への盾となっていたのが、スターヴェーク王国なのです。ですので、クレリア王女はアラム聖国にとって憎むべき王族の一人となります」

 

ロートリンゲンがクレリア捕縛のために必死だったのはそれが理由か。ロートリンゲンがクレリアをアラム聖国に差し出せばいい得点稼ぎになるだろう。

 

「話は変わるが、王都魔術ギルドにはアトラス教会から見て異端の書物があると聞いた。拝見したい」

 

「それはできません。今こうしてアラン様にお会いするだけでも我々はたいへんな危険をおかしているのです。ロートリンゲンは王位簒奪後、国内の魔術師を捕らえ、アラム聖国に送致しています。我々がアラン様に積極的に協力していると発覚したら……」

 

 やはり、か。どうも対応が冷たいので何か理由があるとは思っていた。しかし、魔術ギルドに最大限の警戒をさせるとは、アラム聖国は侮れないな。

 

 だが、逆に捕虜を解放すれば、見せてもらえるということだろう。

 

「聞きたいことはすべて得られたようだ。協力に感謝する。今度吉報とともにお会いできるとよいが」

「…………」

 

 ギルド長は何も言わずに俺を送り出した。信じていないんだな。

 

 

 王都魔術ギルドの門扉をぬけ、通りに出た。

もう王都でやるべきことは終わったな。ブレーズの一行がルドヴィークの廃城に到達するまではまだ時間がかかる。あとはヘリング士爵と例の醸造の話をまとめてから拠点にもどるとするか。

 

 

[アラン艦長、至急、拠点にお戻りください]

 仮想スクリーンに拠点の城館、地下稽古場のビット映像が展開する。

 

稽古場の床に崩れ折れたその姿は……。

 

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