人類銀河帝国との通信の可能性が増したとしても、大陸統一が急務であることには変わらない。次の課題だ。
『シャロン、頼んでおいた偵察の詳細はできたか』
『はい。こちらをご覧ください』
仮想スクリーンにベルタ王国からアラム聖国にいたる地図が展開した。
『まず、ブレーズの一行はあと一週間ほどでルドヴィークの廃城に到達します』
『予定より遅いな』
『一行の荷物に忍ばせたビットの情報によれば、同行したロベルトが体調を崩したため、途中の村で休みを取ったのが原因です』
ロベルトも高齢だからな。とはいえ、ルドヴィーク辺境伯の側近中の側近だったからどうしても彼の知識が必要となる。
『続けてくれ』
『まずゴタニアでの情報収集の後、アロイス王国とアラム聖国の国境の町ボーグシュタットに向かいます。その後にルドヴィークの廃城に向かっても十分余裕があります。廃城での探索は最大二日を見込み、探索が難航した場合は撤収します」
映像の地図に移動ルートと着陸ポイントが次々と投影されていく。
「ありがとう、シャロン。その時点でベルタ国王の期限はのこり二週間だ。我々はその期間内にアラム聖国を制しなければならない」
「直接、アラム聖国に着陸するほうがよいのでは」
「退魔香の件で現地に行ったが、兵の練度はかなり高い。監視の目も厳しいだろう。まずは身分証など入国に必要な正規の手続きをとるべきだ。その後は日帰り偵察でアラム聖国を直行直帰できる。まずはゴタニアだ。明朝すぐに出立する。準備を頼む」
「了解」
◇
偵察ドローンで移動すること一時間……。
「ゴタニアには久しぶりだな。王都に向かって以来だから、ずいぶん昔のような気がする」
ゴタニアは人口二万人程度の交易都市だ。町並みはガンツよりも小さい。城壁はレンガ状の赤い石をくみ上げたもので、家々も王都とは異なり石積みの堅実なつくりだ。広大な緑の農地に浮かぶ赤い城塞、これが上空から見た印象だ。
農業が盛んで、多種多様な作物を栽培していたな。市場にもいろんな野菜がならんでいたっけ。高級宿”豊穣”のバースと一緒に買い出しに行ったのは懐かしい。米があることがわかってチャーハンを作ったのもここだった。
偵察ドローンから飛行魔法で降下したのは、町はずれの城壁の陰に隠れた小さな小路だ。正門で商業ギルド証を見せて堂々と入ってもいいが、門衛たちには盗賊の引き渡しなんかで何度も顔を合わせている。避けるべきだろうな。
「タルスさんの屋敷に向かいますか」
「いや、まだすこし早い。タルスさんもヨーナスさんと一緒に店に出ているころだ」
ゴタニアの町では会いたい人が何人かいる。だから変装はしないが、一般住民にできるだけ会わないように気を付けないとな。
「ちょっと魔術ギルドによってみるか。カーラギルド長に確認したいことがある」
俺とセリーナは小路から小路へと目立たないようにギルドに向かう。ゴタニアの魔術ギルドはいつも閑散としていた。あまりに暇なので窓口係のリリーは俺が行くたびに大騒ぎだったな。これから二人で行っても問題ないだろう。
ゴタニアの中心に位置する通りから少し離れた場所に建物はあったはず……。
「…………」
「もとの建物は取り壊したのでしょうか」
「いや、外見はガンツのギルドの建物にそっくりだ。ここが魔術ギルドらしい」
以前あった木造の建物はなくなっていて、代わりに豪壮な石造りの屋敷になっていた、結構な人の出入りがある。
「よほど儲かっているんだな」
「かき混ぜ機と温風機だけでこんなに儲かるものなんでしょうか」
「貴族への特別品も作っていたが、むしろ裕福な平民むけのほうが需要があったんだろう」
「人だかりがしていて入りづらいですね」
「では市場をのぞいていこう。買いたいものがある」
「アラン、今回は偵察ですよ」
などと会話しつつ、市場通りに足を踏み入れる。求めるものは食料品ではないがタラス村に近いゴタニアの市場で売っていてもおかしくはない。
しばらく歩いていると、俺の予想通り市場のはずれに小さな店舗があった。ガラス瓶がずらりと並んでいるところを見ると間違いないな。タラス村特産の茶葉だ。
拠点の城館で茶葉を切らしているからちょうどいい。最近はいろいろなバリエーションがあるようで、茶葉を細かく粉のようにすりつぶしたものや、茶色い発酵茶まである。村長のザックもあの茶葉を手広く販売しているらしい。一通り買っておこう。
いったん通りから離れて小路に戻り、タルス商会の少し手前でまた大通りに出る。人の流れが以前よりずっと多いな。特別な祭りがあるわけでもなさそうだが……。
よく見れば、あまり風体の良くない若い男たちがぶらぶらしている。働いていないのだろうか。女性が一人で歩いている姿は見当たらない。かならず夫婦単位で数人がまとまって移動しているようだ。
タルスさんの屋敷の前で掃除をしている少年がいる。着ている制服は以前ウィリーが着ていたのと同じだ。たぶん彼の後任というところか。
「すまないが、タルスさんに取り次いでもらえないか」
俺が近づくと、少年は箒を手に持ったまま、俺を見上げた。目つきからして怪しんでいるのがわかる。まあ初対面だから仕方がないな。
「タルス様はヨーナス様と打ち合わせ中です。どちら様でしょうか」
「カトルからタルスさんに届け物だ、とでも伝えてくれ」
主人の子息の名前ぐらいはわかっていたのだろう。すぐに少年は中に入っていく。しばらくして、黒の執事服を着こなしたヨーナスさんが少年とともに現れた。
「おお! これはアラン様ではありませんか! シャロン殿も!」
「しばらくぶりだな。旅の途中に寄らせてもらった」
「アラン様って……あのアラン様っ?」
少年が素っ頓狂な声を出した。どうもあちこちに触れ回りそうだな。
「ヨーナスさん。実はお忍びなんだ。そこで相談なんだが……」
「よくわかっております。ティモ、あとから言っておくことがある」
「絶対にしゃべりません!」
ティモと呼ばれた少年は胸に手を当てて、真剣なまなざしで俺を見上げている。態度が急に変わったのは、普段から店の者に俺のことを言い含めていたからだろう。
「アラン様、どうぞこちらへ」